2015年4月12日日曜日

安倍政権、在独日本総領事を通じて外国人記者に圧力 +

 5年間日本に勤務して今年離日したドイツの新聞記者が、かつて安倍首相の歴史修正主義的な傾向などを批判した記事を書いたところ、在独日本総領事がわざわざ本社の編集者を訪ねて、その記事は誤報であり「中国によるプロパガンダ」に利用されているなどと抗議したそうです。
 そして編集者が記事のどこが誤報かと質問したのには答えずに、「金が絡んでいるのでは?」とか中国行きのビザを取得するためではとまで述べて、同氏や編集者、そして新聞社を侮辱したということです。
 当のドイツ紙はそんな圧力に屈することはなく、むしろその後批判的な論調めました。それはあまりにも当然のことです。
 
 まことにあきれ返る話で、政府が報道の自由を認識していないことを海外に示しただけではなくて、その言い方は名誉毀損で訴えられても仕方がないような非常識さです。それにしてもアメリカにはひたすらひれ伏している安倍政権が、アメリカ以外の海外メディアに対してはこれだけ居丈高になれるというのは驚きです。
 
 こんな恥ずかしい話は安部政権以前にはなかったことです。その反面で、安倍政権が外国メディアの記者たちを懐柔するために厚く接待しようとしていることも暴露され、それは逆効果でしかないと同記者に切り捨てられています。
 
 THE NEW CLASSIC(コウスケ・ヤマカワ氏執筆)
がドイツ紙の記事を解説していますので、紹介します。
 10日付のブログ「内田樹の研究室」http://blog.tatsuru.com/ に独紙記事の翻訳文が掲示されていました。下記の記事とあまり重ならない範囲を抜粋して追記します。翻訳全文は同ブログでご覧ください。 
              ~~~~~~~~~~~~~~~~~~
安倍政権、在独日本総領事を通じて外国人記者に圧力?
  ドイツ紙特派員の告白が話題に
 Kosuke Yamakawa THE NEW CLASSIC 2015年4月10日
 
  (2日付の)ドイツの日刊紙「フランクフルター・アルゲマイネ・ツァイトゥング」の東京特派員であったCarsten Germis氏の離任記事が話題になっている。
 同氏は、2010年1月に東京へ着任してきて以来、日本がエリートとメディアの関係を含めて、歴史修正主義的な傾向を持つ安倍政権によって明確な転換を迎えたと指摘
 安倍政権の姿勢を報じたGermis氏に対して、在フランクフルト日本総領事や外務省が、さまざまな “圧力” をかけてきた具体的なエピソードも語られるなど、同政権とメディアの関係などに示唆的な内容となっている。
 
日本は大きく変化した
 Germis氏の記事は、2010年に同氏が着任して以来、日本が大きく変化したという指摘から始まる。中でも最近の1年間に生じた出来事は、彼の仕事に大きな影響を与えたという。
 同氏は、日本のエリートと外国人メディア・記者の間に非常に大きな認識の乖離があり、海外メディアからの批判的論調を日本のエリートが受け入れられないのであれば、それは大きな問題を生むことになるだろう、と懸念する。
 
メルケル首相は “友情” を示していない?
 ドイツ・メルケル首相の訪問に際して日本経済新聞は、同首相が、安倍首相の歴史認識や日本の原発に対する姿勢に批判的で、”友情” を示すことがなかったと報じた。
 しかしこれについてGermis氏は、友情とは「単に同意することなのだろうか?」と問いかけ、友人が誤った方向に向かう時に、それを批判することは友情ではないのか?と述べる
 
 同氏は、5年にわたる東京への特派員経験から、日本に対する友情、親愛の念は深まったという。しかし一方で、一部の日本のエリートやメディアは、同氏について、単に日本への友情を欠いて批判ばかりする外国人記者だと認識している、と指摘。
 こうした認識の乖離が大きな懸念になる可能性があることを示唆している。
 
2012年の選挙後、事態が一変
 Germis氏によれば、民主党政権期における政治家は、外国メディアに対して、日本の政策を説明することに懸命だったという。報道陣も、委縮することなく政府の政策を批判したが、政治家もまた、懸命に彼らの政策を説明していた。
 しかし、2012年に安倍政権が勝利を収めて以降、事態は一変した。安倍首相は、Facebookなどの新しいツールによって発信を強化したように見えるが、一方で日本が抱える巨額な政府債務について語ることは減っていったという。
 安倍政権の閣僚から、エネルギー政策、アベノミクスが抱えるリスク、憲法改正など、記者の質問に明確な答えが得られることは無くなっていったそうだ。
 
外務省からの攻撃
 そしてついに、5年前には考えられなかった、外務省からの攻撃(attacks)もはじまった。Germis氏による、安倍政権の歴史修正主義に関する記事が報道された後、フランクフルター・アルゲマイネ・ツァイトゥング紙編集長のもとに、在フランクフルト日本総領事が訪れたというのだ。
 総領事は東京からの抗議を伝えた上で、こうした記事の内容が「中国によるプロパガンダ」に利用されていると述べたそうだ。
 
