石井国交相は、辺野古移設に伴う新基地建設についての沖縄県による埋め立て承認撤回を巡り、防衛省沖縄防衛局が行政不服審査法に基づき提出した審査請求・執行停止申し立てに対して県の撤回処分の効力を一時停止すると決めました。
行政不服審査法は、行政庁の違法・不当な処分などに関し国民の権利利益を救済することを目的としているので、私人ではあり得ない沖縄防衛局は当然救済の対象にはなりません。
それを国交相は沖縄防衛局を敢えて「一私人」と認定し上記の結論を出しました。それはそうする以外には行政不服審査法を適用できないからですが、あまりに荒唐無稽でそんなことが通用するのであれば法治国家とは言えません。
国(の機関)が「一私人」であるとは一体どういうところから出てくる考え方なのでしょうか。これだけは、国家公務員である秘書が数人付いている首相夫人を「私人」と閣議決定したという国もあるので、そういうこともあり得るというようなわけには行きません。
沖縄タイムスの記事、琉球新報と東京新聞の社説を紹介します。
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埋め立て撤回「効力停止」:
国地方係争処理委員会に申し立て 玉城知事「強い憤り」
沖縄タイムス 2018年10月31日
【東京】辺野古新基地建設の埋立承認撤回を巡り国土交通大臣が処分の効力の停止を決定したことを受け、玉城デニー知事は30日、都内の都道府県会館で会見し「行政不服審査法の趣旨をねじ曲げてまで、工事を強行する国の対応に非常に憤りを覚える」と述べた。県が第三者機関の「国地方係争処理委員会」へ、審査申し出を検討することも明らかにした。
石井啓一国交相が沖縄防衛局を「一私人の立場である」と認め、県が意見書を出して5日後に執行停止を決めたことに玉城知事は「結論ありきで中身のないもの。審査庁として公平性・中立性を欠く判断がなされた」と糾弾。その上で「知事選で改めて示された民意を踏みにじるもので、法治国家においてあるまじき行為。到底認められるものではない」と批判した。
今後は、通知書を精査し係争処理委に「可及的速やかに」に審査を求める方針。「法の趣旨を逸脱した、違法な審査請求である。委員会に審査を申し出てその点をしっかり主張したい」と説明した。
玉城知事は「環境保全措置など承認に付した留意事項がある」とし「事前協議が整うことなく工事に着手すること、ましてや土砂を投入することは断じて認められない」と主張した。
<社説> 辺野古撤回効力停止 手続き違法で本来無効だ
琉球新報 2018年10月31日
石井啓一国土交通相は、米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設に伴う新基地建設を巡り、県による埋め立て承認撤回処分の効力を一時停止すると明らかにした。防衛省沖縄防衛局が行政不服審査法に基づき提出した審査請求・執行停止申し立てを認めたのだ。
行政不服審査法は、行政庁の違法・不当な処分などに関し国民の権利利益を救済することを目的としている。私人ではなり得ない立場を有する政府機関は、救済の対象にはならない。
公有水面埋立法は、一般私人が埋め立てをする際は都道府県知事の「免許」を、国が埋め立てをする際は都道府県知事の「承認」を得なければならないと定めている。国と民間事業者では意味合いと取り扱いが異なる。
全国の行政法研究者有志110人が26日に声明で指摘した通り、国が、公有水面埋立法によって与えられた特別な法的地位にありながら、行政不服審査法に基づき審査請求や執行停止の申し立てをすること自体、違法行為である。
違法な手続きに基づく決定は効力を持ち得ず、無効と言わざるを得ない。
法治主義にもとる一連のやりとりを根拠として、新基地建設のための埋め立て工事を強行することは、無法の上に無法を積み重ねるようなものだ。断じて容認できない。
撤回の効力を一時的に止める執行停止は認めるべきではないとする意見書を県が国交省に送付したのは24日だ。200ページ以上あった。わずか1週間足らずの間に、どのような審査をしたのか。
安倍内閣の方針に従って突き進む防衛省の申し立てを、内閣の一員である国交相が審査するのだから、公平性、中立性など望むべくもない。
仲井真弘多元知事が「県外移設」の公約を翻して埋め立てを承認した際、工事の実施設計に関し事前に県と協議することが留意事項で確認されていた。にもかかわらず防衛局は実施設計の全体を示さないまま協議を打ち切った。
承認された時には想定されていなかった軟弱地盤が明らかになったが、調査が継続中として存在を認めていない。
政府の態度は誠意に欠けており、その主張は詭弁(きべん)とこじつけに満ちている。
新基地建設に反対する県民の意思は、2度の知事選で明確に示された。大多数の民意と懸け離れた、元知事による決定を錦の御旗にして、新基地建設を強行することは理不尽極まりない。
国交相の決定を受け、岩屋毅(たけし)防衛相が工事を再開する意向を表明した。全てが結論ありきの既定路線だったことは疑いの余地がない。
県は国地方係争処理委員会に審査を申し出る方針だ。安倍政権は一度立ち止まって、冷静に考えてほしい。強権国家としての道を歩むのか、民主国家として踏みとどまるのか。重大な岐路に立っていることを自覚すべきである。
【社説】辺野古基地問題 法治国の否定に等しい
東京新聞 2018年10月31日
法治国の否定に等しい政府内の自作自演に失望する。沖縄県名護市辺野古への米軍新基地建設を巡り、国土交通相は県の承認撤回の効力を停止。工事再開を認めた。民意尊重の誠意こそ必要なのに。
国交相のきのうの決定は、沖縄防衛局が行政不服審査法(行審法)に基づき行った申し立てを有効とした点でまずおかしい。
行審法は、国民の権利利益の救済を目的とする。防衛局は国民、つまり私人なのか。
防衛局は、仲井真弘多元知事から民間の事業者と同じ手続きで沿岸の埋め立て承認を得たことなどを挙げ私人と同じと言うが、新基地建設は閣議決定に基づき行う。私人という強弁が通じるはずがない。
翁長雄志前知事が二〇一五年に承認の取り消しをした際にも同じ論理で申し立てが行われ、国交相が認めた。しかし、その後の改正行審法施行で、私人とは異なる法的地位「固有の資格」にある国の機関への処分は法の適用外になった。行政法学者らは、今回の申し立ては違法だと批判する。
効力停止は、防衛局が同時に行った撤回取り消しの訴え(審査請求)の結論が出るまでの緊急避難ともいうが、これも無理がある。
防衛局は、工事中断で現場の維持管理に一日二千万円かかっているほか、米軍普天間飛行場の返還が進まず日米間の信頼も失うと強調し、国交相も追認した。
だが、前回の承認取り消し時に防衛省は即刻対抗措置を講じたのに、今回は撤回から申し立てまで一カ月半かかった。県知事選への影響を避けようとしたためで緊急性の主張は説得力を欠く。
承認撤回は、知事選などで何度も示された辺野古反対の民意を無視して工事が強行された結果だ。普天間の危険性除去や日米同盟の信頼性維持も責任は国側にある。
却下が相当にもかかわらず、国交相は早期の工事再開を図る国のシナリオ通りに判断した。公平性も何もない、制度の乱用である。
沖縄では二十六日、埋め立ての賛否を問う県民投票条例が成立し来春までに実施される見込みだ。防衛局は今後、埋め立ての土砂投入に踏み切り、基地建設は後戻りできないとの印象を広めるつもりだろうが、県との対立は決定的となる。
政府にはその前にもう一度、県側との話し合いを望む。
法治主義を軽んじてまで基地建設に突き進み、何が得られるのか。日米同盟のために沖縄の民意を踏みにじっていいはずがない。