2023年9月13日水曜日

インフレ収奪と経済のゼロサム - 俄か株長者のバブル利益の実体

 世に倦む日々氏が掲題の記事を出しました。
 庶民の生活が苦しくなる一方で、アベノミクス以降『俄か株長者」が大量に出現したことについて、同氏は豊富なグラフを引用しながら、安倍政権のときから意図的に円安方向にドライブ(⇒動かす・運転する)してきた。企業の円ベースの収益(国内本社決算)を努力なしでよくするためであり、株価を上げるためだった。円安にすると企業収益は上がり、東証の株価は上がる」と述べ、大企業と俄か株長者たちは「円安ドライブを望み、円安で儲けてきたと分析しています。
 実に不健全なことで、「アベノミクスからの脱却」は、当初から想定されていた通り、その「方途」はいまだに見つからないし、何時になれば見つかるかの当てもありません。

 因みに「ゼロサム」とは「一方が得をすれば他方は損をし、合計はゼロになる」という意味です。
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インフレ収奪と経済のゼロサム - 俄か株長者のバブル利益の実体は何なのか
                    世に倦む日日 2023年9月11日
前回、7月の消費支出が実質で前年比5%減となり、名目でも1.3%減を記録した問題に焦点を当てた。この異常な物価高騰が続く中で、何と名目ベースで消費支出が減っている。マスコミ報道は全く注目しないが、この国で恐ろしい経済現象が起きている。消費者が大胆で強烈な節約行動に出ていて、昨年までの生活内容と水準をリストラし、ダウンサイジングし、家計防衛を徹底させている。総務省はその統計の内訳を公表していて、消費者が何を切り詰めたが一目で分かる。気になるのは「教育」に分類される支出が名目で前年比18.8%減となっている点だ。子どもの塾やお稽古をやめた、あるいは減らしたという意味だろう。総務省の統計は勤労者世帯の実収入についても驚く数字を挙げていて、何と、前年比で実質66%減、名目30%減とある。

政府とマスコミは、賃金が上がった上がったと景気のいい話を演出して煽り立て、テレビを旅グルメ番組ばかりにしてお笑い芸人の食レポで埋め、恰も国民全体がその消費環境の中にいるが如く錯覚させている。しかし、国民生活の真実は総務省の調査統計で表わされていて、それは実に深刻で悲観的な内実だ。スーパーで買い物をすると、どの商品も急に値段が高くなっていて、伸ばす手が止まり足が重くなる。インフレに撃たれた身を知って憂鬱になる。庶民は誰も同じだろう。けれども、テレビ芸人の浮薄なグルメ道楽が、全くの虚構で根拠のない空想世界かというとそうではない。X(ツイッター)を見ると、株長者たちが同じ真似事をやっている。お笑いに塗した奢侈と贅沢を見せびらかし、それを可能にした物質的土台たる株儲けの自慢話を披露している。

二極化の現実がある。消費を切り詰めているのが多数だ。派手に奢侈生活している富裕層・準富裕層が少数だ。少数だけれども、彼らの日常生活と日常感覚がテレビを埋め、ネットをも埋めているのである。彼らの態度と言説と意識がこの国のテレビとネットを支配していて、標準像のようなイメージとなり、社会一般の隅々に影響を及ぼしている。底辺を含めた全体の意識をシンクロナイズ⇒一致、同一化させている。そこが、この経済問題の重要なポイントであると思われる。社会的な情報として、インフレ禍に苦しむ節約国民の姿はマス空間に登場しない。テレビには登場しないし、ネット(Xや5ch)にも登場しない。労働の拘束から解放され、自由に時間を使える株長者たちが、X空間を支配し、バブルの見せびらかしに興じ、庶民を株投機に勧誘している。ネズミ講と同じ論理と動機で。








この経済現象を理解するに当たっては、まず、厚労省が統計を出している所得別世帯数の分布グラフを思い浮かべることが肝要だろう。所得300万円以下の世帯が34%、所得400万円以下の世帯が47%を占め、中央値が423万円である事実を押さえないといけない。平均所得以下世帯が61%ある。総務省の7月統計の消費支出28万1736円は、この全体の現実の中から出てきている。この国の大多数は、テレビの旅グルメの遊蕩享楽やXの株儲けの見せびらかしとは無縁の生活を送っていて、何かを削る辛苦の生活改造を余儀なくされている。家賃が上昇している中で、住居費の支出が大幅に減っている原因は何だろうかと考えたが、ひょっとしたら、平年比でマンション購入を諦めた世帯が多く、その影響が全体統計に表れたのではないかと推測した。マンションは新築も中古も騰がっている。

今年3月の23区の新築マンションの平均価格は2億円を超えた。首都圏の新築マンションは1億円。昔、われわれが若い頃、年収の5倍から6倍がマイホームの相場だと言っていたから、その尺度を当て嵌めると、年収2千万円ないと新築マンションが買えない。日本全体の世帯の中で、わずか14%の富裕層だけしか首都圏の新築マンションが購入できない時代になった。35年前の前回のバブル経済のときでも、これほど凄まじいマンション価格の高騰はなく、今の経済的現実に唖然とするばかりだ。貧富の格差が拡がり、新築マンションは富裕層に属する範疇となった。庶民の若い世代の夢が奪われている。と同時に、欲しいなら株をやれと、若者を株のネズミ講に誘う仕掛けになっている。結婚してマイホームを買って住むという人生設計が、普通の仕事の収入では描けない。給料で住宅ローン返済できない

