2024年7月3日水曜日

中国の科学技術力 - 嘗て日本の子どもたちが夢見た未来空間へ日進月歩

 世に倦む日々氏による掲題の記事は衝撃的です。
 Nature 誌に掲載された23年に発表された7万5千の論文の貢献度を指標にして評価した結果、今年のベスト10には中国の大学が7校で他は米・独・仏が各1校でした(トップは中国科学学院。国別の順位はトップから中国、米国、独国、・・・)。中国は特に近年の前進が目覚ましいようです。
 中国の科学技術の圧倒的な実力を証明したのは、6月の「嫦娥6号の月の裏面探査で初めて月の裏側のサンプル採取して地球持ち帰った偉業ですが、その意義の大きさと釣り合う分量と内容で報道した日本のマスコミは皆無でした。逆に中国による「月侵略だとか宇宙の軍事支配というような偏向した文脈での報道しかなかったということです。
 世に倦む日々氏は「もしあのとき、小泉純一郎と竹中平蔵に権力を握らせなければ、新自由主義の政策と体制を選んでいなければ、日本が先端技術のリーダーの地位にいただろう。田中真紀子と加藤紘一の自民党政権を続けていれば、日本のGDPは ~ 30年で3倍になっていたに違いない」と述べています
 かつて「ジャパン アズ NO.1」と言われた時期もありましたが、米国による徹底した干渉によってその地位から陥落しました。そして大間違いの「郵政民営化」以外には何もしなかった小泉氏と、米国かぶれの竹中氏による大間違いの「新自由主義」政策が、日本の停滞を決定づけました。その実態は財界優先で、彼らは今日に至るまで大儲けをしました。
 そして安倍政権になってからは「財界のための大学」化が促進されたことで、学問も大いに停滞し、いずれはノーベル賞とは無縁の国になると見られています。

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中国の科学技術力 - 嘗て日本の子どもたちが夢見た未来空間へ日進月歩
                        世に倦む日日 2024年7月2日
先月、遠藤誉が「Nature の研究ランキング『トップ10』を中国がほぼ独占」と題した記事を発信した。Nature 誌を発行する英国の出版社が、科学技術研究における各国の大学・研究機関の実力をランキングしていて、その最新版の報告書の紹介である。Nature Indexと呼ばれる世界トップクラスの研究成果のデータベースがあり、2023年に発表・収録された7万5000本の論文の貢献度を基準指標を元に測定し、著者の研究拠点を番付したものである。冒頭にトップ10の表を掲げていて、中国の大学・研究機関が7つも入っている。第1位は中国科学院。昨年に続き、米ハーバード大学を抑えて首位を維持した。この事実は日本のマスコミでは報道されていない
















フランス国立科学研究センターは2023年の4位から7位にランクを落とした。米スタンフォード大学も2023年は6位だったが、今年は15位に後退している。米名門マサチューセッツ工科大学も2023年の12位から14位に順位を下げた。一方、杭州の浙江大学ZJU)は、2023年の13位から9位に躍進し、スタンフォード大を蹴落としてトップ10入りを果たした。Nature がレポートに書いているとおり、中国の研究機関の活躍と地位上昇がめざましい国別のランキングも示されていて、1位中国、2位アメリカ、3位ドイツとなっているが、注目すべきは、西側諸国がすべて昨年比で貢献度(share)を落としている中で、中国だけが唯一ポイントを上げている事実である。この点は昨年も同様だすなわち、ここ数年、世界の科学技術を中国がリードしている現状が明らかだ。

この中国の科学技術の圧倒的な実力と勢い。それを象徴的にプレゼンテーションしたのが、6月に行われた嫦娥6号の月面探査であり、世界で初めて月の裏側からのサンプル採取に成功し、地球へ持ち帰った偉業である。6/30 のサンデーモーニングで説明していたが、この科学ミッションの進行と成果を、その意義の大きさと釣り合う分量と内容で報道した日本のマスコミはなかった。NHKは無視しきっていた。本来、1969年のアポロ11号や「かぐや」や「はやぶさと同程度に、テレビで中継し、専門家に解説させ、宇宙への興味関心を子どもたちに育む教育機会にすべきだったと思われる。科学技術にイデオロギーの色はない。国境を越えて万国共通で一つである。それなのに日本の報道は、中国の月侵略だとか宇宙の軍事支配という、政治的に偏向した文脈でしかこのニュースを伝えなかった

