日本政府・外務省は一貫して国連安保理の常任理事国入りを目指してきましたが、多くの国は、仮にそうなっても理事会で米国票が1票増えるだけのことと冷めた目で見ていて、常任理事国入りの試みは失敗に終わっています。もしも米国に気に入られていることが日本の「強み」だと考えているのであればそうした誤った「自画像」は修正すべきです
元外務官僚の孫崎享氏が掲題の記事を出しました。
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日本外交と政治の正体 孫崎享
日本の国連安保理常任理事国入りはないと考える、これだけの理由
日刊ゲンダイ 2023/08/31
(記事集約サイト「阿修羅」より転載)
日本外交の柱のひとつに国連安全保障理事会(安保理)常任理事国入りがある。しかし、その可能性は今や消滅したと言っていい。理由は2つある。
1つは「主要国首脳会議」(G7)以外の国の台頭である。そして、もう1つは、日本が米国に追随し、「反中」「反ロ」ブロックへの参加を強め、安保理で拒否権を持つロシア、中国が日本の安保理常任理事国入りに反対する姿勢を強めていることである。
中国、インド、ロシア、ブラジル、南アフリカで構成する新興5カ国(BRICS)は来年1月から、新加盟国としてアルゼンチン、エジプト、エチオピア、イラン、サウジアラビア、アラブ首長国連邦の6カ国を受け入れると発表した。
各国の政治形態などはバラバラではあるが、「各国の同権」を主張し、米国の支配には強い抵抗感を持っている。
米中央情報局(CIA)「ワールド・ファクトブック」によると、各国の「真の経済力」による購買力比較では、G7の合計は40・9兆ドル、BRICSの合計は42・2兆ドル、新規加盟国の合計は5・兆ドル。つまり、新たなBRICSの合計は48.1兆ドルになり、後者が主流になりつつあるのだ。さらに中国との連携を深めているASEAN(東南アジア諸国連合)の合計は3・3兆ドルである。
日本はここ1~2年の間に急速に「反中」「反ロ」ブロックの姿勢を強めている。ウクライナ戦争では積極的にウクライナを支援し、対ロ制裁に参画した。
中国に関しては、自民党の麻生副総裁が、台湾で講演した際、日米や台湾には「戦う覚悟」が求められていると主張した。そして岸田首相は訪米し、日米韓首脳会談で「反中ブロック」の強化に合意した。こういった経緯を鑑みれば、ロシア、中国が日本の安保理常任理事国入りに反対するのは当然である。
ロシアのラブロフ外相は「日本もドイツも、米国の言うことを聞いて実行するだけだ」と指摘し、先進国と途上国の間の不公平解消につながらない、と指摘していた。
日本は米国を中心とするG7との連携でうまくいくと思っているが、世界は大きな転換期にある。このまま対米隷属では乗り切れないのである。
孫崎享 外交評論家
1943年、旧満州生まれ。東大法学部在学中に外務公務員上級職甲種試験(外交官採用試験)に合格。66年外務省入省。英国や米国、ソ連、イラク勤務などを経て、国際情報局長、駐イラン大使、防衛大教授を歴任。93年、「日本外交 現場からの証言――握手と微笑とイエスでいいか」で山本七平賞を受賞。「日米同盟の正体」「戦後史の正体」「小説外務省―尖閣問題の正体」など著書多数。