2019年8月25日日曜日

韓国のGSOMIA破棄をどうみるか(レイバーネット日本)

 安田幸弘氏の論文「韓国の軍事情報協定(GSOMIA)破棄をどうみるか? 〜その背景に迫る」を紹介します。レイバーネット国際部の安田氏は日韓のGSOMIAの位置づけや締結の経緯などに詳しく、今回のGSOMIA破棄の意味を考える上で参考になります。
 
 韓国内では米国の戦略に組み込まれることになるTHAADの配備や日韓GSOMIAの締結に強い反対がありましたが、朴槿恵政権時代の2016年にTHAADの導入が決まり、米国の圧力の下で日韓GSOMIAが結ばれました。
 韓国民は米韓FTA(2国間貿易協定)締結の際にも、かつて1960年の日本における安保反対闘争に匹敵するような一大反対運動が起きました。そういう点は、米国主導の時のTPPや日韓GSOMIAの受け入れに対し反対らしい反対もないままに受け入れた日本国民とは大いに様相を異にしています。
 
 それは兎も角、記事は、GSOMIA破棄で一番困るのは米国あって、「韓国をここまで追いやったのは日本だ」ということ承知している米国から、十中八九、日本は「韓国がヘソを曲げちゃったじゃないか。変なことするな」とどやしつけられている  と結ばれています
 
 日刊ゲンダイも、「トランプ氏からシンゾー、折れろと迫られる」筈とする記事を出しているので、併せて紹介します。
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韓国の軍事情報協定(GSOMIA)破棄をどうみるか? 〜その背景に迫る
安田幸弘 レイバーネット日本 2019-8-23
レイバーネット国際部    
 韓国の軍事情報協定(GSOMIA)破棄の決定に日本と米国が「極めて遺憾」と反応。それもそのはず、一番GSOMIAを必要としているのは米国で、米国に追随する日本も自動的にGSOMIAが必要になる。
 もう一度、GSOMIAについて確認しておくと、2006年(第1次安倍内閣が成立した年)の「ロードマップ」に続いて2007年に日米が「2プラス2」で合意、日米GSOMIAを締結した。一連の合意は日米軍事同盟の下で米軍・自衛隊の一体化と、自衛隊の集団的自衛権の行使を確認するもので、2015年の「戦争法」、そして2016年の日韓GSOMIAへと続く。この動きの延長には今年の参議院選挙で安倍が叫んだ「憲法改正」がある。
 
 GSOMIAは軍事情報包括保護協定で、これ自体では、締結国との情報共有についての協定ではなく、あくまでも二国間で共有する情報の保護に関する協定。したがって、GSOMIAがなくても日韓間で情報共有や交換はできるし、実際にGSOMIA以前は特に問題なくやってきた。日本にとって、韓国とのGSOMIAは「米国に言われたから」締結するもので、それ以上でも以下でもないが、韓国にとってはそうではない。
 GSOMIAは軍事協定の一種だ。そして韓国には日本との軍事協定を結ぶことに対する強い抵抗があった。李明博政権時代の2009年に北朝鮮の長距離宇宙ロケット発射と二度目の核実験を背景に日韓間でGSOMIAの議論が始まり、2012年に李明博政権は締結を決定した。しかし、これに対して韓国内から「日本との軍事協定反対」という強い反対の世論が沸き上がり、協定への署名は取り消された
 
 その後も北朝鮮によるミサイル・核の動きは続き、米国は本土防衛のためのミサイル防衛システムを極東に配置する作業進め、2016年には韓国は強い反対にもかかわらずTHAAD配置を受け入れ、日韓GSOMIAを締結するに至る。
 ミサイル防衛については、韓国は執拗な米国からの圧力にもかかわらず、韓国型ミサイル防衛システムにこだわり、韓米のミサイル防衛一体化を拒否し続けてきたが、結局、THAAD配置を受け入れたことで韓国は米国のミサイル防衛網に組み込まれることになる。そして早くから日米の一体化を進めてきた日本としても、米国のミサイル防衛網を補強するために韓国の参加を強く望んできた。そのような流れの中で日韓GSOMIAは締結された。
 