記者や新聞社を侮辱
 Germis氏による強い憤りはつづく。同紙編集長が、領事に対して記事の内容が誤報である事実の提示を求めたところ、総領事は「金が絡んでいるのでは?」とまで述べて、同氏や編集長、そして新聞社を侮辱(insulting )したというのだ。
 また総領事は、ビザ取得のために中国のプロパガンダを書かざるを得ないのだろう、と哀悼の意すら示したのだという。こうした驚くべき姿勢に、フランクフルター・アルゲマイネ・ツァイトゥング紙が屈することはなく、むしろその批判的な論調は強まった
 
とはいえ…
 記事では他にも、政権が外国メディアの記者たちを高待遇で接待しようとするものの、結局それは逆効果でしかないこと、慰安婦問題に際しても、政府から「説明」があったことなどが述べられている。
 
 とはいえ、Germis氏は日本における報道の自由が脅かされているとは考えていない。日本は、特派員にとっては素晴らしい国であり、依然として世界有数の豊かな、開かれた国だと締めくくる。
 同氏は、「調和が、抑圧や無知から来るべきではないと信じている。真にオープンで、健全な民主主義こそが、5年間過ごした私の素晴らしい故郷にとっての、大きな目標だろう」と語っている。
 
 この記事は、普段なかなか見ることができない外国人記者からのストレートな視点、そして安倍政権による外国メディアに対する具体的な姿勢を記した記事として、すでに大きな注目を集めている。興味のある方は、ぜひ原文を参照していただきたい。
 
 

+ 
ある海外特派員の告白 5年間東京にいた記者からドイツの読者へ
 「内田樹の研究室」 http://blog.tatsuru.com/ 2015年4月10日
 
 (以下は本文とあまり重ならない範囲で抜粋したものです・・・事務局)
 それでもギャップは存在する。それは安倍晋三首相のリーダーシップの下で起きている歴史修正の動きによってもたらされた。
 この問題で日本の新しいエリートたちは対立する意見や批判をきびしく排除してきた。この点で、日本政府と海外メディアの対立は今後も続くだろう。
 
 本紙は政治的には保守派であり、経済的にはリベラルで市場志向的なメディアである。しかしそれでも本紙は安倍の歴史修正主義はすでに危険なレベルに達しているとする立場に与する。これがドイツであれば、自由民主主義者が侵略戦争に対する責任を拒否するというようなことはありえない。もしドイツ国内にいる日本人が不快な思いをしているとしたら、それはメディアが煽っているからではなく、ドイツが歴史修正主義につよい抵抗を覚えているからである。
 
 反動は2012年12月の選挙直後から始まった。新しい首相はフェイスブックのような新しいメディアにはご執心だったが、行政府はいかなるかたちでも公開性に対する好尚を示さなかった。財務大臣麻生太郎は海外ジャーナリストとはついに一度も話し合おうとしなかったし、巨大な財政赤字についての質問にも答えようとしなかった。
 海外特派員たちが官僚から聴きたいと思っていた論点はいくつもあった。エネルギー政策、アベノミクスのリスク、改憲、若者への機会提供、地方の過疎化などなど。しかし、これらの問いについて海外メディアの取材を快く受けてくれた政府代表者はほとんど一人もいなかった。そして誰であれ首相の提唱する新しい構想を批判するものは「反日」(Japan basher)と呼ばれた。
 
 彼は私の書いた記事の切り抜きを取り出し、私が親中国プロパガンダ記事を書くのは、中国へのビザ申請を承認してもらうためではないかという解釈を述べた。
 私が? 北京のために金で雇われたスパイ? 私は中国なんて行ったこともないし、ビザ申請をしたこともない。もしこれが日本の新しい目標を世界に理解してもらうための新政府のアプローチであるとしたら、彼らの前途はかなり多難なものだと言わざるを得ない。当然ながら、親中国として私が告発されたことをエディターは意に介さず、私は今後も引続きレポートを送り続けるようにと指示された。そしてそれ以後、どちらかといえば私のレポートは前よりも紙面で目立つように扱われるようになった。
 
 しかし、2014年に事態は一変した。外務省の役人たちは海外メディアによる政権批判記事を公然と攻撃し始めたのである。首相のナショナリズムが中国との貿易に及ぼす影響についての記事を書いたあとにまた私は召喚された。私は彼らにいくつかの政府統計を引用しただけだと言ったが、彼らはその数値は間違っていると反論した。
 
 総領事と本紙エディターの歴史的会見の二週間前、私は外務省の役人たちとランチをしていた。その中で私が用いた「歴史をごまかす」(white wash the history)という言葉と、安倍のナショナリスト的政策は東アジアだけでなく国際社会においても日本を孤立させるだろうとうアイディアに対してクレームがつけられた。口調はきわめて冷淡なもので、説明し説得するというよりは譴責するという態度だった。ドイツのメディアがなぜ歴史修正主義に対して特別にセンシティブであるのかについての私の説明には誰も耳を貸さなかった。
 
 私の望みは外国人ジャーナリストが、そしてそれ以上に日本国民が、自分の思いを語り続けることができることである。社会的調和が抑圧や無知から由来することはないということ、そして、真に開かれた健全な民主制こそが過去5年間私が住まっていたこの国にふさわしい目標であると私は信じている。