2017年5月29日月曜日

反権力のコメディをメディア自身が排除している

 小泉政権時代に舌鋒鋭く政権を批判した森田実氏や植草一秀氏は、権力によって、植草氏については破廉恥事件をデッチ上げられるなどしてメディアから排除されました。あってはならないことですが、まだしもその当時はピンポイントの攻撃でした。
 それが安倍政権になってからは、先ずメディア自身が政権批判を極力自粛するようになるとともに、政権批判をする人は極力メディアには登場させないという風潮が強まりました。それは官邸からの直接的な介入の形をとったり、メディアのトップ連中が定期的に首相と会食を重ねる中で、各メディアのトップを通じて現場に徹底されるなどの形態をとりました。
 
 今年に入って脳科学者の茂木健一郎氏がツイッターで、「社会風刺を芸に昇華させることが出来ない日本のお笑い芸人は、国際的な基準と照らし合わせるとあまりにレベルが低く・・・と述べたことが、当のお笑い芸人たちから猛反発を受け、茂木氏はTV出て懺悔する事態になりまた。
 そのとき謝罪した相手が芸人界の最右派・政権べったりで知られる松本人志(フジテレビ 『ワイドナショー』 ホスト)であったのは何とも皮肉なことでした。
 
 LITERAが「茂木氏の提言間違っていない」とする記事を出しました。
 
 同紙はまずコメディ番組が放送当日にキャンセルになったという、あるTV局で起きた事案を紹介しています。コメディ番組は次のような内容でした。 
政治風刺するコントを得意とするコントグループ、ザ・ニュースペーパー」が演じる「カゴイケ前理事長」は、安倍氏と籠池氏が今回の事件後に出会ったという想定で、二人が旧知の間柄であることを面白可笑しく示すというものです。
 それを見たTV局のスタッフが面白いと言って収録までしたのですが、放送の当日にキャンセルになりました』
 
 要するにそんなコメディ形式のものでも上層部が放送することを自主規制したというわけです。
 もともとコメディ」は権力を批判するという要素を強く含むものであって、仮に圧政が敷かれたときでも民衆の中で最後まで生き残るであろうジャンルです。
 それなのにそこにさえも事実上の規制が既に掛かっていて、それに負けているということを茂木氏は指摘したのだと述べています。
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収録済の“安倍と籠池コント”がボツに! 
茂木健一郎の「森友をネタにできない日本のお笑いはオワコン」発言は正しかった
LITERA 2017年5月28日
 今年の2月終わりから3月始め、脳科学者の茂木健一郎氏がツイッターで、こんな発言をして、大炎上した件は記憶に新しい。
社会風刺を芸に昇華させることが出来ない日本のお笑い芸人は、国際的な基準と照らし合わせるとあまりにレベルが低く、オワコンである
 
 茂木氏の発言は当のお笑い芸人たちから猛反発を受け、ネットも「自分の正義を振りかざす痛い奴」と茂木氏を総攻撃。結局、茂木氏は『ワイドナショー』(フジテレビ)に懺悔出演して、なぜか松本人志に謝罪するという結果になった。
 しかし、茂木氏の提言が間違ってはいないのは、それこそ松本人志を筆頭に、お笑いとして “オワコン” になった芸人たちが、情報番組のコメンテーターに転身し、権力にしっぽをふる発言を繰り返しているのをみれば、明らかだろう。
 ただし、そこには、日本のテレビの体質が深くからんでいる。つい最近、なんと、森友学園をネタにしたコントが、放送直前でお蔵入りになったという話が明るみになったのだ。
 
ザ・ニュースペーパーのリーダーが告白した “安倍と籠池コント” お蔵入り
 政治風刺を入れ込んだコントを得意とするコントグループ、ザ・ニュースペーパーのリーダーである渡部又兵衛氏が、2017年5月14日付しんぶん赤旗日曜版に掲載されたインタビューでこんな裏事情を暴露した。
僕は最近コントで「カゴイケ前理事長」を演じています。そう、森友学園問題の。こんなコントもしました。
  アベシンゾウ首相(舞台袖から登場し)「どうも、カゴイケさん。お久しぶりです」
  カゴイケ 「あ、首相。ごぶさたです。…『お久しぶり』って、やっぱり僕ら、知り合いですよね?」
  それから二人は 「お互い、奥さんには苦労しますね」 と嘆きあうといった内容です。
  見たテレビ局の人が「面白い!」といってコントを放送することになりました。収録までしたのに放送当日、「すみません。放送は見送りです」と電話がきました
 
 これ以上の詳細な裏事情は詳らかにされていないので、あくまで憶測になるが、おそらく、現場スタッフのなかで「是非放送したい」とされた内容が、放送前の上層部チェックで「自主規制」および「忖度」の対象となったのだろう。加えて渡部氏はこのようにも語っている。
「昨年、高市早苗総務相の「停波発言」がありました。第2次安倍政権以降、テレビ局に自主規制の雰囲気が強まっていると感じます。このうえ「共謀罪」ができたら「政治を笑う」番組など絶滅じゃないでしょうか。
     (中略)
 戦争になる前が典型ですが、国が一つの方向に走り始めた時、お笑いや芸人は真っ先に排除されます。今そんな危うさを感じます。
 
