「田中宇の国際ニュース解説」に掲題の記事が載りました。
BRICSが南アフリカで開いたサミットで、新たにアルゼンチン、サウジアラビア、UAE、イラン、エジプト、エチオピアの6カ国を新規加盟国として招待することを決めました。
現政権が米国と親密な国々ではさすがに参加を見合わせています。BRICS自体も、来るべき米覇権の崩壊までは静観をベースにして、勢力拡大で目立ちたくはないと考えているということです。
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BRICS拡大を読み解く
田中宇の国際ニュース解説 2023年8月27日
BRICSが南アフリカで開いたサミットで、アルゼンチン、サウジアラビア、UAE、イラン、エジプト、エチオピアの6カ国を新規加盟国として招待すると決めた。アルゼンチンとサウジとイランは確実視されていた。エジプトもアフリカの有力候補だった。
UAEとエチオピアは意外な感じがする。UAEは、サウジの弟分みたいな国で、人口も900万人しかいない。兄が入ったら弟は入らなくて良さそうなのだが・・・。アフリカで最も人口が多いナイジェリアでなく、2番目のエチオピアが入ったことも分析が必要だ。東南アジアの大国インドネシアが選ばれなかったのも意外だ。
(Expanded BRICS to dominate global energy markets - data)
サウジとUAEの両方が入った理由はいくつかある。一つは、BRICSが世界の石油ガス利権の大半を握り、米国側をエネルギー面で弱体化させていくためだ。サウジUAEイランが入ったことで、拡大後のBRICSは世界の石油輸出の39%、石油埋蔵の46%、産油量の48%を持つようになった。
2つ目の理由はUAEの外交力だ。サウジは米国に束縛されることが多く、今回のBRICS加盟もこれから米国の了承を得る必要がある。対照的に、UAEは身軽で自由に動けるので、アフガニスタンやイスラエルやアフリカの紛争などに外交的に関与している。
(BRICS Invites the UAE - Another Sign That the Multipolar World Is Here)
(Persian Gulf leaders engage Taliban-ruled Afghanistan)
BRICSを主導する中露は、米国が破壊し混乱させた中東やアフリカを安定化していきたい。それには中東やアフリカで外交力がある地元諸国の協力が必要だ。その意味で、UAEとエチオピアをBRICSに入れたのでないかと思われる。
('Welcome to the BRICS 11') (What do BRICS invitations mean for the Middle East?)
中南米とアフリカで加盟国を増やすことは予測されていた。中南米は、ブラジルが推していたアルゼンチンになった。だが、アルゼンチンの現政権はBRICSに対して冷淡で、招待されたのにBRICSサミットに代表団を送ってこなかった。
アルゼンチンは非米側のBRICSでなく、米国傘下のIMFに追加融資を求めている。しかも10月の大統領選で親米右派で中国敵視のハビエル・ミレイが勝ちそうだ。ミレイが次期大統領になると、アルゼンチンはBRICS加盟を断りそうだ。
(How one new member can complicate things for BRICS)
ブラジル自身、前大統領のボルソナロは親米右派(親トランプ)で、反米的なBRICSに冷淡だった。2022年に左派のルラが大統領になって(返り咲き)から、ブラジルは急にBRICSに積極関与するようになった。
アルゼンチンも、いずれ左派・ペロン派が返り咲けばBRICSに入る。BRICSのこの手の不安定さは、米覇権傘下のG7やNATOの堅い結束(というより束縛、同盟諸国の傀儡化)と対照的だ。米国側のマスコミ権威筋は「BRICSなんてダメだ。米覇権に取って代われるわけがない」と嘲笑している。
実のところ、結束が堅ければ強いというものではない。NATOは鉄の結束だが、ウクライナ戦争でボロ負けしている。G7はリーマン危機以降ゾンビ組織(G7の機能はG20に移転)で、米国が同盟国を束縛するためだけの組織だ。きたるべき米覇権の崩壊まで、BRICSは弱いふりをしていた方が良いので、中南米の右往左往はちょうどいい塩梅だ。
(‘A wall of BRICS’: The significance of adding six new members to the bloc)
アフリカで人口が最も多いのはナイジェリアだが、米仏のアフリカ支配の片棒担ぎをやっている。最近ニジェール(やマリやブルキナファソ)が、アフリカを不安定にするばかりの米仏に愛想を尽かしてクーデターで親露側に転換した後、ナイジェリアは米仏に味方してニジェールに侵攻する制裁をやると言い続けている。
(アフリカの非米化とロシア)
ナイジェリアはアフリカの安定に貢献しないのでBRICSに入れなかった。替わりに入ったエチオピアは中国ととても親しい。中国は、世界的な大国(極の一つ)になるための練習として、2000年代からアフリカのスーダン周辺の紛争を仲裁し、その際に地元の仲裁役としてエチオピアと組むようになった。(中国は当時、日本に対し、一緒にアフリカを安定させようと誘ったが無視された。対米従属が何より大事な日本は独自外交など決してやらない)
(Can China Broker Peace in Sudan?)
外国の紛争に対する中国の戦略は、米欧流の直接関与よりも、地元の仲裁役に任せてそれを支援する間接関与の傾向が強い。中国は、アフリカ北東部ではエチオピアと組んでいる。
アフリカの統合を目指すアフリカ連合の本部はエチオピアにあり、本部ビルは中国が建設して寄付した。中国が主導するBRICSの新規加盟国にエチオピアが入るのは自然なことだ。
(Explaining China’s involvement in the South Sudan peace process)
BRICSへのエチオピアの加盟が中国の肝いりであるのと並んで、エジプトの加盟はロシアの肝いりだ。エジプトは、アラブの春で政権をとったムスリム同胞団を軍部がクーデターで倒して今のシシ政権になったが、軍事政権を嫌う米国に冷遇され、シシのエジプトは安保面でロシアに頼る傾向を強めた。
(Sudan conflict: how China and Russia are involved and the differences between them)
エジプトやUAEはイスラエルとも親しいので、サウジのBRICS加盟と合わせ、パレスチナ問題もBRICSで取り扱える。
中露敵視の流れに沿うと、エチオピアやエジプトのBRICS加盟は中露のアフリカ支配が強まるだけだと思うかもしれないが、実際は中露がBRICSを使ってアフリカの紛争を解決して安定させようとしている。
(BRICS grows to include Ethiopia - what should we make of the expansion?)
東南アジアでは、インドネシアがBRICSに入りそうな感じがあった。インドネシアは、これまで未加工で輸出されることが多かった鉱物資源を、精製して付加価値をつけてから輸出する新戦略を進めており、中国はインドネシアの資源精製事業への投資・協力を急増している。
これは、資源類の利権を米国側から非米側に移動する中露・BRICSの資源本位制の象徴みたいな話だ。インドネシアは3億人の巨大市場で、その点でもBRICSにふさわしい。インドネシアはBRICSに加盟申請していたが通らなかった。
(BRICS just announced an expansion. This is a big deal.)
その理由は不明だが、もしかするとインドネシアはBRICSに加盟申請しつつも、米国側と非米側の対立の中で非米側に入ってしまうことを躊躇したのかもしれない。インドネシアは、伝統的に「非同盟」の国であり、今回あえてどちらにも入らない姿勢をとったのはインドネシアの伝統に沿っているともいえる。
(Will the BRICS expansion stumble over internal divisions or help bridge them?)