2019年8月14日水曜日

14- 直撃インタビュー 落語家・立川談四楼さん

 日刊ゲンダイの「注目の人 直撃インタビュー」は、落語家・立川談四楼さんです。
 メディアや芸能界でも政権批判の声を上げた出演者次々と表舞台から消え、政府批判がやりにくくなった中で、敢然とツイッターで鋭い政権批判を続けている人です。
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注目の人 直撃インタビュー
落語家・立川談四楼さん「今の自民党はカルトに近い」
日刊ゲンダイ 2019/08/13
 総理大臣の通算在職日数が11月に桂太郎(2886日)を抜き、憲政史上最長に達する安倍首相だが、長期政権に伴う「弊害」も指摘されている。霞が関の役所にみられる人事をタテにした「忖度」だ。その傾向は官僚組織にとどまらない。メディアや芸能界でも、政権批判の声を上げた出演者は次々と表舞台から去った。“物言えば唇寒し”の風潮が社会に広がる中、ツイッターで真正面から鋭い政権批判を続けているのがこの人だ。今の日本を取り巻く政治状況の問題などについて聞いた。
 
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 ――連日のようにツイッターで政権批判しています。もともと政治に対する興味、関心が深かったのですか。
 政治に興味を持ったのは師匠の談志(故・立川談志)が参院議員(1971~77年)だったからです。選挙の時は遊説も手伝い、当選後の6年間は何度も議員会館に通いました。入館受付のチェックが厳しくてね。いつ何時、何の目的で、誰を訪ねるのかを面会証に書くのですが、目的に「稽古」と書いたら、怒られて「陳情」と書き直したなんて笑い話もあります。参議院会館ですら、そうなんですから、官邸の入館記録がないなんてことはあり得ないんです(笑い)。
 
 ――談志さんは無所属から自民党に入党していますね。
 談志の師匠だった小さん(落語協会8代目会長の柳家小さん)が佐藤(栄作元首相)さんに口説かれたため、自民党に入ったわけですが、そのおかげで、かばん持ちだった私も当時の自民党政治家をたくさん見ました。ある時、談志が銀座の店で飲んでいたら、若き日の中曽根さんがさっそうと近づいてきて、こう話し掛けました。「これは松岡先生(談志の本名)。こちらで飲んでいると聞き、近くを通りましたので、ご挨拶に」と。そう言ってビールを談志のグラスにつぐと、さっと引き揚げました。あの大勲位が、一介の新人議員に挨拶ですよ。当時の自民党の懐の広さ、深さを肌で感じて、自民党って、格好いいなあと実感しましたよ。
 
 ――その師匠の古巣である自民党に辛口ですね。
 談志が政界を引退した後、政治の世界をしばらく離れていたわけですが、再び、関わるきっかけは2011年3月の東日本大震災です。特に福島原発事故でした。あの時は民主党政権だったのですが、ひどいなと感じたのは野党だった自民党が激しく与党攻撃していたこと。今は与野党関係なく、一丸となって問題解決に取り組むべき時だろうと思っていました。しばらくして、自民党は再び政権の座に就き、安倍政権となったのですが、相変わらず誹謗中傷の類いの野党攻撃を続けている。それを見ていて、ちょっと待てと。これは俺の知っている自民党じゃあねぇ。そう思いました
 
■安倍さんは戦争をしたがっているとしか思えない
 ――かつての自民党と今の安倍政権は違うと。
 全く違いますね。今の自民党は保守でも何でもなく、カルトに近いでしょう。談志の友人だった(評論家の)故・西部邁先生は、第1次政権の安倍首相に「保守とは何ぞや」と随分とレクチャーしたそうですが、「とうとうご理解いただけなかった」と嘆いていましたから。
 
 ――歴代自民党政権と安倍政権が特に異なる部分はどこでしょう。
 かつての自民党総裁、政権は、改憲や安保に対して、今よりもずっと慎重な姿勢でした。田中角栄元首相は「戦争を知らない世代が政治の中枢となった時は危ない」と言っていましたが、まさに(戦争を知らない世代の)安倍さんの言動を見ていると、どう見ても戦争をやりたがっている、戦前に戻りたいとしか思えない。大日本帝国の影がちらつきます。戦争すれば、今度は勝つと本気で思っているのではないでしょうか。憲法も知らないでしょう。押し付けられたみっともない憲法とか言って、好き勝手にいじれると思っていますからね。これまでの自民党は敵ながらあっぱれという愛嬌がありましたが、安倍さんにはそういった愛嬌が感じられません。
 
