2024年8月31日土曜日

西側で進む言論弾圧

 櫻井ジャーナルに掲題の記事が載りました。
 西側が口にする「言論の自由」は、体制側の意に適う範囲での自由であることはもはや論を俟ちませんが、ウクライナ戦争が始まりさらにイスラエルによるガザ攻撃が始まってからは、言論弾圧は一層厳しくなりました。
 国際(刑事/司法)裁判所が犯罪と見做した蛮行を止めないイスラエルを批判しただけで、人種差別法違反の疑いで告訴されたり、イスラエル軍によるガザ虐殺を伝えただけで逮捕されるなど、正に常軌を逸しています。
 どこまで狂おうとしているのか、窮地に追い込まれた体制側がついに本性を現わしたのでしょう。
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西側で進む言論弾圧  
                          櫻井ジャーナル 2024.08.30
 最近、オーストラリアの有名ジャーナリスト、メアリー・コスタキディスはイスラエルを批判するXのツイート2件をリツイートしたことから人種差別法違反の疑いで告訴された。ヒズボラ指導者ハサン・ナスララの演説を撮影したビデオを含む書き込みのリツイート、イギリスのジャーナリスト、リッチ・メドハーストによる書き込みのリツイートが問題にされた。
 メドハーストはイスラエル軍によるガザでの虐殺を伝えていたジャーナリストで、虐殺を続けるイスラエルやその虐殺を支えている欧米諸国から睨まれていた。彼は8月15日、ロンドンのヒースロー空港で逮捕されている。
 同じようにイスラエルによる虐殺を暴き、さらにウクライナでの実態を伝えていたアメリカ海兵隊の元情報将校でUNSCOM(国連大量破壊兵器廃棄特別委員会)の主任査察官を務めたスコット・リッターはパスポートを空港で押収され、家宅捜索を受けている
 また、内部告発を支援していたWikiLeaksの象徴であるジュリアン・アッサンジは長期にわたって刑務所で拘束され、ウクライナに住みながら同国のクーデター体制を取材していたチリ系アメリカ人ジャーナリストのゴンサロ・リラは刑務所内で拷問され、死亡している。
 欧米の私的権力に弾圧されたジャーナリストはほかにもいる。例えばウクライナ東部のドンバスではドイツ人ジャーナリストのアリナ・リップ、フランス人ジャーナリストのアン-ローレ・ボンネル、カナダ人ジャーナリストのエバ・バートレット。ドイツ人ジャーナリストのパトリック・バーブは職を失い、アリナ・リップは銀行口座を接収された

 こうしたジャーナリストと協力して支配システムの腐敗、犯罪を明らかにしてきた内部告発者も弾圧されている。例えば、ベトナム戦争の実態を明らかにする国防総省の機密文書、「ベトナムにおける政策決定の歴史、1945年-1968年(ペンタゴン・ペーパーズ)」を公表したダニエル・エルズバーグ、電子情報機関NSAの不正を明らかにしたウィリアム・ビーニーやエドワード・スノーデンCIAの危険な作戦を組織内部で警告したジェフリー・スターリング、そしてCIAなどによる拷問を告発したジャニス・カルピンスキーやジョン・キリアク、WikiLeaksへアメリカ軍の犯罪行為を明らかにする映像などを渡したブラドレー・マニング(現在はチェルシー・マニングと名乗っている)。いずれも支配者から報復され、刑務所へ入られた人もいる。

 アメリカやイギリスを中心とする帝国主義諸国は1990年代に侵略戦争を本格化させたが、シリアで苦戦、ウクライナを制圧してロシアを潰しにかかったところで反撃にあい、軍事的に劣勢。経済も厳しい状況。自分たちが支援しているイスラエルもパレスチナで窮地に陥った。
 現在、西側諸国は有力メディアを使い、情報操作で人心をコントロールしようとしている。西側の体制を支配する私的権力にとって都合の良い物語を人びとに信じさせ、操ろうとしているのだが、インターネットには事実を伝える仕組みがまだ残されている。帝国主義者はそれを潰そうと必死だ。

 テレグラムのパベル・ドゥロフは8月24日にパリのル・ブルジェ空港で逮捕されたが、その罪状の中に、法執行機関の要請に基づく、法律で認められた盗聴の実施および実施に必要な情報または文書の提供の拒否が挙げられている。この逮捕を指示した人物はエマニュエル・マクロン大統領だとされているが、その文書から逮捕の黒幕はフランス以外の国だとも指摘されている。
 フランス政府によるドゥロフ逮捕が許されるなら、どの国の政府でも同じような逮捕が許されることになる。実際、欧米の情報機関はグーグル、フェイスブック、X(ツイッター)などインターネット・サービス会社をすでに支配していると言われている。(この問題は2005年に三一書房から出版した拙著『テロ帝国アメリカは21世紀に耐えられない』でも取り上げている。)

