2023年9月16日土曜日

中国に対するアメリカの経済戦争(賀茂川耕助氏)

 賀茂川耕助氏が掲題の記事を紹介しました。
「賀茂川耕助」というのは「ペンネーム」で、カリフォルニア州で生まれた米国人です。約50年前に日本で会社を設立し、2006年には日本に帰化しました。
 1990年に、「米国の日本叩きは敗者の喧噪だと主張する『日本は悪くない』を上梓し、それ以降主に日米問題を中心とした10冊を超す著書を出版し、講演活動なども行っているということです(ウィキペディアより転載)
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中国に対するアメリカの経済戦争
       The US Economic War on China by Jeffrey D Sachs
                 耕助のブログ No. 1913  2023年9月14日

中国経済は減速している。現在の予測では、2023年の中国のGDP成長率は5%未満と昨年の予測を下回り、2010年代後半まで中国が享受していた高成長をはるかに下回っている。西側の報道は中国の悪行とされることで埋め尽くされている。不動産市場における金融危機、一般的な債務超過、その他の悪事などだ。しかし景気減速の多くは、中国の成長を減速させようとするアメリカの施策の結果である。このような米国の政策は、世界貿易機関(WTO)のルールに違反しており、世界の繁栄にとって危険である。止めるべきだ。
反中政策は、アメリカの政策立案でお馴染みの台本から出てきたものである。その目的は主要なライバルからの経済的・技術的競争を阻止することだ。冷戦時代、アメリカがソ連に課した技術封鎖はこの台本の最初の、そして最も明白な適用例であった。ソ連はアメリカが敵と宣言した国であり、アメリカの政策はソ連の先端技術へのアクセスを遮断することを目的としていた。

台本の2つ目の応用は、あまり明白ではなく、実際、知識のある観察者でさえ一般的には見落としている。1980年代末から1990年代初頭にかけてアメリカは、日本の経済成長を意図的に減速させようとした。日本はアメリカの同盟国であり、現在もそうであるため、これは意外に思われるかもしれない。しかし、半導体、家電製品、自動車などの主要分野で日本企業が米国企業を凌駕し、日本は「成功しすぎる」ようになった。日本の成功は私の亡き偉大な同僚であるハーバード大学のエズラ・ヴォーゲル教授によるベストセラー『ジャパン・アズ・ナンバーワン』(1979年)などで広く称賛された。
1980年代半ばから後半にかけて、アメリカの政治家たちは(日本との間で合意されたいわゆる「自主的な」制限によって)アメリカ市場への日本の輸出を制限し、日本の通貨を過大評価するように仕向けた。日本円は1985年の1ドル=240円台から1988年には128円台、1995年には1ドル=94円台まで円高が進み、米国市場の日本製品は高くなった。日本は輸出が伸び悩みスランプに陥った。1980年から1985年の間、日本の輸出は毎年7.9%増加していたが、1985年から1990年の間は毎年3.5%にまで落ち込んだ。そして1990年から1995年にかけては、年率3.3%にまで落ち込んだ。成長が著しく鈍化したため多くの日本企業が経営難となり1990年代初頭には金融不況に陥った

1990年代半ば、私は日本の政府高官の一人に、なぜ日本は通貨を切り下げて成長を回復させなかったのかと尋ねたことがある。彼の答えは、アメリカがそれを許さないから、というものだった。
今、アメリカは中国を狙っている。2015年頃からアメリカの政策立案者たちは中国を貿易相手国ではなく脅威とみなすようになった。このような見方の変化は、中国の経済的成功によるものだった。2015年に中国がロボット工学、情報技術、再生可能エネルギー、その他の先端技術の最先端への中国の進出を促進する「メイド・イン・チャイナ2025」政策を発表したとき、中国の経済的台頭が米国の戦略家たちを警戒させ始めた。同じ頃、中国は「一帯一路」構想を発表し、アジア、アフリカ、その他の地域で、主に中国の金融、企業、技術を活用した近代的なインフラ建設を支援することを発表した。

米国は中国の急成長を鈍化させるため、古い手口を使い出した。オバマ大統領はまず、中国を除外したアジア諸国との新たな貿易グループの創設を提案したが、トランプ大統領候補はさらに踏み込み、中国に対する明白な保護主義を約束した。反中国を掲げて2016年の選挙に勝利したトランプは、明らかにWTOルールに違反する一方的な関税を中国に課した。WTOが米国の措置に不利な裁定を下さないようにするため、米国は新たな任命を阻止することでWTO上訴裁判所を無力化した。トランプ政権はまた、ZTEやファーウェイといった中国の大手テクノロジー企業の製品をブロックし、米国の同盟国にも同様の措置を取るよう促した。

バイデン大統領が就任したとき、(私を含む)多くの人はバイデンがトランプの反中政策を覆すか緩和すると期待していた。しかしその逆が起きた。バイデンはトランプの対中関税を維持するだけでなく、中国の先端半導体技術へのアクセスや米国への投資を制限する新たな大統領令に署名し、関税を倍増させた。アメリカ企業は非公式に、サプライチェーンを中国から他の国にシフトするよう勧告された。これはオフショアリングとは対照的に「フレンド・ショアリング」と呼ばれるプロセスである。こうした措置の実施において、アメリカはWTOの原則と手続きを完全に無視した

米国は中国と経済戦争をしていることを強く否定するが、「アヒルのように見え、アヒルのように泳ぎ、アヒルのように鳴くなら、それはおそらくアヒルだ」という古い格言がある。アメリカはおなじみの台本を使い、ワシントンの政治家たちは武骨なレトリックを駆使して中国を封じ込めるか、打ち負かさなければならない敵と呼んでいる。

その結果は中国の対米輸出の逆転に現れている。トランプ大統領が就任した2017年1月には、中国は米国の商品輸入の22%を占めていた。2021年1月にバイデンが大統領に就任する頃には、米国からの輸入品に占める中国の割合は19%に低下していた。2023年6月の時点で、米国の輸入品に占める中国の割合は13%に急落した。そして2022年6月から2023年6月の間にアメリカの中国からの輸入はなんと29%も減少したのである。

もちろん、中国経済の力学は複雑で中米貿易だけで動いているとは言い難い。おそらく中国の対米輸出は部分的に回復するだろう。しかしバイデンは、2024年の選挙に向けて中国との貿易障壁を緩和することはなさそうだ。

安全保障を米国に依存し米国の要求に従った1990年代の日本とは異なり、中国は米国の保護主義に直面してもより余裕のある行動をとることができる。最も重要なことは、中国は「一帯一路」構想の拡大などの政策を通じて、アジア、アフリカ、ラテンアメリカへの輸出を大幅に増やすことができると私はみている。中国を封じ込めようとするアメリカの試みは、原理的に間違っているだけでなく、実際には失敗する運命にあるというのが私の評価だ。中国は、貿易と技術進歩の継続的な拡大を支えるパートナーを世界経済全体で見つけるだろう。