中国のテレビは同時進行で詳しく中継していたようで、地上管制室から中継衛星を経由して命令を発信し、ドリルでの掘削とロボットアームでの試料採取を行う様子を放送していたようだ。それが実撮影なのか、CGなのかは不明だが、宋文州がXで得意げに紹介している映像を見て、何とも興奮させられてしまった。まさしくNHKのプロジェクトXの姿があったからだ。中国のプロジェクトX。着陸ー掘削ー採取ー格納ー上昇の一連の工程のメカニックがクールで、デザインも動作も精密でセンスよく、先端テクノロジーの美学(工業美)が演出されていたのである。地上基地局の技術者と月面の機械が一つになり、宇宙を夢見る少年たちが心を躍らせるドラマを作っていた。思ったのは、これは日本だ、日本そのものじゃないか、何て日本らしい姿だろう、日本がやるべきことだ、ということだった。そういう感慨を覚えた。

最初のスマホがファーウェイ製だったが、それを弄ったときの感触も同じで、これは日本企業の製品そのものではないかと驚いた記憶がある。以前、金子勝が、サムスンのスマホはソニーから移ったエンジニアが開発したと語っていて、その噺と被さって、ユーザインタフェースに日本製のタッチアンドフィールを確信したことがあった。中国の今のテクノロジーを見ていると、本当なら日本が達成・実現しているべき現実ばかりに思えてならない。EVもそうだ。TikTokもそうだ。もしあのとき、小泉純一郎と竹中平蔵に権力を握らせなければ、新自由主義の政策と体制を選んでいなければ、日本が先端技術のリーダーの地位にいただろう。田中真紀子と加藤紘一の自民党政権を続けていれば、日本のGDPは20年で2倍になり、30年で3倍になっていたに違いない。半導体のシェアも技術力もトップの位置を守っただろう。

EVについて古賀茂明 6/25 に記事を書いている。さすがに元経産官僚だけあって要点を外しておらず、良質で読みやすく分かりやすい。同様の分析は 4/12  の報道1930でも特集されていた。車がガソリン車からEV車に移行するのは必然である。それは、自然環境問題が人類に要請するだけではない。脱炭素への対応だけが目的ではない。もう一つ、自動化すなわちAI化の契機が柱になって背中を押している。車の運転はAIが担うようになり、車はデータ処理しつつデータ発信するデジタルデバイスになる。今後、認知機能や運動神経が低下した高齢者の比重が多くなりつつ、車は生活に必須だ。高齢化が進む未来では、衛星とビッグデータとAIが安全運転をサポートするようになり、車は道路を走るコンピュータになる。この流れは止められないし、そのコンセプトの完全実現を指向して技術革新が進むだろう。

そのEV市場で中国が独り勝ちの様相を呈している。コストや航続距離や重量の問題も徐々に改善され、ガソリン車をリプレイスする地平が見えてきた。古賀茂明の記事によると、車載バッテリーでも中国が優勢で、車両軽量化(ダイカストマシン)でも中国が一歩先行とある。報道1930の解説では、中国に勝てるEVメーカーは欧米には最早なく、トヨタが車載OSの競争で挽回できるかどうかが鍵だと言っていた。欧州が中国のEVに高率関税を上乗せするのは、表向きの理由は「中国政府による不公平な補助金」という名目だけれど、実際には、このまま自由な流通を許せば、欧州勢は市場競争に勝てず駆逐され、欧州メーカーのEVは全滅するからというのが本音らしい。が、その保護貿易策は、EUが掲げるEV普及加速化による脱炭素推進の大義と矛盾し逆行するではないかと、報道1930が皮肉を言っていた。

EVの技術開発競争は、AIや半導体同様、各国がエネルギーを集中的に投入し、主導権を握るべく熾烈に行われている。が、報道の表面に接するかぎり、よほど何か新しい局面転換が生じないかぎり、中国のアドバンテージは揺るがないように見える。電池やモーターや合金などハードの面で中国が有利な条件を備えている点は、古賀茂明が整理しているとおりだ。ソフトの面はどうかと言えば、コンピュータ製品の競争力の基礎はインストールベースである。中国の自動車の年間販売台数は3000万台で、アメリカの2倍の規模だ。うちEVの出荷は669万台。EVとPHEVを合計すると全体の3割以上を占めるまで至っていて、その比率はどんどん高くなっている。ユーザーが増えれば、技術は改善・改良が進む。中国は国家を挙げて自動運転のインフラ整備に注力していて、それは車載OSの開発にプラスに影響する

