元大原社会問題研究所長(法政大学)の五十嵐仁氏が、統一地方選挙前半戦の議員選挙結果について検証していますので紹介します。
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統一地方選挙前半戦の議員選挙によって示された数字を検証する
五十嵐仁の転成仁語 2015年4月13日
昨日のブログで、統一地方選挙の前半戦でも勝ったのは共産党だと書きました。もちろん、首長選挙にはこのような評価は当てはまりません。
そもそも与野党対決型は少なかったわけですし、共産党だけの力で与党に勝つというのは至難の業です。しかし、それでも候補者を立てて選択肢を提起した姿勢は評価されるべきでしょう。
自共対決型になった神奈川、福井、三重、鳥取、徳島、福岡では、もし共産党が候補者を立てなければ選挙自体が成立せず、無投票当選がさらに増えていたはずです。選挙と民主主義を機能させるうえで果たしている共産党の役割についても、きちんと評価することが必要なのではないでしょうか。
首長選挙とは異なって、草の根での地力が試される地方議員の選挙ではどうでしょうか。ここでは、国政選挙以上に、自共対決という形での政治的な地殻変動が生じつつあるように見えます。
具体的な数字で、このことを確かめてみたいと思います。まず、都道府県議選の当選者数です。
獲得議席数 前回当選者数 改選前議席
自民 1153 1119(+34) 1233(-80)
民主 264 346(-82) 314(-50)
公明 169 171(-2) 170(-1)
維新 28 13(+15)
共産 111 80(+31) 77(+34)
社民 31 30(+1) 36(-5)
諸派 65 139(-74) 80(-15)
(大阪維新) 42 57(-15) 45(-3))
無所属 463 442(+21) 289(+174)
前回当選者数の後のカッコ内の数字は、前回と今回の当選者の増減を示したもので、改選前議席の後のカッコ内の数字は、改選前と今回の当選者数の増減を示したものです。
前回当選者数との比較では、最も議席数を増やしたのは自民党で234議席増、次いで共産党が31議席増となっています。しかし、前回当選者数に対する今回当選者数の増加割合(増加率)は、自民党が1・03であるのに対して、共産党は1・38でした。
自民党は増えたとはいえ増加率では前回とそれほど変わっていないのに、共産党の場合には約1・4倍になっていることが分かります。今回の選挙で共産党はいかに多くの議席を増やしたかということが、ここに示されています。
このことは、改選前議席と比較すれば、さらにいっそう明瞭となります。改選前議席との比較では、最も議席を増やしたのは共産党で34議席増、次いで維新の党の15議席増でした。
維新の党と大阪維新の会との合計では、改選前の58議席を70議席に増やしています。それなりに健闘したと言えるでしょう。
しかし、増加した議席数は12議席で、共産党が増やした34議席の半分にも満たない数です。増加率も1・2倍で、共産党の1・44倍に及ばず、この点でも躍進したのは共産党だということが分かります。
同様に、政令市議選当選者数の結果を検討してみましょう。その結果は、以下のようになっています。
獲得議席数 前回当選者数 改選前議席
自民 301 222(+79) 333(-32)
民主 126 147(-21) 149(-23)
公明 174 157(+17) 172(+2)
維新 34 18(+16)
共産 136 99(+37) 104(+32)
社民 3 7(-4) 14(-11)
次世代 1 4(-3)
諸派 92 113(-21) 87(+5)
(大阪維新) 50 46(+4) 39(+11))
無所属 154 178(-24) 137(+17)
ここでも、前回当選者数の後のカッコ内の数字は、前回と今回の当選者の増減を示したもので、改選前議席の後のカッコ内の数字は、改選前と今回の当選者数の増減を示したものです。
前回当選者数と改選前議席との比較で、いずれも議席増となっているのは、公明党、共産党、大阪維新の会の3つです。いずれにおいても、議席増が最も多いのは共産党でした。
自民党は前回当選者数よりも79議席多くなっていますが、改選前との比較では32議席減らしています。民主党は道府県議選で前回獲得議席と改選議席のいずれの比較でも大幅に議席減になっていますが、政令市議選の当選者数でも20議席以上の減となり、大きく後退しました。
以上の結果から、以下のようなことが言えます。
第1に、統一地方選挙前半戦の道府県議選、政令市議選での前回当選者数と改選前議席との比較において、4つのカテゴリーの全てでプラスになっているのは共産党だけでした。今回の議員選挙での勝者が共産党であることは数字の上でもきわめて明瞭です。
第2に、これとは正反対に、4つのカテゴリーの全てでマイナスになっているのは民主党だけです。今回の議員選挙での敗者は民主党だったということになります。
第3に、自民党は道府県議選と政令市議選の両方で前回の当選者数よりも増やしていますが、改選前議席よりは減らしています。今回の選挙結果から自民党が勝利したかのような報道がなされていますが、選挙前よりも選挙後の議席が少なくなったわけですから、自民党は必ずしも順調ではなかったということが分かります。
第4に、公明党は道府県議選で微減となっており、「全員当選」が8年ぶりに復活しましたが、それは候補者を減らした結果であったことが分かります。政令市議選で微増となりましたが、こちらの方では大阪市議選(此花区)で新人候補が共産党候補に170票差で競り負けて落選しています。落ち目の公明党と、逆に勢いが増している共産党との違いを象徴するような結果となりました。
第5に、維新の党と大阪維新の会は、直前の上西議員の除籍問題などがあったものの、大阪では依然としてそれなりの地盤を維持していることが分かります。しかし、府議会と市議会の両方で目標としていた過半数には達せず、府議選の大阪市都島区選挙区(定数1)で5期目を目指す自民党の現職候補と維新の新人候補との一騎打ちで敗れるなど、かつてのような勢いはありません。
先の総選挙で示された共産党の勢いと民主党の苦境が継続されていることは、今回の統一地方選挙前半戦に関する数字の上でも明瞭になっています。自民党と公明党はほぼ現状維持にとどまっていること、維新の党が一定の盛り返しに成功したことも、これらの数字から確認することができます。
国政に現れた自共対決という日本政治の地殻変動が、地方政治においてはさらに深く広く及んでいるように見えます。それが同じような方向性を持った変動なのか、どれほど深く広く及んでいるのか、引き続いて実施される統一地方選挙後半戦の結果が注目されます。
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