2024年9月21日土曜日

解雇規制緩和を目玉政策で訴えた小泉進次郎の愚 - 祖法に固執する菅義偉の狂気

 世に倦む日々氏が掲題の記事を出しました。
 ここで「祖法」という見慣れない言葉が登場しますが、NETで検索すると「祖先から代々伝わるしきたり」となっています。
 ご存知のように次期自民党総裁の大本命として、マスコミ対策を含めて周到に準備したうえで舞台に送り出された小泉進次郎氏でした(9月14日)小泉進次郎一択でマスコミが宣伝に狂奔する自民党総裁選 が、候補者同士の討論会が繰り返されるごとに、小泉氏には中身がないだけでなく「猛毒の新自由主義者」らしいことが明らかになって人気は下がる一方なので、上位2位に食い込めるかは大いに疑問です(決選投票に持ち込めれば勝算はあるのでしょうが)。
 小泉氏の選挙参謀は言うまでもなく菅義偉氏で、政策アドバイザーは竹中平蔵氏といわれいて、小泉氏が首相になれば菅氏は少なくとも党の要職に、竹中氏は閣僚に就く予定とされています。「新自由主義者 菅ー竹中ラインで踊らされる小泉」は想像したくもない構図です。

 識者の中には、「新しい首相が決まった直後の衆院選は兎も角、来年夏の参院選までにはメッキは全部剥がれるので、自民党の参院議員の間には『小泉では戦えないという思いが広がっている』と指摘する人がいます。
 菅氏がそこまで考えていたのかどうか、小泉氏の総裁当選はかなり困難なように思われます。
           ~~~~~~~~~~~~~~~~~~
解雇規制緩和を目玉政策で訴えた小泉進次郎の愚 - 祖法に固執する菅義偉の狂気
                       世に倦む日日 2024年9月17日
9/12、自民党総裁選が告示され、NHKで党本部での立会演説会が中継され、夜に報ステで討論会が行われた。生放送のスタジオに9人の候補者が並んだ。自民党総裁選の電波ジャックが本番に突入し、以降、マスコミが伝える話題と関心がそれ一色に染まっている。1か月半後の総選挙で自民党が勝つため、自民党に勝たせるため、マスコミが総力を挙げて宣伝ショーを盛り上げ、国民の意識をそれ一色に漬け込んでいる。仮に1か月半後に衆院選があるとして、当然、その争点は「自民党の裏金問題」であり、国民の批判を浴びた自民党が厳しい審判を受ける選挙であるはずだ。であるなら、テレビの関係者は、そうした設定で総裁選報道の番組を組むべきだろう。この半年間、候補9人が裏金問題で何を言ったか、証拠映像を示して検証し、国民からの追及と批判を代弁しないといけない。

だが、実際にはそうなっておらず、逆であり、総裁選ショーを彼らの禊の場にしている。「自民党は生まれ変わらなければならない」というメッセージを拡散させ、視聴者に刷り込み、裏金問題への批判を煙に巻いて始末するべくお祭り騒ぎしている。その演出役として、田崎史郎や秋山訓子や大越健介らがショーをプロデュースしマネジメントしている。マスコミが自民党と一体で、裏金問題の軛から自民党を脱却させ、清算の空気を醸成し、次の4年間の政権を与えようとしている。9人の候補者に反省の顔つきは全くない。総裁になる野心、総裁選後のポストと立ち回り、総選挙を自民党勝利に持ち込むためのパフォーマンスしか念頭にない。3補選で惨敗して、有権者の怒りの民意の前で恐縮した姿が蒸発している。9人の意識は、岸田文雄の退陣が裏金問題のけじめであり、それで済ませて終わった他人事なのだ。

告示のあった 9/12 の朝、起きてPCを立ち上げると、のトレンド欄に「増税王子」のキーワードが上がっていた。続けて「年金80歳」も載り、夜までずっと残って話題になっていた。9/11 にプレジデントの渡瀬裕哉の記事が上がり、小泉進次郎を「増税王子」と呼んで手厳しく批判、その指弾とタイトルが注目されて炎上したらしい。「年金80歳」の方は、同じく 9/11 の日刊ゲンダイの記事が元情報になっていて、で轟然と非難が上がる展開となったようだ。小泉進次郎が18年に自民党の厚労部会長に就いた後、「65歳以上は『高齢者』なんてナンセンス」、「『現役世代』の定義を18ー74歳に変更」、「年金の受給開始年齢は『80歳でもいいのでは』」と、講演やインタビューで主張していたとある。9/12 のは、小泉進次郎を激しく叩く一日となった。単なるピエロではなく、猛毒の新自由主義者らしい。