北京では完全無人の自動運転タクシー(ロボタクシー)がすでに営業している。IT大手の百度(バイドゥ)がシステムを開発しサービスを行っていて、昨年3月にNHKが試乗記事を書いた時点では、午前7時から午後11時までの営業だったが、今年3月には24時間365日体制の運営となった。武漢と北京の拠点を中心に少しずつ営業エリアを広げ、国内10都市をカバーするまで事業を拡大させている。今年5月の記事を見ると、百度はロボットタクシーの専用車両を開発し、1台20万元(430万円)で売り出していた。安い。バッテリー交換が自動化され、車両の配車・清掃・回収がすべて自動で行われる。アメリカではウェイモ社がSFやLAですでに事業を始め、中国以外の国際市場展開では米国勢が一歩先んじているが、百度がコストパフォーマンスの高さで追いつく可能性がある Forbes が見通しを述べている。

今、中国では空飛ぶタクシー」の発表とテスト飛行が盛んだ。いわゆる eVTOL(電動垂直離着陸機)の開発がベンチャー企業によって活発に行われ、関連ニュースがネット上に溢れている。5月の記事では、AutoFlight 社の5人乗り eVTOL が政府の型式証明を取得したとある。1トン以上の eVTOL 機では世界初だそうで、2月には深圳から珠海まで50キロの距離を自動飛行していた。同じく、EHang 社(億航智能)が今年5月UAEのアブダビで eVTOL の主力製品の有人デモ飛行に成功したことが報告されている。何とこの製品は日本国内12ヵ所ですでにデモ飛行を終えていて、つくばに日本初の拠点(デモフライト飛行場、メンテナンスセンター)を開設済みだった。つまり、EHang 社の eVTOL (大型ドローン)が、日本市場に大量投入されるという意味だ。ドクターヘリとか消防のヘリコプターもリプレイスされるのだろうか。

中国ではバストラックも自動運転が着々と導入され、地下鉄はおろか高速鉄道も自動運転の時代に突入している宋文州のXでは自動運転の二輪車まで登場していた。無論、これらが安全に地上走行し空中運航するためには、中国版GPS「北斗」の能力があり、都市と公道に設置された監視カメラの量と精度があり、ビッグデータがあり、ビッグデータを処理・解析するスパコンの資源とAIの技術がある。日本では生成AIのサービスというと、米国製しか名前が上がらないが、例えば、中国 Kuaishou 社の動画生成AIモデル KLING は、OpenAI の Sora に匹敵する機能だと評価されている。中国のITエンジニアの実力もさることながら、無名の企業でもすでに6億人のユーザーを持っている点が強味なのだろう。今後、中国はIT・AIのキーの技術である半導体(GPU)とAIモデル(LLM)で米国と競争に入る。LLMでも急速に追い上げるだろう。

こうした最先端テクノロジーの国際競争とその中身について、昔ならNHKが分かりやすく特集を組み、国谷裕子が的確に案内してくれていた。10年前でも、テレ東の番組で小谷真生子が概説してくれていた。今は絶えてない。日本がその競争の主体として入っておらず、ただ中国を叩き潰そうとする米国の召使になって傍観しているだけだからだ。60年前の日本マンガが子どもに見せていた、夢ある科学技術の未来空間を、日本人ではなく中国人がリアルな現実に形作ろうとしている。中国の子どもたちは、日進月歩の最先端テクノロジーと応用製品を毎日のようにテレビ報道で見聞している。新技術が生活を変えている環境の中で暮らしている。猛烈なスピードで社会空間が未来仕様に変容する過程を目撃し体験している。日本人は、インバウンドで円安に狂喜する外国人観光客の歓声と喧噪を見ているだけだ。

お笑い芸人の知性低劣なグルメ番組にケタケタ笑いながら。新NISAで小銭稼ぎする欲を膨らませながら。中国憎悪の two minutes hate のお経をテレビの前で唱和しながら