2018年11月6日火曜日

「外資の餌食 日本の台所が危ない」(日刊ゲンダイ)

 安倍内閣は種の安定供給を担ってきた主要農作物種子法を廃止し、種苗法の運用を大幅に変更しました。
 この問題の重大性については、元農水相で弁護士の山田正彦氏が著書その他で強調しているところで、植草一秀氏も折に触れその問題について論じています。
 
 世界の種子市場は、米モンサントを傘下に置く独バイエル、米ダウ・デュポン、スイスのシンジェンタなど多国籍の種子企業7社で8割を占めていますなかでもモンサントは、遺伝子組み換え種子とともに農薬の開発に力を入れ自社の除草剤に耐性を持つ遺伝子組み換え種子を、除草剤、化学肥料と一緒に販売してきました。
 しかし、その除草剤に発がん性物質が含まれている疑いがあり、8月10日米国サンフランシスコ州の裁判所が、原告の除草剤には発がん性があるとの訴えを認めてモンサントに2億8900万ドル(約320億円)の支払いを命じる判断を下しました。
 
 当該の発がん物質は除草剤「ラウンドアップ」に含まれるグリホサートですが、日本政府は昨年12月、その残留基準値を最大400倍も引き上げ、小麦の残留基準値も6倍に引き上げました。
 
 日刊ゲンダイがシリーズ外資の餌食 日本の台所が危ない」の掲載を始めました。
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 外資の餌食 日本の台所が危ない  
外国籍の種子企業参入 農薬まみれの米が日本にあふれる?
日刊ゲンダイ 2018年11月2日
 種子法廃止によって心配されるのが、「種」とセットで販売される農薬などの安全性の問題だ。
 世界の種子市場は、米モンサントを傘下に置く独バイエル、米ダウ・デュポン、スイスのシンジェンタなど多国籍の種子企業7社で8割を占める。日本国内で種の安定供給を担ってきた種子法がなくなった今、こうした多国籍の種子企業が日本の市場に参入してくることが予想される。元農水大臣で弁護士の山田正彦氏がこう言う。
「世界の種子市場のトップに君臨しているのが、バイエルが今年6月に買収したモンサントです。モンサントは、ベトナム戦争で使われた枯れ葉剤を製造していた会社で、農薬や遺伝子組み換え種子の開発に力を入れてきました。そして、自社の除草剤に耐性を持つ遺伝子組み換え種子を、除草剤、化学肥料と一緒に販売してきたのです」
 
 モンサントの除草剤「ラウンドアップ」は、日本でもポピュラーだ。100円ショップで気軽に手に入れることができ、農業関係者の間でも流通しているという。
 しかし、「ラウンドアップ」の安全性を巡って、米国では多額の損害賠償を求める裁判が起きている。主成分であるグリホサートに「おそらく発がん性がある」と世界保健機関(WHO)の外部組織である国際がん研究機関が指摘しているからだ。
 例えば、米カリフォルニア州の末期がんの男性が、がんの原因が、学校の校庭管理の際に使用していた「ラウンドアップ」だとして訴えを起こした裁判。今年8月、陪審は男性の訴えを認め、モンサントに対し、2億8900万ドル(約320億円)の支払いを命じる評決を下した。これを不服としてモンサントは別途、提訴したが、10月22日、裁判所は8月の陪審評決を維持し、賠償金取り消しを求めるモンサントの申し立てを退けたのである。
 
 モンサント側は徹底的に争う姿勢だ。日本モンサントはホームページを見て欲しいと話す。そこには、8月の判決について、グリホサートに発がん性がないとする研究結果と共に、「安全性に関する結論を覆すものではありません」「科学が勝つと確信しています」などと明記されている。
 東大大学院教授の鈴木宣弘氏(農政)は、「『科学主義』の下では、たとえ死人が出ても因果関係が特定できなければ何も規制できない」と言う。多国籍の種子企業は、この「科学主義」を盾に、日本の食市場に進出してくる。加えて、日本は世界の流れに逆行して、農薬の規制緩和に動いている。日本の食市場に、農薬まみれの米があふれる日が来るかもしれない。 =つづく (取材=本紙・生田修平、高月太樹)
 
 
 外資の餌食 日本の台所が危ない
大丈夫か…メーカーの要望で農薬残留基準が緩和されていた
日刊ゲンダイ 2018年11月3日
 日本は、世界の農薬規制の流れと逆行している。
 問題は、政府が昨年12月25日、コッソリ公布した「食品、添加物等の規格基準の一部を改正する件」という告示だ。驚くべきはその内容で、食品に残る農薬の基準値が大幅に緩和されたのである。
 例えば、米モンサントの除草剤「ラウンドアップ」に含まれるグリホサート。グリホサートは、世界保健機関(WHO)の外部組織である国際がん研究機関が「おそらく発がん性がある」と指摘している化学物質だ。ところが、厚労省は昨年12月、小麦に残っても大丈夫なグリホサートの基準を改正前の6倍に、ソバについては150倍に緩和したのだ。厚労省食品基準審査課の担当者は、「動物実験などの試験の結果、(基準値の)安全性は担保されている」と話すが、消費者の不安は置き去りだ。
 
