2023年9月6日水曜日

06- 集中企画・マイナ狂騒(41)~(43)

 日刊ゲンダイの連載記事「集中企画・マイナ狂騒(41)(43)」を紹介します。
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集中企画・マイナ狂騒(41)
マイナ保険証「77万人ひも付けなし」の仰天 それでも11月末までの解消を目指す安っぽい精神論
                          日刊ゲンダイ 2023/08/26
 マイナンバーと公的医療保険情報がひも付けされず、医療機関で「マイナ保険証」が利用できない問題。厚労省は24日、ひも付けナシのケースが計約77万人分に上ると発表した。岸田首相は加藤厚労相に解消を指示。厚労省は11月末までの解消を目指すが、無理筋だ。安っぽい「精神論」に過ぎない。
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 先週、中小企業の従業員らが加入する「協会けんぽ」で約36万人分のひも付け作業が7月末時点で未了だったと判明。これを受けて厚労省は大企業の会社員らが入る健保組合などに実態調査を要請していた。
「77万人は大きな数字です。大企業の健保組合は管理がしっかりしており、協会けんぽほどは発生しないとみられていましたが、同じ程度見つかってしまった。登録したと認識している人がマイナ保険証を利用できないのは深刻な事態です」(埼玉県保険医協会の担当者)
 ひも付けは、健保組合など保険者が企業経由で従業員のマイナンバーを入手して行うが、提出されないことも多い。その場合、住民基本台帳のシステムで氏名、生年月日、性別、住所の「4情報」が一致するマイナンバーを探し出してひも付けする。しかし、従業員が申告した住所とシステム上の住所が一致しないケースがあり、ひも付けナシの未登録が発生する。
「住所の不一致はどうしても起きてしまうため、何としても被保険者からマイナンバーを聞き出すしかない。11月末の解消に向け、未登録者に『通知』を出し、マイナンバーを申し出てもらうキャンペーンを展開する方針です。厚労省はマイナ保険証の利用登録を申し込んだ人たちなので、進んで番号を教えてくれると踏んでいるようです」(霞が関関係者)

不安や不信から番号提供「ノー」も
 しかし、果たしてうまくいくのか。「共通番号いらないネット」事務局の宮崎俊郎氏が言う。
「政府の呼びかけにマイナンバーを提供する未登録者は少なくないでしょう。しかし、これだけトラブルが噴出し、マイナ保険証の利便性より危険性が明らかになる中、マイナ保険証の利用登録を申し込んだ人でも、番号提供に協力しない人も相当数いるのではないか。例えば、マイナポイントが欲しくて申し込んだが、マイナ保険証は怖くて使いたくない、そう考え、あえて番号を教えないケースも出てきそうです」
 マイナポイントの付与は9月末まで。デジタル庁のデータによると、7月以降のマイナ保険証登録の新規申し込み件数は、毎週20万件程度だ。この中にも番号が提供されず、ひも付けに至らないケースはあるはず。ひも付けナシの解消を進める一方で、新たな未登録がドンドン生まれるのである。
「システム上の不一致問題も改善されていませんし、番号提供に協力しない人もいる。だとすれば、11月末までにひも付けの未登録が大幅に解消されるとはとても思えません」(前出の埼玉協会の担当者)
 マイナ保険証は他にも難問山積だ。23日の立憲民主党のヒアリングで取り上げられた。
 まず、マイナカードを自主返納した場合、マイナ保険証の利用登録が解除されず、資格確認書が送られない件だ。厚労省は「問題意識はある。返納者の把握方法や資格確認書に関する手続きを検討していきたい」(国民健康保険課長)と答えた。現行保険証とマイナ保険証で窓口負担の割合に相違が生じ、過払いが発生している問題は「原因を調査中」(高齢者医療課長)。現行保険証と比べ、マイナ保険証と資格確認書の運用がコストや手間が減少する根拠については「削減額の具体的な試算は今後検討する」(国民健康保険課長)──。とまあ、調査中や検討中のオンパレードだ。