 日本のマスコミはGSOMIAについて、ミサイルの発射や軌道、落下点などの情報を共有するために必要だと言っているが、GSOMIAを過小評価しているのか、あるいは何かを隠しているのか。
 最近、日本ではF-35の「爆買い」や、護衛艦の空母化、そしてイージスアショアといったニュースが話題になった。これらはすべて日米韓による軍事情報網の存在を前提とする軍事システムの一部だ。自衛隊のF-15後継機としてF-35が選ばれたのは、F-35が「空飛ぶ端末」だからであり、それを機動的に運用するためには空母が必要であり、それらを動かすための情報を提供する極東のレーダー網で弱い部分を補強するのがイージスアショアだ。F-35がスマホなら空母は基地局、レーダーはサーバーだ。
 
 このシステムを十分に稼働させるためには、地理的に一番北朝鮮に近い韓国のレーダー基地は不可欠で、そのレーダーのデータを日本の自衛隊や、沖縄・グアムなどの米軍のレーダーと一体化することで、極東地域のリアルタイムの情報ネットワークが完成する。しかし、この情報ネットワークは最高度の機密が要求される。もちろんレーダーなどのデータは暗号化されるが、この暗号化されたデジタルデータを共有するシステムを利用することがまさに、GSOMIAという法的根拠を要求する核心的な理由だ。
 GSOMIAの破棄は、極東に張り巡らされたこの情報網の一角がブラックアウトすることを意味する。日本と韓国のどちらがダメージが大きいかは明らか。韓国にとってGSOMIAが保護する情報は、自国の防衛にはそれほど大きな意味はない。GSOMIAは米国と日本のためのシステムを保護するものだから。
 
 もちろん、GSOMIA破棄で一番困るのは米国なのであって、当然、韓国としては米国との関係を考えると少々窮屈な立場に立たされることになるが、「韓国をここまで追いやったのは日本だ」ということは米国も十分に承知している。しかも、米国としては「じゃ、韓国はいらない」とは言えない立場だ。どうしても韓国は必要だ。しかも韓国は日本のように米国の属国ではないので、どやしつければ縮み上がるような国ではないのだが、どうやら日本は韓国も自分たちと同じように、米国のご機嫌を損ねることはしないと思っていたらしい。
 そういうわけで、今回のGSOMIA破棄は、安倍政権が推し進めてきた米軍と一体化した「日本軍」という夢にとっての障害になるばかりでなく、まあ、十中八九、米国からは「韓国がヘソを曲げちゃったじゃないか。変なことするな」とどやしつけられているだろう。
 日本のマスコミは「GSOMIA破棄で損をするのは韓国」なんて呑気な記事を送り出している。やれやれ。
 
 
この事態に「愚かな韓国」の大合唱 子供のような日本外交
日刊ゲンダイ 2019/08/24 
阿修羅文字起こし
 韓国人元徴用工の訴訟問題などに端を発した日韓両国の報復の応酬が、通商分野に続き、とうとう安保上の協力関係にまで発展してしまった。それでも安倍政権は振り上げた拳を下ろす気は、さらさらないようだ。
 韓国の文在寅政権が日韓軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の破棄を決めたことに、安倍政権内は批判の嵐だ。河野外相は22日夜、韓国の南官杓駐日大使を外務省に呼び付け抗議。佐藤正久外務副大臣も同日のBSフジの番組で「一言で言うと愚かだ。北朝鮮を含めた安全保障環境を見誤っている」と見下すように言い放った。
 メディアも北朝鮮の弾道ミサイルに関し、日本から提供する情報の方が韓国政府の判断に有益だと指摘。「本音を言えば、日本側に実質的な影響はない」「困るのは韓国だ」と政府関係者らの強気な匿名コメントを紹介した。
 特にテレビは朝から晩まで、この問題を取り上げ「韓国叩き」一色。(中 略)
 
