日本の種子法は、戦中・戦後の食糧難の時代の反省から、1952年に制定された法律で、それを根拠法として国が予算を出し、自治体が主要農作物の優良な種子を生産・普及することで、国産の安くて美味い米などの安定供給を実現してきました。
一方、グローバル種子企業(=多国籍企業)が開発した種子はF1品種と呼ばれ、収穫率が高く、品質の均一性にも優れますが、一代限りの種なので、農民は毎年その種子を購入することになります。従ってそれを日本に売り込めれば、毎年莫大な収益を挙げることが可能になります。
日本にも自然種の種苗を販売するメーカーは勿論あり、毎春トマトやナスなどの種苗がスーパーなどで売り出され、趣味的に園芸栽培をしている人たちはそれを購入しますが、大規模農業者は自分で種苗を育て(自家採取)それを栽培しています。
従ってグローバル種子企業が日本市場に参入するためには、まずその「自家採取」を禁止しなくてはなりません。
そんなことが出来るのかと思うかもしれませんが、グローバル企業にとってはそんなことは朝飯前のことで、政府もそれにむかって着々と準備を進めています。
まず去年の通常国会で、ロクな審議を経ることなく種子法の「廃止法」を成立させ、今年4月から施行されました。
同時に「農業競争力強化支援法」を制定し、今まで国や県の農業試験場が開発してきたコメの種とその情報を『民間企業』に提供させることを義務付けました。まさにグローバル企業にとっては“濡れ手で粟”タダで材料をもらって、ちょっとだけ遺伝子を組み換えて高い値段にして売り込めるわけです。
なぜそんな「売国の所業」がいとも簡単に出来たのかですが、それは「種子法が、民間事業者の品種開発・参入を妨げている」のでそれを廃止して、「生産資材(種子)価格の低減」を目指すためという、虚偽の口実を設けたからでした。グローバル企業による独占が完了すれば価格が跳ね上がるのは目に見えているのにです。
政府は、次の段階で「種苗法」を改定し、今後はすべての種子を品種登録させるようにします(「農業競争力強化支援法」で、コメの種とその情報を『民間企業』に提供させることを義務付けたのは、彼らにその品種登録が出来るようにするためです)。
そうすると品種登録をしていないと自分のものではなくなるので、(自分の種だと思って)自家採種するとグローバル種子企業から特許侵害で損害賠償請求をされてしまうことになります。農家が自身で品種登録するのは技術的にも費用的にも大変なので、グローバル種子企業が早い者勝ちで先に品種登録してしまいます。県の農業試験場であればそれは可能ですが、政府が「民間企業」優先と謳う以上 それは自粛せざるを得ないのでしょう。
これで自動的に「自家採種」が禁止され、あとはグローバル企業の意のままということになります。彼らに大儲けをさせるのはいうに及ばず、遺伝子組み込みの米や他の野菜類が否応なく日本の食卓に並ぶことになります。
すべては欧州と違って遺伝子交換の農産物が市場を席巻することに何の抵抗も示さずに、ひたすらグローバル企業に迎合しようとする政府の売国姿勢が為させたものです。
日刊ゲンダイの「種子法廃止」の記事と、やや長くなりますが、それに関連する「外資の餌食 日本の台所が危ない シリーズ」の初回~3回目記事をまとめて紹介します。
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【種子法廃止】 「グローバル種子企業」が日本を植民地化
日刊ゲンダイ 2018年8月10日
国民の命の源の食料、その源の種。その中でも、一番の基礎食料であるコメや麦の種を守る「種子法」が今年の4月1日に廃止された。ほとんど議論もしないまま、どさくさに紛れるように採決されてしまった。
コメや麦の種。これらは国民の命の源だから、国がお金を出して県が奨励品種を育成し、それを農家に安く提供することで、農家にしっかり生産してもらい、消費者に届けることを義務付けてきた。それを突如廃止する表向きの理由は、「生産資材価格の低減」なのだが、これは嘘だとすぐわかる。良い種を安く供給するための事業を止めたら、種の値段は上がるに決まっている。現に今、民間で流通しているコメの種は県の奨励品種の10倍の価格である。