BRICS三か国はイスラエルをどう見ているか

「耕助のブログ」に掲題の記事が載りました。
 米国はイスラエルのガザ攻撃を支持し、それに必要な武器と資金を供与してきました。つまりイスラエルのジェノサイド(大量殺戮)は米国なしでは行えなかったのですが、そうであればさすがに最終段階では米国のいうことを聞くものと思われていたのですが、ネタニヤフにはそんな積りはなく、バイデンにもそんな意思も能力もなかったのでした。。
 いまや米国は手をこまねくことしかできず、この蛮行を止められるのは中国、ロシア、イランなどのBRICS側しかありません。
 しかし彼らも、米国(とG7)側が、イランと抵抗の枢軸による深刻な軍事的報復を防ぐために、形だけでハマスとイスラエル間のガザ停戦合意をもまとめるようと努力している間は、静観するであろうと述べています。
 そして「イランは、待機戦術、心理作戦、耐え難い戦略的曖昧さという孫子の兵法を極限まで駆使して、完全に全面的な、調整された戦略が整い、致命的な一撃を与えるまで、イスラエル人入植者たちを地下の掩蔽壕でじっと待機させておく」作戦だと述べています。
 まことに無力感しか漂わない世界になってしましました。
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BRICS三か国はイスラエルをどう見ているか
                  耕助のブログNo. 2252  2024年8月28日
 How a BRICS trio is staring down Israel
  イスラエルが国際社会でますます孤立を深める一方、BRICSメンバーのイラン、ロシ
  ア、中国は、外交的・軍事的にパレスチナを支援するためのあらゆる努力を密かに調
  整している。            by Pepe Escobar

グローバル・マジョリティーは、大量虐殺を行うテルアビブイスラエル)政府が(もちろん米国の軍事支援を全面的に受けながら)終末戦争を引き起こそうと全力を尽くしていることを十分に認識している。
その好戦的な考え方と対照的なのが2500年にわたるペルシャ⇒イラン)外交である。イランの外務次官、アリ・バゲリ・カーニーは最近、テヘラン⇒イラン)は「中東地域全体を巻き込む戦争を引き起こすというイスラエル政権の『夢』を阻止しようと全力を尽くしている」と発言した。
しかし敵が完全にパニックに陥っているときは決して邪魔をすべきではない。孫子もこの格言に賛成だろう。イランは、米国とG7諸国がイランと抵抗の枢軸による深刻な軍事的報復を防ぐために、ハマスとイスラエル間のガザ停戦合意を形だけでもまとめるよう全力を尽くしている時は干渉することはないだろう。

今週初め、その警告が現実のものとなった。レバノンのハマス代表、アフメド・アブデル・ハディは昨日、{1}ハマスは木曜日(今日)の暫定交渉には出席しないと報告した。その理由は?
ネトヤイフタニヤフの欺瞞に満ちた時間稼ぎをして先延ばしにする態度、その一方で枢軸は殉教者暗殺(ハマス政治局長イスマイル・ハニヤ氏)と(ヒズボラ軍司令官フアド・)シュクル氏に対する対応を準備している。(ハマスは)ネトヤイフと彼の過激派政府を援護するような交渉には参加しないだろう。
つまり、イスラエルの神経を逆なでする戦略的あいまいさの真骨頂ともいえる、この「待機ゲーム」が続くということだ。欧米諸国がイランに反応しないよう懇願する安っぽいドラマの裏には、何もない。見返りは何もないのだ。
さらに悪いことに、ワシントンの属国であるヨーロッパの英国、フランス、ドイツは、絶望の行進からそのまま抜け出してきたような声明を発表した。「イランとその同盟国に対し、地域の緊張をさらに高め、停戦と人質解放の合意の機会を危うくするような攻撃を控えるよう求める。彼らは、平和と安定の機会を脅かす行動に責任を負うことになるだろう。中東におけるさらなるエスカレーションから利益を得る国や国家は存在しない。」

予想通り、イスラエルに関する言葉はひとつもない。このネオ・オーウェル的な表現では、まるでイランがテヘランでのハニヤ暗殺{2}に対する報復を表明したときにすべてが始まったかのようだ。
イラン外交は素早くこれらの属国に返答し、イランには西アジアにおける真のテロの源であるイスラエルに対して国家の主権を守り抑止力を生み出す権利があることを強調した。極めて重要なのは、彼らはその権利を行使するにあたり、{3}「誰の許可も求めない」と強調していることだ。
予想通り、問題の核心は西側の論理から抜け落ちている。もし昨年ワシントンがガザ停戦を強制していたら、西アジアを揺るがす終末戦争のリスクは回避されていたはずなのだ。
その代わり、米国は水曜日にテルアビブに200億ドルの追加武器パッケージを承認し{4}、恒久的な停戦を確保することにどれほど米国が尽力しているかを示した。

