2024年6月17日月曜日

水面下の新自由主義(上・下)(しんぶん赤旗)

 しんぶん赤旗に掲題の記事が載りました。
「新自由主義」は資本主義の「進化」の一形態であり、経済的「勝ち組」に対して政治が彼らに対して更に経済活動上の便益を与えるというものです。富裕層や大株主たちにとってはまさに願ったり叶ったりの仕組みで、さすがに政府も大っぴらには出来ないので水面下で着々と進めています。
 この20年間(30年間とも)日本は世界で唯一、平均賃金が減少の一途を辿ってきました。しかしこの間にも大企業の株価は大幅にアップし、その内部留保は530超円(23年末)に達しました。各社のCEO(最高経営責任者)の報酬額は、21年の1・8億円から23年の2・6億円(いずれも中央値)へ僅か2年間で44%も増加し、この間の基本報酬は8900万円から9200万円に、株式報酬(中長期インセンティプ)に至っては3600万円から6800万円へ1・9倍に増えました。
 民間の投資家を含めて「勝ち組」にとってはまさに「我が世の春」状態です。かつては大きな利益が上がったときには従業員にボーナスなどの形で還元するということが行われていましたが、今は一定の勢力となった海外の株主がそれを認めずひたすら株式の配当に回すべきと主張するのでそうした風潮はなくなりました。
 経営者に対する「動機付け」も完璧に「システム化」されています。
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水面下の新自由主義(上) 役員の株式報酬 急増
                        しんぶん赤旗 2024年6月14日
 気候変動や格差拡大への不安と憤りが世界に渦巻く中、日本の政府・財界は一見、新自由主義を否定するかのような標語を振りまいてきました。ところが水面下では、着々と新自由主義的改革を進めています。一例は、日本の大企業が役員への株式報酬を急激に増やしていることです。 (杉本恒娼)

 世界最大級の会計事務所デロイトトーマツ・グループの「役員報酬サーベイ(調査)」によると、役員向けに株式関連報酬(長期インセンティブ報酬)を導入している企業の割合は、2017年の41から23年の76・8へ急増しました(図上*1)。プライム上場企業に限ると、23年には88・8の企業が株式開報酬を導入しています。
 株式関連報酬とは▽ストックオプション(社株を一定価格で購入できる権利)▽譲渡制限付株式(第三者への譲渡が一定期間制限される株式)▽株式交付信託(信託の設定による株式付与)-などを指します。
*1 https://drive.google.com/file/d/14YhmqlcNyscqJU9FcSuARqcD8kTBx9DQ/view?usp=sharing

■大口投資家の欲
 企業統治助言会社HRガバナンス・リーダーズの「日米欧CEO(最高経営責任者)報酬調査」によると、日本企業のCEOの報酬額中央値は21年の・8億円から23年の2・6億円へ増加しています。この間、基報酬が8900万円から9200万円へほぼ横ばいで推移したのに対し、株式報酬などの「中長期インセンティプ」は3600万円から6800万円へ1・9倍に増えました。(図下1
 役員報酬情報サイトを運営する新経営サービスは、企業役員に自社株を保有させる意味をこう解脱します。
「企業価値向上という場合、一般的に役員陣は『業績を高めること』と捉えるのではないでしょうか。ところが、株主から見た場合、『業績を高める』だけでは不十分です。その結果、『株が上がる』必要があるのです。役員が株式報酬などにより自社株保有することで、『業績を高めることと同時に、さまざまな施策を通じて株を高めること』へのインセンティブを高めようという狙いがあるのです」
 つまり、企業役員に大量の自社株を保有させれば、役員は私利私欲のために株上昇につながる企業経営(配当増額・自社株買い・合法的税逃れなど)を志向するようになり、株主がもうかるということです。大口投資家のこうした資本増殖欲求こそが新自由主義の根底にあるものです。

