この記事は田中宇氏の記事「対露和解を望み始めたゼレンスキー」の続編です。
前編では西側諸国の支援の中でロシアとの戦争を続けても勝利は望めない一方 兵士の損耗が甚大に上る中で、さすがに独自に終戦を模索する必要に駆られたゼレンスキーがハンガリーのオルバン首相に仲介を依頼し、同首相とプーチンの会談が行われた処まででした。
オルバンはプーチンとの会談後にすぐに訪中して習近平と会談しています。テーマは終戦以外のことではあり得えないので、ゼレンスキーはオルバンに、「最終的に習近平による終戦への調停」を依頼したのではないかとの推測が成り立つと述べています。
確かに西側が武器の供給などでウクライナを支援している中で、終戦の調停を並行的に進めるにはそれ以外にはないような気がします。逆にオルバンはそこまで考えて行動を開始した可能性があります。ゼレンスキーもこのまま米国・NATOに任せていてはウクライナは滅茶苦茶にされることに気付いたのでしょう。
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習近平がウクライナの停戦を仲裁しそう
田中宇の国際ニュース解説 2024年7月9日
この記事は「対露和解を望み始めたゼレンスキー」の続きです。
ハンガリーのオルバン首相が、7月2日にウクライナを訪問してゼレンスキー大統領と会い、7月5日にロシアを訪問してプーチン大統領に会った後、7月8日に中国を訪問して習近平国家主席(大統領)と会った。
米国側マスコミやEU上層部は、中露びいきのオルバンが、今月から輪番制のEU議長になったことを利用(悪用)して、ウクライナ和平をやると言ってEUにも諮らず勝手に中露ウクライナを回っていると指摘している。
東欧の小国の、頭のおかしな極右の首相が、中露に有利なウクライナ和平構想を勝手に個人で妄想し、EUの代表を僭称して中露に売り込み、中露は米欧を不利にするためにオルバンの妄想に便乗した、というシナリオを米国側は描いている。
(Hungary’s Orban Visits Ukraine, Suggests Zelensky Consider a Ceasefire)
しかし、こうした米国側の見方は間違っている。このシナリオでオルバンが動いても、ゼレンスキーは会ってくれない。
オルバンは、ゼレンスキーに招待されてウクライナに行っている。しかも前回記事に書いたとおり、ゼレンスキーは、ロシアに一方的な譲歩を求める非現実的な米国主導・ロシア排除のスイス和平サミットが6月中旬に失敗した後、ロシアと対話して停戦する方向に発言を転換し、その後でオルバンが動き出している。
対露和解を望み始めたゼレンスキーが親露なオルバンに仲介役を頼み、オルバンがその話を受けてウクライナを訪問した可能性が高い。オルバンの妄想的な行動でなく、ゼレンスキーが対露和解を模索してオルバンを動かしたので、プーチンも習近平も急遽やってきたオルバンに会った。(Poll: Zelensky's star fading among NATO countries)
ゼレンスキーは元俳優だけあって演技屋だ。自分でオルバンに仲裁を頼んだ(もしくは少なくとも、オルバンのウクライナ訪問を歓迎した)くせに、オルバンがプーチンと会って停戦を話し合うと、プーチンは信用できないから対露停戦には乗れないと拒否してみせた。
ウクライナ政府は、対露和平のやり方についてオルバンと完全に合意したわけでないとも言っている。(Ukraine’s Zelensky Rejects Idea of Ceasefire With Russia)
(Orban and Putin discuss ‘shortest way out’ of Ukraine conflict)
ロシア敵視一辺倒の米国から巨額の支援を受けているゼレンスキーは、表向きロシア敵視を続けながら、裏で対露停戦和解を模索している。仲介役のオルバンも、ロシアとウクライナの要求には大きな隔たりがあると言って、ゼレンスキーの演技に合わせている。
(Kiev issues demands to potential mediators with Russia)
ゼレンスキーは、プーチンと和解するなんてとんでもないと言いつつ、対露和解するなら仲裁役はオルバンだと(ハンガリーという小国の指導者でしかないので)役不足で、大国群である米国かEU、中国のいずれかの仲裁でないとダメだ、とも言っている。中国の習近平が仲裁するなら受けるとゼレンスキーは言っているわけだ。
(Orban In Surprise Visit To China, Focuses On Ukraine: "Peace Mission 3.0 Beijing")
