昨年3月に発効した韓米自由貿易協定(FTA)で、既にISD条項によって米投資ファンドが韓国に数千億円の損害賠償の請求をしていたことが明らかになりました。
まさに「国を滅ぼすTPP」を思わせる事態です。
国や投資家からの訴訟を裁定する「国際投資紛争解決センター」は、世界銀行グループ傘下の機関で3人の米弁護士で構成されると言われ、そこでは当然に投資家の利益保護を最優先にして裁決が下されます。
かつてNAFTA(北米自由貿易協定)でISD条項を受諾したカナダは、ガソリンに神経性有毒物質を添加することを禁止した自国の法律が「差別的である」として、アメリカの石油企業から3億5千万ドルの損害賠償請求を出され、結局それが認められました。そういうことがあったためにカナダはTPPへの参加を拒否していましたが、昨年10月にメキシコと共に交渉に参加しました。(青字部分 3月8日訂正 事務局)。
以下に韓国弁護士
宋基昊(ソン・ギホ)氏が語った、ますます深刻の度を深めている「韓米FTAの実態」に関するしんぶん赤旗の記事と、米投資ファンドが韓国政府に対して多額な損害賠償を請求したという12月12日付の夕刊フジの記事を紹介します。
追記 TPP、FTA、NAFTA等と協定を結ぶ国の数や範囲などによって名称は様々ですが、 アメリカの投資家の利益を最優先して、それを阻害するあらゆるものを排除し、損害?は賠償させるという精神に変わりはありません。
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国を滅ぼすTPP 韓米FTAに見る主権制約
しんぶん赤旗 2013年3月4日
安倍晋三首相は、日米首脳会談を受け、環太平洋連携協定(TPP)交渉参加に踏み出そうとしていますが、TPPの「先取り」となっているのが韓国とアメリカの自由貿易協定(韓米FTA)です。その実態を知る韓国の弁護士、宋基昊(ソン・ギホ)氏を招き、TPP阻止の運動に役立てようという学習会が1日、東京都千代田区のJAビル内で開かれました。
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韓国の弁護士招き学習会
宋氏は、昨年3月に発効した韓米FTAについて韓国政府の資料をもとに、アメリカ企業に有利に働いていることを紹介しました。「米国への輸出が増えるとのふれこみだったが、関税が下げられ、米国産自動車の韓国への輸入が増えた。代表的なのはトヨタの米国産自動車だ」
排ガス規制圧力
農業分野については「韓米FTAで一番被害が大きい分野だ」と語りました。15年間で撤廃する牛肉を含め、コメを除いてすべての関税が撤廃されます。コメは「除外」の代償として、消費の一定割合を輸入する量を増やす、再協議をいつでもできるとの2条件が付けられ、「除外といっても永遠に守られるということではない」とのべました。
宋氏は、韓国の経済主権が米国により制約を受けていると具体例をあげて告発しました。
▽環境を守るため、排ガスが少ない車に補助金を出し、排ガスが多い車から負担金を徴収する制度は、米国側から「FTA違反だ」と圧力があり、昨年11月に制度を廃止した。
▽郵便保険の加入限度額を引き上げようとしたが、米国側が「FTA違反だ」。韓国政府は引き上げを放棄した。
▽国民皆保険制度があるが、薬の保険適用基準や薬価について米国と論争中。安いジェネリック医薬品も特許権延長で出回り量が少なくなる心配がある。
▽韓国には、指定した業種は大企業が参入できない「中小企業適合業種制度」というものがあるが、米国側からクレームがあり運営面で支障がある。
ISD萎縮効果
宋氏は、TPPにもあるISD(投資家対国家の紛争解決)条項が韓国側に政策遂行の“萎縮効果”として働いていると強調しました。
主催したのは、JA全中など農林水産団体と生協などでつくる「TPPから日本の食と暮らし・いのちを守るネットワーク」。
新潟県農協中央会の担当者が「TPP反対運動へのアドバイスを」と質問すると、宋氏は「TPPは、農業だけの問題ではないことを知らせることが重要だ」とのべました。
日本のTPP参加を左右する「毒素条項」 韓国で初のISD条項発動
夕刊フジ 2012年12月12日
日本のTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)参加を占う上で、ネックとなりかねない動きが隣国韓国で浮上している。
米投資ファンド「ローンスター」が外換銀行の売却で不当な損失を被ったとして、ISD条項に基づき韓国政府を仲裁機関である「国際投資紛争解決センター」に提訴したのだ。ISD条項は今年3月に発効した米韓FTA(自由貿易協定)に盛り込まれ、国際協定で先進国がISD条項で訴えられるのはあまり例がない。同条項は日本が参加を目指すTPPにも盛り込まれる可能性が高く、懸念の声が上がっている。
ISD条項は経済連携した国の間で投資に関して不利益を被った場合、国や投資家が相手国に訴訟を起こせる権利を定めている。韓国は他国と7件のFTAを結び、うち6件に同条項が盛り込まれている。
今回の訴訟はローンスターが2003年に外換銀行を買収、9年後の昨年末に売却手続きを終える過程で韓国当局から妨害され、売却時期が遅延したこと。さらに韓国の国税当局から恣意的に課税され損出を被ったというもの。ローンスターが今年5月に駐ベルギー韓国大使館に送付した予告文書では「韓国政府の恣意的かつ差別的な法執行で数十億ユーロ(数千億円~1兆円)の損害が発生した」と主張した。
ISD条項は2010年まで計390件発動され、ほとんどは発展途上国が対象。そもそも同条項は投資ルールが整備されていない途上国で、先進国の投資家の利益を守るのが目的のためだ。それが韓国で初適用されたインパクトは大きい。
米国は米韓FTA締結に熱を入れた。オバマ大統領は昨年10月に訪米した韓国の李明博大統領をバージニア州の韓国料理店に誘い、夕食を共にしている最中に米議会は米韓FTAを批准した。晩餐会翌日にはデトロイトのゼネラルモーターズの工場を訪問、韓国製品が使われている新車の運転席に両氏が仲良く乗り込んだ。さらに李大統領は、米大統領への機密説明が行われる「ザ・タンク」と呼ばれる米国防総省内の特別会議室で、国防長官と統合参謀本部議長からブリーフィングを受けた。まさに異例の厚遇。経済面でライバル視される韓国との親密ぶりをアピールし、「日本もTPPに参加しなければ大変なことになる」とブラフをかけているようなものであった。
一方、韓国内では米韓FTA締結について懸念する声が根強かった。その象徴が、今回のISD条項をはじめいったん規制を緩和すると元に戻せない「ラチェット条項」。自動車分野で韓国が協定に違反したり、米国製自動車の販売・流通に深刻な影響を及ぼすと判断された場合、米国の自動車輸入関税撤廃を無効にする「スナップ・バック条項」などの存在であった。韓国国内では一連の協定を「毒素条項」と呼んで警戒していた。
懸念が図らずも現実となった。米韓FTAは、日本のTPP参加の試金石とみられているだけに、今回の訴訟の行方が注目される。
■森岡英樹(もりおか・ひでき) 1957年、福岡県出身。早大卒。経済紙記者、埼玉県芸術文化振興財団常務理事などを経て2004年4月、金融ジャーナリストとして独立。