2019年8月31日土曜日

安倍首相の出口戦略は文政権打倒/リベラル派の「どっちもどっち」論

 韓国が訪日観光を抑制した影響は大きく、九州方面は深刻な事態に陥っています。抜き差しならぬ経済戦争に発展した日韓問題について、テレビは昼だけでなく、毎晩スタジオに右翼論客を揃えて韓国批判の番組を放送しており、その結果日本の国内世論は「韓国叩き、経済制裁支持」の一色に染まっているかに見えます。
 そんな中、「世に倦む日々」氏が、ブログ「マガジン9条」に鈴木耕氏が28日に載せた記事で、文在寅が支持率を回復させるために愛国心を煽っていると決めつけ、4月の選挙のためにGSOMIAを破棄するという禁じ手」を使ったと非難したことを取り上げました。いわゆる「どっちもどっち」という論法が、リベラリストにも浸透しているということです。
 
 日本と韓国は歴史的に加害国と被害国という関係にあります。加害国である日本が韓国における徴用工問題の扱いが「我慢できない」からとして、いわば半導体立国の韓国にとって死活的に重要な3品目の輸出規制という韓国叩きに奔ったのがそもそもの発端で、それに窮した韓国が対抗措置を講じた結果いまの事態に至ったのでした。
 その現状を見て「どっちもどっち」というのは、これまでの歴史やことの始まりの部分を捨象して喧嘩両成敗的な観点に立とうとするもので、正しい見方とは言えません。
 
「世に倦む日々」氏は、安倍首相が目指しているのは「文在寅を失脚させて左派政権を崩壊させること」であり、そのため国内の資源を総動員して韓国の保守マスコミおよび保守野党と連携工作し、日本マスコミの文在寅叩きを韓国内で宣伝させ、文の支持率を引き下げようとしていると述べています。
 そしてそれを知ってか知らずにか、日本の国内世論の8割が経済制裁を支持するというファシズム的状況に陥っていると指摘しています。
 
 このところ同氏のブログを頻繁に紹介していますが、日韓問題での安倍政権批判の論調が量的に劣勢の中で貴重な論文です。
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出口戦略は文政権打倒 - 鈴木耕の韓国叩きと「どっちもどっち」論 
世に倦む日々 2019-08-30
日韓の間で経済戦争が始まっていて、日本国内でも各地で交戦の被害が出ている。西日本新聞の報道によれば、7月に九州に入国した外国人の数が急減、前年同月比6.1%減となって観光産業に打撃を与えている。九州の訪日観光客の半分を韓国人が占めていて、対馬や大分の業者が悲鳴を上げる事態となっている。年間40万人の韓国人が訪れ、離島の経済を支えている対馬の損失は深刻だ。人口4万人の離島に毎日1000人を超える外国人観光客がお金を落としに来ていた。長崎県知事が憂慮の声を発しているけれど、東京のマスコミはそれを報道しない。東京のテレビは、毎晩毎晩、スタジオに右翼論者を揃えて韓国叩きの気炎を上げている。文在寅に対する「数時間憎悪」を飽くことなく放送している。『1984年』のゴールドスタインだ。戦時の報道は大本営報道であり、敵である韓国が劣勢にあるという情報しか語らず、世論調査で文在寅の支持率が下がったとか、そういう「戦果」のみを前面に出す報道に徹している。
 
日中戦争が始まったときとそっくり同じで、あのときの「暴支膺懲」の空気と同じだ。戦争は一度始めたら終わらせるのが難しい。相手があることだから、一方の側のコントロールだけで万事が進行して完結するわけではない。この戦争は、徴用工問題への報復として安倍政権が始めた侵略戦争であり、半導体生産材料を禁輸する奇襲攻撃から始まり、ホワイト国除外という作戦に展開して現在にある。根本に歴史問題があり、徴用工問題で安倍日本側に妥協の交渉をする気配がないから、応酬が続いて戦争はエスカレートせざるを得ない。安倍晋三の出口戦略すなわち終戦構想は、文在寅を失脚させて左派政権を崩壊させることであり、その目標達成に向けて日本国内の資源を総動員している。韓国の保守マスコミおよび保守野党と連携工作し、日本マスコミの文在寅叩きを韓国内で宣伝させ、文在寅の支持率を引き下げ、反文在寅デモを扇動する謀略に余念がない。安倍晋三はこの戦略が可能だと考えていて、両者の間に妥協はない。
 
