2023年9月2日土曜日

ジャニー喜多川の性加害問題 事務所の“圧力”に加担してきたメディア

 8月29日、ジャニーズ事務所が設置した「外部専門家による再発防止特別チーム」がジャニー喜多川の性加害問題に関する調査報告書を公表し「広範に性加害を繰り返し少なく見積もって数百人の被害者がいる」ことを明らかにしました(延べ数万人に達するという見方もあります)。
 報告書では被害を拡大させた理由として大マスコミの責任にも言及しました。日本のマスコミがこの問題を避けてきたことは、ジャニー喜多川の性加害問題が社会問題化した契機が英国のBBC放送であったことからも明らかです。
 そして同事務所これほどまでに完全にメディアを制圧できたのは、同事務所を実質的に仕切ってきた副社長のメリー喜多川(ジャニー喜多川の実姉)の腕力(恫喝)にメディアが屈したためであることも明らかにしました。
  メリー喜多川ウィキペディアより抜粋)
    本名 藤島メリー泰子1927年2021年)。ジャニー喜多川の姉。
    ジャニーズ事務所副社長時代にジャニー喜多川に代わり会社経営の全般を取り仕切
    った。ジャニーズ事務所名誉会長「ジャニーズ・エンタテイメント」社長
    現ジャニーズ事務所社長の藤島ジュリー景子は娘。
 日刊ゲンダイの2つの記事、「ご都合主義の正義漢ヅラ 手の平返しの大マスコミにはぶったまげた」「ジュリー社長の『知らなかった』と同罪…ジャニーズ事務所の“圧力”に加担してきたスポーツ各紙の苦しい弁明」を紹介します。
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ご都合主義の正義漢ヅラ 手の平返しの大マスコミにはぶったまげた
                       日刊ゲンダイ 2023年8月31日
                       (記事集約サイト「阿修羅」より転載)
 ジャニーズ事務所の故ジャニー喜多川前社長による性加害問題を巡り、事務所が設置した「外部専門家による再発防止特別チーム」が29日、調査報告書を公表した。
 特別チームは、前社長が1970年代前半から2010年代半ばにかけ、事務所のジャニーズJr.に「広範に性加害を繰り返していた」と認定。「少なく見積もって数百人の被害者がいるという証言が得られた」と報告した。
 事務所がこれまで適切な対応を取れなかった背景として、前社長と姉の故メリー喜多川氏に権力が集中する「同族経営の問題があった」との見方を示した上で、姉が性加害を知りながら「徹底的な隠蔽」を図り、事務所も「見て見ぬふり」をして「被害の拡大を招いた」と批判した。
 特別チームの報告を受け、30日の新聞紙面やテレビのワイドショー番組は前社長による性加害の詳細を報じ、「ここまで踏み込むのか」などと驚いていたようだが、この報道姿勢に鼻白んでしまう読者、視聴者は少なくないだろう。
 なぜなら、報告書では被害を拡大させた理由として大マスコミの責任にも言及していたからだ。

事なかれ主義、忖度が今の大マスコミの姿
 報告書では、多くのメディアが性加害問題を真正面から取り上げなかったため、「事務所は隠蔽体質を強化していったと断ぜざるを得ない」と指摘。結果として「性加害も継続されることになり、さらに多くの被害者を出すことになったと考えられる」「メディアはその影響力を行使することにより、人権侵害を即時にやめさせるべきであったし、できたはずであった」と書いていたが、この苦言は当然だろう。 報告書が示していた通り、前社長の性加害は70年代から始まっており、芸能界では以前から周知の“事実”だったにもかかわらず、大マスコミは知らぬ存ぜぬを続けていたからだ。90年代後半に「週刊文春」が記事で前社長をめぐる性加害の実態について連載し、ジャニーズ事務所は名誉毀損で同社を提訴。2004年に最高裁で「性加害はあった」と確定しても、大マスコミはそろって「沈黙」を貫いた。
 本来は特別チームに調査をゆだねるのではなく、とっくに大マスコミが調査、報道するべきだったわけで、その仕事、役割を放棄しながら、今さら大騒ぎしているのだからクラクラしてしまう。
 ジャーナリストの横田一氏がこう言う。
「事なかれ主義、忖度。それが今の新聞、テレビの姿です。とりわけ、テレビは酷い。今年初めに放送法の政治的公平の解釈をめぐる総務省の行政文書が漏洩した件がありましたが、テレビ報道における言論の自由という重大な問題にもかかわらず、淡々と報じていただけ。まるで権力側と一体化しているようでした。ジャニーズ事務所の性加害問題も同じ。長い物には巻かれろ、という姿勢が如実に表れています」

