2017年5月3日水曜日

船田元氏が語る 森友問題と特区制度 特区制度は本来の趣旨から逸脱

 森友学園への国有地破格の払い下げや同学園の教育方針について、早くから自身のブログで違和感」を発信している自民党船田元衆議院議員に日刊ゲンダイがインタビューしました。
 
 船田氏は、自身が経営する作新学院の大学用地として国有地の払い下げをしてもらったときには、価格の値引きは一切なく、役所間の調整が難航したために予定よりも2年も遅れたということです。森友学園が如何に特別扱いであったのかが分かります。
 
 また経営者が安倍首相と懇意で知られる加計学園が、国家戦略特区という規制緩和によって有利に扱われたことについても、本来は特区でうまくいったら全国的に展開するという趣旨なのに、今治市に獣医学部を設置するために特区制度が利用されたという見方を示しました。
 獣医師会が、医師が過剰になるからとこぞって反対していて全国展開が全く望めない中で、今治市が特区の抜け道を利用して強引に設置したという訳です。
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注目の人 直撃インタビュー  
船田元氏が語る 森友問題と特区制度「自民党議員が忖度」
日刊ゲンダイ 2017年5月1日
 破格の国有地払い下げなど疑惑は解明されぬまま。森友学園問題はまだ終わっていない。早くからこの問題や学園の教育方針への違和感について、自身のブログで発信、メディアも注目したのが自民党衆議院議員の船田元氏だ。栃木県で幼稚園から大学院までを運営する学校法人「作新学院」の学院長を務める教育者でもある。自民党内の安倍政権に対する“忖度”の空気を含め、ズバリ聞いた。
 
■森友問題は早く会計検査院の中間報告を
――森友学園問題が明るみに出て2カ月半。この間、どう見ていましたか。
 問題の本質は2つだと思います。ひとつは、やはり国有地払い下げの手続きの異常です。払い下げまでの時間が非常に早く、しかも当初は貸し付けだったのが、いつの間にか売却に変わり、破格の値段で払い下げられた。値引きの理由になったゴミが適切に処理されたのかどうかも全く検証されていない。問題のもうひとつは、森友学園が運営している塚本幼稚園で「教育勅語」を暗唱していたことです。たとえ私学だとしても、そういう教育を本当にやっていいのかどうか。
 
――国有地払い下げでは、財務省の交渉記録が明らかにされないことが最大の問題です。
 財務省は記録を破棄したと言っていますが、もしそうであれば、記憶をたどってつくり直したらどうですか。安倍首相は会計検査院に調査させるとおっしゃったはずですが、その調査は今どうなっているのか。中間報告でもいいので、一日でも早く国民や国会に示すべきです。
 
――経営する作新学院の大学用地として国有地の払い下げを経験したそうですね。今回のケースとの違いについてブログに書かれていました。
 約30年前、新規に大学を設置するため国有地を払い下げていただきました。認可は文部省、払い下げは関東財務局、農地からの転用ということで関東農政局、と3つの役所が見合って、どこがまずGOサインを出すかで調整が難航し、開校は予定より2年遅れました。価格も言い値が常識ということでしたので、値引き交渉は一切なく、分割払いもありませんでした。
 
■私立学校関係者は悔しい思いをしている
――議員バッジを外して役所に行ったそうですね。
 当時、もう国会議員でしたので、「忖度」される心配があると思い、交渉の事務は準備室長だった親戚にほとんど任せました。私が説明しなければならない時はバッジを外して、いち学校法人の役員ということで行きました。李下に冠を正さずです
 
――政府はこの問題の早期幕引きを図っているように見えますが、いまだ世論の8割が政府の説明に納得していません。
 実は、我々、私立学校関係者は、今回のことで非常に悔しい思いをしています。森友学園に加え、加計学園の一件(注・安倍首相の友人が理事長を務める学校法人が、国家戦略特区の愛媛県今治市に新設する獣医学部を巡る疑惑)もあり、私立学校というのはみな、政治家を動かして、甘い汁を吸っているんじゃないかと、思われてしまうのではないか。森友問題の真相が結局うやむやになるようだと、国民はそう思うでしょう。真面目に経営している私学にとって、これほど悔しいことはありません。 
 
「特区」を悪用されるケースも
――加計学園の問題が浮上し、国家戦略特区に対する疑念も広がっています。
 特区制度は危ういという気がしています。特区構想は、通常の行政手続きを少し変えれば非常にうまくいく可能性があるということで、地域限定で規制緩和などをするのですが、その地域だけで終わってしまったら不平等なんです。本来、特区でうまくいったら、全国どこでもできるようにしなければいけない。経済発展や地方創生を全国展開できるようにするのが、本来の特区の役割です。
 