■大企業の進む道
 新自由主義は、企業の負担になる税制規制・社会保障制度や株主配当のない公共サービス部門を破壊し、労働者を搾取する自由を拡大して企業の税引き後利益を増大させます。その上で企業利益の株主還元を強めて株をつり上げ、投資家の不労所得を増やそうとします。「企業は株主のもの」と主張する株主資本主義と表裏一体の、階級的な思想・政策・法制度です。
 経団連の十倉雅和会長は「行き過ぎた株主資本主義や市場原理主義によってもたらされた『生態系の崩壊』と『格差の拡大・固定化・再生産』の克服は喫緊の課題です」(経団連HP「会長挨拶」)と述べています。しかし役員への株式報酬を急増させる日本の大企業は、実質的に、新自由主義・株主資本主義の強化に向かって突き進んでいるといえます。 (つづく)


水面下の新自由主義(下) 大株主代弁する政権
                        しんぶん赤旗 2024年6月15日
 「新しい資本主義」を掲げる岸田文雄首相は「小泉政権以降進められてきた新自由主義的政策」によって「富める者と富まざる者の分断なども生じています」(2021年827日)などと述べ、あたかも新自由主義と距離を置くかのようなポーズをとってきました。
 ところが水面下では、新自由主義の強化に全力を傾けているのが岸田・自公政権です。企業に対しては、役員に株式報酬を付与するようたきつけ、株主最優先の経営へかじを切るよう迫っています。

株式報酬の手引
 経済産業省は「『攻めの経営』を促す役員報酬」と称して「企業の持続的成長のためのインセンティブプラン導入の手引」(2023年3月時点版)を公表しています。この日本企業向け手引は「インセンティブ報酬導入の意義」を次のように強調します。「株式報酬や業績渡雛報酬の導入が促進されることで、経営者に中長期的な企業価値向上のインセンティブを与え、我が国企業の『稼ぐ力』向上につなげる」
 「特に、株式報酬については、経営陣に株主目線での経営を促したり、中長期の業績向上インセンティブを与えるといった利点があり、その導入拡大は海外を含めた機関投資家の要望に応えるもの」
 「株主目線」からみれぱ、 「企業価値向上」が意味するのは株価の上昇です。手引は株主資本主義の勧めにほかなりません。さらには以下のような「機関投資家の声」まで紹介します。
「株式報酬は様々な設計が可能で、経営陣に株主目線での経営を促したり、中長期の業績向上インセンティプを与えるなど、非常に有効な手段」
 「経営者に中長期的な成長を志向するよう促すには、自社株をどれだけ保有させるかが、重要なポイント。大量の株を持っている経営者なら、中長期的に企業価値が下落するような施策は取りにくい」
 つまり自公政権は外資を含む大株主の要求を代弁し、企業に「株主目線での経営」を行うようけしかけているのです。そのための株式報酬の推奨です。

■法の変更重ねる
 自公政権は単に企業向けの手引を公表しているだけではありません。企業が役員に株式報酬を付与しやすいよう法制度の変更を重ねてきました。
 16年度の税制改定では特定譲渡制限付株式を損金算入 (課税所得減額)の対象にしました。17年度の税制改定では特定譲渡制限付株式とストックオプションの課税特例(給与所得ではなく譲渡所得として課税)を非居住者(海外勤務)役員に拡大しました。21年施行の会社法改定では取締役・執行役への株式の無償発行制度を創設しました。
 デロイトトーマツの「役員報酬サーベイ」は16・17年の税制改定で「インセンティブ報酬設計の柔軟性を高めることが可能となり」、その後に「多くの企業で株式関連報酬の導入を含めた大幅な役員報酬制度の見直しが進められて」きたと指摘しています。
 財界と自公政権は反新自由主義ボーズで国民を欺きながら新自由主義を推進しているといえます。自社株を大量に保有する企業役員が株主最優先の経営に精を出せば、「冨める者と富まざる者の分断」が激化するのは必至です。(おわり)