メディアが腐るから政治も腐る「リアル戦前」
 ジャニーズ事務所の性加害問題は、大マスコミがコトの重大さをきちんと受け止め、問題意識を持って報じていれば、少なくとも「数百人の被害者」を出す事態にはならなかったに違いない。
 そもそも今回だって、英公共放送BBCが3月に同事務所をめぐる性加害のドキュメンタリー番組を制作しなければどうなっていたか分からない
 元ジャニーズJr.カウアン・オカモト氏が日本外国特派員協会で会見を開いて被害を告発したのを機に、次々と元Jr.メンバーが実名告発。実態を調べるために国連人権理事会の作業部会の専門家が来日するなど“大事”になったため、大マスコミとしては、いよいよ取り上げざるを得なくなった、のが本音ではないのか。いわば「黒船」に突っつかれた「鎖国メディア」が渋々、重い腰を上げたと言っていいだろう。
 それなのに堰を切ったように正義漢ヅラして報じている“臆面のなさ”。ご都合主義。手のひら返しという言葉がふさわしく、ぶったまげてしまう。
 大マスコミのこうした姿勢を見ていると、戦時中の従軍記者と変わらない。従軍記者は「国策に関与している」などと勘違いの高揚感を抱き、戦意をあおる記事を書き続けたが、その結果、多くの市民と軍人を死なせたわけで、ジャニーズ事務所という“大本営”の言いなりに報じてきた従軍メディアは今、どう考えているのか。

福島原発の問題も政府、東電の言い分を垂れ流し
 つくづく、この国のメディアは戦前と同じだが、さあ、彼らが今、口をつぐんでいる問題も今後、果たしてどうなるのか、けだし見ものだろう。
 東電福島原発からの処理水海洋放出だって、大マスコミは政府、東電が言う「安全」を垂れ流すばかりだが、長期間の海洋放出がもたらす環境への影響について、どう考えているのか。ALPS(多核種除去設備)で処理するとはいえ、通常の原発排水とは異なり、メルトダウン(炉心溶融)した核燃料に直接触れるなどした水だ。それを30~40年にわたって海に流せば、何が起きるのか。それを冷静に分析して伝えるのがメディアの役割だろう。
 日本産水産物の輸入を全面禁止した中国の対応についても、政府内から「想定外」なんて声が出ていると報じられているが、だからこそ、地元漁協などは海洋放出に反対していたのではないか。日本政府は事前に中国側にどう説明し、どう理解を得ようとしたのかその外交努力はしたのか。メディアであれば厳しく問うのが当たり前ではないか。それなのに「食べて応援」などと言って福島県産の刺し身を食べる政治家の子供じみたパフォーマンスを喜々として報じているから呆れてしまう。
 振り返れば黒田日銀の異次元緩和だって、副作用を懸念する有識者の声はほとんど伝えず、株高になった、輸出が増えた、と大はしゃぎしていたのが大マスコミだった。
 そうしたら今や、懸念されていた通り、円安が進行し、あらゆるモノの価格が高騰。すると今度は、シレッと苦しい家計事情などと報じているから何をかいわんや。
 岸田政権が前のめりになっている敵基地攻撃能力の保有も武器輸出もスルーしているが、再び悲劇を繰り返すことになったらどうするのか。
 元NHK政治部記者の川崎泰資氏がこう言う。
「ジャニーズ事務所の性加害問題で、メディアは特別チームから、これまでの報道姿勢を厳しく問われたわけですが、それに対して何ら反論できないということは指摘が『その通り』だからでしょう。つまり、今のメディアというのは権力の言いなり、商業至上主義ということ。全く情けない限りです」
 メディアが腐るから政治も腐る。まさに「リアル戦前」ではないか


ジュリー社長の「知らなかった」と同罪…ジャニーズ事務所の“圧力”に加担してきたスポーツ各紙の苦しい弁明
                          日刊ゲンダイ 2023/08/31
《『SMAPには森なんていなかったでしょ?』『最初からいないの。森はSMAPのメンバーじゃない。』などと大声を出した》
 やはり、あの噂は本当だった。8月29日、ジャニーズ事務所が設置した「外部専門家による再発防止特別チーム」がジャニー喜多川氏の性加害問題に関する調査報告書を公表した。その中でジャニー氏(2019年死去)だけでなく、事務所の副社長を務めてきたメリー喜多川氏(2021年死去)への言及もあった。
「調査報告書の『メディアの沈黙』という項目の中に、メリー氏(2021年死去)に関する文言が多数ありました。それは今まで“噂”レベルに留められてきた『圧力』を“真実”と認定したと言っていい内容です。メリー氏のメディアへの圧力がジャニー氏の性加害に拍車をかけた。この点はもっと具体的に、テレビやスポーツ紙で取り上げられてもいい。なぜなら、大局的にみれば、ジャニー氏と同じような性加害は今後起こりにくいですが、メリー氏のようにメディアに圧力をかける人はこれからも現れそうだからです。ジャニーズ事務所の人はさすがにできないとしても、他の大手事務所では出てきてもおかしくない」(週刊誌記者)

