2018年11月3日土曜日

徴用工問題の公正な解決を求める―志位委員長が見解

 30日に下された、韓国人徴用工問題についての韓国最高裁判決について、安倍首相は早速「あり得ない」と述べ、右派からは例によって韓国非難の合唱が起きています。
 ネトウヨの反応はともかく、首相は一国のリーダーなのでもっと緻密で正確な発言をしてもらわないと、国民の多くは問題点を誤解します。
 共産党の志位委員長が「徴用工問題の公正な解決を求める」とする見解を発表しました。
 短いものですがこの問題の要点が良く分かります。それについての記者との一問一答も載りました。
 またソウル新聞の記者が 東洋経済オンラインに冷静な記事を載せていますので、参考までに紹介します。
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徴用工問題の公正な解決を求める――韓国の最高裁判決について
志位委員長が見解
しんぶん赤旗 2018年11月2日
 日本共産党の志位和夫委員長は1日、国会内で記者会見し、「徴用工問題の公正な解決を求める――韓国の最高裁判決について」と題する見解を発表しました。同日、韓国大使館と在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)本部に見解を送付しました。
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(1) 10月30日、韓国の最高裁判所は、日本がアジア・太平洋地域を侵略した太平洋戦争中に、「徴用工として日本で強制的に働かされた」として、韓国人4人が新日鉄住金に損害賠償を求めた裁判で、賠償を命じる判決を言い渡した。
 安倍首相は、元徴用工の請求権について、「1965年の日韓請求権・経済協力協定によって完全かつ最終的に解決している」とのべ、「判決は国際法に照らしてありえない判断だ」として、全面的に拒否し、韓国を非難する姿勢を示した。
 こうした日本政府の対応には、重大な問題がある。
(2) 日韓請求権協定によって、日韓両国間での請求権の問題が解決されたとしても、被害にあった個人の請求権を消滅させることはないということは、日本政府が国会答弁などで公式に繰り返し表明してきたことである。
 たとえば、1991年8月27日の参院予算委員会で、当時の柳井俊二外務省条約局長は、日韓請求権協定の第2条で両国間の請求権の問題が「完全かつ最終的に解決」されたとのべていることの意味について、「これは日韓両国が国家として持っている外交保護権を相互に放棄したということ」であり、「個人の請求権そのものを国内法的な意味で消滅させたものではない」と明言している。
 強制連行による被害者の請求権の問題は、中国との関係でも問題になってきたが、2007年4月27日、日本の最高裁は、中国の強制連行被害者が西松建設を相手におこした裁判について、日中共同声明によって「(個人が)裁判上訴求する権能を失った」としながらも、「(個人の)請求権を実体的に消滅させることまでを意味するものではない」と判断し、日本政府や企業による被害の回復にむけた自発的対応を促した。この判決が手掛かりとなって、被害者は西松建設との和解を成立させ、西松建設は謝罪し、和解金が支払われた。
 たとえ国家間で請求権の問題が解決されたとしても、個人の請求権を消滅させることはない――このことは、日本政府自身が繰り返し言明してきたことであり、日本の最高裁判決でも明示されてきたことである。
 日本政府と該当企業は、この立場にたって、被害者の名誉と尊厳を回復し、公正な解決をはかるために努力をつくすべきである。
(3) 韓国の最高裁判決は、原告が求めているのは、未払い賃金や補償金ではなく、朝鮮半島に対する日本の不法な植民地支配と侵略戦争の遂行に直結した日本企業の反人道的な不法行為――強制動員に対する慰謝料を請求したものだとしている。そして、日韓請求権協定の交渉過程で、日本政府は植民地支配の不法性を認めず、強制動員被害の法的賠償を根本的に否定したと指摘し、このような状況では、強制動員の慰謝料請求権が請求権協定の適用対象に含まれると見なすことはできないと述べている。
 1965年の日韓基本条約および日韓請求権協定の交渉過程で、日本政府は植民地支配の不法性について一切認めようとせず、謝罪も反省も行わなかったことは、動かすことのできない歴史の事実である。
 徴用工の問題――強制動員の問題は、戦時下、朝鮮半島や中国などから、多数の人々を日本本土に動員し、日本企業の工場や炭鉱などで強制的に働かせ、劣悪な環境、重労働、虐待などによって少なくない人々の命を奪ったという、侵略戦争・植民地支配と結びついた重大な人権問題であり、日本政府や該当企業がこれらの被害者に対して明確な謝罪や反省を表明してこなかったことも事実である。
 