小泉進次郎は、なぜ堂々と解雇規制緩和を公約の目玉に据え、この政策の実現をコミットする行動に出たのか。それは、本当に解雇規制緩和をするから予告して地均しに出たというのが一点で、また、新総裁当選が確実だと本人と周囲が確信しており、解雇規制緩和を言ってもレースに悪影響はないと判断していたからというのがもう一点である。絶対の自信があるのだ。小泉純一郎の「聖域なき構造改革」は、医療費を中心とする社会保障予算を削減する政策で、病院のベッド数を減らすとか、患者の入院日数を減らして追い出すという内容だった。それを「痛みを伴う改革」と呼び、なぜかマスコミが礼賛していた。小泉進次郎の解雇規制緩和も、文脈としてそれを踏襲した中身で、「聖域なき規制改革」という同義のフレーズを使っている。本人と周辺(菅義偉)の頭の中では、小泉純一郎の成功体験を再現しようという目論見があるのだろう。

小泉進次郎と周辺(菅義偉)にとって、総裁選レースの勝者は最初から決まっていて、小泉進次郎が勝つという想定しかないのだ。無理もない。8月14日時点で、対抗馬は石破茂だけであり、二人の決選投票になった場合、議員票は石破茂には入らない。田崎史郎や後藤謙次や久江雅彦などマスコミ関係者を総動員して、石破茂を貶し、小泉進次郎に風を吹かせ、「世論調査」の数字を出せば、自動的に想定どおりになるだろうと、そう考えるのが当然だ。裏では、菅義偉が自民党議員に恫喝と威圧をかけ、決選投票で進次郎に入れなかった場合は人事で干すぞと脅しまくっている。表と裏で大攻勢する作戦を8月中旬に周到に固めていた。他の候補の誰よりも、進次郎陣営は早く総裁選に着手し、準備を整え、主導権を握って完勝する戦略設計で臨んでいた。田崎史郎や後藤謙次や杉田弘毅や秋山訓子が、菅義偉の手駒だった。嘗ての官房長官時代からの関係で。

小泉進次郎の頭の中では、解雇規制緩和は大量の失業者を出す政策だけれども、父親の「痛みを伴う改革」と同じで、大企業経営者から歓迎され、マスコミと世論からも支持され、総選挙で公約してもマイナス材料にはならないという判断があるのに違いない。われわれからすれば、それは誤解であり妄想だが、竹中平蔵から入念にレクチャーされ、菅義偉からも強く励まされ、本人の中で歪んだ展望と信念が出来上がったのだろう。竹中平蔵と菅義偉にとって、日本の解雇規制自由化は積年の悲願である。小泉進次郎が新総理となった暁には、竹中平蔵が何らかのポジションで官邸にカムバックするのは必定で、経済政策の意思決定に再び大きく関与するはずだ。菅義偉も副総理か副総裁に座って睨みを利かすだろう。菅義偉にとって、新自由主義の永久革命は未完であり、突然出て来た岸田文雄に邪魔されて、中途で立ち止まって道草を食わされたという不具合な認識に他ならない。

小泉進次郎は、標語の「聖域なき規制改革」と看板の解雇規制緩和について、小泉純一郎の構造改革や安倍晋三のアベノミクスと重ね、その政治的成功を確信しているのに違いない。「改革」の物語の第三幕と位置づけて。だが、実際は少し違う点を彼は理解できていない。肝心な点を指摘しよう。アベノミクスが一般の支持と期待を調達した理由は、その外見が新自由主義の「小さな政府」ではなく、むしろそれとは逆の「大きな政府」を標榜し、ケインズ政策の擬態と仮装をしていたからである。だからスティグリッツが騙されて支持表明し、多くの人間が肯定してしまった。内実を正視すれば、3本目の柱である「成長戦略」は、すべて新自由主義の施策ばかりだったが、人は1本目の「金融緩和」と2本目の「財政出動」に目を奪われ、ケインズ的な仕様と性格の政策モデルだと錯覚してしまったのだ。竹中平蔵的な新自由主義からの転換を求めていた大衆は、まんまと詐術に嵌められてしまった