報復合戦を政権浮揚に使う似たもの同士
 むろん、文在寅大統領が輸出優遇対象の「ホワイト国」から除外されるなど日本の報復を政治利用し、反日ムードを高め、自身の求心力回復に直結させたのは間違いない。
 (中 略)
 とはいえ、「向こうがやったから、こっちもやるぞ」と同じ土俵に乗るのは「ガキのケンカ」と変わらない。ましてや、安倍政権は参院選直前に半導体素材3品目の輸出規制を打ち出すなど、世論の反韓感情をあおる手段として徴用工問題を政治利用。支持率目当ての政権浮揚に結びつけているのは、文在寅と同じだ。似た者同士、もっと仲良くできないのか。
 法大名誉教授の五十嵐仁氏(政治学)はこう言う。
「互いに異なる利害関係を調整し、妥協を通じて一致点を探るのが外交の基本です。ところが、安倍政権は『ボールは向こうにある』と韓国を突き放すだけ。せっかく文大統領が8月15日の『光復節』の演説で『日本が対話にでれば、喜んで手を握る』とボールを投げ返したのに見逃し。この無反応がGSOMIA破棄の決定打となったのだから、話になりません。安倍政権が批判する『安保』を持ち出したのも、日本が先。歴史問題の報復として『ホワイト国』から韓国を除外する口実に『信頼喪失で安全保障上の問題が発生した』とスリ替えたのを、逆手に取られた格好です。安倍政権の対韓外交はあまりにも場当たり的で感情任せ。まるで『お子サマ外交』です」 
 
いつまで非生産的なガキのケンカに血道を上げるのか 
 日本からの報復を受け、韓国国内でGSOMIA破棄を求める声が高まっても、安倍政権内では「まさか、できっこない」と高をくくっていたフシがある。河野がテレビカメラの前で韓国の駐日大使をドヤしつけるなど散々非礼な態度を見せつけ、事態をこじれさせたのに、最悪のケースを想定していないのだから、バカ丸出し。今になって慌てるとは、お子サマ以下の低レベル外交だ。(中 略)
 
 2016年のGSOMIA締結を日韓両国に強く要請したのは米国である。
 一義的な目的は、北朝鮮のミサイルの脅威に関する即応体制の確立だったが、米国は将来的な狙いを秘めていた。
 北朝鮮だけでなく、中国やロシアが軍事活動を活発化させる中、米国はGSOMIAを共同の弾道ミサイル防衛システムや対潜水艦作戦など、より広範な軍事協力に発展させたいとの思惑があった。そんな魂胆も韓国の協定破棄で水の泡だ。(中 略)
 
 高千穂大教授の五野井郁夫氏(国際政治学)はこう指摘する。
「日米韓の連携が崩れれば、中ロ朝の脅威への対処が弱まり、抑止力の低下を招く。ポンペオ米国務長官が韓国に『失望した』と表明したのも、それだけ日米韓の連携を重視していることの裏返し。文政権は中ロ側になびくことさえ辞さない構えですが、それで困るのはアジア太平洋におけるプレゼンスを失う米国です。もはや傍観できず、日韓対立の仲介に動かざるを得ない状況です」
 
「シンゾー、折れろ」と飼い主に迫られる
 しかも次期大統領選を控え、トランプ大統領は過去3度の米朝首脳会談の功績を維持し、金正恩委員長との仲たがいだけは避けたいところだ。
「そのためにはパイプ役の文在寅大統領の立場を守る必要があります。トランプ大統領は自分の選挙と韓国総選挙で文大統領が勝つため、このタイミングだと『シンゾー、折れろ』と迫るしかない。安倍首相は参院選を終えたばかりで政権も盤石ですから、なおさらです」(五野井郁夫氏=前出)
 
 今後は飼い主のトランプがポチ首相を味方せず、いさめる展開もあり得るのだ。前出の五十嵐仁氏はこう言った。
「安倍政権が抗議し、突き放しても、文政権が謝るわけがない。それとも文政権が自壊していくと読んでいるのなら、大甘です。むしろ、安倍政権が制裁を強めるほど韓国国内の反発を高め、青息吐息の文政権の支持率が上がる逆効果。韓国の野党にすれば『安倍首相が文大統領を助けている』との思いでしょう。韓国内の日本製品の不買運動でユニクロの閉店が相次ぎ、訪日韓国人客も激減。この事態を招いても、安倍政権は『自分たちの言い分が正しい』と韓国が譲歩するまで制裁を続ける気なのか。ただ、相手も国益を背負っている以上、『自分たちが正しい』と主張するのは当たり前。拳を振り上げている限り、泥仕合が延々と続くだけですが、安倍政権の出口戦略は全く見えません」
 
 こんな非生産的なガキのケンカに血道を上げる、お子サマ外交。還暦を過ぎた首相が「オレ様は正しい」と言い張る姿のどこが、「美しい国」なのか。