TBSラジオの「荒川強啓デイ・キャッチ!」に29日、文部科学省の前川喜平・前事務次官が生出演しました。
TBSラジオが前川氏トーク番組の全文を書き起こしましたので紹介します。
加計問題が官邸の横やりによって文科省の対応が非常に歪められたことへの怒りが語られていていますが、同時に前川氏の誠実な人柄も伝わってきます。
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100%真実。前川・前事務次官が生出演で加計学園問題を語る
(全文き起こし)
TBSラジオ 2017.5.29
TBSラジオ「荒川強啓デイ・キャッチ!」に29日、文部科学省の前川喜平・前事務次官が生出演しました。
荒川強啓:菅官房長官が文科省で確認してはみたものの、文書の存在は否定しているというところなんですが、これはどう思われますか?
前川喜平:私は実際、現職の時に確実に手にとって見たこともある文書ですから、存在しているんです。ただ、文部科学省としてはなかなか「ありました。見つかりました」と言えない立場なんじゃないかと思うので、苦しいところだと思うんです。だから「ありません」とは言っていないと思うんですよ。「探しましたが、確認できませんでした」と言っているんですね。文部科学省としてはそこがギリギリの対応なのかなという風に私は想像しているんですけどね。
荒川強啓:武田一顯記者。その確認云々、どう見ます?
武田一顯:「確認できない」もしくは「あったけどない」という可能性もあるわけですよね、政府にしてみると。捨てちゃったりするものなんですかね?役所って膨大な文書を取っておくじゃないですか。森友学園の話もそうなんですけど。普通、取っておきますよね?
前川喜平:そうですね。この国家戦略特区での獣医学部新設に関わる文書はもっとたくさんあるはずなんです。で、今回出てきている文書の多くは、二次的な文書。保管用、保存用の文書の中からエッセンスを取り出して、ポイントを再構成した文書。だから日付も入っていない。これは基本的には、部下が作って上司に説明するために、その場限りで使うというものなので。まあそんなに保存・保管を厳密にしているわけではないと思うんですが、まあまだ1年もたっていないわけですから。普通はどこかにありますよね。
青木理:文書の存在・不存在っていうのはもちろん大切な問題ではあるんですけども、事務方のトップである前川さんが証言をされるようになったわけですから。そもそも、「総理のご意向」なり、「最高レベルの意志だ」っていうものが、もう前川さんが役所のトップとして感じていたことは間違いないわけですよね?
前川一顯:そうですね。少なくとも、言葉では聞いていましたからね。まあ私が担当の専門教育課から説明を受けた際にも、内閣府の責任ある方が語った言葉としてですけども、「官邸の最高レベルの言っていることだ」とかですね、「総理のご意向だと聞いている」というような言葉があったわけで。それを私どもの文部科学省の職員…まあ課長レベルの職員が聞いてきて、それをメモにして。それを文部科学省の幹部の中で情報として共有したわけですから。私はこれは、実際に内閣府の然るべき地位の方が語ったことであるということ自体は100%真実だと思っています。
青木理:今日、安倍首相がG7から戻ってきて、国会で「これは岩盤規制を打ち破るためなんだ。抵抗勢力を打ち破るためだったんだ」ということを強調されているんですけも。たしかに、街の声とかいろんなメディアを見ていると、「これは岩盤規制を破るためだったんだ。抵抗勢力がむしろ悪いんじゃないか?」っていうようなことをおっしゃる方もいるんですけども。獣医学部をずーっと作らないって言ってきたっていうことは、これは抵抗勢力なんですか?あるいは岩盤規制の1つだという風に言われても仕方ない面があるんですか?
前川:いや、私は「岩盤規制」という言葉は当たらないと思います。まあ、岩盤規制という言葉自体がもう規制そのものを全部「悪だ」と言っているような言葉だと思うんですけどね。もともとは、20年ほど前はもっと冷静に規制というものを考えていたと思うんですよね。経済的規制と社会的規制はしっかりと分けて、市場における自由な経済活動に任せる方がベターだと思われるものについては規制緩和を考えていこう。しかし、規制を外すことによってより不都合が生じる、あるいは国の財源を無尽蔵に使うということにならないようにすることを考えれば、残すべき規制と見直すべき規制っていうのはあるんだという区別はずっとつけてきたはずなんですけど。で、この獣医学部に関してはですね、やはり今後の人材需要を見通した上で考えなければいけない。無制限に作っていくという話ではないと思います。だから、この規制を見直すということ自体は悪くないと思いますが、見直すにあたってはきちんとした根拠がある形で見直さなければならないんで。本当に将来的に人材需要があることがはっきりするのであれば、50年経ってからでも間口を広げるのはあり得ると思うんですけど。
荒川:我々一般的にイメージを持っているのは、今回のこの加計学園っていうのは、総理との親しい友達という関係。これが優先されたトップダウンであるというのが、「ああ、そういう図式か」と。現場ではどういうような印象だったんですか?
