2017年5月22日月曜日

問題山積のテロ等準備罪法案はいったん廃案に(木村草太教授)

 
 木村草太首都大学東京教授が、沖縄タイムスの連載記事「木村草太の憲法の新手」の中で、 
テロ等準備罪法案 問題山積、いったん廃案に」すべきであるとして、大きく分けて4つの理由を挙げました。以下に紹介します。
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    木村草太の憲法の新手(56)
テロ等準備罪法案 問題山積、いったん廃案に
木村 草太  沖縄タイムス 2017年5月21日
学研究科助手。2006年首都大学東京准教授、16年から教授。法科大学院の講義をまとめた「憲法の急所」(羽鳥書店)は「東京大学生協で最も売れている本」「全法科大学院生必読書」と話題となった。主な著書に「憲法の創造力」(NHK出版新書)「テレビが伝えない憲法の話」(PHP新書)「未完の憲法」(奥平康弘氏と共著、潮出版社)など。
ブログは「木村草太の力戦憲法」 http://blog.goo.ne.jp/kimkimlr
ツイッターは@SotaKimura
 
 テロ等準備罪法案は、一定の犯罪(法案別表第三規定)を目的とした組織の活動として、二人以上で重大犯罪(法案別表第四規定、ほぼ別表第三と重複)の計画を立て、その準備行為を行った者に刑罰を科すものだ。この法案には、多数の問題が指摘されている。
 
 第一は、立法理由への疑問だ。政府や法案賛成派の有識者は、この法案が、マフィアなどによる犯罪の防止を目的とした、国連国際組織犯罪防止条約を参加するために必要だと言う。
 確かに、同条約は、加盟国の義務として、共謀罪か犯罪組織参加罪を法定することを要求する(条約5条)。しかし、多くの専門家は、現行法のままでも、日本は条約を締結できるはずだと指摘する。なぜなら、条約全体の体系からは、必ずしも共謀罪・参加罪を法定せずとも、マフィアや暴力団などの犯罪組織による重大犯罪を効果的に防止する措置が取られていれば、加盟国の義務は果たせると解釈できるからだ。
 
 実際、2004年に出された同条約についての『立法ガイド』では、共謀罪・参加罪の法定は必須ではないとされており、いずれも設けないで条約を批准した国も多いという。また、12年の国連文書でも、必ずしも条約の文言通りの法制をとらないカナダやフランスなどの立法例が紹介されている。条約の認める選択肢は広く、批准後に、問題が指摘されてから対応することもできよう。
 
 第二は、「テロ等」という名称の欺瞞(ぎまん)だ。法案は、テロ集団だけでなく、詐欺や著作権侵害、業務妨害、贈収賄など、さまざまな犯罪の計画に適用される。他方で、個人によるテロは全く対象になっていない。立法理由である条約が、組織犯罪防止、すなわちマフィアや暴力団の対策であることからも明らかなように、この法案はテロ対策にはならないテロの名称を使うのは、国民の不安を利用して、国民の目を欺こうとしているとしか思えない。
 ちなみにテロ対策としては、「公衆等脅迫目的の犯罪行為のための資金等の処罰に関する法律」が既に制定されており、テロのための資金準備や下見などは処罰される。テロ対策なら、今回の法律は不要である。
 
 第三は、捜査権限の野放図な拡張だ。これまでは、逮捕や捜索・電話傍聴などの強制捜査は、犯罪が実行に移された疑いがある場合にのみ許された。この法が成立すれば、共謀の疑いがあるだけで、強制捜査ができてしまう。しかも、「組織的犯罪集団」は、構成員が過去に犯罪をしたことなどは要件とされていない。つまり、犯罪計画をしたとの嫌疑があれば、政党、サークル、労働組合、会社など、一般の団体にも適用されうる。恣意(しい)的な捜査の危険は大きい
 
 第四は、憲法原則への抵触だ。刑罰は重大な人権制約を伴うから、謙抑性が求められる。加害の危険がごく小さい段階で刑罰を科すことは許されず、刑罰法規の内容の適正を要求する憲法31条違反となる。今回の法案は、憲法違反の可能性もあろう。
 
 このように、テロ等準備罪法案には、問題が多すぎる。いったん廃案として、再検討すべきだろう。 
(首都大学東京教授、憲法学者)