今回の小泉進次郎の「聖域なき規制改革」は、そうした、人々が積極的に受け止められる表象がないのである。生の竹中平蔵が毒々しく立ち上がっていて、ただ新自由主義の原理主義的執念と財界の資本家的欲望だけがギラついている。解雇規制緩和を自らの利益だと認める労働者はいないだろう。リスキリングだの何だのと舌を回しても、それを「多様な働き方」の美辞で納得して鵜呑みにする労働者はいない。客観的に見れば、小泉進次郎は間抜けな勘違いをしているし、こんな政策を総選挙の前に打ち上げるのは愚策である。小泉純一郎の「聖域なき構造改革」についても、当時と現在とは時代が異なっていて、20年前は新自由主義のイメージが今ほど悪くなく、それは新しい流行思想ですらあった。竹中平蔵の評価や印象も今ほど悪魔的ではなかった。結論から言えば、小泉進次郎と菅義偉の頭の悪さが際立って映る。

解雇規制緩和の悪手が祟ったのか、告示後5日目の 9/16 に発表された読売と日経の世論調査では、小泉進次郎への支持が失速した情勢が出ている。日経の数字では、自民党支持層における小泉進次郎へのコミットが、前回8月から11ポイントも下がり、高市早苗に抜かれて三番手に後退する変化があった。告示後に小泉進次郎の人気が保守層の中で低下した要因は、解雇規制緩和の他にもう一つあり、選択的夫婦別姓への支持発言である。この政策を打ち上げ、他候補との差別化を訴求し、世論全体からの支持と好感を得て勢いをつけようと思惑したのに違いないが、首尾はどうやら裏目に出ている。9/9 の報道1930に映像登場した日本会議の百地章が、小泉進次郎のこの奇策を絶対に許せないと敵愾心を露わにし、反撃と報復を誓う場面があった。日本会議は、地域のJC(日本青年会議所)を始め、地場の自民党極右系に大きな影響力がある。

今ごろ、猛然と地域の党員票に働きかけを行い、小泉進次郎票の引き剝がしに躍起になっているだろう。日本会議や統一教会は、選挙のときに自民党候補者のために汗を流す実働部隊だ。百地章の復讐宣言は根拠のないものとは言えない。彼らからすれば、せっかく総裁選・総選挙に持ち込み、裏金問題を葬り去る局面を迎えたのに、面倒な争点を小泉進次郎に持ち出され、混乱させられ、悪者にされ、迷惑至極という論理と立場だろう。百地章の憤怒の表情を見ると、仮に小泉進次郎が新総理に収まったとしても、怨恨は尾を引きそうで、事態は丸く収まらないと思われる。敢えて自民党の中の目線で考えたとき、何でわざわざこんな政策を強調し、他候補を「抵抗勢力」に仕立てる演出をしなければならなかったのか理解できない。こんな荒事を演じなくても、マスコミの宣伝と菅義偉の睥睨の下、議員票中心の総裁選レースで簡単に勝てただろう。

20年前の小泉純一郎の真似をして、マスコミにそれを囃させ、父親の「栄光」の復活の物語仕立てで新総理に就き、祝祭気運を盛り上げ、国民的人気を得ようと図ったのだろうけれど、奇を衒い過ぎた感が否めない。自己陶酔剥き出しの無意味な三文芝居が、逆に本人の足を引っ張る予感さえする。現時点で、決選投票に進むと予想されるのは、小泉進次郎、石破茂、高市早苗の3名であり、決戦投票の組み合わせは、①小泉vs石破、②小泉vs高市、③石破vs高市の3パターンが考えられる。今から投票日の 9/27 まで、さらに長丁場の論戦が続き、小泉進次郎の説明や態度の杜撰さが目立つようになると、党員や議員の中で、選挙の顔としての小泉進次郎を不安視し、投票行動を変える者が現れておかしくない。今は、TBSやテレ朝が小泉進次郎一択で狂奔していて、他の可能性を完全に排除し、小泉新総理誕生を既成事実化する報道に徹している。菅義偉が差配した筋書きでマスコミの子分が動き、番組の解説が組まれている。

だが、小泉進次郎が新総理に就いた後、同じ見え透いた劇場政治が続くとは限らない。小泉進次郎が政策絡みで発言すると、必ずで問題点を指摘されて大きく糾弾される。反論するキーワードがトレンド欄に貼り付いて半日以上叩かれる。本来ならマスコミがやるべき役割をが担っていて、その批判攻勢が少なからず世論に影響し、支持率に反映する効果が導かれている。ネットの情報や世論が無視できない威力を持つのは、7月の都知事選の石丸現象で目撃し経験したとおりだ。小泉進次郎が新総裁・新総理に就任し、マスコミとの応答で破綻や矛盾が露呈したとき、それでもTBSやテレ朝が小泉2世を賛美し奉戴し続けるかどうかは疑問である。読売や日経で支持率が急速に下がったように、マスコミ全体での内閣支持率も急降下しかねない。それは、来夏の参院選を控えた自民党関係者にとっては憂慮すべきリスクだろう。