日刊ゲンダイが8日付で掲題の記事を出しました。
同紙は毎回大きな選挙の翌日辺りにこの種の記事を出しています。力作です。
以下に全文を紹介します。
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すべてが異様だった都知事選を総括・分析 悪夢のような結末は歴史の分岐点になる予感(上)
日刊ゲンダイ 2024/07/08
(記事集約サイト「阿修羅」より転載)
嘘とゴマカシ、醜聞まみれの百合子圧勝に心ある有権者の絶望
何から何まで異様だった都知事選は7日に投開票され、悪夢のような結末に終わった。
現職の小池百合子東京都知事(71=自民、公明、都ファ支援)が291万票を得て、3選。当初、一騎打ちとみられた蓮舫前参院議員(56=立憲民主、共産、社民支援)は128万票と伸びず、小池を追い詰めるどころか、石丸伸二前安芸高田市長(41)に逆転されるボロ負けだった。
この選挙結果にケチをつける気はないが、絶望的になってくるのは、この国の民主主義の危うさの方だ。小池は正々堂々と戦って勝ったわけではないのである。
公務を理由に政策論争から逃げ回り、噴出する疑惑への質問を封じるためにオンライン会見などで記者を制限、公開討論に応じたのも2回だけだった。その一方で、選挙直前の6月に低所得者層に1万円の商品券を配るなど、“買収まがい”のようなことをした。
そんな小池を自公は支援したが、裏での票固めに徹し、表には出ないように身を潜めた。つまり、まっとうな審判を避けるために、現職都知事が、ありとあらゆる策を弄し、民主主義の“当たり前”を踏みにじった選挙戦だったのである。
それなのに、フタを開ければ小池の圧勝、開票と同時に当確が出る「ゼロ打ち」だった。政治を真剣に考えている有権者ほど、この結末には暗澹たる気持ちになったのではないか。
「何から何まで異様な都知事選でしたね。国民から猛烈な批判を受けている与党が候補者を出せずに、小池氏にステルスで抱きついた。それなのに、野党は批判票を受け止められずに、無党派層は分断された。ネット社会の若者は石丸氏に流れ、マトモな政策論争もないまま、目立たない戦術に徹した小池氏が消去法の雪崩現象で圧勝した。56人もの候補者が出て、選挙を金儲けにしたり、面白がる風潮の中で、民主主義が流動化していく懸念を強く感じる選挙でした」(法大名誉教授・五十嵐仁氏=政治学)
改めて言うまでもないが、小池は学歴詐称など複数の疑惑で刑事告発されている。元側近は次々離反し、小池を「嘘つき」と断罪している。
「都民ファーストの会」元事務総長の小島敏郎氏は「嘘は良くない。検察は捜査に乗り出してほしい」と言い、エジプト留学時代に同居していた北原百代氏は「あなたは日本の法律に違反することをして、今の地位を築きました」と月刊誌で書いた。
小池は今後、検察から事情を聴かれることになるし、そうなれば、改めて自民党に接近し、国政への野望を抱く可能性も大いにある。
果たして小池は4年後も都知事をやっているのか。その時、都民が目覚めても遅いのだが。
まんまと奏功した政権与党のステルス抱きつきに加担した大メディア
政権与党の自公両党は前回の都知事選に続き、自前の候補を擁立できなかった。裏金事件の猛逆風で誰を立てても惨敗は確実。そのため、嘘つき女帝にひれ伏し、ステルス支援という姑息な手段を選んだ。主導したのは萩生田党都連会長である。
役職停止処分をくらった「ミスター裏金」が今なお都連会長に収まっているのは、小池とのパイプ役を期待されてのこと。自公と小池の協力関係には腐臭がプンプン漂う。
選挙の裏に萩生田アリの「萩生田百合子」の争点化を嫌い、小池は自民党色を徹底排除。序盤は街頭に立たず、自身の疑惑の核心を突くフリー記者を完全無視し、テレビ討論会も公務を理由に断り続け、最後まで「逃げの選挙」を貫いた。
