田中宇氏が6日付で掲題の記事を出しました。これは当ブログで紹介した「モンゴルの地政学転換」の後編をなすもので、国際刑事裁判所(ICC)が23年3月にプーチン露大統領を人道上の罪で逮捕を請求した件が完全なる冤罪であることを分かりやすく紹介したものです。
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(9月7日)モンゴルの地政学転換(田中宇氏)
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ロシアの冤罪
田中宇の国際ニュース解説 2024年9月6日
ロシアの「極悪さ」の象徴とされるものの一つに、国際刑事裁判所(ICC)が2023年3月にプーチン露大統領を人道上の罪で逮捕請求した件がある。プーチンがロシアの軍など当局に命じて、ウクライナで占領した地域から人々(子供たち)を拉致してロシアに連れ去った、とICCは断罪している。(Defendant : Vladimir Vladimirovich Putin)
それはひどい、と米欧日の人々は思っている。だが、プーチンやロシアの担当者たちが、どのように子供を拉致したのかという具体的な点になると、急に話が曖昧になる。ICCが発表した逮捕状は罪状について「ウクライナの占領地から人々・子供たちを違法にロシアに移動させた」としか書いていない。
ICCは逮捕状を発表しないことも多く、自分が起訴・逮捕請求されていることを知らない人が、ICC加盟国に行った途端に逮捕されたりする。プーチンは、ICCに逮捕状を発表してもらっただけありがたいと思え、頭が高い、というわけだ。だが、逮捕状だけでは何がなんだかわからない。(17 March 2023: ICC Judges Issue Arrest Warrants Against Vladimir Vladimirovich Putin and Maria Alekseyevna Lvova-Belova)
「露助は悪い奴に決まってる。罪状なんか必要ない」。日本人はそれで良い。近所のパパ友は私を揶揄する意味らしく、尻に手を当てて「プー(屁)」、前に手を当てて開いて「チン(陰茎)」の動作を繰り返した。日本はこれで良い。
だが欧米人はもっと悪い。欧米では(屁)理屈で他人に勝って「善」をとりつくろうこと(偽善)が必要だ。曖昧な罪状をもとに「プーチンは極悪だ」と断罪するには無理がある。この戦争プロパガンダは出来が悪い。
ここで終わりにするとつまらないので、欧米側で流布されている露敵視な情報をもとに、ICC代官様のお考えを忖度する独自研究をやってみる。(モンゴルの地政学転換)
一つ目は、前回の記事にも書いた、露当局がウクライナ人の子供たちを拉致して露国内の林間学校を改造した強制収容キャンプに入れている件。
ICCのプーチン起訴状のネタ元は、米イェール大学の「人権侵害の専門家」(Nathaniel Raymond)が国務省から研究費をもらって作った報告書であり、研究者自身がその趣旨でCNNから取材されている。
(RUSSIA’S SYSTEMATIC PROGRAM FOR THE RE-EDUCATION & ADOPTION of UKRAINE’S CHILDREN)
その報告書によると、露政府は、ウクライナの17歳までの子供たちを集め、ロシア国内の43か所の公的な合宿所(林間学校や海浜学校)に送り込み、ロシアの愛国教育や軍事訓練を受けさせて洗脳している。子供の親たちは、戦場のウクライナよりも、安全なロシアで過ごした方が子供にとってましだと考え、この無償のプログラムに嫌々ながら協力しているが、露当局が予定通りに子供たちを帰宅させてくれなかったりする。
報告書ではまた、露当局がウクライナで占領した地域(主にドンバス)にいる孤児たちを(無理矢理に)ロシア本土で養父母になってくれる人々と縁組みしていることも、人道犯罪的な動きとして紹介している。('This is sick': Anderson Cooper reacts to new Russia report)
この報告書に対し、同じプログラムについてロシア現地で取材したオルタナティブメディア「グレイゾーン」の記事は、全く違う光景を表現している。このプログラムは、ウクライナから分離独立してロシアに編入してもらったドンバス地域(ドネツク、ルガンスク)の、ロシア語を母語とする子供たちのために行われている。
