労働者教育協会の筒井晴彦理事が寄稿した掲題の記事がしんぶん赤旗に連載されました。
日本が司法において「人権後進国」であることは、国連の人権機関から再三にわたって指摘され是正を求められていますが、日本の法務省は何故か応じようとしません。
昨年夏、日本における企業活動が人権に与えている影響を国連「ピジネスと人権」作業部会のメンバーが12日間にわたって訪日調査しました。6月18日から始まった国連人権理事会(~7月12日)にその報告書が提出されました。
報告書は結論部分で、国に25項目、ビジネス界に10項目、市民社会に3項目を勧告しています。
筒井晴彦理事の報文は、人権後進国の日本の状況を国際社会に告発しながら、国際基準にもとづいて、誰もが自分らしく生きることのできる社会を実現したいと結んでいます。
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ビジネスと人権 国連「訪日報告書」を読む(上)
人権機関の不在に懸念
筒井晴彦 しんぶん赤旗 2024年6月20日
昨年夏、日本において企業活動が人権に与えている影響を12日間にわたって訪日調査した国連「ピジネスと人権」作業部会の報告書が、6月18日から始まった国連人権理事会(~7月12日)に提出されました。報告書の内容について労働者教育協会の筒井晴彦理事に寄稿してもらいました。
労働者教育協会 筒井晴彦理事
報告書の分析は多岐にわたります。報告書はまず、差別などのリスクに直面している人びととして、女性、LGBTQ I+の人びと、障がい者、マイノリティーグループと先住民(アイヌ民族)、子ども、高齢者を挙げ、それぞれの人権状況を分析しています。
さらに、①健康・気候変動・自然環境(福島第1原発事故、PFAS=有機フッ素化合物) ②労働権(労働組合、長時間労働、移住労働者と技能訓練制度) ③メディアとエンターテインメント産業 ④バリューチェーン(原材料調達から販売までの事業活動)と金融の規制-という4テーマについても詳しく分析しています。
本連載ではこれらのうち、職場における人権問題を軸に報告書の内容を整理し、紹介します。
国家の義務
報告書は、人権を保護する国の義務に関わり「日本国内において「国連ビジネスと人権に関する指導原則」への認識不足が全般的に、とりわけ東京以外の地方で見られることを注視する。指導原則が定める権利と義務、責任を関係者が全面的に理解するには、相当の努力が求められる」と指摘しています。
指導原則は、①人権を保護する国の義務 ②人権を尊重する企業の責任 ③被害者救済へのアクセス拡大ーという3本柱(一般原則)で構成され、さらに柱ごとに「やるべき」原則を定めています。合計31のやるべき原則のうち14原則が企業の責任に関わるものです。
作業部会は、日本の関係者が指導原則を全面的に理解するために、日本政府に相当の努力を払うよう求めているのです。
企業の責任
報告書は企業の責任に関わって「企業の99・7%を占める中小企業において指導原則への理解が低い。指導原則を理解・実行する点で、企業間に大きな格差が存在する」と指摘します。また「もっと積極的に指導原則の義務を遂行する必要が国にはある。もっと実践的な指導を経済産業省と厚生労働省、外務省、法務省に求める」とのビジネス界の主張を紹介しています。
報告婁は、司法の利用と効果的な救済に関し、「指導原則と広範な人権についての裁判官の低い認識が重大な問題の1つとなっている。作巣部会は、日本において(政府から独立した)国内人権機関が存在しないことを強く懸念している。経済協力開発機構(OECD)38カ国のなかで、国内人権機関が存在しないのは日本を含め8力国のみである。法務省の人権局は、国内人権機関の機能を果たしていない」と厳しく指摘しています。
国内人権機関はすでに世界120カ国に存在しています。国運はこれまでも、世界であたり前になっている国内人権機関の確立を繰り返し日本政府に勧告しています。
ビジネスと人権国連 「訪日報告書」を読む(中)
