2024年7月21日日曜日

英仏の総選挙 大衆運動が主導した政権交代 新自由主義に不信任(長周新聞)

 イギリスでは4日、下院(定数650)の総選挙がおこなわれ、野党・労働党が209議席を増やして411議席の単独過半数を獲得し、14年ぶりに政権を奪還しました。

 フランスでは、6月30日と7月7日の2回に分けて、下院に相当する国民議会(定数577)の総選挙が実施され6月の欧州議会選挙で「極右」と評される「国民連合(RN)」に与党が敗北しましが、国民連合の台頭を阻止するため、急遽、左派政党の連合体「新人民戦線(NFP)」と与党が候補者を一本化して対抗し、新人民戦線が182議席を獲得して最大勢力となり、国民連合の拡大を阻止しました。
 そして度重なる緊縮や増税、大企業優遇をおこなってきたマクロン政府の主要政策見直しを迫られることになりました。
 日本でもこのところ自民党が選挙で大不振を重ねていますが、まだまだ英仏のようなダイナミックな政権交代にはつながりそうもありません。
 
 ではなぜ英仏では「政権交代」という大きな変動が起きたのでしょうか。長周新聞がその背景を分析するかなり長文の記事(8,900字)を出しました。以下に紹介します。
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大衆運動が主導した政権交代 英仏の総選挙が示したこと 新自由主義に不信任 形骸化した政治構造を下から揺さぶる
                          長周新聞 2024年7月17日
 欧州各国で総選挙がおこなわれ、イギリスでは14年ぶりに労働党に政権交代し、フランスでは極右勢力の台頭を阻止する世論に押されて「新人民戦線」が形成され、第一党に躍進した。先進資本主義国として世界政治の主導権を握ってきたこれらの国では、新自由主義にもとづく市場開放や統合、公共部門の民営化、緊縮財政などの政策が進められ、社会の富をわずか1%の富裕層が独占し、99%の人々に貧困や社会保障削減が押しつけられる構図が強化されてきた。さらに歴史的に搾取対象であった旧植民地国からの移民流入問題は深刻化し、ウクライナ戦争、ガザ戦争の長期化もグローバル化した経済を混乱させ、国内問題の深刻化に拍車をかけている。総選挙の結果は、旧来の保守(右派)vs.革新(左派)の枠組みがすっかり形骸化して混迷し、破壊された社会を立て直す新しい政治勢力を下から生み出す機運が国境を越えて高まっていることを示すものとなった。これらの総選挙で何が求められ、何が否定されたのか、主な特徴を見てみたい。
 
壊された社会建て直す世論高揚
 イギリスでは4日、下院(定数650)の総選挙がおこなわれ、野党・労働党が209議席を増やして411議席の単独過半数を獲得し、14年ぶりに政権を奪還した。一方、キャメロン、メイ、ジョンソン、トラス、スナクへと政権与党の座を繋いできた保守党は、改選前から251議席を失う大敗を喫し、結党以来190年で最少の121議席に沈んだ。現役閣僚や党幹部、元首相までが落選する歴史的な大惨敗となった。
 1920年代以降のイギリスでは、富裕層に支持者が多く新自由主義にもとづく緊縮財政を基本とする保守党と、歴史的に社会保障充実に重きを置く労働党の二大政党制が続いてきた。労働党は、2019年の総選挙で大敗して以来、社会主義的政策を掲げていた党首ジェレミー・コービンを追放し、その立場を右寄りにシフトさせてきたが、総選挙で掲げた政策は国民世論に縛られ、保守党路線からの明確な転換を目指すことが迫られた。選挙結果は、なによりも14年間の保守党政権への強烈な審判であり、その圧力は今後政権を担う労働党にも向けられることになる。
 主な争点になったのは、コロナ禍から回復が乏しい経済の停滞、極端なインフレによる生活費高騰、崩壊しつつある公的医療制度、住宅危機(家賃の高騰)、移民問題への懸念などだ。
 イギリス国内ではこの間、新自由主義にもとづく緊縮財政、EU離脱に加え、新型コロナ・パンデミックが吹き荒れるなか、急激な物価や燃料・光熱費、家賃の高騰が襲い、緊縮で公的医療や公的学校教育は麻痺し、国民生活は逼迫の一途をたどった。それでも緊縮を基調とする保守党の政策は二転三転し、わずか4カ月弱の間に首相が3人も交代するという混乱状況に陥った。
 問題の発端は2008年の金融危機に遡る。経済の大半を金融資本に依存していたイギリスの財政は動揺し、当時のキャメロン政権(保守党)は、国民健康保険サービス(NHS)、教育、交通機関、鉄道などの社会サービスへの支出削減へ舵を切った。
 イギリスが誇る社会保障制度の一つである公的医療制度(NHS)は、1948年から労働党政府が導入したもので、税財源によって運営され、加入者は誰でも原則無料で医師の診察が受けられる。だが今や治療待ち患者数はリストに記載された公式の数だけで760万人にのぼり、2021年から3倍に増加。そのうち30万2500件以上は待機時間が1年以上、約5万400件は1年3カ月以上、約5000人が1年6カ月以上待機している。予約してから診察を受けるまでの平均待機時間は3カ月以上だ。また、救急医療でも医師の診察を受けるまでに4時間以上待たされる患者の割合が、2011年初頭には6%だったものが、現在は45%へと増加した。
 特にコロナ禍以降、NHSの治療待ち期間はさらに長くなり、高い保険料を払ってプライベート病院(民間)に通うことができない貧困層が医療にアクセスすることは事実上不可能となった。
 そのなかで一昨年からは10万人の看護師を擁する王立看護協会(RCN)が、106年の歴史上初めてストライキに踏み切り、2008年以降凍結されてきた公的部門の賃上げの実施や公的医療を再建するためのスタッフ増員を要求。「看護師や職員が燃え尽きてしまえば、患者の看護と安全に対する懸念が生じる」「看護師は、ヘルスケアのなかでもっとも安全性を重視する職業であり、患者ケアにおいて重要な役割を担っているにもかかわらず、国による投資不足が長年続き、看護師は依然として人手不足だ。政府は看護職を守り、患者ケアを守るために早急に行動する必要がある」「ストのために人々が死んでいるのではなく、国の政策で人々が死んでいるからこそストをしている」と訴え、現在も各地の病院で断続的にストを継続している。
 