いつまでも自由にものがいえて、笑いあえる世の中に住みたいじゃないですか、ね?(前同)
 
茂木健一郎は「オワコン」発言の前に「森友をお笑いにできない」問題を指摘
 この話で思い出すのが、まさに本稿冒頭で挙げた茂木氏のツイートだ。実は、炎上した「オワコン」発言の前にこんな前段があった。
〈トランプやバノンは無茶苦茶だが、SNLを始めとするレイトショーでコメディアンたちが徹底抗戦し、視聴者数もうなぎのぼりの様子に胸が熱くなる。一方、日本のお笑い芸人たちは、上下関係や空気を読んだ笑いに終止し、権力者に批評の目を向けた笑いは皆無。後者が支配する地上波テレビはオワコン。〉
 〈日本の「お笑い芸人」のメジャーだとか、大物とか言われている人たちは、国際水準のコメディアンとはかけ離れているし、本当に「終わっている」。〉 
 〈最近の大阪の国有地をめぐるあれこれ、その学校法人のトンデモ教育方針、アメリカやイギリスだったらコメディアンの餌食になって、人々が自由かつ柔軟にものを考える上で大切なメタ認知を提供していることでしょう。日本のテレビにそのような文化がないのは国家的損失です。残念っ。〉
 
 そう、茂木氏はまさに、森友をネタにしない日本のお笑いを批判し、その背景にテレビの体質があることを見抜いていたのである。日本においては、お笑い芸人が権力を揶揄した内容のネタを板の上に乗せたいと考えたとして、劇場などライブの場では問題なかったとしても、テレビの舞台ではそういったネタを演じることは決して許されないという構造が間違いなく存在する。
 
 ザ・ニュースペーパーは強い社会風刺を入れ込んだ時事ネタをアイデンティティとしているグループであり、彼らはこんなことでは活動方針を変えたりはしないだろうが、そこまで強いスタンスでやっているわけではないお笑い芸人であれば、一度こういったことを経験したら、そのあとは必ず「自主規制」するようになる。言うまでもなく、一部の超大御所を除けば、芸人よりも制作サイドのほうが力が強く、「干される」恐怖が頭をもたげるからだ。
 
 そして、もうひとつ驚きなのが、こういった事例は普通のバラエティー番組だけでなく討論番組でも同様で、しかも、発言の主がたとえ北野武であったとしても起こり得るということだ。
 今月14日、まだ騒動の熱も冷めきらないなか過中の茂木氏が『しくじり先生 俺みたいになるな!!』(テレビ朝日)に出演し炎上騒動の顛末について語ったのだが、そのなかで東国原英夫がこんな裏事情を暴露していたのだ。なんと、『ビートたけしのTVタックル』(テレビ朝日)のような政治討論バラエティ番組ですら権力を揶揄するような発言は大量にカットされていると言うのである。
「日本のお笑いも政治とかそういったものを揶揄したりするのはみんなチャレンジしてますよ。(ビート)たけしさんの収録来られたことありますか? 『TVタックル』、一回来てください。ほとんど使われてないですけども、全部カットですけども、相当チャレンジされてますよ」
 
芸人が表現する自由を奪うのは、コメディの本質に背く行為だ
 たとえ芸人が政治風刺のネタをやったとしても、メディア側がこのような保身的な姿勢をとれば、その勇気ある発言やネタも“存在しない”も同然となってしまう。この状況は、茂木氏が言うように〈本当に「終わっている」〉と断じていいだろう。
 
 そして、これは「コメディ」というものの本質に関わる問題でもある。映画ライターの高橋ヨシキ氏は、モンティ・パイソンが「アーサー王伝説」をパロディ化し王室や教会を徹底的にバカにし尽くした映画『モンティ・パイソン・アンド・ホーリー・グレイル』を解説したラジオ番組のなかで、コメディの本質的な役割についてこう説明している。
「まあ、もともとコメディっていうのはそういうことをするジャンルなはずですね。つまり、権力をもっている方が強いに決まってるんだから、もってない側は何が出来るかっていったら、何も出来ないんだったらただ押さえつけられるだけになってしまうんですけれども、その代わりこっちはギャグにして笑い飛ばすことぐらいは残されているっていう。それが許されなくなるんだったら、ホントそれは恐怖社会ですよね」(『すっぴん!』16年7月8日/NHKラジオ)
 
 茂木氏の意味ある提言はまともに議論されることもないまま、猛反発を受けて終わってしまったが、それはテレビに関わる人たちやお笑い芸人が、まさにイタイところをつかれたからだろう。社会風刺どころか、お笑い番組がほとんどなくなり、芸人が権力にしっぽをふる情報番組のコメンテーターとしてしか生き延びることのできないこの状況は、どこをどうみても〈オワコン〉としか言いようのないものなのだから。(編集部)