リスクに直面する人々
筒井晴彦 しんぶん赤旗 2024年6月21日
労働者靫育協会 筒井晴彦理事
国運「ビジネスと人権」作業部会の報告書は、差別などのリスクに直面しているグループとして、女性、LGBTQ I+の人びと、障がい者、先住民(アイヌ民族)、マイノリティー、子ども、高齢者などをとりあげます。
深刻な差別
女 性・・・世界経済フォーラムの2023年のジェンダーギャップ指数で146カ国中125位だったことや日本政府の統計で女性労働者労働者の68・2%が非正規雇用で働いていること、賃金もフルタイム同士の比較で男性の75・7%、非正規同士の比較で80・4%にとどまることを紹介。「女性の職業はしばしば補助的労働や臨時的雇用、パート労働に限定穴れている。その結果、キャリア昇進の機会が制限され、低賃金となっている」と強調しています。
大企業の男女貧金格差の公表を「積極的な第一歩」と評価する一方、女性の昇進差別やセクハラについて憂慮すべき事例が報告されているとし「指導的地位と意思決定機関においてジェンダー多様性の促進が必要」だとしています。
LGBTQ I+の人びと・・・昨年成立したLGBT理解増進法について「LGBTQ I+の個人への差別を禁止する条項が存在せず、差別の明確な規定が存在しない」と厳しく指摘しています。
障がい者・・・職場における差別と低貫金、見せかけだけ企業が雇用義務を果たす雇用代行事業の横行など「偽装雇用」に懸念を表明しています。障がい者の雇用促進には、法定雇用率の基準拡大が不可欠だと主張しています。
マイノリティー・先住民・・・アイヌ民族が職場で依然として差別に直面していること、在日コリアンや在日中国人の労働者に対し、雇用主がヘイトスピーチを含めた差別を繰り返していることに懸念を表明しています。
高齢者・・・差別的雇用慣行が存在すること、65歳以上の高齢者の70%が非正規で働いていること、60歳から65歳までの高齢者の賃金が同じ仕事をしている場合でも引き下げられていること、他のOECD(経済協力開発機構)諸国と異なり年齢差別禁止法が存在しないこと、雇用主が定年制を設け高齢者に劣悪な仕事を押し付けていることーなどを報告。「高齢者の労働権のための政策」を求めています。
アニメ制作者・・・報告書は、アニメ制作者が長時間労働を強いられているにもかかわらず初任給が年間150万円しかなく、制作者の30・8%がフリーランスまたは個人事業者で労働法の保護を受けていないとし、「アニメ業界は、これらの問題に取り組み、制作者に人間らしい労働を拡大することが絶対に欠かせない」と訴えています。
長時間労働
報告書は、企業による労働組合の日常活動への妨害や組合組織化を理由とした職場への立ち入り拒否などの事例があるとし、「公正で法律を順守する職場慣行を促進するうえで、労働組合は必須の役割を担っている。作業部会は、労働組合の重要性を繰り返し強調する」と主張しています。
長時間労働に関わって、職業に起因する病気、とりわけ精神疾患に対する損害賠償件数が増えていることに懸念を表明。残業時間の上限規制に例外が設けられていること、医獅の場合は年1860時間もの残業が可能となっていることにも強い懸念を示しています。
2024年ジェンダーギャップ指数ランキング
順位(23年) 国 名 指 数
1(1) アイスランド 0.935
2(3) フィンランド 0..875
3(2) ノルウェ- 0.875
4(4) ニュージーランド 0.835
5.(5) スウェーデン 0.816
6(7) 二カラグア 0.811
7(6) ドイツ 0.810
8(8) ナミビア 0.805
9(11) アイルランド 0.802
10(18) スペイン 0.797
14(15) 英 国 0.789
22(40) フランス 0.781
36(30) カナダ 0.761
43(43) 米 国 0.747
87(79) イタリア 0.703
94(105). 韓 国 0.696