――今の特区は趣旨がズレてきている?
 全体に広げないで、その地域だけでいい、という状況になりつつあります。実際、行政に相談して「ダメ」と言われたことでも、「特区にすれば、やれますよ」という“悪魔のささやき”に乗っかって、「やりましょう」となるという話も聞く。通常の手続きではやれないことを、特区を使って特定の地域でだけやらせてしまおうと、悪用されるケースもあります。
 
――加計学園の場合もそれでしょうか。獣医学部をつくりたいから今治市を特区に指定したように見えます。
 今治で獣医学部がうまくいったとして、それを全国に広げたら、獣医師が余ってしまいます。今治につくるためだけに、特区を利用しているとしか思えません。小泉政権で始まった構造改革特区は、途中までは、ちゃんとレビューもして、全国に広げてもいいかどうか自民党内でも議論をした。法律改正が必要な場合は改正案を出し、最初のうちは真面目にやっていたと思います。しかし、小泉政権の終わりぐらいから、変質していったような気がします。
 
■「教育勅語」に関する政府答弁書は国会決議に抵触する
――もうひとつの危惧されている問題、教育勅語ですが、政府は「憲法や教育基本法に反しない形で教材として使用することは否定しない」という答弁書を閣議決定しました。これについてどう思いますか?
「教材として使う」とはどういう意味なのか。教育勅語の全文を教材とするのか、それとも兄弟仲良く、夫婦相和し、というお題目の部分を使うのか、政府答弁書ではよくわかりません。仮にお題目の部分なら、あえて教育勅語を使わなくても、既に副読本などで道徳の教材があるので、教育勅語を持ち出さなくても、それを使えばいい。教育勅語は「朕思うに」で始まる。朕とは明治天皇です。後半には「一旦緩急あれば」とある。身を捨てなさい、と。やはり戦後の民主主義とは相いれません。だからこそ、昭和23(1948)年に衆参両院で排除と失効が決議された歴史があるのです。全体を教材とするのなら、天皇陛下のお言葉であったことと、後半が戦前の軍部に利用され、戦争の道具として人々を駆り出すためのプロパガンダに使われたということまで全部教えてもらわないと、おかしな話になってしまいます。
 
――中曽根内閣だった1983年、教育勅語を朗読させていた高校が島根県にあり、当時の瀬戸山文相は島根県に是正勧告まで出している。今は政府見解が変わってしまったのか。
 当時の文相と今の安倍政権の教育勅語に対する考え方はかなり違うと思います。寛容になっています。ただ、やはり私は、昭和23年の衆参両院での決議は、国会における議決ですので、政府の答弁書に優越すると思います。議院内閣制ですから、政府の決定よりも議会の決定の方が上。政府答弁書は記述に曖昧なところが多いですが、もし、教育勅語の内容を一部でも教材として使うことを否定しないということであれば、国会決議に抵触するのではないかと言わざるを得ません。
 
――国有地払い下げにしろ、教育勅語にしろ、同様の違和感を持つ国民は多い。なぜ、自民党内でもっと声が上がらないのか。
 自民党の正式な場で発言できれば、いいんだと思いますけれども。現状では、なかなか勇気がいりますよ。小選挙区制の弊害で、1選挙区1人ということは、同じ考え方をみんなが共有しなければいけない。少しでも違うと、候補者差し替え、となったり。お金配りも、ポスト配りも、官邸と党本部の力が非常に強くなって、どんどんやれる。党内で議論を戦わせたり、政府に対して、ここは違うよ、と言える人も言える場所もほとんどない状況です。役所だけでなく、自民党議員が忖度しているんですね。
 
――それでいいのでしょうか?
 いい時はいい。みんなまとまって動くので非常に早く物事を解決できる。しかし、自民党が一色に染まってしまっているので、急には色を変えることができなくなっています。安倍さんに、もしものことがあった時に、どうするのか。次は誰がやるのかが見えない。今の自民党は非常にもろい状況だと思います。「宰相の最大の仕事はよき後継者をつくること」という格言もあります。 (聞き手=本紙・小塚かおる)
 
▽ふなだ・はじめ 1953年、栃木県宇都宮市生まれ。慶大経済学部卒。慶大大学院社会学研究科教育学専攻修士課程修了。79年、最年少の25歳で衆院議員に初当選。92年、経済企画庁長官。栃木1区。当選11回。作新学院学院長。