(ICC’s Putin arrest warrant based on State Dept-funded report that debunked itself)
ドンバスの人々は民族的・自己認識的に「ロシア人」である。ドンバスの分離独立・ロシア化を認めないウクライナ政府や米国側(露敵視者)から見れば、ドンバス人は「ウクライナ人」だが、ドンバス人自身は、自分たちをもうウクライナ人だとは思わず、ロシア人だと思っている。
ウクライナ政府は2014年、それまで認めていたドンバスの自治を禁止した。それ以来ドンバスは分離独立・ロシア化を求め続け、侵攻してきたウクライナ当局の軍や民兵団と内戦してきた。米国の差し金でウクライナからの侵攻が激化したため、2022年2月に露軍が助けに入り、ウクライナ開戦となった。(まだまだ続くロシア敵視の妄想)(ロシアは正義のためにウクライナに侵攻するかも)
ドンバスの子供たちは、ウクライナ当局からの攻撃ゆえ、きちんとした教育を受けられず、不安定な生活を強いられてきた。問題の合宿プログラムは、受講を希望するドンバスの子供たちに、ロシアの公費で音楽や文化芸術など豊かな教育を受けてもらう2週間程度の短期講習として続けられている。
講習の内容は、ロシアの一般的な愛国教育だろう。受講者は、ロシアの愛国教育を受けたいドンバスのロシア人の子供たちであり、これを「ウクライナの子供たちをロシアの愛国教育で強制洗脳する人道犯罪」と表現するのは悪質な歪曲・戦争プロパガンダである。
(ロシアが負けそうだと勘違いして自滅する米欧)
軍事訓練については私の独自分析になるが、ロシアを敵視するウクライナの子供たちに、ロシアが軍事訓練を施すはずがない。ロシア人になったドンバスの子供たちの中には、露軍に入って祖国(ドンバスまたはロシア)を守りたいと考える者が多いだろうから、彼らに対する訓練である。自国民に対する軍事訓練は人道犯罪でない。
イェール大学作成の報告書は、インターネットにあるロシアのメディアの報道や、このプログラムの受講生や関係者らがSNSなどに書き込んだ記述など、主にロシア語の公開情報だけを拾い集めて作ったものだ。そう報告書の中に書いてある。
ネットのロシア語の記事や書き込みの中に、合宿プログラムを悪しざまに表現するものが多く、イェールの報告書はそれを反映したのだろうか。そんなはずはない。今のロシアの状況から考えて、ネットの公開情報のほとんどは、合宿プログラムについて好意的に書かれているか、もしくは事務連絡や客観表現のたぐいだ。
イェール大学の研究者はおそらく、それらの文書に悪い意味を持たせるよう歪曲的に読解し、それらを綿々とつなげてロシアを断罪した。この報告書は、冤罪発生の策略として作られている。(ICC’s Putin arrest warrant based on State Dept-funded report that debunked itself)
この手の文書は、学術界でなく諜報界の産物だ。作成者は、学者の職位を持つ諜報要員である(米国はそういうのが学界にたくさんいる)。
イェールの報告書は、ロシアで流布するうわさのたぐいを集めて「露当局がトランプをスパイに仕立て、米選挙に介入してトランプを勝たせた」という結論に無理やりつなげた、米民主党発注でMI6作成の「スティール報告書」と同根だ。イラクのフセイン政権が大量破壊兵器を作って米イスラエルを狙っているという、事後にウソとわかったネオコン製のイラク開戦事由とも同根だ。(ロシアゲートで軍産に反撃するトランプ共和党)
▼他の罪状を探しても冤罪だらけ
長くなって恐縮だが、まだ続く。露敵視者に迎合し、プーチンを人道犯罪者として裁ける「罪状」が他にないかどうか、探し続けてみる。ウィキペディアでICCプーチン逮捕状を検索すると、この文書も露敵視な味わいで、ロシアの罪状について独自研究をしてくれている。
(Wikipedia: International Criminal Court arrest warrants for Russian figures)
そこで私が見つけたのは、(1)ウクライナを占領した露当局が孤児をロシアに連れていき、養父母をあてがって強制的にロシア人に育てる人道犯罪をやっている。(2)露軍・露当局が占領したウクライナの諸地域で、住民を精査・面談して親露派と反露派に分類し、親露派とされた人々をロシアやドンバスに半ば強制的に移住させている。という2案件。
(UN says ‘credible’ reports Ukraine children transferred to Russia)