自治体に代わって、コメの種を大々的に担うのはグローバル種子企業であり、農家のためではなく、彼らのために種子法を廃止したというのが真相。それは、種子法廃止と同時に成立させた別の法律(農業競争力強化支援法)の8条の4項を見ればバレバレだ。今まで国や県の農業試験場が開発してきたコメの種とその情報を民間企業に提供しなさいと書いてある。すごいことだ。今年2月の平昌五輪の際、韓国で日本のイチゴの苗が勝手に使われていたと、あんなに問題にしたのに、コメの種は差し出せというのだ。
グローバル種子企業は“濡れ手で粟”。タダで材料をもらって、ちょっとだけ遺伝子を組み換えて、高い値段にして、「日本の農家の皆さん、これ買わないと生産できませんよ。消費者の皆さん、この遺伝子組み換えのコメを買わないと生きていけませんよ」と言えるように、わざわざ日本の政府が一生懸命お膳立てしてあげている。グローバル種子企業による日本の植民地化を手助けする“売国行為”になりかねない。
多くの県で今後も奨励品種を育成、提供する事業を継続する条例が可決されているので、売国の流れに対抗する措置として一定の効果は期待できるが、大きなネックは、グローバル種子企業への種の提供を定めた農業競争力強化支援法8条4項だ。これを執行停止にしないとダメだ。
さらには、種子法廃止に続いて「種苗法」が改定され、今後は種の自家採種が原則禁止される。どんな種も買わなくてはいけない。代々、地域の農家が自家採種してきた伝統的な種で、自分の種だと思っていても、品種登録されていなかったら自分のものではない。
農家が自身で品種登録するのは大変だから、いつの間にか、グローバル種子企業が品種登録してしまう。早い者勝ちだ。そうなると、自分の種だと思って自家採種したら、グローバル種子企業から特許侵害で損害賠償請求されてしまう。
これは、グローバル種子企業が途上国のみならず、各国で展開してきている戦略(手口)だ。今回の種苗法改定は、同様の手口を日本でも促進するための「環境整備」なのである。
外資の餌食 日本の台所が危ない
ひっそり可決…多国籍企業のカネ儲けのため「種子法」廃止
日刊ゲンダイ 2018年10月26日
特定秘密保護法、安保法制、共謀罪、働き方改革関連法、カジノ解禁……。6年にわたる安倍政権下で強行採決された“悪法”は数知れず。そんな中、日本の食や農業を守ってきた大切な法律がひっそりと廃止された。米や麦、大豆の安定供給を担保してきた「種子法」である。
種子法は、戦中・戦後の食糧難の時代の反省から、1952年に制定された法律だ。これを根拠法として国が予算を出し、自治体が主要農作物の優良な種子を生産・普及することで、国産の安い米などの安定供給を実現してきた。
ところが、昨年の通常国会でロクな審議を経ることなく、種子法の「廃止法」が可決。今年4月から施行されているのだ。
同法を所管していた農水省は廃止の理由について、「(種子法が)民間事業者の品種開発・参入を妨げているから」と説明。その裏にあるのは安倍首相がたびたび口にする「岩盤規制の突破」や「規制改革」である。
農業や食料自給を守ってきた種子法を「民間への参入障壁=岩盤」とみなし、規制改革の名の下で大企業がカネ儲けしやすい環境をつくる――。モノやサービスの自由な取引を定めたTPPと根っこは同じだ。元農水大臣で弁護士の山田正彦氏がこう言う。
「種子法廃止の背景にはTPPの交渉参加があります。我々が提起したTPP交渉差し止め・違憲確認訴訟で、今年1月に東京高裁が原告の訴えを退ける判決を下した際、判決文の中に、『種子法の廃止については、その背景事情の1つにTPP協定に関する動向があったことは否定できないものの……』という一文がありました。国民の税金で賄われてきた公共サービス・知的財産が、TPPや種子法廃止によって、民間の多国籍企業などに開放されてしまうのです」
有識者が農林水産分野の政策を審議する規制改革会議農業ワーキンググループでは、種子法廃止の是非を巡る議論は一切されず、「(種子法に)制度的な課題がある」と指摘されただけ。その「課題」とは、カネ儲けをしたい民間企業にとって“邪魔”だということだ。
「民間企業が種子事業に参入することで、これまで口にしてきた銘柄米が食べられなくなるかもしれません」(山田正彦氏)
それだけじゃない。外国からも「種」が入ってくることになり、価格高騰や安全性の不安といった問題にも直面する。日本の食卓風景はガラリと変わらざるを得なくなるのである。 (つづく)
外資の餌食 日本の台所が危ない
