2015年4月29日水曜日

国内議論に先行した日米防衛新指針 今後多大な負担

 27日に再改定された日米防衛協力指針には、日本の米国に対する軍事協力の地理的範囲や内容を大幅に拡大させるだけでなく、集団的自衛権行使の具体例として、国内でいま問題視されている中東のホルムズ海峡を念頭にした自衛隊による戦時の機雷掃海が明記されました
 これは国内の議論を飛び越えて合意したもので、本政府は勿論、政府もそういう事情を承知の上で敢えて既成事実しようとするものです。
 
 日本は、物資補給や弾薬提供など他国軍の支援を随時可能にする恒久法や、PKOの拡大を含め、自衛隊員の安全確保策の議論も全く進んでいないにもかかわらず、そうした対米支援を約束しました
 
 正当な手続きを経ないこうした進め方は大問題ですが、新指針は内容的にも「米軍の役割は今までとなんら変わらないのに、自衛隊の役割は、米軍への後方支援や国際秩序の維持など、格段に増えている柳沢協二氏 以下同)「しかも日本の安全に役立つならいいが、むしろ日本を無用の争いに巻き込む心配がある」、「(インド洋や南シナ海のシーレーン防衛を共同でやろうとして自衛隊がそちらにシフトすれば肝心の日本防衛の力がそがれる。ホルムズ海峡やマラッカ海峡までカバーすれば、日本の防衛は不可能になる」、などの大問題があります。
 アメリカへの迎合と媚びへつらいによって自衛隊の役割を一方的に拡大したことで、今後は人員的にも経済的にも際限のない多大な負担を背負うことになります。
 
 東京新聞の二つの記事を紹介します。
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日米防衛新指針 安保法制より先行 戦時の機雷掃海明記
東京新聞 2015年4月28日
 日米両政府は米ニューヨークで二十七日午前(日本時間同日深夜)、外務・防衛閣僚会合(2プラス2)を開き、自衛隊と米軍の役割分担を定めた日米防衛協力指針(ガイドライン)の再改定で合意した。中東のホルムズ海峡を念頭に、戦時の機雷掃海で自衛隊と米軍は協力すると明記。これに先立ち、国内では自民、公明両党が安全保障法制に関する与党協議で、主要条文に合意した。戦時の機雷掃海に公明党は慎重で、安保法制で実施できるかどうか議論が続いている。与党協議より、米国との合意が先行したことになる。 
 
 【ニューヨーク=中根政人】二十七日に合意した新指針は、日本が武力で他国を守る集団的自衛権の行使容認を踏まえて、機雷掃海に関し、自衛隊と米軍は「海上交通の安全を確保することを目的とするものを含む機雷掃海で協力」と明記した。
 新指針は「アジア太平洋地域およびこれを越えた地域の平和と安全に主導的役割を果たす」とした上で「日米同盟のグローバルな性格」を強調した。
 一九九七年改定の旧指針は、事態区分を「平時」と「日本有事」、朝鮮半島有事などを想定した「周辺事態」の三つとしていた。新指針は日本国内の安保法制見直しを先取りして四つに分類し、対応した日米協力を盛り込んだ。事態名自体の明記は見送った。
 安保法制で、周辺事態の地理的概念を削除した「重要影響事態」では、弾薬提供を含む地球規模での米軍の戦闘への支援が盛り込まれた。海洋安全保障での緊密な協力も示した。
 ほかに(1)武力攻撃に至らない「グレーゾーン事態」を含む平時(2)集団的自衛権の行使が可能な「存立危機事態」(3)日本が直接攻撃を受けた場合の「武力攻撃事態」-への対応を定めた。
 存立危機事態では、機雷掃海のほか弾道ミサイル迎撃での協力、邦人輸送や弾道ミサイル防衛に従事する米艦の防護など、集団的自衛権に基づく米軍支援を具体的に例示した。
 武力攻撃事態では、沖縄県・尖閣諸島周辺で領海侵入を繰り返す中国を念頭に離島防衛への共同対処を明示した。
 日米間の協議機関として「同盟調整メカニズム」の常設も明記し、自衛隊と米軍の運用一体化を強める方針も打ち出した。「国際社会の平和と安定」に向けた自衛隊による米軍支援に関する項目も新設。国連平和維持活動(PKO)のほか、国際的な人道復興支援や災害支援なども明記した。
 両政府は新指針に関して「より実効的な同盟を促進する」と意義付ける共同文書も発表した。
 
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自衛隊のみ役割増加 前回改定にかかわった柳沢協二氏に聞く
東京新聞 2015年4月28日
 日米両政府が二十七日に合意した日米防衛協力の指針(ガイドライン)の再改定。防衛官僚として一九九七年の改定にかかわり、第一次安倍政権などで安全保障担当の官房副長官補を務めた柳沢協二氏に、問題点を聞いた。 (聞き手・上野実輝彦)
 
 ― 新指針の評価は。
 「米軍の役割は今までとなんら変わらないのに、自衛隊は、重要影響事態での(米軍への)後方支援や国際秩序の維持など、格段に増えている。すごくアンバランスだ
 「しかも、増えていることが日本の安全に役立つならいいが、むしろ日本を無用の争いに巻き込む心配がある」
 ― 政府は、日米同盟強化で抑止力が高まると説明している。
 「新指針には(第三国と)緊張状態にある時、日米の共同訓練が抑止力になるという考え方が示されている。だが、これは挑発行為にもなる。現場で摩擦的に(衝突が)起きることで、政治のコントロールがないまま戦闘状態に入っていく恐れがある。かえって日本に対する攻撃を誘発する恐れがある
 ― それでは抑止力にならない。
 「抑止が効かず、情勢が拡大して日本有事になったらどうするか考えていないのも問題だ。日本有事への対応では、自衛隊は『作戦を主体的に実施』すると書いてあるが、米軍は『支援および補完』だけ。日本を防衛するためのシナリオとして、本当に評価していいものなのか」
 ― 沖縄県・尖閣諸島の防衛にも米軍が関与しない可能性があるのか。
 「米軍は(自衛隊を)支援するとしか書いていない。沖縄の海兵隊は出ないということだ。日本政府は『海兵隊は抑止力だから沖縄県内に必要』という立場をとってきたが、尖閣に出ないなら沖縄に置く必要はない」
 ― 前回の改定と今回との違いは。
 「九七年の改定は、朝鮮半島有事で日本が米軍を支援するという想定がはっきりしていた。今回は米軍が何をするかという肝心なところがはっきりしない」
 ― 事実上の地理的歯止めが消えた。
 「恐らくインド洋や南シナ海のシーレーン(海上交通路)防衛を共同でやろうという発想がある。しかし、自衛隊がそちらにシフトすれば肝心の日本防衛の力がそがれる。ホルムズ海峡やマラッカ海峡までカバーすれば、日本の防衛は不可能になる