そのくせ、自民の組織票欲しさに、党都連が呼びかけた「各種団体総決起大会」に駆けつけ、せっせと“組織固め”に精を出した。「いただき女子」も真っ青のいやしさだが、まんまと奏功した政権与党のステルス抱きつき、不都合な真実を隠す小池のダメージコントロールに、大手メディアも加担したのだ。高千穂大教授の五野井郁夫氏(国際政治学)が言う。
「2期8年を務めた現職知事が議論から逃げるのは『恥』です。小池知事にテレビ討論会を断られたら、その旨を視聴者に伝え、他の主要候補だけで開催すればいい。小池知事の逃げの姿勢を知らせるのも、有権者の投票行動に有益な情報となる。一方でテレビのコメンテーターは蓮舫氏の小池都政に対する批判や提言を『攻撃』と言い換え、ネガティブな印象操作も行った。これでは現職知事への忖度です。健全な民主主義は情報の開示と真摯な議論があればこそ。選挙の実相を伝えない大手メディアは、もはや民主主義の敵です」
最終盤に小池の街宣で巻き起こった「辞めろ」コールを伝えたり、石丸の危うさを検証する報道はほぼ皆無だった。大手メディアがまともに機能していれば都民の「地獄の選択」は避けられたに違いない。
すべてが異様だった都知事選を総括・分析 悪夢のような結末は歴史の分岐点になる予感(中)
日刊ゲンダイ 2024/07/08
(記事集約サイト「阿修羅」より転載)
批判票がトリッキーな石丸に流れたのは政党政治の分岐点
事実上の与野党対決の構図だった都知事選に番狂わせが起きた。
広島県安芸高田市長を1期目途中で放り出した石丸がマサカの善戦。2位に躍り出た。市の公式ユーチューブチャンネルでニタニタしながら「理解のない上の世代は敵に回してもいいじゃないですか。ほとんど全員、自分より先に死にますから」と倫理観を疑われる発言をしたのは、ホンの3カ月前。若気の至りでは片づけられない。トリッキーな男の躍進は危険な兆候だ。
陣営を支えたのは、安倍元首相夫妻と親密なドトールコーヒー創業者の鳥羽博道名誉会長(86)を中心とする自民党に近いオールド世代。「SNSを活用したネット戦略が注目されていますが、電話作戦も大展開。固定電話をもつ年配層に猛チャージし、新旧織り交ぜた選挙戦術を駆使した。カネと人がモノをいった」(都政関係者)という。
資源はどこから湧いてきたのか。分刻みの街宣をしても政策の訴えはほぼ皆無。「自信を持って東京を動かしましょう」と言うのがせいぜいだったのに驚異の集票力だ。
統一教会(現・世界平和統一家庭連合)との関係も深い人物が支援することもあり、終盤に疑惑が噴出。石丸が公式X(旧ツイッター)に〈宗教団体と一切関係がありません。統一教会や創価学会と繋がっているなどというデマを流している人がいるので、注意して下さい〉と投稿するなど、火消しに追われたが、致命傷にならず走り切った。
立正大名誉教授の金子勝氏(憲法)はこう指摘する。
「自民党の裏金事件は言うまでもなく、既存の政党政治に嫌気が差した有権者が一定数いる。『首長経験のあるフレッシュな若手』がその受け皿になってしまった。抽象的な公約を並べた石丸氏に無党派層が期待を投影し、うまい具合に食い込んだと言えます。裏を返せば、当選させたら何をやるか分からない。安芸高田市で議会と対立した経緯にしても『オレの権力を行使して何が悪い』という考えが根底にある。住民から権力を委任されたという民主主義の原則を理解していないのでしょう。小池氏よりもひどい独裁者になりかねなかった」
どうりで選対はグチャグチャだ。
「勝てると勘違いした石丸氏は周囲の助言に耳を傾けず、独善性全開。〈あれは単なるユーチューバー〉と陰口を叩かれていた」(陣営関係者)
開票後に国政進出について問われた石丸は「選択肢としては当然考えます。例えば衆院広島1区。岸田首相の選挙区です」と高揚感たっぷり。
「東京一極集中の是正」を掲げるのだから、まずは広島へハウス! 有言実行を見てみたい。