 報告書からメリー氏に関する部分を引用しよう。
《文藝春秋に対する訴訟の東京地裁判決でも、週刊文春の記事において、「原告事務所〔注:ジャニーズ事務所を指す〕は怖く、当局〔注:在京の民放テレビ局を指す。〕でも事務所にネガティブなことを扱うのはタブーである」》
 とした上で、「週刊文春」の具体的な文言を書いている。
《「マスコミ対応を委ねられているメリー喜多川は、ドラマの共演者が気に入らないと、その放送局の社長に直接電話をかけ、外すよう要求することもあった」
「平成8年5月にSMAPのメンバーであった森且行が原告事務所を辞めさせられた」
「メリー喜多川は、森がオートレーサーの試験に合格した事実を前向きに報じようとした民放のプロデューサーに、『SMAPには森なんていなかったでしょ?』『最初からいないの。森はSMAPのメンバーじゃない。』などと大声を出した」
「森が原告事務所に内緒でレーサーの試験を受けたことが、メリー喜多川の逆鱗に触れた」
「森の脱退に際して、何らかのイベントは一切なかった」》

 これらの掲載内容について、報告書は以下のように結論づけた。
《その重要な部分が真実であるとの証明がされたか、又は少なくとも、被告の文藝春秋らが、これを真実と信ずるについて相当の理由があったというべきであり、「マスメディアは、原告事務所を恐れ、追従していること」それ自体又はその前提となる事実を真実と信ずるについては、相当の理由があったと判示している(この点は、東京高裁判決においても維持されている)。》

■メリー氏が乗り込んできたのに「圧力を認識したことはない」と書いた日刊スポーツ
 ジャニー氏が性加害を続ける1つの原因になったと認定された「メリー氏の隠蔽」や「メディアの沈黙」についてスポーツ紙は触れたのか。会見翌日の30日の紙面を読むと、日刊スポーツでは多くのジャニーズタレントを長年取材してきた記者がコラムを書いた。
《報告書では「メディアの沈黙」も指摘された。世間でイメージされるような「圧力」を認識したことはないが、記事の性質上、日々の取材ではタレントの生の声、素顔を読者に伝えることに終始して、「密室」での出来事に思いが至らなかったというのが正直なところだ。「気付き」がなく、幾度かのタイミングを失した点で、改めて襟を正す必要を感じている。》

 同コラムに「メリー氏」という名前は見当たらないが、ジャニーズ事務所からの《「圧力」を認識したことはない》としている。ただ、同紙は2年前にメリー氏の死去を伝えた紙面の中で、メリー氏が日刊スポーツに乗り込んできた様子を綴っている。
 それは「日刊スポーツ・ドラマグランプリ」が初めて開催された翌年の1998年のことだったという。第1回は記者と評論家の「審査員票」と「読者投票」で各賞を決め、票の比重は半々だった。メリー氏はこの審査方法に抗議したという。元ジャニーズ担当記者が綴っている。
《応対した私に「あなた、全部のドラマ見ているの?」と聞いてきた。私は「見られる限りは、録画してでも…」としどろもどろに答えた。「見られないのに(記者や評論家が)審査するのはおかしいですね」とズバッと指摘された。そして「やはり視聴者に任せるべきです」。言外に「そうしないとジャニーズのタレントは出さない」のニュアンスを感じたが、メリーさんは純粋にドラマグランプリのことを考えてくれていたと思う。第2回から読者投票だけに切り替え、今年の第25回の節目につながっている。》(日刊スポーツ・2021年8月18日付)

■25回のドラマグランプリのうちジャニーズが21回も主演男優賞を獲得
 メリー氏は読者投票にすれば、ジャニーズ事務所のタレントが賞を取れるという算段があったのだろう。実際、「日刊スポーツ・ドラマグランプリ」は第2回(1998年)から第26回(2022年)までの25回で21回もジャニーズが主演男優賞を取っている昨年は当時King & Princeの平野紫耀が受賞した
「全話平均世帯視聴率を見ると、平野主演の『クロサギ』がヒットしたとは言えません。昨年の民放連続ドラマで1位の『DCU』は14.4%ですが、『クロサギ』は7.4%で半分にも満たない。2つの間には15本以上のドラマがある。キンプリファンが平野君に何か賞を取らせたいという思いで投票したのでしょう。平野君は組織票で受賞しても嬉しくないと思いますよ」(民放関係者)