パレスチナとBRICSの出会い
イスラエルの挑発行為、特にハニヤ氏の暗殺は、BRICSのトップ3メンバーであるイラン、ロシア、中国に対する直接的な侮辱であった。
したがってイスラエルへ対応は、相互に連携する包括的な戦略的パートナーシップから派生したこの3か国の協調的な意思表示を意味する。
月曜日の早い時間、中国の王毅外相はイランのアリ・バゲリ・カーニー外相代行から重要な電話を受け、そこでテヘランが地域の平和と安定を確保するために行っているあらゆる努力を断固として支持した。
これはまた中国がイランのイスラエルへの反応を支持していることも示している。特に、ハニヤ氏の暗殺は、北京が多大な外交努力を払ってきたことに対する許しがたい侮辱と見なされており、ハマスの議長が他のパレスチナの政治代表者たちとともに「北京宣言」{5}に署名したわずか数日後の出来事であったことを考慮するとなおさらである。
そして火曜日には、パレスチナ自治政府(PA)のアッバス議長が、モスクワのノヴォ・オガリョヴォにある邸宅でプーチンと会談した。プーチンがアッバスに伝えた言葉は、控えめな表現の逸品だ:
 ロシアは今日、遺憾ながら自国の利益を守り、武器を手に自国民を守らなければならないことは周知の事実である。しかし中東(西アジア)で起きていること、パレスチナで起きていることは、確実に見逃されることはないのである。
しかし深刻な問題がある。米国とイスラエルに支援されているアッバス⇒パレスチナ解放機構議長)は折れた葦のようにパレスチナではほとんど信頼されておらず、最新の世論調査によるとヨルダン川西岸地区の住民の94%、ガザ地区の住民の83%が、アッバスの辞任を求めている。一方で現在の悲惨な状況の原因はハマスにあると非難しているのはパレスチナ人の8%以下にすぎない{6}。ハマスの新指導者であるヤヒヤ・シンワル{7}には圧倒的な信頼が寄せられているのだ。

モスクワは複雑な立場にある。パレスチナにおける新たな政治プロセスを、中国よりもはるかに強力な外交手段で推進しようとしている。しかし、アッバスはそれに抵抗している。
一方で、いくつかの明るい兆しもある。モスクワでアッバス議長は、BRICSについて話し合ったと述べた。「パレスチナが『アウトリーチ』形式で招待されるという口頭での合意に達した」と述べ、次のように希望を表明した。
特定の形式の会議を組織し、パレスチナ問題に専念する。そうすれば、すべての国が現在起きている事態について意見を表明できるだろう。この連合(BRICS)の国々はすべてパレスチナに友好的であるという事実を考慮すれば、すべてが可能な限り関連性のあるものとなるだろう。
それ自体がロシア外交の大きな勝利である。パレスチナがBRICSの枠組みで真剣な議論の俎上に載せられるという事実は、イスラム諸国やグローバル・マジョリティー全体に多大な影響を与えるだろう。

致命的な反応を調整する方法
より大きな視点では、イスラエルに対する抵抗の枢軸の反応として、ロシアも深く関与している。最近、ロシアの航空機が次々とイランに到着し、あらゆる種類の無線信号、GPS、通信、衛星、電子システムを最大5,000キロメートル離れた場所から妨害およびスクランブルできる、ゲームを変える可能性のあるムルマンスク-BNシステムを含む、攻撃および防御用の軍事装備を運んでいると報じられている。
これはイスラエルとNATOの同盟国にとって究極の悪夢である。イランがムルマンスク-BN電子戦システムを配備した場合、文字通り、わずか2,000キロしか離れていないイスラエルの軍事基地と電力網を標的にすればイスラエルの電力網全体を破壊することが可能なのだ。
もしイランの対応が本当に常軌を逸したものとなり、イスラエルに忘れがたい壮絶な教訓を与えるつもりであるならば、それはムルマンスク-BNとイランの新型極超音速ミサイルの組み合わせとなるかもしれない。
そして、おそらくロシアの極超音速ミサイルによるさらなるサプライズもあるだろう。結局のところ、セルゲイ・ショイグ国家安全保障会議書記は最近テヘランを訪問し、イランのバゲリ参謀総長と会談している。その目的は、軍事分野を含む包括的な戦略的パートナーシップの細部を詰めるためだった。
バゲリ参謀総長は、「イラン、ロシア、中国の三国間協力を歓迎する」と発言し、BRICSの秘密を暴露した。これが西側の「民主的」寡頭制に組み込まれた「永遠の戦争」の精神と戦うために文明国家が実際に行っている団結の形なのである。

ロシアと中国がいくつかのレベルでパレスチナとイランを支援しているように、永遠の戦争の焦点が今やそれらすべての向けられるのは避けられない。ウクライナ、イスラエル、シリア、イラク、イエメン、そしてバングラデシュ(成功)から東南アジア(中断)に広がるカラー革命など、いたるところでエスカレートしている。
そしてテヘランでの重要なドラマに導かれる。それは、イスラエルを後悔させるように慎重に対応を調整しながら、イランからロシアや中国にまで傷口が広がるのを防ぐにはどうすればよいか、というものだ。

ユーラシアとNATO諸国{8}の間の全面的な衝突は避けられない。プーチン自身も、「ウクライナが一般市民への攻撃を継続し、原子力発電所を脅かしている限り、ウクライナとの和平交渉は不可能である」と、はっきりと述べている。
ガザにおけるイスラエルも同様である。ガザや、シリア{9}、イラク、イエメン{10}といった主権国家が思いのまま砲撃されている限り、「和平交渉」すなわち停戦交渉は不可能である。
それに対処するには、スマートフォースを使った軍事的な方法しかない。
イランは、戦略的パートナーであるロシアと中国と協議し、第三の道を見つけようとしているのかもしれない。プロジェクト・イスラエルは、イスラエルをイランと抵抗の枢軸による致命的な反撃から守るために、事実上イスラエル経済を止めている{11}。
つまりテヘランは、待機戦術、心理作戦、耐え難い戦略的曖昧さという孫子の兵法を極限まで駆使しているのかもしれない完全に全面的な、調整された戦略が整い、致命的な一撃を与えるまで、イスラエル人入植者たちを地下の掩蔽壕でじっと待機させておくのだ

