田中宇氏が掲題の記事を出しました。
7月1日から輪番制のEU議長になったハンガリー首相のオルバンは、EU議長としてではなく親露の首脳として7月2日にゼレンスキーに会った後、7月5日にロシアのプーチンに会いました。
ゼレンスキーは6月中旬まで、ロシアを外したまま和平を実現しようとする非現実的で茶番なスイスでのウクライナ和平サミットに参加し、主導的な役割を果たしたのちに、姿勢を大転換して「(ロシアとの)交渉による停戦を数か月以内に開始せざるを得ない。戦争を長期化できない」と言い始めました。このまま米国やNATOに追随していては何時まで経ってもロシアは劣勢にならないし、戦争も終結しないことが分かったのではないでしょうか。
プーチンは6月14日、露外務省での演説の中でウクライナ戦争について、ロシアが併合した旧ウクライナ領の4つの地域(ドネツク、ルガンスク、ヘルソン、ザポリージャ)からウクライナ軍が撤兵し、ウクライナがNATO加盟希望を取り下げれば、即時に恒久停戦すると発表しました。当然そうしたプーチンの意向はゼレンスキーの念頭にあるものと思われます。
ゼレンスキーは22年4月頃一旦 戦争終結に傾いたのですが、米英仏独などが強く反対しウクライナの停戦交渉者が暗殺されたために断念した経緯があります。もしも上述の線で終戦が実現するのであればこの2年余りは一体何だったのかということになります。
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対露和解を望み始めたゼレンスキー
田中宇の国際ニュース解説 2024年7月6日
最近までロシア敵視一辺倒で、和解による停戦を(非現実的な逆提案を出して)拒否し続けてきたウクライナのゼレンスキー大統領が、急転直下、ロシアとの和解停戦を模索する動きを始めている。
ゼレンスキーは、親露なハンガリーのオルバン首相にロシアとの仲裁を頼んだ。オルバンは7月2日にウクライナを訪問してゼレンスキーに会った後、7月5日にロシアを訪問してプーチン大統領と会った。(Hungary’s Orban Visits Ukraine, Suggests Zelensky Consider a Ceasefire)
(Viktor Orban Urges Zelensky For 'Quick Ceasefire' In First Visit Since War's Start)
米国側のマスコミは、オルバンのウクライナ、ロシア訪問を報じているが、それがゼレンスキーの依頼によるという話は出していない。オルバンの勝手な動きにEU上層部が怒っているという(浅薄な)話だけだ。しかしロシアのメディアなどは、6月末から、ゼレンスキーが対露和解したい姿勢を見せていると指摘してきた。(Zelensky preparing ‘plan to end war’)
(オルバンは7月1日から輪番制のEU議長になったばかりだった。オルバンはEU議長として露ウクライナを訪問したのでなく、欧州きっての親露指導者としてゼレンスキーに頼まれたので動いただけだろう。しかし、EU上層部は「EUに委任されてないのに勝手に仲裁役をやるな」と非難している。オルバンは「平和を実現するのに誰かの委任なんて必要ない」と言い返した。格好良い)(I don’t need a mandate to promote peace - Orban)
(Hungary's Orban To Meet With Putin In Moscow Following Trip To Kyiv, Angering EU Officials)
ゼレンスキーは6月中旬まで、ロシアを外したまま和平を実現しようとする非現実的で茶番なスイスでのウクライナ和平サミットに参加し、主導的な役割を果たしていた。
スイスサミットは当然ながら和平につながらず、その後ゼレンスキーは姿勢を大転換して「(ロシアとの)交渉による停戦を数か月以内に開始せざるを得ない。戦争を長期化できない」と言い始めた。ゼレンスキーは6月28日、EU本部での演説や記者会見で、対露和平交渉の必要性を表明した。しかし、EU上層部は無視した。(Zelenski Changes His Peace Plan)
(Zelensky Gets More Realistic: 'We Don't Have A Lot of Time')
ゼレンスキーは同時期に、米国の新聞(The Philadelphia Inquirer)によるインタビューでも、ロシアと和平交渉する可能性について述べた。開戦直後の2022年春にロシアとウクライナの間で行われたイスタンブール交渉での合意が、今後の和平交渉の土台になるとも言っている。
ウクライナは当時、イスタンブール交渉の合意を踏みにじったのに、その後軍事敗北したので、今になって当時の合意を基盤にした交渉の続きをやると言いだした。ロシア政府も、今後の交渉の土台について同じ話をしている。(Zelensky Outlines Workable Model For Peace Talks With Putin)(‘Istanbul deal’ could be used for future talks with Kiev - Putin)
6月前半の、中身のないスイスでの和平サミットは米国の差し金で、何も成果を生まないことが事前に明白だった。スイスサミットが失敗したのでやむを得ず、という口実をつけつつ、ゼレンスキーは6月末から、対露和平交渉の必要性を言い始めた。
だが、欧州も米国も無視して動かなかった。それでゼレンスキーは、親露なオルバンに仲裁を頼み、オルバンが動き出したと考えられる。
前回の記事に書いたとおり、ドイツのショルツ首相は、ゼレンスキーが対露和解することを、対露降参と呼んで猛反対している。フランスのマクロン大統領は国内で人気が急落し、それどころでない。フォンデアライエンのEU上層部はロシア敵視一辺倒だ。米国が対露和解を望むはずもない。(欧州エリート支配の崩壊)
プーチンは、ロシアを呼ばずに開いた非現実的な米国側のスイス和平サミットに合わせ、6月14日に露外務省での演説の中でウクライナ停戦案を発表した。ドンバスなど、ロシアが併合した旧ウクライナ領の4つの地域(ドネツク、ルガンスク、ヘルソン、ザポリージャ)からウクライナ軍が撤兵し、ウクライナがNATO加盟希望を取り下げれば、即時に恒久停戦すると発表した。