 昨年の主演男優賞の投票結果を見ると、ベストテンの中で退所者含め8人がジャニーズ系だ。「DCU」の主演である阿部寛はランク外になっている。完全にジャニーズファンによるジャニーズファンのための賞になっている
「おそらく日刊スポーツの記者もそうなると予測していたでしょう。でも、《言外に「そうしないとジャニーズのタレントは出さない」のニュアンスを感じた》からメリー氏の言う通りにした。これを圧力と言わずして、何と言うのでしょうか」(前出の週刊誌記者)

 メリー氏は《あなた、全部のドラマ見ているの?》《見られないのに(記者や評論家が)審査するのはおかしいですね》と言ったそうだが、投票した読者は全てのドラマを見たのだろうか。メリー氏の抗議を受け入れてしまったことで、「日刊スポーツ・ドラマグランプリ」は形骸化してしまった。
「このような話は社内で語り継がれていくと思いますし、メリー氏の行動は氷山の一角でしょう。それなのに、再発防止特別チーム会見の翌日に現在のジャニーズ担当記者が《「圧力」を認識したことはない》と書いた。この期に及んでまだジャニーズを擁護するのかと驚きました。また、記者の《「密室」での出来事に思いが至らなかった》のはジュリー社長の『知らなかった』という発言と同じような印象を受けてしまいます」(ベテラン芸能記者)

■サンスポ、報知、トーチュウ、デイリーは「メディアの沈黙」ついて見解すら示さず
 それでも、日刊スポーツは「メディアの沈黙」という指摘に触れ、見解を述べただけ立派かもしれない。サンケイスポーツ、スポーツ報知、東京中日スポーツ、デイリースポーツは会見内の発言として「メディアの沈黙」や「メリー氏の隠蔽」という言葉は書いているものの、紙面に記者の見解を載せていない。

 昨年からジャニーズに厳しい論調に“変身”したスポーツニッポンは1面で《ジャニーズ解体 嵐、TOKIO、関ジャニどうなる》と大きく見出しを打った。そして、「記者の目」というコラムではこう綴った。
《今回の件で最大の問題は、これほどの事態が半世紀にもわたって隠ぺいされてきたことだ。その責任は、加害者であるジャニー氏、隠ぺいしてきたメリー氏、それを許してきたメディアにある。時代的な背景や事務所の強大なパワーに加え、メリー氏が類いまれな“腕力”の持ち主だったからこそ起きたと言える。》
 メディアの責任にも言及してはいるが、メリー氏の責任が最も重いと主張しているように読める。
「SMAP解散の頃が象徴的ですが、メリー氏が亡くなる前くらいまでスポニチもジャニーズ寄りの記事を量産していたように感じます。裏を返せば、それだけ圧力があったのでしょう。最近のジャニーズへの厳しい論調は、メリー氏への憂さを晴らしているようにも読めます」(前出の週刊誌記者)
 スポニチは「記者の目」でこうも書いていた。
《ジャニー氏が亡くなった今、同様の性加害がジャニーズで再び起きるとは考えにくい。重要なのは、隠ぺいを繰り返さないことだ。》

 前出のベテラン芸能記者はこう話す。
「全くその通りで、ジャニー氏のような性加害が今後起こるとは思いません。しかし、世間はジャニーズに限らず、大手事務所から圧力を掛けられると、メディアが沈黙してしまうと勘付いている。《重要なのは、隠ぺいを繰り返さないこと》とジャニーズ事務所について書いていますが、《重要なのは、大手メディアが沈黙を繰り返さないこと》でしょう。そのためには、今までメリー氏からどんな圧力を受けてきたのか連載すればいいと思います。それは大手事務所への牽制にもなりますから」

 報告書にあったメリー氏の「ドラマの共演者が気に入らないと、その放送局の社長に直接電話をかけ、外すよう要求することもあった」「森がオートレーサーの試験に合格した事実を前向きに報じようとした民放のプロデューサーに、『SMAPには森なんていなかったでしょ?』『最初からいないの。森はSMAPのメンバーじゃない。』などと大声を出した」という文言を、翌日の紙面に掲載したスポーツ紙はなかった。
 死後もなお、メリー氏の残像に屈する必要はないと思うが……。