集中企画・マイナ狂騒(42
厚労省が満を持して出した「保険証廃止で最大108億円コスト減」の“怪しい試算”
                          日刊ゲンダイ 2023/08/27
 来秋に予定されている健康保険証の廃止をめぐり、厚労省は24日、廃止がコスト削減につながるとの試算を発表した。試算は社会保障審議会医療保険部会で示されたもので、保険証廃止によって「最大108億円のコスト減になる」との結果を示している。しかし、この試算は「こんなのアリ?」と首をかしげたくなるほど、酷いシロモノだ
                ◇  ◇  ◇
 厚労省が出したのは〈保険証の廃止に伴う削減コスト(ごく粗い試算)〉。自営業者らが加入する国民健康保険、会社員とその家族などが加入する被用者保険、75歳以上が加入する後期高齢者医療制度について、現行の保険証にかかるコストと、保険証廃止後のコストを比較した。
 保険証廃止後は、マイナ保険証を持たない被保険者には「資格確認書」が、マイナ保険証の利用者にはマイナ非対応の医療機関で保険診療を受ける際に必要な「資格情報のお知らせ」が配られる。つまり、廃止後のコストとは、「資格確認書」の発行と、「お知らせ」の送付にかかる手間とカネだ。
 試算によれば、マイナ保険証の利用登録率が現在の52%で推移した場合、保険証廃止に伴うコスト減は76億~82億円。利用登録が進んで65~70%に達した場合は、100億~108億円が削減される見込みだという。
 しかし、25日の立憲民主党の国対ヒアリングでは、試算の“甘さ”を指摘する声が相次いだ。長妻昭政調会長は「(現行の保険証を)廃止すると、問い合わせや管理など、膨大なヒト・モノ・カネがかかるといわれているが、そのコストが(試算に)入っているのか」と疑問を呈した。
 厚労省の担当者は「先生方からコスト試算を早く出すようにというご要請もあり、一定の仮定を置いた上で試算した」と説明。問題なのは、この「一定の仮定」だ。
 厚労省は試算の前提として、「資格確認書」の印刷製本費を65円、マイナ保険証と一緒に携行して使う「資格情報のお知らせ」を10円と、異常に安く設定している。

コスト削減額を大きく見せるためにムリな「仮定」を設定?
 さすがに、長妻氏が「『お知らせ』が10円ということは単なる紙ペラ。本当に紙で配るのか」と問うと、厚労省は「資格確認書より簡易なものになる」と明言を避けた。一方、「『お知らせ』がカードになる可能性もある?」との問いには、「可能性はいろいろあると思います」と否定しなかった。
 厚労省は、コスト削減額を大きく見せるために、ムリな「仮定」を設定している疑いが強い
「お知らせ」はマイナ保険証と一緒に持ち歩くことが想定される。紙だと不便だから、カードのような形式がベターなのは言うまでもない。厚労省の試算が前提にしている「1枚10円」よりも割高になる可能性がある。
 問題は単価だけじゃない。厚労省は「お知らせ」を被用者保険の加入者には配らないことを前提にしているのだ。
 ヒアリングで山井和則衆院議員が「『お知らせ』が被用者保険の加入者には配られないのはなぜ」とただしたところ、厚労省は「送らない前提で試算したが、政策がそうなるわけではない」と釈明。被用者保険の加入者の大半がマイナ保険証に対応した医療機関に来院しているとして、「それを含めて考えなければいけない」と言い繕った。
「お知らせ」をもらえなければ、マイナ非対応の医療機関で保険医療が受けられない可能性がある。厚労省は「切り捨てるつもりはない」と強弁したが、試算の段階で被用者保険の加入者に「『お知らせ』を配らない」と仮定すること自体、おかしな話ではないか。
 改めて山井衆院議員がこう言う。
「試算は他にも問題があります。現行の保険証の発行にかかるコストは235億円と推計されていますが、積算根拠は今のところ不明です。また、マイナ保険証と資格確認書の『ダブル持ち』が認められた要介護高齢者や障害者など『要配慮者』については、約200万人に役所窓口へ来てもらい、資格確認書を申請してもらう計算になります。そうした手間やコストを考えれば、現行の保険証を残しつつデジタル化を進めていく方がいい
 健康保険証を人質に取り、マイナ保険証を無理に普及させようとするから、いろんな綻びが出る。やはり、保険証廃止の撤回しかない。