 今年は、「日本の韓国への植民地支配への反省」を日韓両国の公式文書で初めて明記した「日韓パートナーシップ宣言」(1998年、小渕恵三首相と金大中(キムデジュン)大統領による宣言)がかわされてから、20周年の節目の年である。
 日本政府と該当企業が、過去の植民地支配と侵略戦争への真摯(しんし)で痛切な反省を基礎にし、この問題の公正な解決方向を見いだす努力を行うことを求める。
 
 
「被害者個人の請求権は消滅せず」の一致点で解決に努力を
 志位委員長の一問一答
しんぶん赤旗 2018年11月2日
 日本共産党の志位和夫委員長は1日の記者会見で、徴用工問題の見解に関し、記者の質問に答えました。
 
日韓両政府、両最高裁ともに「個人の請求権は消滅せず」では一致
 ――(日韓請求権協定では)「個人の請求権」が残っているのは日本の最高裁も韓国の大法院も一緒だと思いますが、裁判上の訴求権について日本の最高裁は失っているとする一方、韓国大法院は認めています。委員長としてはこの大法院の判決は当然という考えですか。
志位 裁判上の訴求権の問題については、日韓それぞれの立場があることはおっしゃるとおりだと思います。
 ただ、裁判上の訴求権について認めなかった(2007年4月27日の)日本の最高裁判決でも「(個人の)請求権を実体的に消滅させることまでを意味するものではない」とし、「任意の自発的な対応をすることは妨げられない」と指摘しているところが重要です。だから西松建設のような和解も成立したわけです。
 「任意の自発的な対応」がもし(判決に)入っていないと、西松建設のような和解をした場合に、株主側から訴えられるという立場にたたされる危険もありますが、「任意の自発的な対応」を最高裁がオーソライズ(公認化)したために和解に道が開かれました。
 裁判上の訴求権については日韓の立場に違いはありますが、「被害者個人の請求権は消滅していない」ということでは一致しています。日本政府、日本の最高裁、韓国政府、韓国の大法院、すべてが一致している。ここが大切なところです。
 この問題で不一致点をいたずらに拡大したり、あおったりするのではなく、「被害者個人の請求権は消滅していない」という一致点から出発し、被害者の名誉と尊厳を回復するための具体的措置を日韓両国で話し合って見いだしていくという態度が大事ではないでしょうか。
 
国家間の請求権と個人の請求権をきちんと分けた冷静な議論を
 ――発表された見解の中では、日本政府と該当企業に対する解決方法を見いだす努力を求めていますが、韓国政府に対して求めるものは現段階では何でしょうか。
志位 私たちは、まず日本政府に(党見解に述べたような)要求をしています。
 同時に、その解決はもちろん、日本政府だけでなしうるものではありません。日韓双方が、被害者の尊厳と名誉を回復するという立場で冷静で真剣な話し合いを行っていく努力が必要だと思います。
 私は、率直に言って、(徴用工問題の)日本政府や日本メディアの対応を見ると、国と国との請求権の問題と、個人としての請求権の問題がごちゃごちゃになっていると思います。国家の請求権と個人の請求権をいっしょくたにして、「すべて1965年の日韓請求権協定で解決ずみだ」「個人の請求権もない」という調子で、問答無用の議論になっている。国と国との請求権の問題と、個人の請求権の問題をきちんと分けて考えないと、この問題の冷静な解決方法が見えてこないのです。
 先ほど述べたように、日本政府、日本の最高裁、韓国政府、韓国の大法院の4者とも被害者個人の請求権は認めているわけです。だからこの一致点を大事にしながら解決の方法を探るべきです。そこをごちゃごちゃにして、ただ相手を非難するやり方は大変によくないと思っています。
 