問題なのは、日本の左翼が「どっちもどっち」論の立場に即き、文在寅叩きに加担していることである。例えば、マガジン9条の鈴木耕の言動がそうだ。8月28日に上げた記事の中で、文在寅が支持率を回復させるために愛国心を煽っていると決めつけ、4月の選挙のために「GSOMIAを破棄するという禁じ手」を使ったと非難している。この見方は、まさに現在、NHKや民放のニュースで流されている韓国報道の基調であり、プロパガンダの柱となっている言説だ。文在寅を「反日」として敵認定し、日本人の不信と憎悪を掻き立て、攻撃を集中させるプロパガンダの刷り込みに他ならない。こうした誹謗で文在寅を悪者化することで、安倍晋三の韓国への経済制裁を正当化し、韓国側の徴用工問題の要求を不当視する世論に導いている。日本の左翼リベラルが「どっちもどっち」論でお茶濁しするために、安倍晋三の報復措置の不当性が浮かび上がらず、日本の国内世論の8割が経済制裁を支持するというファシズム的状況に陥ってしまう。
 
文在寅を叩き、「どっちもどっち」論で処理する鈴木耕の愚論は、「日韓関係悪化の責任は100%安倍政権にある」と言い、「韓国に100%の理があり、日本に100%の非がある」と断言する浅井基文の議論と雲泥だ。実に対照的だ。鈴木耕の知的不精を示している。特に、鈴木耕の次の一節には呆れ果てる。「文大統領はGSOMIAについては、完全に読み違えた。後ろ盾になってくれるはずのアメリカからも『大いに失望した』と言われ、孤立感を深めているのが現状だ」。これは、NHKの高野洋や岩田明子と全く同じ口上ではないか。反町理や辛坊治郎と同じではないか。鈴木耕は、韓国がGSOMIAを維持させた方がいいという認識なのだろうか。米国の機嫌をとり、米国の言いなりになって、米日韓軍事情報協定を存続させることが正しい政策決定だと言いたいのだろうか。この鈴木耕の見解には、明らかにGSOMIAを積極評価し、韓国と日本にとっての国益になるものだとする観念がある。この立場は、私や浅井基文からは属米右翼のものだ。
 
文在寅を「反日」規定して叩き、韓国側の対応に「感情的」のレッテルを貼る日本の左翼の一部に共通しているのは、日韓の根本問題についての認識不足であり、知識の欠如に由来するところの、バイアス補正のインテリジェンス知性の不全だろう。正しい知識が十分にないから、マスコミの韓国叩きの波に流されるのであり、文在寅を悪者に仕立てて貶す論調に影響され、簡単に納得してしまうのである。村山談話の原則と信念が内面にあり、浅井基文の国際政治学に膝を打つ知性があれば、文在寅を叩いて「どっちもどっち」論で平衡させる安易な態度には決してならない。今回の鈴木耕の文在寅叩きと「どっちもどっち」論を見て想起するのは、4年前にマガ9で想田和弘を使って仕掛けた9条改憲論の工作であり、SEALDsや伊勢崎賢治・今井一・中島岳志らと歩調を合わせて推進したところの、左から切り崩しを図る9条改憲の策動である。マガジン9条というのは、9条護憲の媒体ではなく、護憲派の左翼を改憲派に思想改造させるための巧妙で悪質な洗脳装置だった。パターン反復がされている。
 
パターン反復といえば、2008年頃から熱を帯びた動きとなり、2012年の尖閣問題と中国の反日デモを経て、今ではもう手の施しようがなくなった日本の病的な反中言説の高揚と定着があり、極端な反中親米の右翼国家日本の構図があるだろう。最早、誰もその問題に自覚的に対峙できる者はいない。しばき隊左翼も完全にその隊列に加わっていて、むしろ前衛の位置を担い、共産中国に対する敵意と攻撃性を剥き出しにしている。香港の民主化デモを大陸に移植させ、邪悪な共産独裁のPRCを崩壊させようと鼻息を荒くしている。しばき隊にとって、代々木の共産党と北京の共産党は何やら別物の存在らしい。その奇妙な問題系に道草するのは控えるが、今の日本の左翼が反中親米一色の無思考状態に収斂している現実は否めず、そのことと、日本の左翼が今回の日韓問題に逢着して浮薄な「どっちもどっち」論でフロートする面妖を演じ、マスコミの文在寅叩きに加勢している事実とは無関係ではないように思われる。シンプルに言えば、政治の右傾化現象が左翼をも包摂していて、日本は世界でも並外れた右翼大国と化している
 
マイク・ホンダと日本のマスコミ世論との関係の時系列の変化が、その真実を客観的に示している。