安倍首相が憲法9条を改正して自衛隊の存在を明記することを目指す考えを示したことについて、憲法学者などで作る「立憲デモクラシーの会」は22日、都内で会見を開き首相の目論見に反対する見解を発表しました。
憲法9条については、「自衛隊はすでに国民に広く受け入れられた存在で、憲法に明記する改正は不必要だ。明記すれば軍拡競争を推し進めることになる」とし、高等教育の無償化については、「憲法に書いただけでは無償化は実現せず、財政措置が必要で、それが整えば憲法を改正する必要はない」としています。
会見で、青井未帆・学習院大教授(憲法)は「自衛隊を憲法に書き込むと、武力行使の限界がなくなり、9条2項が無効化する」、石川健治・東大教授(憲法)は「(憲法に自衛隊が書かれていないことで)軍隊を持てるのかということが常に問われ続け、予算などの面でブレーキになってきた。その機能が一気に消えてしまう」、西谷修・立教大特任教授(哲学)は「96条の改正や緊急事態条項の新設など、政権側がご都合主義的に手を替え品を替え出してくる改憲の提案に国民が振り回される」、山口二郎・法政大教授(政治学)は「野党から質問されて『新聞を読め』と答える安倍首相に憲法を論じる資格はない」などと、それぞれ述べました(22日 朝日新聞)。
NHKニュースと「安倍晋三首相による改憲メッセージに関する見解」を紹介します。
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首相の改憲発言に憲法学者らが反対の見解発表
NHK NEWS WEB 2017年5月22日
安倍総理大臣が、憲法9条を改正して自衛隊の存在を明記することを目指す考えを示したことについて憲法学者などで作る団体が会見を開き、「自衛隊は国民に広く受け入れられていて改正は不必要だ」として反対する見解を発表しました。
安倍総理大臣は、今月、憲法を改正して2020年の施行を目指す意向を明らかにし、具体的な改正項目として、憲法9条に自衛隊の存在を明記することや、高等教育の無償化などを例示しました。
これについて、憲法学者などで作る「立憲デモクラシーの会」が都内で会見を開き、反対する見解を発表しました。
見解では、憲法9条について、「自衛隊はすでに国民に広く受け入れられた存在で、憲法に明記する改正は不必要だ。明記すれば軍拡競争を推し進め国際情勢を悪化させるおそれがある」としています。
また、高等教育の無償化については、「憲法に書いただけでは無償化は実現せず、財政措置が必要で、それが整えば憲法を改正する必要はない」としています。
憲法学者で早稲田大学の長谷部恭男教授は、「9条の改正については自衛隊を憲法違反の存在だと言われないようにするという理由が示されているが、是が非でも9条を変えたいというみずからの願望を遂げるため、自衛官の尊厳を改正の手段として扱っている」と主張しました。
安倍晋三首相による改憲メッセージに関する見解
立憲デモクラシーの会 5月22日
2017年5月22日に立憲デモクラシーの会は、5月3日に安倍晋三首相が発表した改憲メッセージに関する見解を発表し、記者会見を行いました。
以下に、発表した見解を記します。
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安倍晋三首相による改憲メッセージに対する見解
5月3日、安倍首相は憲法改正の具体的提案を行った。9条の1項2項を残したまま、自衛隊の存在を新たに憲法に明記し、さらに高等教育を無償化する提案で、2020年の施行を目指すとのことである。
自衛隊はすでに国民に広く受け入れられた存在で、それを憲法に明記すること自体に意味はない。不必要な改正である。自衛隊が違憲だと主張する憲法学者を黙らせることが目的だとすると、自分の腹の虫をおさめるための改憲であって、憲法の私物化に他ならない。
他方、現状を追認するだけだから問題はないとも言えない。長年、歴代の政府が違憲だと言い続けてきた集団的自衛権の行使に、9条の条文を変えないまま解釈変更によって踏み込んだ安倍首相である。自衛隊の存在を憲法に明記すれば、今度は何が可能だと言い始めるか、予測は困難である。
安倍首相は北朝鮮情勢の「緊迫」を奇貨として9条の「改正」を提案したのであろうが、たとえ日本が9条を廃止して平和主義をかなぐり捨てようとも、体制の維持そのものを目的とする北朝鮮が核兵器やミサイルの開発を放棄することは期待できない。憲法による拘束を緩めれば、軍拡競争を推し進め、情勢をさらに悪化させるおそれさえある。国民の6割が手をつけることに反対している9条を変更する案としては、理由も必要性も不透明なお粗末な提案と言わざるを得ない。
高等教育の無償化の提案も必要性が不明である。憲法の条文に高等教育は無償だと書いただけでは、無償化は実現しない。そのための財政措置が必要である。他方、財政措置が整いさえすれば、憲法を改正する必要はない。
高等教育を受ける権利を実質的に均等化するために必要なことは、憲法改正を経た無償化ではなく、給付型奨学金の充実などの具体的な政策であることは、明らかである。
何より問題なのは、理由も必要性も不透明な生焼けの改憲を提案し、批判を受けると「代案を示せ」と言い募る安倍首相の憲法に対する不真面目さである。改憲自体が目的であれば代案を出せということにもなろうが、改憲が自己目的であるはずがない。不要不急の改憲をしなければよいだけのことである。憲法の役割は、党派を超え世代を超えて守るべき政治の基本的な枠組みを示すことにある。簡単に変えられなくなっているのは、浅はかな考えで政治や社会の基本原則に手を付けるべきではないからであり、山積する喫緊の日常的政治課題に力を注ぐよう促すためである。日本政治の現状を見れば、最高権力者は、国家を「私物化」し、説明責任を放棄し、法の支配を蔑ろにしていると言わなければならない。そもそも憲法は権力者による恣意的な権力の行使を防ぐためにあるという立憲主義の原理をここで再確認する必要がある。このような状況で改憲自体が目的であるかのように、憲法を軽んじる言辞を繰り返すことは、責任ある政治家のとるべき態度ではない。
2017年5月22日
立憲デモクラシーの会