蓮舫ボロ負けで政権交代機運は遠のいたのか
予想外だったのは蓮舫の惨敗だ。小池VS蓮舫の戦いになるはずが、石丸にも追い抜かれ、結局、3位だった。メディアの出口調査によれば、東京の大票田である無党派層の投票先は、石丸4割、小池3割、蓮舫は2割しか取れず。小池NOの批判票も石丸に奪われた。
蓮舫は若者政策に重点を置き「影に光を当てる」と訴えるなど、自民党的な利権政治を都政に持ち込んでいる小池との違いを打ち出したが、小池が討論に出てこないこともあり、争点が有権者に響かなかった。
蓮舫は敗因について今後分析するとしつつ、「私の力不足。そこに尽きる」と言った。政治ジャーナリストの角谷浩一氏は敗因をこう分析する。
「出馬会見で蓮舫氏は、『反自民政治、非小池都政』と宣言したのに、選挙戦では『自民党との戦い』という位置づけを貫かなかった。若者政策もいいが、現職と政策合戦をしても限界がある。『怖い』と言われることを意識してソフトイメージで戦ったが、むしろ『私がなぜ怒っているのか。おかしな政治が続いているからです』と真正面から訴えた方が無党派層に響いた」
最近の世論調査では「自公政権の継続」より「政権交代」を望む声が上回っている。立憲は蓮舫の勝利か、負けるとしても接戦に持ち込み、来たる衆院選への弾みにしたかったはずだ。しかし、頼みの蓮舫が惨敗し、野党は仕切り直し。蓮舫が共産から全面支援を受けたことで、早速、立憲内からは「共産色が出すぎた」などと、不満が噴き出しつつある。
「共産との共闘が問題なのではなく、『立憲共産党と萩生田百合子とどっちが正しいと思いますか』という戦いに持ち込めなかった立憲の戦略ミスですよ。もっと蓮舫氏を野党統一候補として打ち出すべきでした。これで政権交代の機運は後退するでしょう。しかし、自民党の『政治とカネ』問題を忘れちゃいけない。自民党が勢いづくなら、野党はますます厳しいチェックを怠ってはいけない」(角谷浩一氏=前出)
今後、責任問題や路線問題で立憲内はガタガタしそうだが、自公の思うツボ。政治不信がさらに深まり、岸田政権と石丸のようなヤカラを喜ばせるだけだ。
この都知事選の結果は自民も立憲も嫌だという刹那の民意
東京に限らず、首長選の立候補者は幅広い支持を集めるために政党色を薄め、無所属で出馬するのがお決まりだ。しかしながら、この首都決戦はバリバリの政党対決。小池の裏には国民的に嫌悪されている自民党、公明党、国民民主党都連、特別顧問を務める地域政党「都民ファーストの会」、そして連合東京。対する蓮舫は立憲民主党、共産党、社民党の支援を受けた。事実上の一騎打ちだったはずが、東京ではほぼ無名の石丸が2位に食い込んだ。
想定外の展開になったのは、自民に近いオールド世代を抱き込んだ石丸のジジ殺し戦術やネット駆使だけでは説明がつかない。自民は無論イヤ、かといって政権交代を目指す野党第1党の立憲もイヤ。そうした刹那の民意が表れたと言っていい。
「蓮舫氏が小池氏に迫る構図とみられていたのに、それが崩れたのは立憲民主党をはじめとする野党の日和見な姿勢も影響したのではないか。国政では自民党と全面対決しても、地方選挙では平気で相乗りをする。東京は流動人口が多いですから、茶番だと鼻白む有権者が少なくないのでしょう。世界に目を転じても、中間政党は左右の間をウロウロするものですが、それにしたって立憲民主党は国民の信頼を勝ち取れていない」(金子勝氏=前出)
仏総選挙でルペン氏が事実上率いる極右政党「国民連合(RN)」が躍進。既成政党への不信を募らせた世論がドラスチックな変化を求める危うさは日本でも同じだろう。
のちのち、この知事選が歴史の転換点だったということになるのか。
すべてが異様だった都知事選を総括・分析 悪夢のような結末は歴史の分岐点になる予感(下)
日刊ゲンダイ 2024/07/08
(記事集約サイト「阿修羅」より転載)
負けを逃れても岸田自民のレームダックは変わらない