106(107) 中 国 0.684
118(125) 日 本 0.663
129(127) インド 0.641
(Oが完全不平等、1が完全平等) (つづく),
ビジネスと人権国連 「訪日報告書」を読む(下)
差別構造の全面解体必要
筒井晴彦 しんぶん赤旗 2024年6月22日
労働者靫育協会 筒井晴彦理事
国連「ビジネスと人権」作業部会の報告書は結論部分で、国に25項目、ビジネス界に10項目、市民社会に3項目を勧告しています。労働に関わるものを中心に紹介します。
条約批准を
国に対する勧告ではまず、▽リスクに直面するグループに対する不平等と差別の構造の緊急かつ全面的な解体 ▽国際労働機関(ILO)「雇用と職業における差別禁止条約」(第111号)、同「職業上の安全と健康に関する条約」(第155号)など4条約、6議定書の批准(下表)-を求めています。
ILO第111号条約は、雇用と職業におけるあらゆる差別を禁止する条約です。第155号条約は、労働者の安全と健康を守るために具体的な対策を講じることを企業に求めています。この2条約はILOの中核的条約です。
そのほか以下のことを国に勧告しています。
▽人権デューデリジェンス(人権侵害を防止するための調査と対策)を義務付ける法律を制定する。
▽独立した強力な国内人権機関を遅滞なく確立すること。司法救済および裁判外救済へのアクセスを改善する。
▽同一価値労働同一賃金の原則を実施するための取り組みを強化し、男女間賃金格差を是正する。民間部門における女性代表の割り当て(クォータ制)の採用を含め、指導的地位に占める女性の比率を高める。
▽既存の差別禁止法を明確かつ包括的な差別の定義を盛り込む内容に改正することを含め、差別を公式に禁止し制裁を科す。
▽技能実習生制度を改正する際は、国際的な人権基準に基いて明確な人権保護を盛り込む。
▽労働監督を強化し、強制労働および人身売買の被害者の確認を強める。
▽在留資格にかかわらず、差別のない雇用機会への平等なアクセスと適正な賃金、安全な労働条件を保障することを含め、すべての労働者に労働法が適用されることへの認識を高める。
企業へ勧告
企業に対する勧告には以下のものがあります。
▽国連「ビジネスと人権に関する指導原則」に基づいた苦情処理システムの確立。効果的な苦情処理システムとするため、すべての基準をジェンダーに配慮した方法で解釈する。
▽損害をあたえた被害者・共同体を効果的に救済する。
▽企業の意思決定機関に女性の代表を増やす。
▽就活生に対し、差別につながるような質問を撤廃する。あらゆる形態の差別、搾取、ハラスメント、権力乱用、その他の単刀を職場から撤廃する。
▽労働者の結社の自由と団結権、団体交渉権を促進する。
日本政府と経済界には、勧告内容の連やかな実施が求められています。
国連「ビジネスと人権」作業部会は、日本の人権状況について引き続き情報提供を求めています。人権後進国の日本の状況を国際社会に告発しながら、国際基準にもとづいて、誰もが自分らしく生きることのできる社会を実現したいと思います。
国連「ビジネスと人権」作業部会が批准を求めている条約と選択議定書
・ILO「雇用と職業における差別禁止条約」(第111号)
・ILO「職業上の安全と健康に関する条約」(第155号)
・ILO「強制労働条約」(第29号)の2014年議定書
・ILO「原住民及び種族民条約」(第169号)
・国連「すべての移住労働者とその家族の権利の保護に関する国際条約」
・国連「女性差別撤廃条約」の選択議定書
・国連「人種差別撤廃条約」の選択議定書
・国連「経済的・社会的・文化的権利に関する国際規約」の選択議定書
・国連「市民的・政治的権利に関する国際規約」の選択議定書
・国連「陣がい者の権利に関する条約」の選択議定書
(おわり)
「湯の町湯沢平和の輪」は、2004年6月10日に井上 ひさし氏、梅原 猛氏、大江 健三郎氏ら9人からの「『九条の会』アピール」を受けて組織された、新潟県南魚沼郡湯沢町版の「九条の会」です。