米韓FTAの二の舞に…「地産地消」の学校給食がなくなる日
日刊ゲンダイ 2018年10月31日
種子を扱う多国籍企業の門戸開放要求に、政府は日本の食市場を開こうとしている。参入障壁の撤廃や自由でフェアな貿易といえばもっともらしく聞こえるが、それを「食」に当てはめるととんでもないことが起こる。
2012年に発効した米韓FTA(自由貿易協定)でターゲットにされた韓国の学校給食が象徴的な事例だ。
韓国では、身の回りでとれたものを食べるのが体に最も良いという「身土不二」という考え方があり、学校給食は「地産地消」とする条例が自治体で設けられていた。ところが、FTAの観点から見れば、これらの条例は地元業者のえこひいきになり、米国の農産物を差別していることになる。
東大大学院の鈴木宣弘教授(農政)が言う。
「地産地消を貫いて、韓国の地元業者を優遇すれば、ISDS(紛争解決)条項で韓国政府が訴えられかねない。韓国政府は訴訟リスクを回避するため、自治体を指導し、地産地消の学校給食を定めた条例が次々に廃止されました。韓国は米国にうまくやられました」
しかし、自由貿易や訴訟リスク回避と引き換えに、地産地消の給食が消えたことで、韓国国民が失ったものは計り知れない。
「地産地消は食の安全、安心を支えるものであるだけでなく、その国の文化です。しかし、自由貿易の世界では、それが差別になってしまう。米国は日本の給食市場も、間違いなく狙っています。日本でも地産地消がやり玉に挙げられかねません。韓国の二の舞いにならないためにも、もっと世論が騒がなければいけないのですが、『種子法』廃止や食をめぐるFTAの問題などについて取り上げるメディアが少ない。このままでは、知らないうちに学校給食が餌食になります」(鈴木宣弘教授)
日本でも、地産地消が大事だと思う人は多いはずだ。このまま黙って餌食にされていいのか。 =つづく (取材=本紙・生田修平、高月太樹)
外資の餌食 日本の台所が危ない
「自家採種の禁止」で…地域の多様な品種が食卓から消える
日刊ゲンダイ 2018年11月1日
知的財産権の保護は、TPPでも大きなテーマだった。米中貿易戦争でも、トランプ大統領は中国が知的財産権を侵害していると問題にしている。新しい技術やソフトの開発者の権利がないがしろにされ、コピーや海賊版が横行すれば、開発や著作活動が成り立たなくなってしまう。国際社会が協力して知財保護を強化していくことは必要だ。
しかし、コピーが何でも悪いわけではない。育成者の権利保護を名目に、「自家採種の禁止」という形で、日本の農業文化が壊されようとしているのだ。
自家採種とは、農家が自ら生産した作物から種を採取し、次の年に作付けすること。企業が開発した種はF1品種と呼ばれ、収穫率が高く、品質の均一性にも優れるが、一代限りの種だ。一方、自家採取の種は、質の劣化は避けられないが、農家は工夫をしながら、種を代々つないできた。東大大学院の鈴木宣弘教授(農政)が言う。
「自家採種によって、農家固有の品種が代々受け継がれ、日本の農業は地域の特色がある多様な品種を実現してきたのです」
種子法廃止に続いて、農水省は自家採種を原則禁止する方向に動いている。種苗法で「自家採種を自由にできる」と規定しながら、省令で例外を次々に増やしているのだ。従来、花やキノコなど82種は例外的に自家採種が禁止されてきたが、昨年一気に209種が追加され、現在、禁止は356種類にも上る。タマネギ、ジャガイモ、トマト、ダイコン、ニンジンなどお馴染みの野菜も入っているから驚きだ。
農業ビジネスを手がける多国籍企業が種の知的財産保護を要望したことを受けて締結されたUPOV条約は「自家採種原則禁止」をうたっている。日本は1991年に条約を批准しているが、ここへきて一気に多国籍企業寄りに舵を切ってきた。
「農業は作物から種が出来て、次の世代に引き継いでいく循環型の産業です。工業製品や著作物と同列に知的財産権のルールを農業に当てはめ、自家採種を“コピー扱い”するのは間違っています。一世代だけのF1品種が普及し、自家採種が原則禁止になれば、農作物の多様性は失われ、大量生産でき、企業が儲かる品種だけが生き残ることになるでしょう」(鈴木宣弘教授)
地域の農家育成より多国籍企業の利益重視。いかにも安倍政権らしい姿勢である。
=つづく (取材=日刊ゲンダイ・生田修平、高月太樹)