ステルス支援を徹底した小池の3選で、大型選挙での岸田自民の連敗はストップ。小渕選対委員長が7日出した「今後の全国での選挙に大きな弾みになる」とのコメントにも、党内の安堵感がにじむ。小渕は「政治の信頼回復はまだ途上にある」と続けたが、小池の勝利が即、自民の勝利とは限らない。4月の衆院3補選全敗から続く、裏金事件の猛逆風が収まったと考えるのは早計だ。
朝日新聞の出口調査によると、都知事選の投票の際、自民の裏金問題を「重視した」は「大いに」36%、「ある程度」34%を合わせて70%。しかし、その投票先は小池が最多で3割を超えた。
「特に小池知事に票を投じた無党派層は、小池知事の評価と岸田自民の評価を切り離して考えています。小池知事の勝利は『まあ、よくやっている』『大過なければいいや』という都民の投げやりな感覚を反映したもの。萩生田都連会長をはじめ、自民の国会議員は最後まで小池陣営の応援に入らず『自民隠し』がアダとなり、有権者の多くは自民が勝ったなんて思っていませんよ」(五野井郁夫氏=前出)
首都決戦で負けを逃れても岸田自民のレームダックは変わらない。萩生田の地元・八王子市など自民惨敗の都議補選をみれば有権者の裏金事件への不満は根強いままだ。
「無党派層の3割超と自民支持層でも2割近くの票が石丸氏に流れたのは本人の人物像はともかく、裏金政治への変化を求める有権者の思いの表れ。石丸陣営のバックにはバリバリ右寄りの自民の支援者が付いていた。政権維持のためなら自民は何でもアリ。批判票の受け皿を潰すため、今から石丸氏を取り込もうとしかねません」(五野井郁夫氏=前出)
裏金震源地の安倍派とカルトは相性がいいだけに、ますます不安だ。
英国と日本の違いは政治家の質か民意か大マスコミか
それにしてもこんな選挙結果を見せつけられると、彼我の差に暗澹たる気持ちになってくる。今月4日、14年ぶりに政権交代を実現させた英国との違いだ。
裏金まみれの自民党に有権者は怒り狂い、退場を迫っているのに、岸田政権は選挙から逃げ回っている。ならばと、有権者が地方選挙で反旗のノロシを上げると、都知事選では小池をステルス支援の薄汚さ。立憲、共産が全面支援した蓮舫がボロ負けしたことで、自民は「負けを止めた」と一息ついている。有権者はますます苛立つという展開だ。
今回の都知事選では多くの若者が石丸に投票したが、英国では労働党が若者の受け皿になった。格差を拡大させた保守党への批判票を受け止めた。労働党が勝つと、若者が街中で歌いだして歓喜したほどだ。立憲が若者の受け皿になれない日本とは大違いだ。
「2大政党制がきっちり根付いている英国に対して、日本では政党政治に対する不信感が広まっています。民主主義に対するシニシズム(冷笑主義)すら感じます。こうなったのは歴史に裏付けられた民主主義の根付き方の違いだと思う。英国では野党がシャドーキャビネットにおいて、自分たちが政権を取ったら、どういう政策をしていくのかを日常的に発信している。おかげで有権者は安心して野党に政権を託せるのです」(東大名誉教授・高橋哲哉氏=哲学)
政権交代を実現させた労働党の党首、スターマー新首相の「人柄」も注目に値する。もともと人権派の弁護士で、派手な演説を好まず、規則に忠実で、ユーモアとは無縁の堅物だ。そんな人柄が受けたのは若者たちが嘘と詭弁で塗り固められた空約束にウンザリしていたからだろう。舌先三寸で少子化対策を「やってるふり」の岸田や小池とは大違い。立憲も見習って欲しいものだが、もう一つ、彼我の差はメディアの公平な報道だろう。それによって、民主主義は成熟していく。この国が変わらない理由をまざまざと見せつけられたようだ。
「湯の町湯沢平和の輪」は、2004年6月10日に井上 ひさし氏、梅原 猛氏、大江 健三郎氏ら9人からの「『九条の会』アピール」を受けて組織された、新潟県南魚沼郡湯沢町版の「九条の会」です。