オルバンが訪露後すぐに訪中してウクライナ和平について習近平と話したことからは、ゼレンスキーがオルバンに、習近平が仲裁するなら対露和平交渉に乗っても良いと言ったことがうかがえる。もしくは、ゼレンスキー自身が、習近平の仲裁による対露和平交渉を望み、オルバンをウクライナに呼んだとか。
オルバンは、彼自身がウクライナ停戦を仲裁するのでなく、習近平にウクライナ停戦を仲裁してもらうお膳立てをする役回りとして中露ウクライナを回った。
ゼレンスキーと習近平は、ウクライナ開戦後の早い段階から連絡を取り合っていた。習近平はゼレンスキーに、いずれ対露和解交渉するなら自分が仲裁しても良いよ、と提案しており、今後それが具現化していくとも考えられる。
(Hungarian PM supports China’s peace plan for Ukraine)
ウクライナ軍は昨夏以来、戦死者の増加で兵力不足と技能・士気の低下が進み、壊滅寸前の状態で戦っている。露軍の優勢が拡大し、ウクライナの兵士は前線に送り出されるとすぐに露軍の標的となって戦死してしまう。(決着ついたが終わらないウクライナ戦争)
(Russia strikes Ukrainian military-industrial, energy sites over week - top brass)
ウクライナ軍が壊滅状態なので、露軍はすでにウクライナ全土を軍事占領できるが、占領後のロシアの負担が大きくなる泥沼化のリスクがあるのでやっていない。ロシアは、ウクライナを占領するのでなく、自立した国家として残しつつ、露敵視な米国の傀儡になることだけをやめさせたい。
プーチンは開戦当初から、ロシア系住民の保護とウクライナの中立化(NATO不加盟)が目的だと言っていた。ドンバスのロシア併合で、露系住民の保護は達成された。あとは中立化だ。(ウクライナ戦争で最も悪いのは米英)
ウクライナ軍の壊滅が進むと、ウクライナの国家機能が低下して亡国の状態になる。ウクライナには、アゾフ連隊系や米国傭兵団など人道犯罪を好む武装勢力も駐留し、亡国化すると彼らが内戦を起こす。
(Bombshell NYT Expose Details War Crimes By American-Led Volunteer Force In Ukraine)
露系住民はドンバスだけでなくウクライナ南部などにも住んでおり、露敵視のアゾフ部隊などが露系住民を殺し、露軍がウクライナ南部に進軍・占領せざるを得なくなる。ウクライナ南部は帝国時代にロシアの支配下にあったのでロシアに併合する権利があると、露国内で考えられている。
だが、占領のコストや、ウクライナ亡国・内戦化による地域不安定化のマイナス面を考えると、ウクライナが中立国になって国家保持される方がロシアにとっても良い。
(ノボロシア建国がウクライナでの露の目標?)
ウクライナ軍は壊滅が進行しており、ウクライナ亡国化回避のために残された時間は、あと数か月か1年ぐらいだ。だからゼレンスキーでさえ、国体護持のため対露和解を模索し始めている。
亡国化した場合、ウクライナ西部の面倒を見る野心を、以前はポーランドが持っていたが、亡国化が具現化した場合、ポーランドに実際の国家的な余力があるかどうかも心もとない。
(欧露冷戦の再開)
米国もEUも、自滅が進んで内部混乱が拡大しており、ウクライナ(の跡地)の面倒を見る余裕が低下している。米欧の上層部やマスコミ権威筋は、頓珍漢なロシア敵視しか語らず、ウクライナ国家の壊滅傾向を全く無視して考えない。
米諜報界は、ゼレンスキーが対露和解にさらに進んだら、暗殺するか、アゾフ連隊系の勢力を動員して政権転覆の策動を進めかねない。ウクライナ当局はすでに、反政府暴動を政権転覆に発展させようとする勢力がいることを指摘している。
(Analyzing The Alleged J6-Like Plot That Was Just Foiled In Kiev)
米国側は「ウクライナの政権転覆を画策するのはロシアだ」と決めつけるが間違いだ。ウクライナの隣りにあるロシアは、地域の混乱を望まず、ウクライナを米傀儡から引き抜いて中立化して地域の安定を維持したい。
ウクライナがロシアを倒せないなら、使い捨てでウクライナ自体を混乱・亡国化・内戦化し、隣国ロシアを苦しめたいと考えているのは、ウクライナから遠い米国の方だ。ウクライナ政府に国内露系住民を殺させてロシアに邦人保護策を発動させてウクライナ戦争を起こしたのも米国だ。
ウクライナが壊滅したら、米同盟国のEUも不安定化して苦しむが、米国は傀儡勢力であるEUのことも軽視している。同盟国は馬鹿を見るだけだ。
