日本はこれまで国連拷問禁止委員会から2007年以降4回に渡って代用監獄制度、取り調べ方法、人質司法などについて改善勧告を受けています。しかし最新の勧告が23年9月に出されたことから見て 少なくとも17年間にわたって殆ど改善が見られていないことが分かります。
そうした大欠陥のそれぞれが冤罪を生む要因になっていますが、なかでも犯罪を自供しない限り延々と留置場に拘留されるという人質司法の在り方は人権侵害の極みであって、当人が一家の主要な働き手である場合 家族が生活費に困窮することになるため、無実であっても官憲の求めるまま罪を背負った上で釈放されることを選択するしかありません。
先進各国の有罪率が70%ほどであるのに対して日本の刑事訴訟での有罪率が99・9%という、常軌を逸した数字になっているのは、そんな人権無視の悪慣習が背景にあるからと思われます。この責任は検察(と警察)だけでなく司法(裁判所)が等しく負うべきでしょう。
しんぶん赤旗が「人質司法の罠」とするシリーズ(不定期掲載)を始めました。
2016年、名古屋市白龍町の奥田恭正さん(67)は、地元で強行された高層マンション建設工事の見守り中に 目の前にいた現場監督が倒れ、奥田さんに「突き飛ばされた」と110番通報され、愛知県警に逮捕されました。
取り調べの警察官からは「おまえがやっとる姿がビデオに映っとる」と執拗に言われました。留置場は3畳の2人部屋で、正面入り□以外の3面は壁の薄暗い部屋で、いびきがうるさいと同部屋の男性に蹴られました。
しかし仮に突き飛ばしたにしても微罪なので勾留から14日で保釈されましたが、後に工事現場の監視カメラ映像には突き飛ばすシーンなどはないことが明らかにされました。
警察官が、被疑者との軽い身体的接触であえて転ぶなどして、公務執行妨害罪の名目で逮捕する手法は「転び公妨」と呼ばれます。現場監督の行為はそれを連想させます。
それとは別に、出版大手KADOKAWAの角川歴彦元会長(80)が無罪を主張するほど身柄拘束が長引く「人質司法」によって226日間拘留され精神的苦痛を受けたとして、国に2億2000万円の損害賠償を求める「角川人質司法違憲訴訟」を27日、東京地裁に起こしました。心臓に持病を抱える角川氏は、接見中に数回、意識を失うなど、東京拘置所で体調を悪化させました。保釈を求めても検察が反対し、5度目の保釈請求でようやく保釈となりましたが、体重が9キロ減り車いすで拘置所を出ました。
提訴後の会見で、代理人の村山浩昭弁護士は「この裁判は刑事裁判と全く別の訴訟。この裁判の目的は、国際的に批判を浴ぴている人質司法をつぶさに論証し、制度改善、運用改善を求めることが目的だ」と述べました。角川氏は「こうした人権侵害に裁判が起こされてこなかったことが私には信じられない。何万人といるだろう人員司法の屈辱を受けた方々と経験を共有していきたい」と語りました。
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人質司法の罠 冤罪の温床を問う
「認めろ」圧力 24時間 白龍町の奥田恭正さんの場合
しんぶん赤旗 2024年6月28日
「現行犯逮捕」で手錠をかけられ、警察署に連行された奥田恭正さん(67)=名古屋市=は「自分は突き飛ばしてないんだから、すぐ帰れるだろう」と思っていました。
「本当は俺が・・・」
取り調べのたびに、警察官は「おまえがやっとる姿がビデオに映っとる」と繰り返しました。一方で、その映像を見せることはありません。「洗脳じゃないけど、『ひょっとして俺は本当はやったんじゃないか』と思うこともあった」(奥田さん)
勾留されたのは、警察署内の留置施設。3畳の2人部屋でした。便器があり、排せつも食事もそこで済ませます。正面入り□が鉄錠門で、あとの3面は壁の薄暗い部屋。「いびきがうるさいと、同部屋の男性に蹴られた」と奥田さんは振り返ります。時計もテレビもありません。部屋を出られるのは洗面所を使う時など限られました。
奥田さんの心配は、「自分がいなくて、経営する薬局が回るのだろうか」ということ。
連日、接見にくる妻に、やってほしい仕事を伝え、取引のある医師への状況報告を頼みました。
「こうして勾留されている間に、私の生活基盤がごづそり無くなるんじゃないかと怖かった」
10日目。検察は、奥田さんの勾留延長を申請しました。
たまらず「示談」
裁判所が延長を認めたことを知った奥田さんは「示談でもなんでもいいから、早くここから出してくれって、たまらず弁護士に頼みました」。
示談をすることなく、容疑を否認したまま、勾留から14日で保釈されました。
「取り調べがなくても、そこに留め置かれるだけで、『罪を認めろ』「取り調べがなくても、そこに留め置かれるだけで、『罪を認めろ』と圧力を24時間受け続ける感じだった」
(矢野昌弘)
奥田恭正さん 名古屋市瑞穂区で3軒の薬局を経営。2016年、地元で強行された高層マンション建 |
「大川原化工機事件」や袴田巌さんの冤罪(えんざい)事件などからは、容疑を認め |
国際的批判の人質司法論証 角川氏違憲訴訟起こす
しんぶん赤旗 2024年6月28日
「身体拘束の中で自白の『半歩』手前のところまで追い詰められた」ー。無罪を主張するほど身柄拘束が長引く「人質司法」によって精神的苦痛を受けたとして出版大手KADOKAWAの角川歴彦元会長(80)が国に2億2000万円の損害賠償を求める「角川人質司法違憲訴訟」を27日、東京地裁に起こしました。
また同日、スイスのジュネーブにある「国連人権理事会恣意(しい)的拘禁ワーキンググループ」に通報しました。
角川氏は、東京五輪・パラリンピックをめぐる汚職事件の贈賄容疑で、2022年9月14日に東京地検特檀那に逮捕されました。翌月に起訴されましたが、今も公判前整理中で、刑事裁判の初公判は禾定です。
訴状などによると、無実を訴えた角川氏の勾留は、23年4月27日まで226日間に及び
ました。心臓に持病を抱える角川氏は、接見中に数回、意識を失うなど、東京拘置所で体調が悪化。拘置所内では対症療法だけだったと主張しています。23年2月には、医務室の医師から「角川さん、あなたは生きている間はここか出られまぜんよ。死なないと出られませんよ」と言われたといいます。
保釈を求めても、検察が反対し、5度目の保釈請求でようやく保釈となりました。体重が9キロ減り、車いすで拘置所を出ました。
角川氏と弁護団は「二度と同じような悲劇を生まないための公共訴訟」と位置づけています。提訴後の会見で、代理人の村山浩昭弁護士(元静岡地裁裁判長)は「この裁判は刑事裁判と全く別の訴訟で、ここで無罪を主張する気はない。この裁判の目的は、国際的に批判を浴ぴている人質司法をづぶさに論証し、制度改善、運用改善を求めることが目的だ」と述べました。
角川氏は「こうした人権侵害に裁判が起こされてこなかったことが私には信じられない。何万人といるだろう人員司法の屈辱を受けた方々と経験を共有していきたい」と語りました。
角川氏は、賠償が認められた場合は、拘置所医療改善のために寄付するとしています。