2024年9月25日水曜日

25- ロシアの兵器製造工場としてフル操業続ける北朝鮮 ~ ミサイル製造ノウハウ蓄積

 JBpressに西村 金一氏による掲題の記事が載りました。
 ウクライナ(連合軍)にクルスクを侵攻されたロシアはいま、大量のミサイルと無人機攻撃で報復しています。しかしそれらの武器弾薬は自国だけでは賄い切れないので、北朝鮮製のミサイルが使用されているということです。
 昨年来ロシアの協力の下(技術・材料・エネルギーの供給など)、 北朝鮮はロシアの兵器製造工場として着々と準備が整えられて、いまやロシアへのミサイルや弾薬の有力な供給国になっています。
 ウクライナ戦争の先行きについては、ようやくフランスのマクロン大統領が終戦の必要性に言及するなどそれに向けた機運が盛り上がっていく感じがあります。しかし実際にそうなるまでにはまだまだ時間を要することでしょう。
 西村氏は、結果的に北朝鮮はウクライナ戦争の間に兵器製造能力を飛躍的に高めることができるので、ウクライナ戦争後には北朝鮮の軍事的脅威が飛躍的に高まることになると述べています。
 しかし北朝鮮は現在 桁外れの軍事力を持つ米日の脅威に晒されているのですから、仮にそうなったとしても一方的に非難することはできません。
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ロシアの兵器製造工場としてフル操業続ける北朝鮮、ウクライナ後がやばい
ロシアから技術や材料・エネルギー供給受け、ミサイル製造ノウハウ蓄積
                       西村 金一 JBpress 2024.9.23
 北朝鮮は、①圧倒的な戦争対応能力と完全な軍事的準備態勢を整える、②兵器の開発・生産を拡充させる、③核兵器の数を幾何級数的に増やすという方針のもと、核兵器とミサイルの開発と生産を進めている。
 その一環として、各種ミサイルの発射実験を行ってきた。
 しかし、最近、北朝鮮のミサイル開発・製造の進展内容が少し違ってきている。
 それは、2023年8月以降、大量の発射装置に搭載されたミサイルを配列した写真が掲載されるようになったことで判明した。
 つまり、北朝鮮は、昨年から、「量」を生産することを重点に転換したのだ。大量生産のために北朝鮮が進めてきた実態を考察する。

1.各種ミサイル実験からミサイル大量生産へ
 特に注目されるのが次のことだ。まず、2023年8月11日と12日に、金正恩総書記は、戦術ミサイル生産工場を現地視察した。
 そして、「工場が我が軍隊の戦争準備を進める上で担っている責任が極めて重大だ」「砲弾の生産を幾何級数的に増やすことが非常に切実な問題だ」と訴えた。
 次に、2024年8月(前回視察の1年後)、軍需工業部門の各重要企業が生産した250台の新型戦術弾道ミサイル発射台を国境第一線部隊に引き渡す儀式が首都平壌で執り行われた。
 この時、軍需工業部門の労働者たちは、武力装備の増産という重大な使命感を自覚し、軍需生産の重要目標を達成したと賞賛された。

2.どこかに消えた大量製造されたミサイル
 250台のミサイルは、「火星11号ラ」であるという情報がある。
 その形式や能力は、2連式の短距離弾道ミサイルで、射程110キロ以上、改良型は約300キロという。
 このミサイルが第一線地上部隊に配備されるというのは、ミサイル運用上はあり得ない。
 その理由は、ミサイル運用はミサイル上級司令部(ミサイル軍団あるいは師団)部隊の指揮下により統一して運用されるものだからだ。
 第一線地上部隊がミサイル部隊を運用することはあり得ないのだ。
 また、このようなミサイル部隊が、第一線部隊の戦闘を直接支援することは基本的にはない。
 韓国国防部の発表でも、「これらのミサイルは、第一線の地上部隊に配備された形跡はない」という。
 では、これら250台はどこに行ったのか。行き先は、第一線部隊の後方の坑道陣地の中か、あるいは、ロシアに輸送されたのか。
 これほど多くのミサイルが、韓国情報機関に発見されていないことを考えれば、北朝鮮の国内に存在するというよりは、ロシアに輸送された可能性の方が高いと見られる。

3.北朝鮮からの供給が頼りのロシア
・ロシアの作戦上の必要性
 現在、ウクライナ戦争でロシアは、クルスクをウクライナに侵攻されている。
 このことで、ロシアは第2次世界大戦以降、自国の領土が攻め込まれるという不名誉な事態を招いた。そして、この仕返しに大量のミサイルと無人機攻撃を行っている。

・北朝鮮の弾薬・ミサイルに依存している
 ロシアは、多くのミサイルや砲弾をウクライナに撃ち込む必要に迫られ、北朝鮮製のミサイルも使用されている。
 ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領もこれに懸念を示している。
 北朝鮮が提供しているミサイルは、「イスカンデルM」ミサイルとほぼ同じ形状の「KN-23」だとみられている。