(Doomed From the Start: Ukraine Lacks Manpower, Motivation, & Hardware For Counteroffensive)
ゼレンスキーは今、米国に使い捨てにされたので、習近平に仲介を依頼して対露和解して国体護持しようとしている。
それに対して米国は、ゼレンスキーが渇望してきたNATO加盟の可能性をむしろ低め、ゼレンスキーを落胆させて中露側に押しやる逆効果(隠れ多極主義的)な策をやっている。
NATOや米政府は昨年から、ウクライナが政治腐敗しているので汚職撲滅の改革を強めない限りNATO加盟の話を進めないと言っている。
(The NATO Summit Is On July 9, But Zelensky Is Already Angry)
ウクライナの政治腐敗は有名だ。ゼレンスキー自身も大統領の任期が今年5月に切れたまま、戦争を理由に選挙もせずに居座っている。米国側は以前、ウクライナの政治腐敗についてほとんど問題にしていなかった。
ところが今、ウクライナが敗北を深め、国家壊滅を避けるにはNATOからの加勢を強めてもらうか、さもなくば対露和解しかないという事態になると、米国はウクライナの政治腐敗や民主主義の不足を問題にし始め、NATO加盟が遠のいている。
(Ukraine Will Be Told It’s Too Corrupt To Join NATO at Next Week’s Summit)
NATOのストルテンベルグ事務総長は「ウクライナはロシアに勝つまでNATO加盟できない」と言っている。バイデンも以前に同じことを言っていた。今のウクライナをNATO加盟させると、壊滅しているウクライナ軍に替わって米国などNATOの軍勢がロシアと戦争せねばならなくなる。NATO諸国は、それが嫌なので、政治腐敗など他の理由をつけてウクライナの加盟を遠ざけている。(No promise Ukraine will join NATO in a decade - Stoltenberg)
NATOは7月9-11日に米ワシントンDCで定例のサミットを開く。ウクライナは表向き、いずれNATOに加盟する国として厚遇されていると喧伝される。だが実のところ加盟への道は遠くなり、ゼレンスキーはロシア敵視を加速するふりをして対露和解を模索している。二重の馬鹿し合いが起きているが、何も報じられない。
(NATO To Unveil 'Bridge To Membership' For Ukraine: US Official)
今後、近いうちに習近平がウクライナ和平の仲裁に動き出すのだろうか。それは、ゼレンスキーが本当に対露和解に転換できる状態なのかどうかによる。
ゼレンスキーは開戦直後の2022年3月にも、トルコの仲裁でロシアと交渉していったん停戦に合意した(イスタンブール合意)。だが、露軍が合意を履行してキエフ周辺から撤兵すると、とたんに米国(米英)が邪魔に入ってゼレンスキーを加圧して合意を反故にさせ、米諜報界傘下のウクライナ内務省が「ブチャ虐殺」を捏造して露軍に濡れ衣をかける策を展開し、露ウクライナ間の相互信用を破壊した。
ゼレンスキーは米傀儡から抜け出せず、負けていく対露戦争を続けるしかなかった。今回は違う流れになるのかどうか怪しい。それはプーチンも指摘している。
(Russia uncertain if Ukraine would reciprocate with ceasefire - Putin)
(市民虐殺の濡れ衣をかけられるロシア)
だが同時に露政府は「ウクライナとの今後の交渉は、イスタンブール合意を基盤とする」とも言っている。露政府は具体的に考えている。前回と違う流れになる可能性はある。
(‘Istanbul deal’ could be used for future talks with Kiev - Putin)
もし、今回は違う流れになり、習近平の仲裁でロシアとウクライナが合意して停戦が実現したら、それは習近平を「世界皇帝」のような存在に押し上げる。
習近平は昨年、サウジアラビアとイランの和解も仲裁し、成功している。中共は以前からイランを大事にしており、イランが習近平に恩返しするかたちで仲裁成功に貢献した。イランと親しいイラク政府が、以前からサウジとイランを仲裁しており、習近平はその土台を使わせてもらった。
米国側は無視・軽視しているが、あの和解成功は、非米側で習近平の権威を急拡大させた。今回はどうなるか。何か動きがあったらまた書く。
(サウジをイランと和解させ対米従属から解放した中国)
「湯の町湯沢平和の輪」は、2004年6月10日に井上 ひさし氏、梅原 猛氏、大江 健三郎氏ら9人からの「『九条の会』アピール」を受けて組織された、新潟県南魚沼郡湯沢町版の「九条の会」です。