反権力の弁護士梓澤和幸氏が自民党の改憲草案の扱いについて30日、主としてジャーナリストに向けた「訴え」を発表しました。
「訴え」は自民党の改憲草案が報道面に与える重大な問題点を下記のようにリストアップし、それにもかかわらずメディアは96条の改憲発議要件やせいぜい国防軍規定のことだけわずかだけ報道するのみであり、人々はほとんど改憲草案を知らず、参院選の最大の争点であることを知らされていない、と警告を発しています。
【リストアップされている報道面における問題点】
・改憲草案21条2項の「公益・公共の秩序を害する表現の自由の制限」は報道の自由を扼殺する条文であること
・同9条 2 の4項、5項の「国防軍の統制及び機密の保持に関する事項と審判所設置」は、軍事機密に関する報道規制、軍機保護法・秘密保全法の制定、非公開裁判に直結するものであること
・同19条の2の「個人に関する情報を不当に取得してはならない」は「違法に」ではないことから、現行の何倍も厳しい取材規制をまねくこと
・同98条、99条の「緊急事態宣言の規定」は、武力攻撃予測事態における緊急事態宣言が想定されていること
以下に訴えの全文を紹介します。(文中の太字は原文で施されたものです。
下線は事務局が行いました)
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改憲問題につき、ジャーナリスト、法律家、この小文をお読みくださる
市民の皆様へ
弁護士 梓澤和幸 2013.3.30更新
2012年4月に公表された 自民党改憲草案(以下、改憲草案という)(インターネットでダウンロードできます)は、人権と自由の抹殺につながる規定を含む総合的体系的治安立法です。
第1 改憲草案の自由抑圧
次の4点にご注目ください。
1. 自民党改憲草案21条2項は、「前項(表現の自由保障)にかかわらず、公益公共の秩序を害する目的の表現の自由並びに結社の自由は認められない」
としています。
これは明治憲法下の治安維持法、国体を変革し私有財産制度の否認することを目的とする結社を組織しまたは情を知りてこれに加入したるものは、死刑、無期又は7年以上の懲役に処するとの規定や、旧新聞紙法42条、「皇室の尊厳を冒涜し、政体を変壊し、国憲を紊乱する記事を掲載した新聞紙の発行人、編集人、印刷人は、2年以下の懲役または300円以下の罰金に処する。」 とほとんど変わらない表現の自由、報道の自由を扼殺する条文です。自由の基礎法である憲法草案において、この表現をとっているので 刑事法令が具体化されれば、戦慄すべき立法が用意されることになりましょう。
2. 改憲草案9条
2 の4項、5項には、国防軍の組織、統制及び機密の保持に関する事項は、法律に定めるとし、続けて国防に審判所を置くとしています。
すでに存在するMSA機密保護法(米軍の機密保護懲役10年以下)、自衛隊法の機密保護(5年以下)、いずれも独立教唆罪の規定あり。以上とあわせ軍事機密に関して取材報道への規制が強化されるでしょう。
審判とは、非公開の裁判とのことです。軍機保護法、秘密保全法の制定を招きます。
3. 改憲草案19条の2は、何人も個人に関する情報を不当に取得し、保有し、又は利用してはならないとしています。
不当に、であって違法に、となっていないことに注目すべきです。現行個人情報保護法の何倍も厳しい取材規制をまねきます。
4. 非常事態宣言と原発事故、戦争予測事態
改憲草案98条、99条には緊急事態宣言の規定があります。
改憲案では外部からの武力攻撃、内乱等による社会秩序の混乱、地震等による大規模な自然災害、その他の法律で定める緊急事態のとき、内閣総理大臣が緊急事態の宣言を発することができるとしています。この場合、何人も国その他の公の機関の指示に従わなければならない。としています。
武力攻撃事態法の武力攻撃事態、同予測事態における内閣総理大臣の緊急事態宣言が想定されていると考えます。
また原発事故のことを想定すべきです。原子力災害特別措置法15条2項の原子力緊急事態宣言の事例(福島第一、第2の宣言事例)があります。福島第一原発事故のような原発過酷事故が起こったとき、その悲惨さを訴える一切の取材と報道に規制がかかります。
餓死した牛、人のいない町、自殺した酪農家の残した落書きなど原発事故の悲惨さを訴える写真、報道、など苛酷な規制に会うでしょう。
パニックを起こすとの理由で放射能汚染の全国への拡大に関する情報の規制もきびしくなります。
第2 改憲問題につき報道論評が遅れている
これだけ人権抑圧の憲法草案であるのに、自民党改憲草案の内容は、まったく知られていません。メディアは、96条の改憲発議要件や、せいぜい国防軍規定のことだけ、わずかだけ報道されています。
そのため人々はほとんど改憲草案を知りません。参院選の最大の争点であることを知らされていません。
cf 人権感覚のするどい法律家や報道の中堅幹部さえ改憲草案を見せると 「おう、それは大変だ。知らなかった。何とかしなければ」
と反応しています。取材にかかわる人たちの中からも 「初耳だ」 との声があります。
大切なことが知らされないこの状況、どこかおかしい。
第3 わずかなしかし希望につながる動き
市民メディア(IWJ)や若手法律家たちに、改憲草案に注目する動きがあります。
180名をこえる超若手弁護士が加入している 「明日の自由を守る若手弁護士の会(代表
黒澤いつきさん、早田由布子さん(旬報法律事務所)」 を取材してください。
ネットメディアでツイッター、フェイスブック、を活用し、最低賃金法廃止の提案を撤回させた、あるネットジャーナリストの経験もあります。
第4
4月24日18時から国分寺市労政会館にて若手法律家と梓澤の共演で、「自由」 に焦点を当てて改憲草案を分析する集会が行われます。ご注目を寄せてください。
5月23日にはロフトにおいて若者にむけた集会の準備も進んでいます。
第5
7月には参議院選挙があります。それ以前に急速に改憲草案の危険性を広め、改憲発議を阻止しようと考えております。ご注目とご協力をお願いいたします。
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