8月の企業倒産件数が、前年比54%増の760件を記録している。原材料高やコロナ禍での無利子・無担保融資の返済が本格化した影響だと共同の記事にある。テレビ報道には登場しない。テレビのニュースを見ると、外国人観光客が日本に来て歓声を上げ、燥いで楽しんでいる様子ばかりが紹介され、インバウンド需要の回復ばかりが喧伝される。その映像がやたら刺激的に目につく。しかし、倒産した中小企業の3分の1は飲食業含むサービス業だ。日本全体の消費支出が名目で前年比13%減なのだから、この倒産件数の増加は当然と言える。他の指標を見ると、22年の生活保護の申請件数も前年比で増えていて、物価高の影響だと解説されている。マスコミ報道の表面では、賃金が上がったとか、インバウンド回復で景気向上という言説ばかりが氾濫しているが、実際の日本人の経済は暗く重く低迷している











物価高の影響で消費全体が落ち込んでいる事実は、46月期のGDP統計にも表れていて、数字全体としては13月期に比べて実質12%増と高い伸びを示しているが、その中身は輸出の増加によるもので、個人消費と民間設備投資はそれぞれ減少している。個人消費は実質06%減となっていて、明らかに物価高の影響だろう。輸出の数字が伸びるのは円安の影響であり、円ベースで価額(アマウント)が膨らむのは当然の理だ。同じ数量を輸出して、為替が130円から140円に変われば、輸出企業の売上高は自動的に8%増える。それがGDPの輸出統計に反映され、GDPの値が膨らむ。円安は物価変動とは関係ない。したがって実質GDPの増加に単純に寄与してしまう。だから、円安が激しく進行している中での輸出増とか、円安による輸出増が寄与したGDP増という数字のマジックには警戒しないといけない。








現在、日本企業が好景気で高利益を出していて、株価が上がっている理由は、円安によるのである。輸出企業は円安で儲かる。輸入企業は原材料高によるコスト高を価格転嫁して儲ける。前回見たように、石油元売り大手(ENEOS・出光・コスモ)は過去最高益の超バブル景気を謳歌している。パンや菓子の値上げに直結する小麦粉卸価格を仕切る製粉大手(日清製粉・ニップン)は、過去最高益を上げている。日本に原材料を輸入している大手商社(三菱商事・三井物産・伊藤忠・・)が、歴史的水準の高利益を貪っている。挙句の果てに、電力会社まで空前の利益を出して笑いが止まらない。資源高を価格転嫁して大儲けを実現している。彼らの利益の元は、円安を理由にしたインフレ収奪であり、日本の庶民が生活を削ることで利益を手に入れているのが真実だ。日本の庶民は、インフレという「等価交換」のマジックで収奪されている。








一方に、インフレによる物価高で大儲けして株価を上げ、繁栄を謳歌している企業と、株儲けをX(ツイッター)で見せびらかせている株長者がいる。これをAとしよう。他方に、インフレのために生活を切り詰め、支出を減らしている大勢の庶民がいる。これをBとしよう。明らかに、Bのお金がAに渡っているのだ。等価交換の魔術によって合法的に。Aの懐に入ってAを高笑いさせているお金は、本来、Bが食料品や日用品や子どもの塾に使うお金である。本来、資源高の価格転嫁はもっと抑制的でなければならず、Aの企業(原油元売り、製粉、電力、)の利益はトントンでなければならず、Bの生活圧迫と消費萎縮を小さくするものでなければいけない。Aには公共の責任があり、自由な利益の追求と実現は、国民生活の打撃と疲弊を小さくする範囲のものでなくてはいけない。資本による剰余価値の貪りには節度と限界がある..という考え方が嘗てあった










20世紀後半の日本では経済と政治の常識だったそれがなくなった社会が現代の日本である。いずれにせよ、お金の流れを総括すればゼロサムなのだ。価値を増やしていない。経済を大きくしてはいない。技術革新はどこにもなく、新たな財やサービスは産んでいない。日本企業の国際市場での競争力が向上したわけでもない。AがBを収奪して富んでいるだけで、BがAに収奪されて貧しくなっているだけである。Aの株長者がXの投稿で自慢しているバブリーな口座残高は、Bから収奪して儲けている金だ。醜く嘆かわしく愚かしいゼロサムの日本経済の現実がある。為替は安倍政権のときから意図的に円安方向にドライブしてきた。企業の円ベースの収益(国内本社決算)を努力なしでよくするためであり、株価を上げるためだった。円安にすると企業収益は上がり、東証の株価は上がる。大企業と俄か株長者たち、すなわちAは、したがって円安ドライブを望む。円安で儲ける

Aは物価高騰の永続を望むということだ。