物価高に家賃高騰 深刻な国民生活の圧迫
 さらに英国全土を襲っているのが急激な物価高だ。英国全土での生活費はここ数年で急上昇しており、インフレ率は2022年10月に41年ぶりの高水準となる11・1%に達した。とくに食品価格は22年からさらに25%も値上がりしており、卵(12個入り)が670円、キュウリ1本が170円、オリーブオイル(500㍉㍑)が1200円、チーズ(1㌔)が約2000円など軒並み高値となって低所得者層の生活を直撃している。人々の善意に依存したフードバンク(食料寄付)などの慈善事業も、支援物資が減る一方で急速なインフレには追いつかない。これらにともなって航空運賃、飲食店、ホテル宿泊料に至るまでさまざまな価格が高騰した。現在、年間インフレ率は下がったものの物価全体は高止まりが続いている。
 「何もかもが値上がり」という英国で深刻なのは燃料・光熱費の高騰で、ウクライナ戦争勃発後、ジョンソン政府が独自制裁としてロシア産天然ガスの輸入を停止した影響により電気代は3~5倍に上昇。約30社の電力供給業者が廃業に追い込まれた。平均的な家庭の電気代は年間3000㍀(約54万円、月額4万5000円)に達した。人々の間では「Heat or Eat(暖房か食料か)」と語り合われ、暖房費を払うために食事を抜いたり、減らしたりすることが一般的になっているといわれる。
 さらに「払えない家賃」問題がある。昨年の住宅の平均価格は収入⇒年収?)8・3倍となり、2010年(6・8倍)と比べて大幅に上昇した。住宅不足も影響して一般人の住宅購入は難しくなる一方、賃貸住宅も家賃が高くて入ることができない。長引くインフレで金利が上昇し、銀行融資の返済が難しくなったオーナーが物件を手放しているからだ。
 コロナ禍が終わり都心回帰が進むロンドン市内では、一室六畳半のルームシェアでも月額賃料が780㍀(約14万円)はするといわれ、昨年末時点で賃貸住宅の平均家賃は月2627㍀(約47万円)。前年同期から12%も値上がりした。「所得は上がらないのに家賃だけが上がる」「一人暮らしはとても無理」といわれ、そのしわ寄せは貧困世帯に押し寄せた。
 ロンドン市内では、2023年9月までの1年間でホームレスが14・5%も増加し、廃校となった学校校舎を不法占拠してリフォームして暮らしたり、慈善団体が運営するカフェなどで寝泊まりする人が急増した。ロンドン各自治体の集計によると、昨年8月時点で、家がなく一時宿泊施設などに身を寄せる人は子ども8万人を含めて17万人にのぼるという。
 これらの主な要因は、財政赤字削減を名目にした保守党政府の緊縮財政措置にあり、さらにEU離脱による対外貿易の混乱、そこにコロナ禍での物流問題や経済不況、ウクライナ戦争が加わったことがある。
 政府が医療や学校などの公的部門への支出を削減し、国内では国民の多くが暮らしにあえぎ、社会保障システムが麻痺し、学校では子どもの3人に1人が貧困状態にあるなかで、ウクライナ戦争ではロシア・ウクライナ双方の停戦交渉が固まりかけた段階で、ジョンソン首相が真っ先にキーウに飛んでゼレンスキーに徹底抗戦を呼びかけ、現在までにウクライナに79億㍀(96億㌦)の軍事支援を含む125億㍀(159億㌦)の援助を約束。またイスラエルによるガザ攻撃について、5月の世論調査(ユーガブ)で英国民の70%が即時停戦を望む一方で、保守党政府がイスラエル支持を表明し続けていることも反政府世論に火をつけた。
 また、EU離脱後に約束された夢物語もむなしく散り、投資撤退や労働力不足によって年間16兆円に及ぶ損失が出る現実、さらにコロナ禍では国民にはロックダウン(都市封鎖)を求めながら首相官邸でパーティーに明け暮れたことによる政府不信などが加わり、ジョンソンの辞任後、トラス(45日で辞任)、スナクへと繋いだ保守党政府の支持率は10%台にまで落ち込んだ。
 