前川:今治市で加計学園が新しい獣医学部を作りたいという意向を持っているということ自体はずっと前から我々は知っているわけです。報道されているように、構造改革特区の制度の中で何度も何度も「認めてほしい」というご要望はあったわけですけども。それは、政府として――文部科学省だけの一存ではないですけども――内閣府も農林水産省も文部科学省も含めて、政府として「それはお断りします」という形で、構造改革特区での実現はできていなかったわけで。ですからやはり、今治市が国家戦略特区になったという時に、じゃあ今度はここで国家戦略特区としてまた加計学園の獣医学部の新設ということを調整しようというお考えなんだろうなという風には思いましたから。やはり「国家戦略特区における獣医学部」と言われた時には、「加計学園」という言葉が明示的に出てこなくても、加計学園のことだろうなということは関係者…つまり内閣府も文部科学省も農水省も、暗黙の共通理解としてあったわけですよね。
青木:つまり「首相のお友達の案件である。これはちょっと注意して扱わないと、あるいは関係の意向を忖度しないとマズいぞ」という考えみたいなものが役所の中にはあったと?
前川:なかなかそこはイコールでつなげられないですけどもね。そう思った人もいたかもしれません。
青木:たとえばね、毎日新聞が報じているんですけども。なかなか文科省が言うことを聞かないものだから、前川さんご自身が去年の秋ごろに官邸に呼ばれて、首相補佐官に「改革をもっと急ぐように高等教育局に言ってくれ」というようなことを言われたという報道もああるんですけども。あったんですか?
前川:今日の時点ではお答えを差し控えさせていただきます。すいません、急に官僚になって申し訳ないんですけども。
武田:官房長官の記者会見。怪文書だとか、前川さんへの個人攻撃という風に世の中で言われる。どうしてあんな官房長官がこんなムキになって……まあ怒っているのか、動揺しているのかわかりませんけども。ああなっちゃうんですかね?
前川:それはちょっと私にはコメントできないんですけど。ただ、私が記者会見などでお話し申し上げたことというのは、あくまでも内閣府と文部科学省の関係においての問題なんですよね。まあ、内閣府からいろいろと求められたわけなんですけども。文部科学省としてはやはり、きちんとしたステップを踏まなければ意思決定できないという、まあ愚直というか真面目というか、そういう考え方だったわけで。中でも、50年以上新設を認めてこなかった獣医学部の新設を認めるのであれば、それは「新たな需要がある」ことを世の中に示さなければいけないし。獣医学部って6年間かかりますから、学生を1人養成していくのに結構お金がかかるわけです。そこに私学助成もつぎ込むことになりますから、それだけのことをするのであれば、それだけの理由がなければいけない。で、その「人材需要についてのきちんとした見通しが示されていない」というところにもうひとつ、大きな問題がある。それからもう1つ言えば、そもそも国家戦略特区として獣医学部の新設を考えようという時に、閣議決定で決めた条件があるわけで。それは、「日本再興戦略」改定2015という閣議決定文書ですね。2016年の6月30日だったと思います。そこで、こういう条件をクリアしたものは認めるということを考えましょうと。その中にはたとえば、これまでにない分野、新しい分野での具体的な人材需要があって、それをこれまでの既存の大学・学部では対応できないんだという場合に、特区で新しい獣医学部を作るということも検討に値するかもしれないけども、その場合も全体としての獣医師の需給を見た上で判断すべきだと。まあいろんな、その4つの条件があるわけですよ。その4つの条件を満たしていないんじゃないか? 満たしているかどうかは、内閣府がちゃんと責任を持って判断をしてくれなければ困るんだけど、そこができていないんじゃないですか?という。これ、文部科学省が最終的に責任を負うことじゃないけども、内閣府は本当にそこは大丈夫なんですか?ということはずーっと言い続けていたわけで。
荒川:はい。
前川:そこの条件が満たされていないんじゃないかという懸念を我々は持ったまま、結局は特区で穴を開ける。特区で特例を認めるという結論を、文部科学省としてはその結論を押し付けられたという気持ちなんですよね。
武田:今年1月に事務次官をやめて、今は何をしているのですか?
