2024年7月13日土曜日

13- 米国、自分の超兵器で自分を撃つ(賀茂川耕助氏訳)

「耕助のブログ」に掲題の記事が載りました。

 第二次世界大戦で全く戦火を受けなかった米国は、世界大戦後唯一の超大国となり「ドル」は無条件に世界の基軸通貨を維持しました。その時点では当然ドルは金兌換券でした。しかし長期間のベトナム戦争でドルを消費し「金」の保有量が減じたため、米国は「ドルの金兌換中止」を宣言しました。現在のドルは単なる「紙幣」に過ぎません。
 米国はその後「オイルダラー」システムを考案するなどして何とか基軸通貨の体裁を維持して来ましたが、その効果も徐々に失われてきました。「金兌換」の歯止めを失ったドルを米国だけが好きなように発行できるシステムは、結果的に米国を退廃させました。
 気に入らない国家の口座を凍結」するなどは、それをしたらドルの権威を維持できなくなる方策です。今回NATO諸国が「ロシアの口座から取り敢えず利子分を収奪してウクライナへの武器供与の資金にする」ことを決めたのも同様です。
 口座を持っている人の資産を勝手に差し押さえるような銀行を人々が信用することはあり得ません(日本が所有している米国債券の換金を許さないという横暴も同様です)。これらは米国の「斜陽」振りを象徴するものです。
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米国、自分の超兵器で自分を撃つ
                 耕助のブログNo. 2205   2024年7月12日
   US shoots itself with own super-weapon  by Eugene Doyle
米国は自分の頭を自らのすごい兵器で撃ち抜いた。米国の兵器庫で最も強力な武器は、F16ジェット機でもヒマールミサイルでもその他の通常戦争の玩具でもない。米国の真の力は米ドルにある

ドルをますます武器化し、ドル建ての世界貿易システムにアクセスすることで、グリーンバック(米ドル紙幣)に火炎噴射し、それが時代の清算の引き金となるだろう。帝国の行き過ぎた行為の典型的な事例である。
今年10月、ロシアのカザンでBRICS諸国による対抗策が打ち出され、世界のパワーバランスは根本的に変わるだろう。それは一夜にしてではなく、夜が明ければ昼が明けるように、確実に世界のパワーバランスは変化するのである。
これまで以上に巨大な金融兵器が開発・配備され、すべてが制御不能に陥る危険性は高まり続けている。しかし、誰もその対策を知らないようだ。 - 『地下帝国』
米ドル($USD)は金のガチョウである。別の言い方をすれば米国の金のなる木である。第二次世界大戦後に確立されたブレトンウッズ体制は、米国を世界の銀行家にした。それに伴い、企業や政府がドルに資金を投入する際、米国は中立的な立場で行動することが約束された。

マサチューセッツ大学アマースト校のリチャード・ウルフ名誉教授(経済学)のような経済学者は、第二次世界大戦の終結以来、米国はコストをかけず、インフレのリスクもほとんどないまま、何兆ドルものドルを印刷したりデジタルで作り出したりし、その見返りとして世界の製品やサービスを購入してきたと指摘する。これが世界の基軸通貨を所有することの特権である。米ドルで支払いを受けた貿易相手国は、そのドルの多くを米国債やその他のドル建て商品に投資する。これは何としても守るべき独自の優位性であり、全盛期のイギリスもそうだった。それなのに米国はドルとそれに結びついた世界貿易システムを兵器化し、独自の競争優位性を破壊している。今日、世界経済の大部分は米国の制裁やその他の強制的な措置の下で生きている。

ジョン・ホプキンス大学のヘンリー・ファレル教授とジョージタウン大学のエイブラハム・ニューマン教授による『Underground Empire – How America Weaponised the World Economy(『地下帝国』-アメリカはいかにして世界経済を兵器化したか)』は、人々が手にすべき最も重要な本のひとつである。2023年に出版されたこの本は、歴史の教訓、ケーススタディ(ファーウェイ、イラン、スノーデンなど)を提供し、その意味を理解するための暗号解読書である。禁輸措置、スウィフト国際決済システム(国際決済の主要な仕組み)から追い出すという脅し、大手インターネット・プロバイダーやその他の企業に米国当局者に商業情報を渡すよう強要すること、スパイやいじめを行うために世界のインターネットや金融システムのチョークポイント⇒最重要回路を支配すること、知的財産権や怪しげな法律の適用を利用して効果的に海賊行為を行うことなどが検討されている。これらはすべてドルの力につながっている。