・ロシアは戦術ミサイルであれば何でも必要
「火星11号ラ」ミサイルもロシアに移送されていると考えられる。
 北朝鮮は今、この時期に1種類のミサイルを大量に保有することが喫緊の課題なのだろうか。
 いや、必要なのはロシアが戦局を打開することであろう。

・ロシアの大規模弾薬庫がウクライナ無人機に破壊される
 ロシアは大量のミサイルや砲弾を必要とし、保管している。
 だが、ウクライナはロシアの大規模弾薬庫、具体的には2024年7月にはボロネジの弾薬庫2024年9月にはトロペツ弾薬庫(これまでで最大規模の爆発)を大量の自爆型無人機を使って爆破した。
 その中には、北朝鮮のミサイルも保管されていたという。ロシアは、近いうちにミサイル不足に陥る可能性がある。

・ロシアは、北朝鮮が生産するすべてのミサイルを必要としている
 ロシアは今後も、ウクライナの都市などを大量のミサイルで飽和攻撃を行う必要性から、ミサイルができるだけ多く欲しい。
 北朝鮮が製造すれば、多くを購入するだろう。今この戦いで、勝利のための一つの手段は、ミサイルなのだから。

4.兵器を大量生産する基盤はあったのか
 ミサイルを製造するには、爆薬・推進薬に加えて、技術力、鉄鋼生産力、電力、労働力が必要である。
 北朝鮮の技術力は、ロシアから提供を受けた技術やこれまでの開発の経緯からみて「ある」とみてよい。
 鉄鋼生産能力については、国力から、あるいは、ロシアからの支援でミサイル製造のための量を確保することはできるであろう。
 労働力は、これまで兵士に製造させていたが、これだけ大量に生産するには、「不足」しており、民間の労働力を早急に必要としている。
 爆薬と推進薬製造施設は、平壌の北約20キロにある順川に位置する順川燐酸肥料工場2020年に建設を完了させていた。
 その竣工式には、当時死亡説まで流れていた金正恩氏が突然出現したこともあって注目された。
 その工場は、建物を詳細に見ると肥料も製造しているが、主に弾道部分の火薬やミサイルの推進薬となる燃料を製造している。
 これから、大量のミサイル等を生産するために必要となるものは、電力、そして、労働力である。
 電力は極端に不足していたが、最近、ロシアから供給を受け、あるいは火力発電の燃料をロシアから供給を受け、ミサイルを生産するための電力量は確保しているだろう。
 ミサイルの製造、あるいは製造するための工場施設、工場を動かす発電と送電施設を建設するため、および材料などを運搬する輸送力を担う「労働力」が必要になる。
 兵器製造施設には、これまで製造していた規模の労働力しかない。
 急速に製造するためには、すぐに働ける労働力が必要になる。それを北朝鮮はどこから集めるのだろうか。

5.労働力を意外なところから連れてきた
 北朝鮮は機械力がないために、ほぼ人海戦術で多くの労力をまかなってきた。そのため、慢性的に労働力が不足しているのが現状だ。
 さらに今回、ロシアの要求を受けて兵器、特にミサイルを増産するために、兵器製造工場や発電所を建設するための労働力が必要になってきている。
 これまでは、軍兵士がそれらの製造を担ってきたが、ロシアの緊急な要求に応じるために、兵士以外の労働力を求めている。
 それらの労働力をどこから持ってくるのか。
 それは、水害を受け、家屋や畑地を失った人々のようだ。
 水害を受けた人々は、家も土地も失ったために、とりあえず住む家や食料、そして働く場所が必要だ。
 北朝鮮政府も、ロシアの兵器要求を達成するために、元気な労働力が必要である。
 被災者にとっても、北朝鮮政府にとっても渡りに船なのである。

6.北朝鮮は、大量の兵器製造国家に突き進む
 北朝鮮は、ロシアとの関係緊密化に伴い、ウラジーミル・プーチン大統領の求めに応じて兵器を生産し、ロシアへミサイルや弾薬を提供する。
 その見返りに、ロシアは兵器製造の技術や兵器を製造するための電力の供給、火力発電所の燃料を供給する。
 ロシアがミサイル用の鉄、電力、技術力、ミサイルを製造する機械を提供してくれるのだ。
 これから製造施設が出来上がり、ミサイルを製造する人員も揃うことになる。
 ウクライナ戦争中、北朝鮮は、ロシアが戦争を遂行するための大量の兵器・弾薬を製造する工場となる
 その間、北朝鮮では武器製造施設が多く完成する。その後、工場は稼働する。
 工場稼働のための電力も供給され、労働者も武器製造に慣れてくる。
 北朝鮮は、ウクライナ戦争間に兵器製造能力を飛躍的に高めることができる
 ウクライナ戦争が終われば、これらの製造能力を自国の軍事力増強のために振り向けることができる。ウクライナ戦争後には、北朝鮮の軍事的脅威が飛躍的に高まることになる。
 日本や米国、韓国は、それに対応するための準備を今からしておかなければならない。
 ウクライナ戦争は、どこか遠い国の出来事ではないのだ。