2019年8月29日木曜日

トランプ大統領の「次のシナリオ」 正気の沙汰ではない

 アメリカの各種メディアの世論調査では、トランプ大統領の再選が難しいという結果が出ているということです
 米中貿易摩擦の長期化によって日用品の価格は高騰し、中国側の購入抑制により米農産品の輸出量は昨年度の半分に落ちました。そのためトランプの票田である農家離反し、150以上の企業でつくる製造業などの団体も、「新たな関税は物価を上げ、企業の投資を失速させ、雇用を犠牲にする。もうたくさんだ」と強く反発する声明を出しました。
 安いものを売って儲けるのが気に入らないといっても、関税を上げれば解決するというものではありません。特にトランプ氏の強引なやり方は相手の反発を招いて、事態を悪化させるだけです。その結果肝心の再選に赤ランプが点った訳です。
 
 また人民元相場が1ドル7元台に初めて下落したことを受けて、米国は中国を25年ぶり「為替操作国」に指定しましたが、中国人民元安が進まないようにかなり配慮してきたというのが実態でIMF9日中国経済に関する年次報告書で、「中国人民銀行による為替介入はほとんどみられない」と結論づけています。つまり中国に対するトランプ氏の批判はここでも筋が通っていないということです。
 れなのにトランプ氏はEUとも本格的に事を構える姿勢を鮮明にしているということで米中貿易摩擦と併行して米欧貿易摩擦が始まろうとしています。
 これでは14日にNYダウは800ドル安と今年最大の下落幅を記録した時に、その主犯トランプ氏だといわれても仕方がありません。
 
 大統領選との絡みで言えば、トランプ氏は遅くても2020年11月の大統領選の3ヵ月前には、経済が好調であることをアピールしたい筈なので、2020年の春先までにFRBにあと0.50%~0.75%利下げさせたうえで米中貿易戦争一気に沈静化させることが予想されています。
 トランプ氏が落選すればいわゆるトランプリスクはなくなりますが、トランプ氏が再選した場合、日本企業にとってトランプリスクは今以上に高まる可能性があります。
 それは次の大統領の任期中にFRB議長が交代する時期を迎えるからでパウエル議長の代わりに超ハト派の議長が選ばれれば「異次元の金融緩和に踏み出す可能性があり、そうなれば1ドル100円を割り込む円高が常態化するリスクがあります。その時には虚飾の安倍政権下での日本経済が瓦解するのは言うまでもありません。
 
 現代ビジネスの記事「~ トランプ大統領が仕掛ける次のシナリオ』 正気の沙汰ではない」を紹介します。
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韓国の「暴走」を横目に、トランプ大統領が仕掛ける「次のシナリオ」
 正気の沙汰ではない
 中原 圭介 現代ビジネス 2019.08.28
経済アナリスト        
日本政府が対韓輸出管理を強化したことに端を発して、日韓対立が深まっている。韓国の文在寅大統領が反日モードを鮮明にすると、韓国では日本製品の「不買運動」にまで発展した。そんな日韓対立ばかりが注目される中、じつはいまアメリカが「次の仕掛け」に入っていることはあまり指摘されていない。トランプ大統領は米中貿易戦争のみならず、米欧、米日間で虎視眈々と「準備」を始めた。いったい、これからなにが起きるのか――
経済アナリストの中原圭介氏が緊急レポート。
 
