2023年9月1日金曜日

関東大震災 朝鮮人虐殺「記録ない」 官房長官 資料の存在を無視

 松野博一官房長官は関東大震災当時に起きた朝鮮人虐殺から100年になるのを前に、30日の記者会見で、「政府内において事実関係を把握することのできる記録が見当たらない」と述べ歴史的事実の有無への言及を避け政府としての教訓や反省についても一切答えませんでした。

 しかし専修大学教授の田中正敬さんによれば、朝鮮人虐殺に関するどんな史料がどこに保管されているかは、専門家の誰でもが知っていることであり、資料がないなどということはあり得ないと述べています。

 あたかもなかったことにしたいかのような政府の態度は見苦しいことです。しんぶん赤旗が報じました。
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関東大震災 朝鮮人虐殺「記録ない」 官房長官 資料の存在を無視
                       しんぶん赤旗 2023年8月31日
 松野博一官房長官は30日の記者会見で、関東大震災当時に起きた朝鮮人虐殺について「政府内において事実関係を把握することのできる記録が見当たらない」と述べ、歴史的事実の有無への言及を避けました。政府としての教訓や反省についても一切答えませんでした。

 虐殺をめぐり事実を否定する歴史修正主義的な言説が広がっていることに対し、事実関係を政府として調査する考えがあるかの問いには、「記録が見当たらない」と繰り返すだけで後ろ向きの姿勢をあらわにしました。
 虐殺に関する真相究明は、多くの研究者・市民によって行われてきました。歴史学者の故姜徳相(カン・ドクサン)氏が国会内で発掘した関東大震災時の海軍「公文備考」や、同じく歴史学者の松尾章一氏が東京都立図書館で陸海軍資料を見つけるなど、公文書史料の発掘は進んできた経過があります。内閣府中央防災会議の災害教訓の継承に関する専門調査会報告書『一九二三関東大震災 第二編』でも虐殺が起こったことは認定されています。
 ただ、5月23日の参院内閣委員会では、当時の虐殺を裏付ける記録について警察庁の楠芳伸官房長は記録が見当たらないとし、「仮に資料を確認しても、内容を評価することは困難」と繰り返しました。松野氏の発言はこうした政府見解に基づくものとみられます。

 関東大震災から9月1日で100年を迎えるなか、政府は公文書を含めた多くの資料が存在するにもかかわらず、否定的な姿勢を示しました。歴史に向き合わない異常な姿勢があらためて浮き彫りになっています。


歴史史料の存在明らか 「記録ない」発言の問題点 
       専修大学教授  田中正敬
                       しんぶん赤旗 2023年8月31日
 松野博官房長官の「調査した限り、記録が見当たらない」という発言については、政府が流言を流したという史料は防衛省に、朝鮮人を殺害した記録も東京都立公文書館などに保管されています。朝鮮人の遺体を日本人か朝鮮かわからないように処分しつつあることを示す史料も国会図書館にあります。それらを否定することはできません。
 松野氏の発言は政府がきちんと「調査していない」ということを示しているにすぎませんの問題を研究している人であれば誰でも、史料がどこに保管されているかまで知っていて、「記録がない」などと言っているのは政府だけだということ強調したいと思います。
 中央防災会議で関東大震災に関する報告書が2009年3月に出されましたが、ここにも関東大震災時に軍隊などが朝鮮人の虐殺を直接行ったことが史料に基づいて書かれています。中央防災会議は内開府に所属していますから、朝鮮人虐殺に政府が関与したことは、政府内で確認済みの事柄です。そういう点からしても資料がないなどということはあり得ません。明らかに事実認定を避けていますし、報告書に書かれていることと矛盾する発言は無責任でしょう。
 朝鮮人虐殺が起きたことは明らかです。この問題は日本の朝鮮植民地支配のもとで起きたジェノサイド(集団殺害)です。人権を尊重し、生命の尊厳を認めるという立場の民主主義国家であれば、当然過去の加害を認め真摯(しんし)に対応すべきです。その歴史的事実を認めないことは、自分たちがよって立つ民主主義という政治的な理念を否定することになります。