北朝鮮の核兵器開発計画を阻止するために北朝鮮に圧力をかけた(そして失敗した)ことは、米国にいい教訓を教えた。それは彼らがイラン攻撃で得たものだった。攻撃のひとつはイランのような中堅経済をグローバル金融システムから追い出すことに成功したことだ。その他の成功例としては、ファーウェイのビジネスモデルを破壊し、携帯端末の20%から4%へ転落させ、5G市場での台頭を阻害したことが挙げられる。
米国の経済制裁が今あまりにも浸透しているため、モスクワ証券取引所(MOEX)が今月、ドルとユーロの取引停止を余儀なくされたことすら、ほとんどの人は気づかなかった。西側メディアのレーダーにもほとんど映らなかった。
米国の制裁はロシアを機能不全に陥れ、セヴァストポリ港をNATOの港に変え、ロシアを大国の座から追い出し、政権交代を引き起こすはずだった。それと逆のことが起きた。ロシア経済は好景気に沸き、購買力平価(OECDや世界銀行などが使用する国家間比較のツール)ではドイツを追い抜いた。プーチンは、米国の調査を含め、どの指標で見ても西側のどの指導者よりも人気がある。

今月、G7はウクライナのために500億ドルの融資を調達し、ウクライナ侵攻の罰として西側諸国が盗んだロシアの資金から利子を債券保有者に支払うと発表した。画期的なことかもしれず、多くの人々がこの動きに喝采を送っているが、この措置は、米ドルやユーロにお金を預けておけば安全であるという考え方に大打撃を与えるものでもある。「米国の銀行家である私を信じてください」という言葉は、最近では説得力のある売り文句ではないのだ。
米ドルからの離脱は想像もしなかったスピードで進んでいる20年前、中央銀行が保有する世界の外貨準備の70%近くは米ドルで保有されていた。この数字は50%程度に低下し、減少傾向は加速している。
あなたはイラン、北朝鮮、ベネズエラ、あるいは現在米国の制裁下にある数十カ国のどれかが嫌いかもしれない。ウクライナでの戦争はいわれのないものであり、ロシアは罰されなければならないとか、中国の台頭を阻止しなければならないといった西側のシナリオをあなたは全面的に受け入れているのかもしれない。しかし現実は、銀行口座を持っている人の資産を差し押さえるような銀行は、預金を持っている人を恐怖に陥れる

サウジアラビア、トルコ、マレーシア、ベネズエラ、そしてグローバルサウスの大部分の国、つまり人類の大半は、慎重に出口を探している。ドルからの脱却はますますリスク回避を意味するようになっている。金、他の通貨バスケット、本国への引き上げはますます魅力的な選択肢となっている。
中国は2024年3月時点で米国の債務の約10%にあたる7,670億ドルの米国債を保有している。すでに何千もの制裁措置を受けている中国は、米国が中国の台頭を止めるためなら何でもすることを知っている。だからこそ習主席によれば、中国は米国の支配から独立したシステムを構築しなければならないのだ。世界が2つの体制に分裂する危険性がある。
今年10月、ロシアのカザンで、SWIFT(世界的な銀行間通信システム)に対抗する代替取引メカニズムの創設、IMFや世界銀行に代わる機関の創設(おそらくBRICS新開発銀行、現在の資本金は1000億ドル)の拡大、G7を急速に凌駕するBRICSの枠組みへの多くの国の参加など、大きな動きを目撃することになるかもしれない

ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相:
 ヨハネスブルグで開催された最新のサミットを受けて、あるプロセスが動き出した。各国首脳は財務大臣と中央銀行に対し、代替決済プラットフォームに関する提言を行うよう要請した。したがってこのプロセスは進行中であり、おそらく止まらないだろう

ブラジルのルーラ大統領は、ラテンアメリカ・カリブ海諸国共同体(CELAC)はドルによる乱用から貿易と経済関係を守るために新しい取引プラットフォームに注目するだろうと示唆した。BRICSには36カ国が加盟を希望している。
ファレルとニューマンが『地下帝国』で述べたように、「核兵器に匹敵する経済力を築いた以上、他国が先制攻撃や反撃を考えても驚くべきではない」。

 US shoots itself with own super-weapon