この案は現実的であり、もし今後ウクライナとロシアが停戦交渉するなら、その出発点になる。この案は、2022年春のイスタンブール合意の内容でもある(米国側がウクライナに停戦を禁じたので実現しなかった)。
(Putin's Full Speech: BRICS, NATO Expansion and Ukraine Peace Talk Conditions)
プーチンが6月14日に和平案を出したことからは、ゼレンスキーが、スイスサミットの前に、サミット後に転換するつもりだとロシアに知らせていたと感じられる。
ゼレンスキーがスイスサミットで提案した停戦案は、旧ウクライナ領の全てからロシア軍が撤退することを求めており、ロシアの同意を得るのは不可能だった。
(Putin Names Two Conditions For Ending The War 'This Very Minute')
7月5日、オルバンと会談後に記者会見したプーチンは、6月14日の露外務省での演説で表明した和解提案が、そのまま今回オルバンを通じてウクライナに提案する停戦和解提案であると述べた。
しかもプーチンは、6月14日の提案のうち、不可欠な条件は、4地域からのウクライナ軍の撤退だけで、「その他については(譲歩などの)配慮をしてもかまわない」とも述べている。「その他」とは、ウクライナがNATOに加盟しないと宣言すること・ウクライナの中立国化である。(Putin Tells Orban Moscow Ready For 'Complete & Final End' To Ukraine War)
NATOは、ロシアに勝てないことが明白になるほど「ウクライナはロシアに勝つまでNATOに加盟できない」とはっきり言うようになった。だが、露敵視一辺倒の米国は、ウクライナがNATO不加盟を宣言することを望まない。宣言を不可欠な条件にすると、停戦が実現しにくくなる。
不可欠な停戦条件に入れなくても、ウクライナはNATOに加盟できないのだから、不加盟をウクライナが宣言しなくても良いよ、という感じだろう。
ウクライナ軍は露軍に負け続けて崩壊寸前だ。ウクライナ軍は、自分から撤退しなくても、(露軍が本気を出せば)数か月以内に4地域から敗退していく。ならば今、停戦和平と交換に4地域から撤退しても同じだ。
プーチンは以前、米国側が対露制裁を解除することや、米国側がウクライナの恒久中立化(NATO不加盟)を認めることも、ウクライナ停戦の条件だと言ったことがあったが、今回はそれらも条件から外した。米国は露敵視一辺倒なので、対露制裁解除や、ウクライナのNATO不加盟を決して認めない。
今回のプーチン提案は、ウクライナにとって受諾しやすく、米国に何も求めないので、実現できる可能性が高いものになっている。(Putin Makes Public Peace Offer to Ukraine)
ゼレンスキーは米国の傀儡なはずなのに、勝手にロシアと和解して大丈夫なのか。暗殺されたり、妨害されたりしないのか。どうだろう。そのあたりは今後わかる。
ウクライナ軍は、米軍の顧問団に動かされており、米国はゼレンスキーを迂回してウクライナ軍を動かせる。ウクライナ軍は最近ベラルーシ国境近くに展開しており、米国がゼレンスキーの対露和平を潰すため、新たにベラルーシを戦争に巻き込む可能性がある。
(Belarus not going to get involved into any hostilities - Lukashenko)
米国があまり妨害せず黙認すれば、近いうちにロシアとウクライナが停戦する。停戦しても、米国側のロシア敵視や対露制裁は続く。ウクライナは対露和解するが、米国(米欧日)はそれを無視してロシア敵視を続ける。ロシア敵視は「ゾンビ化」して続く。
米国としては、ウクライナ軍が完全に壊滅して露軍がウクライナ南部を占領し、ウクライナ西部がポーランド領になる傾向が強まってウクライナが消滅して戦争が終わり、ロシア敵視の構造自体が消えるよりも、ウクライナ国家が残ってロシア敵視をゾンビ化して続けることを望んでいる。(Why the Russia-US conflict will outlast the Ukraine crisis)
プーチンは、ウクライナと一時的に停戦するのでなく、これを機に恒久和平の体制を作りたい、と言っている。それを、どうやって実現する気なのだろう。
(Putin Tells Orban Moscow Ready For 'Complete & Final End' To Ukraine War)
私の推測は「スイス和平サミットの向こうを張る北京和平サミットを習近平に開いてもらい、BRICSなど非米諸国が全員集合する中で、ロシアとウクライナと周辺地域。ユーラシアの恒久和平や安定を話し合って決める」というシナリオだ。
中国政府は最近、ウクライナ和平会議を主催することを提案している。6月13日にはゼレンスキーと習近平が電話会談した。(Beijing-Hosted Ukraine Peace Conference? Why Not)
中露BRICSは、ウクライナ戦争を米国側からひったくって停戦和平して終わらせ、戦後のウクライナを非米側に取り込んで復興していくつもりでないか。ゼレンスキーも、そうしたいのだろう。
トランプが米大統領に返り咲いてウクライナ和平を仲裁する前に、中露BRICSに取られてしまう。これが実現したら、それは世界の非米化や多極化を象徴するものになる。
オルバンのモスクワ訪問が決まった直後とおぼしき7月4日、プーチンは「多極型世界が現実のものになった」と宣言している。(Multipolar world becomes reality, Putin says)
(Moscow Pact: Will Russia unite the disunited world?)
「湯の町湯沢平和の輪」は、2004年6月10日に井上 ひさし氏、梅原 猛氏、大江 健三郎氏ら9人からの「『九条の会』アピール」を受けて組織された、新潟県南魚沼郡湯沢町版の「九条の会」です。