2019年8月13日火曜日

「表現の不自由展・その後」の中止は 明らかに不当な暴力による人災

「あいちトリエンナーレ2019」の企画展「表現の不自由展・その後」への異常な抗議や狂気じみた脅迫は、当初から予想されていたもので、実行委員会が3日目に展示中止に至ったのは事前の対応の不十分さによるものだとする、展示会経験者の見解をAERAが載せました。
 この経過の中で、中止には追い込まれたものの、批判者側に全く理がないことは十分に明らかにされました。
 とはいうものの、芸術監督の津田大介氏も認めていましたが、「電話で抗議すれば中止に追い込めることを知らしめてしまった」今回の対応は問題でした
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中止の「表現の不自由展・その後」実行委が激白 
「明らかに不当な暴力による人災です」 
渡辺豪 AERA 2019.8.12
※AERA 2019年8月26日号
「あいちトリエンナーレ2019」の企画展「表現の不自由展・その後」の中止問題。抗議や脅迫の前に挫折した事態は深刻だ。実行委員会が明かした「自由」への侵害とは。
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「この企画展をやり遂げるには相当の覚悟と準備が必要だと考えていました」
 こう話すのは、企画展「表現の不自由展・その後」の実行委員会の岡本有佳さん(56)だ。
 実行委が「あいちトリエンナーレ2019」芸術監督の津田大介さんから協力を打診されたのは18年6月。このとき岡本さんの脳裏をよぎったのは、過去の展示会で経験した修羅場だ。
 
■執拗な妨害や嫌がらせ
「表現の自由が侵害されている実態を可視化したい」
 そんな思いから岡本さんら市民有志は、一時中止に追い込まれた元慰安婦の写真展を12年に、各地の美術館で撤去されるなどした作品を展示した
「表現の不自由展」を15年に、それぞれ都内のギャラリーで開催した。
 その際、執拗な妨害や嫌がらせを受ける。「在日特権を許さない市民の会」が拡声器を使って、「ぶっ殺してやるから出てこい」と罵倒。来場者の姿を勝手に撮影し、ネット上にアップした。岡本さんらは電話や受け付けの応対マニュアルを用意するなど対策を準備。会期中は総勢80人のボランティアが連日警備に当たった。来場者が無断撮影される状況には、シーツで出入り口を隠した。
 このときの主要メンバー5人が、「その後」展の実行委として企画・キュレーションを担当した。受諾に際し、津田監督にこう念押ししたという。
「不当な暴力に屈した場合、私たちは(主催者側の)愛知県や津田さんと対立することもありますよ」
 岡本さんによると、津田監督は「(圧力に屈しないよう)僕も一緒に闘う」と答えた。
 にもかかわらず、開会3日目の中止決定。しかも、実行委との協議を経ず一方的に通知されたという。岡本さんが憤る。
「私たちが納得できないのも当然じゃないですか」
 愛知県の担当者を交えた今年5月の対策会議で、岡本さんらは電話応対の担当者増員や応答要領などの事前研修を提案した。だが、岡本さんの目には不備が目立った。設置を要望した自動録音や番号通知機能のある電話の配備も一部にとどまり、「現場の最前線に立たされる人への対応が不十分」と感じた。
 
■政治家が抗議の前面に
 抗議は、開幕日だけで電話200件、メール500件に上った。事務局は抗議電話に対応する職員を増強し、ベテラン職員が応対した。だが、待たされた人がオペレーターに激高するなど抗議は過熱した。
「お前の母親の写真を燃やしてやるぞ」
 女性に対しては一層攻撃的になり、職員の個人名をネット上にさらす事例も。「このままでは自殺者も出かねない」。連日未明まで続いた対策会議でこんな報告も出された。
 愛知県の大村秀章知事は会見で「事務局スタッフの対応能力からオーバーフローしてしまった」と説明したが、岡本さんは、
「明らかに不当な暴力による人災です。知事が予算や手続きは後回しでいいから、と人員増などを決断していれば、状況は改善できたと思います」
 
 今回深刻なのは、政治家が抗議の前面に立ったことだ。トリエンナーレ実行委員会の会長代行でもある河村たかし名古屋市長は8月2日に会場を視察し、「日本国民の心を踏みにじる行為」と主張。大村知事に展示中止を求める抗議文を出した。
「その後」展実行委の永田浩三武蔵大学教授は、こう批判する。
「作品に対するリスペクトがまずあって、作品と向き合うことで議論を深めましょうというのがトリエンナーレの根本精神。言論・表現の自由は人権の基本でもある。自治体行政のトップにある人が展示機会そのものを奪う発言をしてはならない
 前出の岡本さんも嘆く。
「電話で抗議すれば中止に追い込めることを知らしめてしまった。このままでは、私たちの目から隠される芸術品が増える一方です」 (編集部/渡辺 豪)