前川:今まで教育行政をやってわけですが、教育現場の仕事はほとんどしてこなかったわけです。本当の現場の仕事をしたいと思って、自主夜間中学のボランティアで、特に学校教育を十分に受けられなかった高齢者などに漢字を教えたり。高校生の土曜学習の支援として、因数分解だとか、英語のbe動詞の使い方とかを。
青木:(特定非営利活動法人の)キッズドアってやつですか?いまネットで話題になっていますが、なんで前事務次官とか言わずにこっそり(キッドドアに)応募してやっているんですか?
前川:ただのおじさんですから。やめる前にどんなポストでいたのかは関係ないですからね。
青木:(政府などが)前川さんを批判するときに言うのが、「(文書の内容を)現役のときに言えばよかったじゃないか」という意見に関しては?
前川:本当に忸怩たる思い。努力不足だったといわざるを得ないと思ってます。おかしいと思っていたのに、大きな声で(おかしいと)言ったのではなく、文科省のなかで小さな声で言っていたと。私自身が内閣府と対峙したかというと、やっていないわけです。担当の専門教育家に「なんとか頑張って」としか言っていただけで。批判は甘んじて受けざるを得ないと思ってるんです。
片桐:表立って言えないという雰囲気だったんですか?
前川:はっきり言えば、「私がどう動こうと、結論は変わらないだろう」と先回りして考えてしまった。だからといって、何もしなかった言い訳はできないですけどね。
青木:退任したときの職員の方に文科省全員に「多様性を大切にしよう」とか「弱い人たちに手を差し伸べるのが行政官の第一の使命じゃないか」というメールを送ったと朝日新聞の報道で見たのですが、今の政府はこの逆の動きだと思うのですか、どう感じますか?
前川:今の政権のもとでも…というと語弊があるかもしれませんが、教育のいろんな方向の議論はあって。国民を一色に染めてしまおうという議論は、確かに強いのは強いです。恐ろしいことだと思っています。一方で、昨年12月に議員立法で、「教育機会確保法」という法律ができて、学校ではないフリースクールで学ぶという方法も認めていこうとか、義務教育を受けられないまま大人になってしまったり、義務教育を受けないまま外国から日本に来た人のための多様な学びの場を作っていこうという。それが夜間中学なんですけど。まったく、全体主義的な方向に進んでいるというわけではない。しかし私は、現役時代から危惧していたんです。
青木:文科省は以前、「教育勅語を教材で使うのは適当ではない」と言っていたが、教育勅語に対する文科省の立場は変わりましたか?
前川:変わりました。政治の力で少しずつ変わってきたのは認めざるを得ない。だから、ここで見直す必要があると思います。暗唱して(教育勅語の精神を)身につけることはいいことだ、という考えは非常に危険だと思っています。
荒川:リスナーの方からメールが来ています。40代のドライバーから。「仮に大臣や議員の意向を省庁が断ったりスルーをした場合は、どうなるのですか?」
前川:役人というのは、しもべ。政と官の関係はそういうものなんですよ。議員は選挙で選ばれてますから、国民の代表。役人は(国民)全体の奉仕者ではあるが、試験で選ばれているだけであって国民の代表ではない。従って、(議員に)従うのが普通。しかし、役人はひとつの専門性を持っている。政策に関しては役人のほうが分かる。政治家に全部従ってしまうとよくないときがある。そういうときは面従腹背しかないです。
荒川:内閣人事局という人事権を握って、国家戦略特区というナタまで持たれてしまうと、従わざるを得ないんじゃないですか?
前川:面従腹背にも限度があってですね、これ以上、腹背ができないというリミットがあるんですよね。
青木:官僚社会が全体の奉仕者ではなく、政権の奉仕者・官邸の奉仕者みたいになっている風潮は強まっている?
前川:政権中枢に逆らえない雰囲気が強まってきた印象は持ってますね。
青木:もう1つ。出会い系バーに通っていたと言われて。在職中に警察庁出身の杉田官房副長官に言われたと。どういう印象を受けました?
前川:まったく私的な行動ですから。どうしてご存知なのか、とにかく不思議に思いました。
武田:政府が何らかの形で行動確認をしていた可能性があるってこと?
前川:その辺は、私は全くわかりません。とにかくご指摘を受けた時には驚いたと…。どうしてご存じなのかと。
青木:恫喝とか思わなかった?
前川:恫喝とは思いません。ご親切に「君、気をつけたまえ」という。
青木:一部新聞に報じられたときは恫喝だと思いましたか?
前川:あれもびっくりはしましたけど、恫喝とか威嚇とか脅迫とか、見ようと思えば見えると思いますけど、私は鈍感なほうで、そういう風には受け取らなかった。ただ、なんであの記事が出たのかはびっくりしました。