「いい加減にしろ!」 英国全土でストが拡大
 イギリス国内では一昨年来、医療をはじめ、鉄道、学校・教育機関、高速道路、空港、港湾、郵便、バス、入国管理当局などの公共部門の労働者が一斉にストライキをおこなってきた。新自由主義による公的部門の予算削減や民営化によって大企業や株主に膨大な利益が流れ出す一方で、社会保障システムの麻痺による弱者切り捨て、労働者が働いても暮らしていけないほどの搾取構図へ人々の怒りが噴き出し、全国民的要求と結びついて広がった
 これに対してスナク政権は、医療や交通など基幹部門のストライキを制限する「反ストライキ法」を提出して弾圧に乗り出した。この動きが人々の怒りの火に油を注ぎ、ストライキの波は全産業に波及。生活費危機とたたかうための広範な国民運動として「Enough is Enough!(いい加減にしろ!)」キャンペーンが全土で始まり、産別労働組合やフードバンクなどの支援団体なども加わり、「公正な賃金、手頃な請求書(生活費)、十分な食事、まともな住まい。これはあなたの権利だ!」と訴え、英国全土の地域や職場、街頭での抗議集会を展開し、地域グループを結成し、各職場のスト(ピケ)との連帯を組織した。
 14年ぶりの労働党への政権交代は、このような労働者によるストライキと連動した国民的政治運動の高揚を土台にして実現したといえる。
 この広範な世論に押され、労働党は「チェンジ」をスローガンに、以下のような公約を掲げて選挙運動を展開した。
 ・待機患者の多い国民健康サービス(NHS)の診察については、イングランドで毎週4万件の予約診療を増やす。財源として富裕層の納税回避や非定住者の税優遇など「抜け穴」を取り締まる。
 ・住宅不足解消のために関連法を改正し、150万戸の新規物件を新築する。初めて自宅を購入する人には新築の集合住宅で優先的に購入できるようにする。
 ・教師を新たに6500人増員私立学校の税優遇廃止を財源とする。
 ・地域経済の立て直しに向けて、交通、成人教育、技能、住宅、開発、雇用支援などの分野での地域への権限移譲を拡大し、地域開発、インフラ整備、産業支援を強化する。
 ・就労強化に向け、雇用支援サービスを改革するとともに、若者への職業訓練、実習制度、就職支援を強化する。
 ・生活費を考慮した最低賃金を設定する。

 これらの政策に不十分さはあるものの、人々は困窮する国民生活を無視し、国民要求と対抗してきた保守党を見限り、各選挙区ではオセロゲームのように労働党候補者が勝利した。ただ外交や移民政策、ウクライナ戦争やイスラエルによるガザ戦争などへの対応を含めて政治の基本スタンスにおいて保守党からの大きな「チェンジ」は見られず、いわば保守党から政権を禅譲されたようにもみえる労働党の新首相スターマーが、公約した経済建て直しや社会保障拡充策を実現させるのか、それとも裏切るのか、今後も労働者や国民世論との間で攻防が続くとみられている。
 一方、イスラエル批判をしたことで反ユダヤ主義のレッテルを貼られて労働党を除名されてからも、パレスチナ支持、緊縮財政反対、銀行・鉄道・エネルギーなどの国有化を一貫して訴えてきたジェレミー・コービンが無所属で立候補し、労働党の刺客を抑えて当選したことも注目に値する。米民主党のサンダース上院議員は「彼は労働者の代表だと信じていた労働党によって追放されたが、支持者はその過ちに同意しなかった。強力な草の根運動によって、彼は帰ってきた」と賛辞を贈った。