Links:
{1} https://thecradle.co/articles-id/26418 
{2}https://thecradle.co/articles/entire-resistance-axis-will-respond-to-haniyeh-assassination-irgc 
{3}https://thecradle.co/articles/iran-takes-european-nations-to-task-we-do-not-need-permission-to-retaliate-against-israel 
{4} https://thecradle.co/articles/us-greenlights-20bn-arms-package-for-israel 
{5} https://thecradle.co/articles/china-throws-clout-behind-palestine 
{6} https://www.pcpsr.org/en/node/985 
{7}https://thecradle.co/articles/hamas-confirms-gaza-ceasefire-talks-will-continue-under-sinwar 
{8} https://www.amazon.com/dp/B0CWZJ2WML 
{9}https://thecradle.co/articles/irgc-officer-dies-from-wounds-sustained-in-us-attack-on-syria 
{10}https://thecradle.co/articles/losses-from-israels-strike-on-yemens-hodeidah-port-exceed-20mn-official 
{11}https://thecradle.co/articles/israeli-economy-on-the-brink-as-it-awaits-retaliation-from-resistance-axis

https://thecradle.co/articles/how-a-brics-trio-is-staring-down-israel 

31- 善人が何もしないようにするために存在している民主党

 米国の二大政党には本質的な差はなくて似たような政党なのだ、ということは兼ねてから言われてきたことです。それなのにその二つの政党が推薦する大統領候補を巡って半年近くもお祭り騒ぎをするのですから米国民は根ってからお祭りが好きなのでしょう。
 いま行われているイスラエルのガザ攻撃を実質的に支えてきたのは米国で、その残虐さと規模は世界史に残るものです。それにもかかわらず民主党候補も共和党候補も、「ジェノサイドを止めさせる」と明言できないのは不思議なことです。しかしどちらの候補が当選しようとも、イスラエルを制止できないのですからそうするしかないのでしょう。意志がなければ道を拓けないわけで その点では不毛の選挙です。

 ケイトリン・ジョンストンが掲題の記事を出しました。
 彼女は先ず「共和党が『悪』なのは良心がある人なら誰でも一目でわかる」として、「悪」でありながらすぐに見分けがつくとしてそれ以上は言及していません。
 問題は民主党の偽善ぶりの方です。女性下院議員のアレクサンドリア・オカシオが、「カマラ・ハリスがガザでの停戦確保に精力的に取り組んでいる」というあからさまな嘘を広めているので彼女を信頼する人々はそれを聞いて安心して、カマラ・ハリスに投票することになると述べています。
 そして問題は、単に一人の女性議員の発言云々ではなくて、民主党は常に「悪」の党に対して自らは「善」の党であると振る舞って国民を誤魔化してきたと指摘しています。
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善人が何もしないようにするために存在している民主党
                 マスコミに載らない海外記事 2024年8月29

  「悪の勝利のために必要なことは、善人が何もしないことだけだ」という認識を帝国
  は武器にしてきた。それゆえ、民主党は善人ではなく、良いことをしていないという
  現実を広めることは、その武器を奪うのに役に立つ。
                  ケイトリン・ジョンストン 2024年8月23日


 私がこれほど民主党を批判する理由は悪の勝利のために必要なことは、善人が何もしないことだけだという格言で説明できる。善人が決して何もしないようにするために民主党は存在しているのだ。
 ガザはまさにその完璧な例だ。インスタグラムの進歩主義者アレクサンドリア・オカシオ=コルテスAOCが:カマラ・ハリスが「ガザでの停戦確保に精力的に取り組んでいる」というあからさまな嘘を広めると、AOCを信頼する人々は安心して、大量虐殺を終わらせろという要求をやめることになる。現政権は、この問題に対処できると信頼しており、ガザを救うために必要なのは11月に副大統領に投票することだけなのだと、極左として売り出された、この女性下院議員は人々に語っている。
 共和党員に、このような操作を強いる必要はない。共和党員は、イスラム教徒を絶滅させるべきだと信じ、イエスを復活させ、異教徒全員を地獄で焼くという聖書の予言を実現するというだけの理由で、ガザでのイスラエルの残虐行為を支持しているのだ。このような操作は、ガザで起きていることを知って、この大量虐殺を終わらせるため、あらゆる手段を講じるような人々を政治的に無力化するためにのみ必要なのだ。

 だから、もし民主党が、そのふりをしている通りのものであれば、世界の多くの問題は存在しなかったはずなのだ。もし民主党が、本気で共和党の最も病んだ衝動に対抗して、本気で平和と正義と平等と一般労働者を支持していれば、アメリカのみならず、世界中で見分けがつかないほど事態は違っていたはずだ。善人が何もしないのではなく、何かをするがゆえに、悪は勝利できないのだ。
 このようなことが起きるのを防ぐために民主党は存在している。悪の派閥に善の派閥が対抗する代わりに、世界最強力で影響力ある政府には、悪の計画を推進するために協力する二つの悪の派閥があるのだ。しかし、これが非常に破壊的になっているのは、単に公然と悪の派閥が二つあるせいではない。公然と悪の派閥が一つあり、もう一つの派閥は、悪の派閥に対して、善人と共に立っているふりをしているのだ。
 もしそれが明らかに邪悪な二つの派閥だったら、自分達の目標がどちらの党にも代表されていないのを善人は即座に認識し、本当の革命運動が生じるはずだ。民主党がこれほど効果的な心理作戦になっている理由は、国内で権力と影響力を持つ連中全員敵だという認識を善人にさせないためだ。そして、それに応じた対応をさせないことだ。