(1)については天下の英BBCも報じているが、ドンバスの孤児をロシアの養父母にあてがう話だ。すでに指摘したとおり、ドンバスの人々は意識としてロシア人であり、孤児の移動は人道犯罪でない。
また、ドンバス以外のウクライナにも、露語話者や親露派が昔からたくさんいる。敗戦地になったウクライナにいるより、安定が続くロシアで生活した方が良いのも事実だ。ロシア人とウクライナ人は、民族的に近い。25年前まで同じソ連人だった。日本人と朝鮮人でなく、関東人と関西人に近い。
ロシアに占領された地域に住む孤児の養育者たちの中で、ロシアで養父母を探した方が良いと考える人が増えても不思議でない。露当局が孤児を無理やり拉致しているといった記述は、露敵視な米ウクライナ当局側の歪曲が入っていると疑われる。
(How a Boy from Donbass Ended Up in a Russian Family and Received Russian Citizenship)
(2)のような精査・分類を、占領した露軍がやるのは当然だ。味方の住民と協力し、敵性住民を監視抑止する。クルスクを占領したウクライナ軍も、同様のことをやっている。
25年前までロシアと同じソ連国内だったウクライナには、今も各所にロシア人・ロシア系・親露派がいる。彼らの中には、破壊されたウクライナから、安定しているロシアへの移住を希望する者も多い。開戦までゼレンスキー政権を支持していたが、今では大嫌いでロシアに移住したいという者も多いはず。露当局が移住を強制する必要はない。
(Forcible Transfer of Ukrainians to Russia)
「だけど、そもそもウクライナに侵攻して破壊したのはロシアじゃないか」という人がいる。そういう人は、もっと以前の状態を見るべきだ。ウクライナは、ウクライナ人とロシア人、親欧派と親露派がバランスして何とか仲良く暮らしていた。
それを破壊したのは米英だ。2008年とか2014年以降、米英が介入してウクライナを露敵視の方向に傾かせ、ウクライナ国内のロシア人(露系住民)が弾圧、殺害されて内戦になった。米英は2021年秋からウクライナ内戦を激化させ、露系住民を守る邦人保護のためにロシアが開戦するよう仕向けた。(ウクライナ戦争で米・非米分裂を長引かせる)
米国は、ウクライナ軍に稚拙な軍事戦略を採らせ、ウクライナ政府が嫌がる国民を徴兵して戦地に送り込んで50万人が戦死するよう仕向けた。ウクライナ人は絶滅寸前だ。これこそ人道犯罪だ。
ものすごい人道犯罪をやらかした真犯人は、プーチンでなく、傀儡のゼレンスキーでもない。今に至るシナリオを展開してきた米国(諜報界)だ。米諜報界の道具であるマスコミや、露敵視のリベラル派(リベラル全体主義者。隠れ多極派のうっかり傀儡)も、人道犯罪者たちである。(Russia Signals It Will Take More Ukrainian Children, a Crime in Progress)
このシナリオ展開の結果、米国は覇権が崩壊し、欧州は没落した。当然の報いといえる(日本はいないふり作戦で自滅を少なくし、意外にうまくやっている)。非米側が結束台頭し、世界は多極化している。
ICCのプーチン起訴はトンデモな超愚策だ。米諜報界(隠れ多極派)による米英覇権自滅策の一つだろう。
ICCのプーチン起訴の大間違いについて、プーチンや露政府はほとんど何も反論・指摘してこなかった。私が見てきた英文の露メディアでICCの起訴の間違いを指摘したのは、米グレイゾーンの記事を紹介したスプートニクの1本だけだ。
(Bombshell Report Debunks ICC Warrant for Putin, and Mainstream Media Sidesteps It)
プーチンは、おそらく米諜報界(隠れ多極派)のシナリオに気づいており、それでウクライナに侵攻した。ウクライナ戦争で米国側がロシアを敵視するほど、露中を中心に非米側が結束し、ロシアが政治経済の両面で優勢になるという、シナリオ通りの展開になっている。
米国側の露敵視を扇動するのはロシアの優勢につながるので、プーチンはICC起訴に反論せず、ブチャ虐殺などウクライナ当局がロシアに人道的な冤罪をかけても、やられるままにしてきた。
このプーチンの偽悪戦略は、今後も続く。みんなでやろう。尻に手を当ててプー。前に手を当てて開いてチン!。専門家さんもご一緒に、ぜひ。(プーチンの偽悪戦略に乗せられた人類)