NYダウ「乱高下」が意味すること
今年はアメリカ株の乱高下が目につく年ですが、8月に入ってNYダウ平均株価の乱高下はとりわけ激しさを増しています。
8月1日~23日で300ドル以上動いた日だけを見ても、5日(767ドル安)、6日(311ドル高)、8日(371ドル高)、12日(391ドル安)、13日(383ドル高)、14日(800ドル安)、16日(306ドル高)、23日(623ドル安)と、17営業日中で8日も該当しているのです。
8月に株価の乱高下が常態化している理由は、トランプ大統領が8月1日に、中国に対し制裁関税・第4弾を9月1日から発動すると表明したことを起点にしています。米中首脳が6月29日に会談し、制裁関税・第4弾を先送りし、貿易交渉を再開することを合意したばかりであったので、トランプ大統領の関税発動発言は世界で驚きを持って伝えられました。
さらに状況を悪化させているのは、人民元相場が1ドル7元台に初めて下落したことを受けて、アメリカが中国を「為替操作国」に指定したということです。
アメリカが為替操作国を指定するのは、クリントン政権時の1994年に中国を指定して以来、25年ぶりのことです。トランプ政権の見解では、2018年7月以降に課したアメリカの制裁関税の悪影響を緩和するために、中国は人民元安を容認して輸出を下支えしてきたというのです。
しかしその実態というのは、中国はこれまで7元を超えて人民元安が進まないように、アメリカにかなり配慮してきた経緯があるということです。中国経済の減速によって2016年以降、人民元が7元台に接近する局面が何度かありましたが、中国はその都度に為替介入を行い、明確な意思を持って大台の7元突破を回避してきたのです。
その証拠として、近年の中国の外貨準備が大幅に減少しているというデータが挙げられます。
 
米中貿易戦争はさらにエスカレートへ…?
数年前の中国は外貨準備を4兆ドル近く持っていましたが、人民元安を食い止めるため(人民元高ドル安への)為替介入を繰り返したせいで、今では3兆1000億ドルまで減ってしまっています。
アメリカが主張するように(人民元安ドル高への)介入をしているのであれば、外貨準備は増えているはずです。
今回の人民元安も中国経済の悪化から市場の売り圧力によって進んだのであって、近年の中国は決して人民元安への為替操作はしてこなかったという事実があります。それを実にタイミングよく裏付けるように、IMFが9日に中国経済に関する年次報告書を公表し、人民元相場について「中国人民銀行による(ドル高への)為替介入はほとんどみられない」と結論づけています。
それでは、なぜ今回は7元の防衛ラインが破られたのかというと、あくまで私の推測ではありますが、態度を簡単に豹変させるトランプ大統領に対して、中国は人民元相場で配慮する姿勢が馬鹿らしくなったということが考えられます。
人民元相場は7元を突破したことで、今後の目安となる節目がなくなってしまいました。
そういった状況下で、中国が制裁関税・第4弾を相殺するには72元~73元に下落させる必要があるという試算が出ているなかで、米中貿易摩擦は後戻りができないほどエスカレートする段階に足を踏み込んでしまいました。中国が23日に新たに750億ドル(約8兆円)分のアメリカ製品に5%~10%の追加関税をかけると公表したのです。
これに対して、アメリカも即座に反応し、米通商代表部は制裁関税・第1弾~第3弾の関税を25%から30%へ、第4弾の税率を当初予定の10%から15%へ引き上げると公表しています。
 
正気の沙汰ではない
アメリカの各種メディアの世論調査では、トランプ大統領の再選が難しいという結果が出ています。
米中貿易摩擦の長期化によってトランプ大統領の票田である農家の離反が指摘されて久しいですが、制裁関税・第4弾は岩盤支持層である中小零細事業者の反対が激しかったのでしょう。そういった経緯から、トランプ大統領はスマートフォン、ノートパソコン、玩具、ゲーム機など、金額ベースで全体の6割の関税発動を9月1日から12月15日に先送りしています。
しかしながら、14日にドイツや中国の経済指標が悪化していることを受けて、NYダウは800ドル安と今年最大の下落幅を記録してしまいました。ドイツの4-6月期のGDPがマイナスになったのは、中国への輸出が大幅に減ったからです。
さらに、ドイツの中国への輸出が減ったのは、その大半が米中貿易摩擦による中国の景気減速によるものです。そういった意味では、株式市場の下落の主犯はトランプ大統領だという認識が、アメリカのメディアを通して徐々に広がっていくだろうと予想しています。
トランプ大統領は株価下落の責任をパウエルFRB議長に押し付けようと必死になっていますが、長期戦に突入した中国との貿易戦争に勝つために、中央銀行に利下げを求める行動は正気の沙汰とは思えません。
トランプ政権はFRBに対して、年末までに少なくとも0.75%か1.00%の利下げをするように要求しています。
8月以前にもアメリカ株が大きく下落するたびに、トランプ大統領や政権幹部が株価を反発させる発言を繰り返してきました。そこにアメリカ株の乱高下が繰り返される大きな要因があることは意識しておきたいところです。
 