国家間の請求権についてどう考えるか
 ――共産党として、日韓請求権協定で国と国との請求権がなくなっているという立場にたっているのですか。
志位 国と国においても請求権の問題は解決していないという判断を下したのが韓国の最高裁判決です。
 韓国の最高裁判決は二重にできていて、まず個人としての請求権は消滅していないというのが一つある。同時に、国としての請求権も請求権協定の適用対象に含まれないと判定を下しました。これは2012年の韓国最高裁の判決と同じですが、その立場を表明したわけです。
 その論理は、原告が求めているのは未払い賃金などではなく、朝鮮半島に対する日本の不法な植民地支配と侵略戦争の遂行に直結した日本企業の反人道的な行為――強制動員に対する慰謝料であり、請求権協定の交渉過程で日本は植民地支配を不法なものだとは認めてこなかった、こういう状況では強制動員の慰謝料請求権が請求権協定で放棄した対象に含まれるとみなすことはできないという論理なのです。私は、この論理は検討されるべき論理だと考えています。
 私の見解では、この問題について、1965年の日韓基本条約・日韓請求権協定の交渉過程で日本政府が植民地支配の不法性について一切認めなかったこと、徴用工の問題について被害者への明確な謝罪や反省を表明してこなかったという、二つの事実を指摘しています。
 ただこの問題について大切なのは、たとえ国家間の請求権問題が解決されていたとしても、個人の請求権を消滅させることはないというのは、日韓とも一致しているのですから、この一致点でまず解決方法を見いだす。そのうえで日本が植民地支配を反省してこなかったという問題が根本的な問題としてあります。植民地支配の真摯(しんし)な反省のうえに立って、より根本的な解決の道を見いだすべきだという、二段構えでの論理で、今日の見解を組み立てました。
 
 
韓国紙も冷静に報じる「徴用工勝訴」の先行き 
立ちふさがる「国家免除原則」のカベ
ユ・ヨンジェ 東洋経済オンライン  2018年11月2日
「ソウル新聞」記者   
日本の植民地時代に「徴用工」として強制的に労働を強いられて苦痛を受けたとして、日本企業を相手取り賠償を求めた原告に対し、韓国大法院(最高裁判所)は10月30日、被告である新日鉄住金の責任を認める判決を出した。
しかし、原告が実際に賠償を得られるか、あるいは日本軍慰安婦など植民地時代の問題に関するほかの訴訟にどのような影響を与えるのかは、現段階ではまだ未知数である。
 
大法院は被告である新日鉄住金に対し、原告4人に対して1人1億ウォン(約1000万円)の賠償を認める判決を出した。しかし、韓国の裁判所が日本にある新日鉄住金の資産や財産を強調執行することは原則的にできない。
その代わり、同社の韓国内にある資産に対する強制執行は可能だ。たとえば、同社はPOSCO株式(発行済み株式数の3.32%)を保有している。30日での株価で計算すれば、これは約7000億ウォン(約700億円)を上回る金額になる。
 
大法院の判決を元に、原告らが日本の裁判所に民事訴訟を提起する可能性もある。しかし2005年、今回と同じ原告が日本の裁判所で損害賠償請求を行ったものの、敗訴が確定している。そのため、日本の裁判所が今回の判決を認める可能性は低い。日本側がこの問題を国際司法裁判所に提訴、結論を遅らせる戦術を採る可能性もある。いずれにしろ、実際に日本企業に賠償金を支払わせることは容易ではない。
 
■「国家免除原則」とは何か
ここで元従軍慰安婦がソウル中央地方裁判所に訴えた2つの裁判についても考えておこう。
日本政府を相手に訴訟を起こした元慰安婦のケースでは、国際司法裁判所の判例となっている「国家免除(主権免除、裁判権免除)原則」が適用される可能性も高い。国家免除原則とは、国際民事訴訟において被告が国やその下部にある行政組織の場合には、外国の裁判権から免除されるという、国際慣習法の一つだ。
 
イタリア人が1998年、「第二次世界大戦中にドイツ軍から徴用されて強制的に働かされた」としてドイツ政府に賠償を求める裁判を起こした時、イタリアの破毀院(はきいん、最高裁判所に相当)は2004年に「賠償すべき」との判決を下した(「フェリーニ事件」)。ドイツ政府はこれに反発し、「すでにドイツはイタリアに対し賠償義務を履行しており、イタリアの裁判所がドイツの主権を侵害している」と主張した。ドイツからの提訴でこの事件を審理した国際司法裁判所は、国家免除原則を適用してドイツ側の訴えを認めている。
 
韓国・高麗大学法学専門大学院のカン・ビョングン教授は「慰安婦問題であれ強制徴用の問題であれ、どちらも問題としては似たような行為の責任を問うもの。被害者の損害賠償請求権は国家を相手に行使できないという原則は変わらない。フェリーニ事件において国際司法裁判所は、ドイツの不法行為を審理したわけではなく、国家免除原則があることを再確認した」と説明する。
 
元慰安婦らが2016年にソウル中央地方裁判所で提訴した2つの訴訟に対し、日本政府は「無対応」中だ。裁判所関係者は「日本の外務省に書類を送っても返送されて戻ってくる。被告(日本政府)への送付がなされず、正式な裁判は一度も開かれていない」と言う。