 アメリカの進歩主義者連中は、停戦や二国家解決について、そのどちらも実現する本当の意図を持ったことがない政党の空虚な言葉で、10か月半も麻痺状態に陥っている。ネタニヤフ政権そのもの同様に、バイデン政権は、イスラエルの大量虐殺残虐行為の罪を犯しているが、口先だけで、人道的懸念をし、和平に向け取り組むふりをしながら、ネタニヤフに対して、バイデンがどれほど怒り、厳しい態度を取っているかという話をマスコミに頻繁に漏洩して、多くの人々の目に、この罪を覆い隠しているのだ。
 それが今回の大統領選唯一の特徴だ。初の女性大統領を選出しないこと。トランプを阻止しないこと。(それが何を意味するにせよ)アメリカ民主主義を救わないこと。今回の大統領選唯一の特徴は、アメリカ二大政党の一方が、恐ろしい大量虐殺でパレスチナ人を虐殺してきた政権を支持しながら、パレスチナ人のために平和と正義を求めると主張しているのだ。
 それが民主党の効果で、10月7日よりずっと前から連中はそうしてきたのだ。前任者の最も堕落した残忍な政策を全て継続し拡大しながら、オバマは深い思いやりと平和と正義への愛を表現する華麗な散文の織物を織り上げて政治的遺産を作り上げた。バイデン就任時、欧米諸国のリベラル派は安堵のため息をついた。なぜなら、ようやく「大人が部屋に戻ってきた」からだ。そして今や彼は、本物の大量虐殺を支持しながら、核超大国に対する代理戦争を着実にエスカレートさせている

 国内外での果てしない暴力や抑圧や搾取に依存して存続している帝国には、そうした物事に反対するような主要政党を持つ余裕はないのだ。だから、そういう政党はないのだ。そして、そうであるかのように装いながら、そうではないからこそ、連中はこの暴政への異議申し立てを政治討論の片隅に追いやれるのだ。
 だから共和党よりも民主党を私は批判するのだ。彼らの方が、より多くの批判を必要とするからだ。共和党が悪なのは良心がある人なら誰でも一目でわかる。一方、民主党が悪なのは遙かにわかりにくく、理解するには通常より多くの意識や論評が必要だ。

 「悪の勝利のために必要なことは、善人が何もしないことだけだ」という認識を帝国は武器にしてきた。それゆえ、民主党は善人ではなく、良いことをしていない現実を広めることは、その武器を奪うのに役に立つのだ。
 善人が何もしない限り、悪は勝利し続けるだろう。そして、悪を確実に勝利させることだけを目的とする政党に、自分たちの価値観や願望が代表されていると善人が思い込んでいる限り、彼ら何もしないまま居続けるだろう。そういう思い込みの粉砕が、健全な世界への絶対的に不可欠な第一歩だ。これこそが世界中の善人が目指すべき主要目標だ。

  (中 略)

記事原文のurl:https://caitlinjohnstone.com.au/2024/08/23/the-democratic-party-exists-to-make-sure-good-people-do-nothing/  

2024年8月29日木曜日

関東大震災 朝鮮人虐殺101年を前に差別反対のパレード 在日朝鮮人と日本人の学生

 関東大震災・朝鮮人虐殺から9月1日101年になるのを前に、在日朝鮮人の学生や日本人の学生ら約10027日、新宿駅東口前から都庁にかけて昨年に引き続き2回目のデモ・パレードを行いました。小池百合子都知事が虐殺犠牲者の追悼式典に追悼文を送付しない姿勢を取っていることに対し「東京都は朝鮮人虐殺を否定するな」などとコールしました。

 1923年の大震災後「朝鮮人が井戸に毒を入れた」などの流言が広がり、数干人といわれる朝鮮人が軍隊や民衆によって虐殺されました。墨田区の横網町公園に建てられた追悼碑は、関東大震災から50年目の1973年に、虐殺の犠牲となった朝鮮人らを悼む目的で当時の実行委員会が寄付を募り都と連携して建立し、翌74年から毎年9月1日に追悼式典を開いてきました。それ以降歴代の都知事が追悼文を送ってましたが、小池都知事は2017年からそれを拒否しています。
 その理由が「大震災による極度の混乱下での事情で犠牲となった方も含めて、全ての方々に対して慰霊する気持ちを表している」という、大震災により亡くなった被災者への追悼に震災とは別の虐殺による犠牲者への追悼も含めるという、到底通用し得ない、常識に反するものでした。
 小池氏はまた大震災での朝鮮人虐殺について問われても、「何が明白な事実かについては歴史家がひもとくもの」などと述べて事実だと認めようとしません。事件後100年も経過したのに未だに「虐殺はなかった」というような説が存在すると本当に思っているのでしょうか。広い地域に渡って虐殺が行われたために犠牲者の正確な数は確定されていませんが、数千人に上ることは明らかで、大虐殺自体を認めようとしないのは余程どうかしています。
 虐殺を否定する組織に「そよ風」がありますが、小池氏はそこの幹部とかつて親交があったことが知られています。従ってその影響が考えられますが、余りにも偏っていて常識のある人間が取るべき態度ではありません。
 しんぶん赤旗の3つの記事を紹介します。
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関東大震災 朝鮮人虐殺101年を前に差別反対のパレード 在日朝鮮人と日本人の学生
                        しんぶん赤旗 2024年8月28日