フランス総選挙 新人民戦線が第一党に
 6月の欧州議会選挙で、極端な人種差別的主張や移民排斥政策などから「極右」と評される「国民連合(RN)」に与党が敗北したフランスでは、6月30日と7月7日の2回に分けて、下院に相当する国民議会(定数577)の総選挙が実施された。国民連合の台頭を阻止するため、左派政党の連合体「新人民戦線(NFP)」と与党が候補者を一本化して対抗し、新人民戦線が182議席を獲得して最大勢力となり、国民連合の拡大を阻止するとともに、度重なる緊縮や増税、大企業優遇をおこなってきたマクロン政府の主要政策の見直しを俎上に載せた。
 フランス国民議会選は2回投票制でおこなわれ、1回目の投票で特定の候補が単独過半数に満たなかった場合、上位3名による決選投票がおこなわれる仕組みだ。
 欧州議会選での勝利で勢いづく国民連合による政権掌握の可能性が高まるなか、フランス国内ではパリを中心にして「奴らを通すな!」をスローガンに左派政党の結集を求める市民の大規模集会(6月15日だけで全国145カ所、主催者発表64万人)が連日のようにおこなわれ、その世論に押されて大小の左派政党が結集した新人民戦線が形成された
 その中心になったのは反グローバリゼーション運動から生まれた、メランション率いる主要左派政党「不服従のフランス(LFI)」で、議会解散からわずか1週間のうちに政策を立ち上げた。イギリスと同様、この間、数百万人規模のストライキや反政府運動が広がってきたフランス国内の国民世論を反映したものだ。
 まずマクロンの年金改革(年金支給年齢を62歳から64歳に引き上げ)を廃止して60歳に引き下げ、同じく失業保険改革(給付期間短縮、給付条件の厳格化)も廃止する。最低賃金を手取り1400ユーロから1600ユーロ(約28万円)に引き上げ、公務員給与もインフレ率に連動させる。生活必需品、電気・ガス価格値上げの凍結、特にエネルギー分野ではエネルギー課税の軽減と必要最低限の電力消費を対象とする無料枠を導入する。住宅手当10%アップ、高速道路や巨大貯水池計画の中止、新学年から学費(文房具と給食含む)の完全無償化などを盛り込んでいる。

 大きくは経済の無政府化をもたらす新自由主義的政策を見直し、富を国民に再配分することを基調としており、削減された公共サービス(教育、医療、環境)を再建するものだ。その財源としては、所得税の累進制強化、マクロンが廃止した連帯富裕税の復活、大企業の過剰利益への課税でまかなうとした。
 これらの政策プログラムについて、メディアや保守政党からは「すでにGDPの5・5%にのぼる財政赤字(3兆ユーロ)を抱えるフランスでは非現実的だ」という批判があいついだが、300人の経済学者たちがこの政策を支持する声明を出し、それに科学者や社会学者たちも呼応した
 そのうち、ベストセラー『21世紀の資本』の著者として知られる経済学者のトマ・ピケティ(パリ経済学校経済学教授)は、6月半ばにパリ郊外でおこなわれた新人民戦線を支持する市民集会で次のようにのべた。
 「ここ数日間、右派やメディアからこんな意見を耳にするようになった。“経済がわかっていない、無能だ、社会福祉政策があっても財源がない、そんな福祉政策に出せる金はフランスにはない”と。はっきりいっておきたい。フランスには上位500人の最富裕層が今や1兆2000億ユーロの資産を持っている。これは私見ではなく、主要経済誌にも載った事実だ。10年前、これら上位500人の富裕層の資産は2000億ユーロと算定された。つまり彼らの資産は、10年間に2000億ユーロから1兆2000億ユーロに増えた。それはフランスのGDPの10%相当から、50%以上になったことを意味する。この10年のフランスの経済成長の累計額よりも多いのだ。この富を生み出すために働いたのはこの500人だけではない。これほど極端な不平等は社会を荒廃させる。つまり“財源がない”という人は計算をやり直すべきだ」。
 「単純にこの500人の最富裕層に年2~3%の税金を課せば、年間200、300、400億ユーロの歳入が得られる。これは専門家や政府に任せておくような問題ではなく、政治問題であり、実現させるためには皆さんの力が必要である。これらの資金が出産育児、病院、大学、公共交通機関に渡るようにするために」。