集中企画・マイナ狂騒 (43)
厚労省試算「保険証廃止で100億円浮く」は医療給付全体の0.023%…コスト削減効果ショボすぎ
                            日刊ゲンダイ2023/8/29
メリットが乏しい」──。来秋に予定されている現行の保険証の廃止について、厚労省が出したコスト削減試算に医療関係者から「物言い」がついている
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 厚労省は保険証廃止に伴うコスト削減について、①マイナ保険証の利用登録率が現状より進む場合と、②利用登録率が現状のままの場合の2パターンに分けて試算。利用登録率が65~70%に達するとした①では削減額が100億~108億円、利用登録率が現状の52%のままとした②では同76億~82億円──とはじき出した。24日の社会保障審議会医療保険部会で示した。
 一見すると、保険証廃止によるコスト削減のメリットが大きいように見えるが、実はそうでもない。全国保険医団体連合会(保団連)は25日、厚労省の試算について検証。次のように指摘している。
〈2021年度概算医療費は44兆2000億円となる。資格確認書等を発行・交付した場合の厚労省試算に基づく削減額(約100億円)は、医療給付全体のわずか0.023%に過ぎない〉
 岸田首相は今月4日の総理会見で、マイナ保険証を普及させるメリットについて「従来の健康保険証に比べ、発行コストあるいは保険者の事務負担は減少する。これは当然のことだと思っています」と胸を張っていたが、医療費全体からしてみればコスト減は極めて小さいのだ。さらに保団連は、厚労省が推計している現行の保険証発行にかかるコスト235億円を引き合いに出し、〈医療給付全体だとわずか0.053%に過ぎない〉と指摘。〈健康保険証の発行・交付は万一のケガや病気の際にもいつでもどこでも医療が受けられる大前提となる経費であり、保険証廃止で経費削減になったとしても医療給付が滞る事態を招くことは本末転倒である〉と喝破している。

■国民皆保険制度が揺らぐ事態
 保団連の竹田智雄副会長(竹田クリニック院長)がこう言う。
「極めて粗い試算とのことですが、それにしても、保険証廃止によるコスト減は微々たるものです。さらに言えば、マイナ保険証を持たない人に交付される資格確認書について、保険者側が被るシステム管理や人手などのコスト増は考慮されていません。そもそも、国民皆保険制度において、誰もが安心して保険証1枚で保険診療を受けられる環境を維持することは発行コストも含めて必要経費です。コストが減ればいいというものではないし、マイナ保険証への移行に伴う無保険者の続出やひも付けの誤りなどの懸念といったデメリットの方が大きい国民皆保険制度が揺らぐ事態です。やはり、保険証廃止は撤回してほしい」

「せめて紙の保険証と併用するべき」
 政府は保険証廃止の唯一のメリットを「コスト減」とうたってきたが、どう考えても削減効果は極めて乏しい。皆保険制度を危機にさらしてまで推し進めるべきではないことは明らかだ。
マイナ保険証に移行させたいのであれば、せめて紙の保険証と併用するべきです。併用を認めたうえで、マイナ保険証を使うメリットが浸透して利用者が増えてから紙の保険証廃止を検討するのが政策的な筋道でしょう。ひも付け誤りなどのミスを防ぐのは容易ではないからこそ、誤っても大丈夫なシステムを構築した後にマイナ保険証への移行を進めるべきです。マイナ保険証が国民にとって本当にいいものなら、紙の保険証を廃止せずとも、おのずから普及していくはずです」(竹田智雄氏)
 使いたい人だけがマイナ保険証を使えるようにすればいいだけの話である。スケジュールありきの保険証廃止が生む混乱は、ムダ以外の何ものでもない。