 そもそも、農薬の残留基準が緩和されるキッカケは、国内外の農薬メーカーが要望したからだ。
「メーカーなどから、農薬の使用方法を変更したいという申請がありました。申請された使用法でどれだけ農薬が残るかを示したデータに基づき、厚労省へ安全評価をお願いしました」(農水省農薬検査班担当)
 要するに、消費者よりもメーカーが優先されているというワケ。しかし、世界を見渡せば、欧州などでは農薬について“規制強化”が趨勢だ。農業問題に詳しいアジア太平洋資料センターの内田聖子氏が言う。
「欧州は、環境や生命に重大な影響があると疑われるものを禁止する『予防原則』の立場をとっています。『絶対に安全・安心』を裏付ける研究がない以上、使用できないという考え方。日本と違って欧州では農薬の取り扱いが厳格で、免許を持っていないと使用できません。日本は、惰性であらゆる農薬を使ってきたし、農薬を日本に売り込みたい多国籍企業の意向をはね返す力がないのでしょう」
 
 農薬は、収穫前の農産物にかけてわざと枯れさせ、乾燥の手間を省くためにも使われるが、元農水大臣で弁護士の山田正彦氏はそうした使い方の拡大に懸念を示す。
「米国で広く行われている『プレハーベスト散布』と呼ばれる方法で、日本でもすでに、一部の民間企業が大豆の収穫において推奨しています。今後、この方法が、国産のコメにも適用されるかもしれません」
 同じ農薬を使い続けると、害虫や雑草に耐性ができてしまうため、より濃度の高い農薬が使われることがあるという。そして、農薬に耐性を持つ新たな遺伝子組み換え作物が開発されていくのだ。
 気付かぬうちに大量の農薬を摂取してしまうことになりかねない。 =つづく
 (取材=本紙・生田修平、高月太樹) 
 
 
 外資の餌食 日本の台所が危ない  
急成長の遺伝子組み換え作物 全米で“安全性”への疑問爆発
日刊ゲンダイ 2018年11月6日
 遺伝子組み換えとは、自然界では起こらない遺伝子操作を人為的に行う技術である。例えば、「ホウレンソウの遺伝子を豚に」「魚の遺伝子をトマトに」など日常的に行われている。
 遺伝子組み換え作物は特定の除草剤をかけても枯れなかったり、害虫を寄せ付けなくなる。そうした作物を食べた虫は腸が破壊されるというから強烈だ。除草剤にやっつけられるのは雑草だけ、しかも農作物自体が害虫を殺す――。農家にとっては“夢の技術”に見えたに違いない。
 
 世界の遺伝子組み換え作物市場は破竹の勢いで伸びている。「国際アグリバイオ事業団(ISAAA)」の報告書によると、遺伝子組み換え作物の耕作面積は、栽培が始まった1996年は170万ヘクタールだったが、昨年は1億8980万ヘクタール。20年そこそこで、なんと111倍である。
 米国を中心に世界の遺伝子組み換え作物市場をリードしたのは、今年6月に独バイエルに買収された旧モンサント(米)だ。現在、遺伝子組み換えの種子で世界シェア90%を持ち、遺伝子組み換え種子と除草剤「ラウンドアップ」のセット販売を拡大してきた。
 
■“夢の技術”が一転
 遺伝子組み換え作物の安全性に懐疑的なEUでは規制が厳しく、ほとんど普及していないが、米国では遺伝子組み換えの表示義務がなく、規制は皆無。それが爆発的な普及を後押しした。
 ところが、2010年代に入って、米国でも遺伝子組み換え作物の安全性や採算性に疑問の声が湧き起こる。アジア太平洋資料センターの内田聖子氏が言う。
「除草剤を使い続ければ雑草は除草剤に耐性を持つようになるので、除草剤を高濃度にしたり、使用量を増やさざるを得ない。これは農家の経営を圧迫します。さらに、最大の問題は安全性。ちょうど遺伝子組み換え作物の栽培が始まった90年代後半から、全米各地で、アレルギー、糖尿病、自閉症、不妊、出生障害などの疾患が急増したのです。人間だけでなく家畜やペットも健康を害したのですが、飼料を『非GMO(遺伝子組み換えでない)』に替えると劇的に回復したケースが相次ぎました。そこで遺伝子組み換え食品の表示を求める運動が全米に広がっていきました」
 
 米国では、世論調査で90%以上が遺伝子組み換えの表示を望む中、11年には全米各地で「消費者の知る権利」を求める請願運動が起こり、「表示」を求め150万人もの署名が集まった。翌12年、カリフォルニア州で「食品表示の義務化」を求める住民投票が行われることになったが、多国籍企業は黙っていなかった。 =つづく
取材=生田修平・高月太樹(ともに日刊ゲンダイ)