「東京都は(関東大震災での)朝鮮人虐殺を否定するな」とコールする参加者=27日、東京都内




 関東大震災・朝鮮人虐殺から9月で101年になるのを前に、虐殺の歴史を記憶し、差別に反対する在日朝鮮人の学生や日本人の学生らが27日、東京都内でデモ・パレードを行いました。小池百合子都知事が虐殺犠牲者の追悼式典に追悼文を送付しない姿勢を取っていることに対し、「東京都は朝鮮人虐殺を否定するな」などとコールしました。

 昨年に続き2回目となったデモ・パレードには各地から約100人が参加。新宿駅東口前から都庁にかけて歩きました。
 愛知県から来た在日朝鮮人4世で大学3年生(20)は、朝鮮学校に対する自治体の補助金が停止されている問題について、「朝鮮人への差別は現代でも起きている。今すぐ是正してほしい」と話しました。
 女性(23)=千葉県=は、日本の植民地支配から解放された「光復節」に合わせ、大学のゼミ仲間と渡韓した際に現地の活動家の思いにふれ、初めてデモに参加。「小池都知事は虐殺犠牲者への追悼文を送るべきだ」と語りました。
 都庁前のスタンディングでは、一橋大学大学院で朝鮮近現代史を専攻している男性(24)がスピーチ。朝鮮人虐殺は国家的犯罪であるとし、「公権力が差別に“NO”とはっきり言わなければ、差別はなくならない。国や都は歴史わい曲をやめ、植民地支配の責任を果たすべきだ」と訴えました。


追悼文拒否 小池都知事に抗議 朝鮮人犠牲者追悼式典 実行委、声明提
                        しんぶん赤旗 2024年8月27
 関東大震災時のデマにより虐殺された朝鮮人犠牲者への追悼文について、東京都の小池合子知事が今年も送付を拒否した問題で、追悼式典の実行委員会は26日都庁を訪れ都知事あての抗議声明を提出しました。歴史的事実を「なかったことにしたい、との思いがあるのではないか」と批判し、都知事に再考を求めました。
 1923年の大震災後、「朝鮮人が井戸に毒を入れた」などの流言が広がり、数干といわれる朝鮮人が軍隊や民衆によって虐殺されました。追悼式典は毎年9月1日、東京都墨田区の横網町公園で行われています。74年以降、歴代知事が追悼文を送っていましたが、小池知事は2017年から拒否しています。
 26日、都庁で会見した式典実行委員会の宮川泰彦実行委員長は「大地震という自然災害により命を失った被災者への追悼と、人の手によって命を奪われた被害者への追悼は意味合いが異なる」として、小池都知事が送付を拒否した理由について批判。「人として恥ずかしかった歴史に目を向けず逃げまわる。その姿こそが恥ずかしい」「事実に向き合い、二度とこのような過ちを起こさないよう、自治体の長としての態度を明確にすべきである」と述べました。
 声明を受け取った都の担当者は「都知事、関係者にすみやかに伝えたい」と答えました。


主張 朝鮮人虐殺と知事 史実を直視し追悼文の送付を
                        しんぶん赤旗 2024年8月28日
 東京都の小池百合子知事は、1923年の関東大震災直後に虐殺された朝鮮人犠牲者らを追悼する式典に今年も追悼文を送らない考えを示しています。
 歴代都知事は式典に追悼文を送ってきました。ところが、小池氏は知事に就任した2016年は送付したものの、翌年からは取りやめました。今回も見送れば8年連続となります。式典を主催する実行委員会(日朝協会東京都連合会などで構成)が、小池氏の追悼文送付拒否を厳しく批判しているのは当然です。

■式典の意味を無視
 追悼式典は9月1日に都立横網町公園(墨田区)内にある東京都慰霊堂そばの朝鮮人犠牲者追悼碑の前で営まれます。追悼碑は関東大震災から50年目の1973年に虐殺の犠牲となった朝鮮人らを悼む目的で当時の実行委員会が寄付を募り都と連携し建立したものです。翌74年から毎年、大震災のあった9月1日に追悼式典を開いてきました。
 小池氏が追悼文を送るのをやめたのは、2017年3月の都議会で自民党の古賀俊昭議員(当時)が碑文の内容などに難癖をつけ、碑の撤去や追悼文送付の再考を求めてからでした。
 小池氏は今月23日の記者会見で、追悼文を出さない理由について「(9月1日に)東京都の慰霊堂で開かれる大法要で、(関東大)震災による極度の混乱下での事情で犠牲となった方も含めて、全ての方々に対して慰霊する気持ちを表している」と、これまでの主張を繰り返しました。
 しかし、朝鮮人犠牲者追悼式典は「人の手によって命を奪われた朝鮮人犠牲者を追悼し、二度と同じ過ちを起こさないことを誓い合う式典」(実行委員会)です。大地震による自然災害で命を失った被災者への追悼と、震災とは別の人災による犠牲者への追悼は意味が異なります。そのため歴代の知事は都慰霊堂の大法要で追悼の辞を述べるとともに、朝鮮人犠牲者追悼式典に追悼文を送ってきました。小池氏の態度は式典の意味を無視するものです。