 一方、国民連合の公約も、移民規制強化などの差別的政策も目立つものの、年金改革の廃止、賃上げ、富裕層や金融資産への課税強化などに加え、FTA(自由貿易協定)から自国農業を保護する政策、ウクライナへの支援停止、再エネ反対と原発拡大などの自国民優先策が多く盛り込まれている。国民連合の台頭は、新自由主義、グローバリズム、徹底した緊縮を推進したマクロンを含む左派リベラル・エリートへの反発が生み出したものであり、有権者を裏切ったマクロンがその最大の功労者といえる。総選挙では左派勢力がそこから脱却して人々の生活に密着した受け皿になり得るかが焦点となった。
 
投票率は20㌽上昇 極右政権の誕生を阻止
 第1回投票では、国民連合がトップで29・26%、続いて左派連合「新人民戦線」が28%、マクロン与党は20%という結果になり、決選投票に向けて、極右政権の誕生に危機感を持った市民、とりわけ若い世代が路上にくり出し、毎晩のように集会やデモをおこなった。若者たちは「私たちはみんな反ファシストだ!」と叫び、文化人やアーティスト、科学者や生活支援団体、スポーツ選手などさまざまな職種・分野で「極右を通すな」「違いを乗りこえて団結を」という声明が発表される一大社会運動が広がった。
 「左翼勢力の解体」をもくろんで解散を仕掛けたマクロン与党も、その世論に押され、新人民戦線との候補者統一へと進み、国民連合の候補者と競合する選挙区では、第3位の候補者をお互いに下ろすことで合意した。新人民戦線の支持者のマクロンへの怒りは強く、世論調査ではマクロン与党と国民連合が一騎打ちになった場合には32%が棄権すると答えたが、「極右の台頭を許さない」という一点でそれはおこなわれた
 その結果、2回目の決選投票では、新人民戦線が182議席を得て、最大勢力に躍進した。マクロン大統領率いる与党連合は165議席と、改選前から80議席を失い、第2勢力に後退。国民連合は143議席と、改選前(89議席)から大きく伸ばしたが、最大300議席を獲得するとの予測からは半減し、3勢力に抑え込まれ、首相擁立は不可能となった。

 パリなどの都市では8日、決選投票での逆転勝利の結果を受けて数万人規模の集会がおこなわれ、歓喜とともに「奴らを通すな!」の大合唱がおこなわれた。
 大統領選で左派勢力の協力を得るためにおこなった約束を覆して、富豪や大企業と癒着し、国民生活に対する大ナタを振るってきたマクロンへの失望、それに対して無力な既存左派政党への幻滅から、低所得者や労働者、地方の生産者の票を「国民連合」に奪われる趨勢が強まるなかで、下からの国民世論によって左翼勢力を縛り付け、議会に押し出す選挙となった。
 また新人民戦線を主導したメランションは、ガザ戦争の停戦とパレスチナ国家承認を外交の中心に据え、ウクライナ戦争に対しては軍事支援ではなく、双方に早期停戦を働きかけることを主張しており、この姿勢も大きな求心力となった。
 投票率は66・63%と、前回2022年の投票率を20㌽以上も上回った。これまで投票率が低かった低所得者や移民が多い地域で、新しく若い世代が政治参加したことも特徴といわれ、絶望のなかで渦巻く要求を掲げて直接政治を動かしていく有権者の結束と行動が広がったことを示している。
 総選挙後は、国民議会第1党である新人民戦線から首相が擁立されるのが通例であるため、メランションは左派から新首相を指名せよと要求したが、マクロン大統領はこれを拒否。国民議会は改選前と同様、どの政党も過半数に満たない拮抗状態にあり、街頭と議会内での攻防は今後も続くとみられている。
 旧来の保守vs.革新の構図は、もはや大衆や社会に渦巻く問題の解決や要求の実現とはかけ離れて形骸化し、その違いさえ明確でなくなっていることは、イギリス、フランスに限らず、アメリカ、日本など「先進国」とされた主要資本主義国で共通の事態となっている。
 その混沌のなかから、人々の生活や労働現場、地域を拠点にした政治運動が高揚し、上部構造である政治勢力を揺り動かしている。奪われた政治を人々の側にとり戻す国境をこえた団結した行動が今回の選挙を主導しており、政府腐敗のもとで低投票率と低迷が続く日本国内の政治風景を変革するうえでも大きな示唆を与えている。