米欧貿易摩擦へ
アメリカ大統領選における勝利の方程式を振り返ってみると、トランプ大統領は遅くても2020年11月の大統領選の三ヵ月前には、経済が好調であることをアピールしたいところでしょう。
ですから、2020年4-6月期のGDPが拡大基調にあり、株価が高値圏を維持していることが求められる条件になります。おそらくは、トランプ政権が考える最善のシナリオは、2020年の春先までにFRBにあと0.50%~0.75%利下げさせたうえで(1.00%の利下げは吹っかけているのだと思います)、その後に米中貿易戦争も一気に沈静化させるというものではないでしょうか。
それまでの行程のなかでは、私たちはトランプリスクという「大きな変数」を常に意識しながら、大統領や政権幹部の発言に一喜一憂しないようにリスク管理を徹底しなければなりません。
中国への制裁関税の突然の表明や為替操作国への指定も、トランプ大統領が中国との貿易交渉が思い通りに進まず、苛立ちで感情がコントロールできなかったことが原因ではないかと考えているからです。私たちは少なくともあと半年は、トランプリスクと向き合っていかなければならないのです。
その間に米中貿易交渉のほかで厄介なのは、アメリカがEUとも本格的に事を構える姿勢を鮮明にしているということです。
米通商代表部は最近になって、EUへの発動を検討している追加関税の対象規模を拡大することを示唆しています。4月に作成していた210億ドル分の対象品目リストに、さらに40億ドル分の積み増しを検討するというのです。
追加リストには欧州が競争力を持つチーズやパスタなどが含まれており、最大で100%の関税を上乗せするとしています。米中貿易摩擦と併行して、米欧貿易摩擦が始まろうとしているわけです。
 
日本で急浮上する「トランプリスク」
昨年の貿易赤字が過去最大となったEUに対しても、トランプ大統領は不満を強めているといいます。
実はEUへの関税上乗せは、中国の場合と比べて支持者の反発はそれほど大きくはありません。トランプ政権は大統領選でのプレッシャーをあまり気にする必要がないのです。
このままのスケジュールで行けば、米中と米欧の貿易摩擦が同時に進行し、米欧間でもトランプ大統領の脅しが逆効果となり、関税の上乗せ合戦に突き進むリスクが拡大することになります。
その一方で、日米の貿易交渉は日本が農産物で譲歩をしたことから、自動車の輸出台数制限や為替条項といったアメリカの厳しい要求は避けられるかもしれませんが、日本は消費増税を控えているなかで、消費が低迷し難しい局面を迎えようとしています。
そのうえ、仮にトランプ大統領が再選した場合、日本企業にとってトランプリスクは今以上に高まるという事態も想定しておかねばならないでしょう。
なぜなら、次の大統領の任期中にFRB議長が交代する時期を迎えるからです。
 
トランプ政権という「大きな変数」
すなわち、予想できる深刻な事態とは、トランプ大統領が再選することでパウエル議長の代わりに超ハト派の議長が選ばれるということです(もちろん、空席の理事にもトランプ派が選ばれます)。
その結果、FRBは異次元の金融緩和に踏み出すかもしれず、そうなれば100円を割り込む円高が常態化するリスクが高まっていくことも考えられるというわけです。
繰り返し申し上げますが、私たちはトランプ政権という「大きな変数と上手く向き合っていかなければなりません。
そういった意識をいつも頭の中に入れておけば、突然の発言も平然と冷静に見ることができます。経営をはじめ様々な分野において、この「大きな変数」に対してリスク管理を徹底していれば、何も心配することはありません。むしろ大きなチャンスになる場合もありえるでしょう。