■虐殺は歴史の事実
 小池氏は、大震災での朝鮮人虐殺について問われても、「何が明白な事実かについては歴史家がひもとくもの」などと述べ、事実だと認めません。しかし、大震災の発生直後から、朝鮮人が暴動を起こすなどといったデマが流れ、軍や警察、自警団が集団虐殺を行ったことを示す公的資料は数多く存在しています。
 政府の中央防災会議の「災害教訓の継承に関する専門調査会」は09年に関東大震災に関する報告書を公表しています。
 同報告書は「当時の公的機関が作成した記録に依拠」してまとめたもので、「朝鮮人が武装蜂起し、あるいは放火するといった流言を背景に、住民の自警団や軍隊、警察の一部による殺傷事件が生じた」「武器を持った多数者が非武装の少数者に暴行を加えたあげくに殺害するという虐殺という表現が妥当する例が多かった」と明確に認定しています。

 朝鮮人虐殺は動かしようのない歴史の事実です。「極度の混乱下での事情で犠牲となった」などとあいまいにすることは許されません。小池氏は史実を直視し、追悼文を送るべきです。

29- 日本企業が「賃上げ」をできない「根本的な理由」…経営者たちが「仕事をサボっている」から

 経済評論家 加谷 珪一氏が掲題の記事を出しました。
 同氏は東北大工学部(原子核工学科)を卒業後日経BP社記者となり、さらに投資ファンド運用会社に転じた後に独立し、中央省庁や政府系金融機関など対するコンサルティング業務を行うという変わった経歴の持ち主です。

 かつて日本は驚異的な経済成長を遂げて「ジャパン・アズNO.1」と称された時期もありました。しかしその後は、1997年~2017年の20年間に米国が3.0倍に、ドイツが2.7倍などと先進各国は企業全体の売上高を軒並み2~3倍に伸ばしましたが、日本だけは時間が止まったかのように1997年で停止したままで推移しました。
 その結果19年には、外国人が働きたい国で日本が33カ国中32位に19.10.2)落ち、20年には「日本は物価も賃金も安い国中国人観光客が日本に大挙する理由20.1.31)…と書かれる国に変わり果てました。当然、「超円安でも為替介入できない理由/良い円安などあり得ない22.4.30)」ので、いまや 庶民は円安に起因する激しいインフレに見舞われ生活苦に喘いでいます。(茶色部分は当ブログで紹介した加谷 珪一氏の論文です)

 加谷氏は、賃金問題の本質は極めてシンプルであり 賃金は企業の売上総利益(粗利)を原資としているので、それが増加しなくては企業は賃上げを実現できないと述べています。
 粗利が変わらない中で賃金を上げれば最終利益減額するので、企業としては粗利を増やすか、他のコストを削減するかのどちらかを選ぶしかありません。今の日本では賃上げする代わりに役職手当を廃止するといった方法で総人件費が増えないよう調整し、基本的にコスト削減のみで利益を維持しようと試みているから結局賃金が上がらなくなったと述べています。
 本来は経営の革新で生産性を向上させて粗利を拡大すべきであったのに日本企業 I Tへの投資が過去30年間横ばいになっているが決定的に問題であると述べます。そして諸外国では当たり前となっている業務のデジタル化をほんの少しでも前に進めれば、その分だけ生産性が向上し、賃金の上昇につながることは全世界的に証明済みである述べています。ごくわずかな変革さえ実現できれば賃金は容易に上昇していくと 
 残念ながら企業における「業務のデジタル化」が具体的にどんなことをイメージしているのか、その分野に疎くて見当もつきませんが世界の常識(日本では、先進的な認識を持っている人々)できっと自明のことなのでしょう。

追記 「デジタル化」というとすぐに河野担当相の顔が浮かんで来ますが、彼は「あらゆる個人データをマイナカードに紐づけ」するのがデジタル化の在り方だと大真面目で思い込んでいたようなのですが、それこそがデジタル化を履き違えたもので、世界の趨勢に逆行することだったのでした。

 次回の内閣改組では真っ先にその担当から離れるべきでしょう。蛇足ながら 
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日本企業が「賃上げ」をできない「根本的な理由」…経営者たちが「仕事をサボっている」驚きの現実
                     加谷 珪一 現代ビジネス 2024.08.28

 加谷 珪一 プロフィール
  1969年宮城県仙台市生まれ。東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記
 者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務
 を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関など対するコンサルティング業務に従事。
 現在は、経済、金融、ビジネスなど多方面の分野で執筆活動を行っている。著書に『ス
 タグフレーション』(祥伝社新書)、『貧乏国ニッポン』(幻冬舎新書)、『縮小ニッ
 ポンの再興戦略』(マガジンハウス新書)、『戦争の値段』(祥伝社黄金文庫)などが
 ある。

賃上げ問題は、今や日本における最大の論点に浮上しているが、状況は改善していない。日本企業は過去30年間売上高をほとんど伸ばしておらず、賃上げの原資をまったく獲得できていない。こうした状況でいくら政府が賃上げを求めても、他の部分のコスト削減で調整してしまうため、全体の賃金は上がらない。賃金を継続的に上げていくには、企業の業績拡大が必須となる。