 ――自分の知っている愛嬌ある自民党を取り戻したいという思いから、歯に衣着せぬ物言いでバンバン発信している。
 今の自民党は俺が知っている自民党じゃあないし、このまま黙って死ぬのは嫌だから、言いたいことは言ってやろうと。そう思って始めたのがツイッターの発信です。私は真正の保守であり、かつての自民党を壊した今の政権は許し難く、大嫌いと思って発信しています。厳しめに言わないと伝わらないし、共感を得られません。
 
■落語はもともと庶民のガス抜きであり反権力
 ――師匠の談志さんも「黙っていたら世間は知らない。発信しないといけないし、生半可な発信ではダメだ」という姿勢でしたが、今の芸能界で政権批判の声は少数です。
 落語はもともと庶民のガス抜きであり、反権力です。お殿様や侍を揶揄し、いじり倒している噺はたくさん残っていますからね。もっとも江戸時代の初期のころは、やり過ぎて島流しになった人もいますが。別にデマやデッチアゲを言っているわけじゃない。若手からも「師匠、そんなこと言っていいんですか」と聞かれますが、私は「いいに決まっている」「むしろ仕事だ」と答えています。戦時中、戦意高揚のための国策落語がありました。隣の若旦那が出征する噺とか。しかし、落語には一番合わないんですよ。戦争よりもバクチやオンナの方がいいというのが落語の世界ですから。将来、今以上に独裁政権化が進んで、再び「国策落語」の時代に逆戻りなんて冗談じゃありません。
 
■選挙は馬券を買う「娯楽」と考えればいい
 ――首の皮がつながったというのか、安倍政権は参院選で改憲勢力の3分の2を得られませんでした。
 ほっとしていますね。そもそも、自民党内でもまとまっていない改憲案が、庶民に伝わるはずがないでしょう。世論調査でも6割近くの国民が改憲に反対し、選挙でも(勢力は)3分の2に届かなかった。それなのに安倍さんは「改憲議論をすべきではないかという国民の審判が下った」などと言っている。改選前と比べて9議席も減らした自民党についても「勝った」です。思わず、ツイッターで〈安倍さんあなた、字が読めないのは知ってたけど、算数もからっきしなんだね〉と書き込んでしまいました。
 
 ――その参院選では、山本太郎氏率いる「れいわ新選組」の応援演説に立ちました。
 私が勝手に思っていることですが、自分と同じように彼(山本)も福島原発事故後、反原発を掲げて俳優から政治家に転じた人物であり、当時から注目していました。彼のいいところは徹底しているところ。例えば、消費税増税も凍結なんて生ぬるいことを言っていてはダメで、廃止です。中途半端では、国民、有権者に響かないのです。それを一番強く訴えていたのが彼で、街頭演説でも支持者の応援の本気度というのか、熱気が違っていました。ちょっと聴いてやろうか、という姿勢じゃない。一揆でも起きるのではないか、という熱気を久しぶりに見ましたね。
 
 ――山本氏本人は落選してしまいましたが。
 落選したことで逆にニンマリしているんじゃないですか。これで衆院選に挑めると。それに参院選で当選した「れいわ」の2人は、国会にいるだけで絶大な効果をもたらすでしょう。バリアフリーがどう進められるか、国会はどう運営されていくのか。日本のみならず世界中が注目している。まさに民主主義の可視化と言っていい。
 
 ――「れいわ」は参院選で台風の目になりましたが、投開票日前に取り上げるメディアは、ほとんどありませんでした。
 山本氏の街頭演説の場はめちゃくちゃ盛り上がっていて、そこにカメラがずらりと並んで映しているから、オンエアがいつかと尋ねると、「開票後です」と。なんだよ、それって、思いました。現場の記者やカメラマンは「れいわ」の熱狂を肌で感じてるわけでしょう。政党要件を満たしていないとか、いろいろ理由はあるのでしょうが、社会現象として取り上げるべきだった。選挙を堅苦しく捉える必要はないんです。馬券を買うのと同じ娯楽だと。そう思って「れいわ」も放送事故扱いにしてオンエアすればよかった。何か問題が起きたとしても、国民が擁護したと思いますね。
(聞き手=遠山嘉之/日刊ゲンダイ)
 
▽たてかわ・だんしろう(本名は高田正一) 1951年、群馬県生まれ。群馬・太田高校卒業後の1970年3月、故・立川談志に入門し「寸志」。75年11月に二つ目に昇進後、「談四楼」を名乗る。83年、談志とともに落語協会を脱会し、立川流に。同年11月に真打ち昇進。「もっとハゲしく声に出して笑える日本語」(光文社)、「師匠! 」(PHP研究所)など著書多数。