賃金を上げる方法は2つしかない
賃金が上がらない問題について、多くの論者が小難しい議論を展開しているが、賃金問題の本質は極めてシンプルである。賃金というのは企業の売上総利益(粗利)を原資としており、ここが増加しない限り、理屈上、企業は賃上げなど実現できないからである。
あらゆる企業利益の源泉となるのは、売上高から原価(仕入原価もしくは製造原価)を引いて得られる売上総利益である(売上総利益は会計上の用語であり、商売の現場では一般的に粗利と呼んでいる)。企業の最終利益は、売上総利益をベースに、ここから人件費や広告宣伝費、減価償却費など各種経費を差し引いたものなので、売上総利益が変わらない状態で賃金を上げてしまうと、最終利益は減額となってしまう。こうした事態を回避するには、売上総利益を増やすか、あるいは他の経費を削るしか方法はない
簡単に言ってしまうと、賃金を上げるためには、売上総利益を増やすか、他のコストを削減するかのどちらかを選ぶ必要があるのだ。
今の日本はまさに後者となっており、多くの企業が、賃上げを行っても役職手当を廃止するといった方法で総人件費が増えないよう調整している。どうしても総人件費が増えてしまう場合には、他の支出を削減して対処するので、結果的にそのシワ寄せは、取引先の中小企業などに及んでしまう。日本全体で賃上げが進まないのは、企業が基本的にコスト削減のみで利益を維持しようと試みているからである。
事態を改善するには、企業の粗利を増やす必要があり、その最も有益な手段が売上高の拡大なのだが、日本企業の現状はお寒い限りだ。

1は日本と米国、ドイツにおける企業全体の売上高推移を示したグラフである。1997年における各国企業の売上高を100とした場合、過去20年でドイツ企業は売上高を27倍に、米国企業は3倍に拡大させたことが分かる。一方、日本企業は売上高がほとんど伸びておらず、ほぼ横ばいの状態が続いている



20年以上、企業の売上高が横ばいというのは、それ自体が異常な状況といえる。同じ期間、世界経済は順調に拡大を続けてきた現実を考えると、日本企業の売上高が横ばいというよりも、諸外国の3分の1に減少したと考えた方が実態に即しているだろう。この異常さに多くの人が気づいていないことこそが、問題の深刻さを物語っている。

コストカットに邁進し、内部留保だけが増大
では、売上高がほぼ横ばいで推移する中、企業はどのような振る舞いをしてきたのだろうか。図2は日本企業の売上高と営業利益率、内部留保の推移を示したものである。



日本企業全体の売上高は、過去20年以上にわたって1400兆円から1500兆円の間を行き来しているだけであり、先ほど説明したように、ほぼ横ばいの状態が続いている。企業会計の原則上、極端なコスト削減を実施しない限り、売上高が伸びなければ利益が増えることはない。ところが日本企業全体の営業利益率は、多少の増減はあるものの過去20年以上にわたって増加を続けている
つまり、日本企業は売上高が横ばいであるにもかかわらず、利益だけを継続して増やしてきた図式であり、それはとりもなおさず、コスト削減ばかり実施してきたことに他ならない。コスト削減の対象は当然のことながら人件費にも及んでおり、企業は人件費総額の抑制策を続け、結果として労働者の賃金は下がる一方だった。
また、外注先に対する代金の支払いについても、過度な値引き要請が常態化していた可能性が高く、業務を請け負う中小企業側は売上が小さくなってしまうため、当然のことながら賃上げを行うことができない。
日本では長くデフレ続き、物価が下がり続けたとされているが、これもある種のイメージにすぎない。
2000年から2010年代にかけて物価はほぼ横ばいの状態であり、2010年代以降、物価は継続的に上がっていた。実質賃金がマイナスなのは、物価に対して賃金が追い付いていないことが原因であり、全体の物価水準下落の影響ではない。整理すると、日本において賃金が上がらない最大の原因は、企業の売上高が伸びていないことに尽きる。

日本企業は積極的に現状維持を選択してきた
企業というのは明確な意思を持った組織であり、その意思を体現するのは株式会社であれば取締役会、つまり経営陣ということになる。過去30年間、日本企業の売上高が横ばいで推移してきたのは、日本企業の取締役会が明確に現状維持を選択したからに他ならない。
日本の賃金低下が企業の現状維持によってもたらされたのだとすると、持続的な賃上げを実現するには、日本企業の経営を変えるしか方法はなく、この議論を抜きにして賃上げを実現することは不可能である。
経営を変えるといっても、日本においてイーロン・マスク氏のような天才経営者を育成せよといった突飛な議論をしているのではない。例えば、日本企業のIT投資は過去30年間横ばいと、こちらも異常な状態が続いてきた。諸外国では当たり前となっている業務のデジタル化を、ほんの少しでも前に進めれば、その分だけ生産性が向上し、賃金の上昇につながることは、全世界的に証明済みである。
こうした最小限の改革すら拒んでいるのが日本企業の現実であり、裏を返せば、ごくわずかな変革さえ実現できれば賃金は容易に上昇していく。

最近ではようやく内部留保という言葉が社会に浸透するようになり、企業が利益を溜め込み、先行投資を怠っているという現実が共有されるようになってきた。内部留保の全額がキャッシュというわけではないが、最低限のデジタル化を進める原資はすでに企業内部に蓄積されている。あとはこのキャッシュを先行投資として有効活用するのかについて決断するだけだ。