2015年4月4日土曜日

日本は中国に対する冷静さを取り戻すべき

 自民党はアジアインフラ投資銀行(AIIB)の創立メンバーの募集が終了した4月1日、外交・財政金融部会を開き、官僚たちとアジアインフラ投資銀行(AIIB)への対応を議論したということです。随分と間の抜けた話です。
 日本はどこまでもアメリカに従うという方針に基いて参加を拒否したわけですが、それにしても日米を除く全ての有力国が雪崩を打って参加するとは思っていなかったのでしょう。
 
  この件では、金融立国・金融大国であるイギリスがこの旨みのある話を逃す筈もなく、アメリカが普段は中国との「G2体制」を宣言しつつそれなりの手厚い交流を築いておきながら、AIIBへのイギリスの参加を禁止するということに無理がありました。
 また中国とは立国以来対立している台湾も早くに参加を表明し、中国も名称の問題が解決されれば受け入れるとする(一方で北朝鮮の参加は認めない)など、各国とも経済的利益をベースにして政経分離の対応も含め柔軟に対処しました。
 
 ここに面白いアンケートがあります。2011年にアメリカの調査機関が行った、設問:「中国は超大国としてアメリカを追い抜くか」に対する回答です(以下に紹介する記事に掲載されたものです)
 
  Q: 中国は超大国としてアメリカを追い抜くか                    単位:%
 
 
日本
 
追い抜く
46
65
61
72
63
37
 
追い抜かない
45
26
34
28
17
60
 
 中国が「追い抜かない」としたのは日本だけ(米国は半々)で、他の国々はダブルスコアからトリプルスコア以上で「追い抜く」と見ています。これでは、さすがに「日本が正しくて、世界中が間違っている」のではなくて、「世界中が正しくて、日本だけが間違っている」というしかありません。
 
 安倍氏は首相になって外遊を始めると、延べ6兆円とも7兆円とも言われる国費をバラマキながら、欧州、東南アジア、アフリカ諸国更には南米諸国に出かけ、尖閣諸島に関連した中国脅威論をぶち上げて来ました。(今年になってからは「テロには屈しない」に変わりわりましたが・・)
 しかし各国はせいぜい「他国へ侵略してはいけない」という原則論の部分では賛成したものの(反対する必要もない)、中国がケシカラン国だと同調した国は1国もなかった筈です。これも中国に対する各国の評価を、政府が見誤っていたことのあらわれです。
 援助はありがたく受け取るものの中国の否定には同調しないというわけで、食事に招待されれば簡単に転んでしまう日本のマスメディアとは大いに違います。
 
 以下に紹介する記事:「日本は中国に対する冷静さを欠き、AIIB加入問題で流れを読み間違えた」の著者は中国人(のよう)ですが、昨年12月初めに出演した番組以降いくつかのテレビ番組のなかで「AIIBに加入する国がもっと増えてくると思う。国際銀行の設立にかかわった経験をもつ日本も参加すべきだ」と力説するたびに、一蹴されまたは一笑に附されるケースが多かったと述べています
 日本には以前からその傾向はありましたが、中国嫌いの安倍首相が登場してからは特に声の大きい人たちが一斉に同調し出して、TV番組などでの論調は見るに耐えない有様となりました。
 
 これを機会に同氏が礼儀正しく述べているように、日本は中国に対する冷静さを取り戻すべきです。
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日本は中国に対する冷静さを欠き、
AIIB加入問題で流れを読み間違えた
莫 邦富 ダイヤモンドオンライン 2015年4月2日 
 1 作家・ジャーナリスト       
 中国が主導するアジアインフラ投資銀行(AIIB)の創立メンバーの募集が3月31日をもって締め切られた。募集の結果は48ヵ国2・地域が加入を申し込んだ。アメリカに追随し、中国の孤立を予測し期待していた日本は逆に孤立した立場に追い込まれた。この誤算を指摘する日本のメディアの報道も多い。一部を拾ってみよう。
2 最新データでは51カ国)   
 「日本の対処後手に」「英の参加誤算」「(日本の対応は)お粗末だった」「米国主導の従来の国際秩序を弱体化させることにつながる」「米国の孤立感は深まる」など。
 さらに、AIIB加入にたいする姿勢の対立も見られた。「米国とこじれると何をされるか分からない。それは避けたい」と内心を明かす財務省は、米国の意志に反してまで、日米で主導するアジア開発銀行(ADB)のライバルのもとに走る選択肢はそもそも取りえなかったと言われている。
 一方、経済界からは、「インフラビジネスが不利になること」を心配しているという声が上がっている。
 
日本は超甘すぎる観測で 世界の流れを読み違えた
 イギリスが率先してAIIB加入に走ったことが、政治的雪崩のきっかけを作ったとすれば、北欧からもフィンランド、ノルウェー、スウェーデンなどの国が次々と名乗りを上げ、ついに台湾までも申請することを発表し国連安保理5ヵ国のうち、アメリカを除いて全員が参加することになった。この重い事実と、参加する国はそうはなく、中国は孤立に苦しむだろうという日本の超甘い観測との間には、あまりにも大きすぎた落差がある。
 AIIB加入に走った国々と、加入をかたくなに断っている日米のどちらの主張や着眼点が正しいのかは、ここでは問題にしない。私が逆に疑問に思ったのは、なぜ日本がここまで流れを読み間違えたのか、ということだ。
 
 時事通信社が発行する「時事速報」という会員向けのメディアがある。最近号に、私は次のようなことを書いた。
 ここ十数年は、日本でのテレビ出演は、出演するというよりも吊つるし上げられる実感の方がはるかに強い。たとえば、AIIBが設立に向かって動き出すと、いくつかのテレビ番組に呼ばれ、出演を求められた。番組のなかで理性的な議論よりも罵倒されるような展開になったことも何度もあった。しかし、そのとき、私はいつも自分に言い聞かせている。「喧嘩(けんか)してはいけない。落ち着いて冷静に発言しよう」と。
 昨年12月初めに出演した番組から、そのあとのいくつかのテレビ局の番組のなかでも、私は、「AIIBに加入する国がもっと増えてくると思う。中国主導かどうかといった問題よりも、国際銀行の設立にかかわった経験をもつ先輩役の日本もアジアインフラ投資銀行に参加すべきだ」と力説した。一蹴される、または一笑されるケースが多かった。日本メディアの退化ぶりに、目を覆いたくなる場面が多々あった
 
 しかし、実際の結果はご覧の通り、私の数か月前の主張がいまの現実と符合した。
 「別に、私の予測が当たったと自慢するために、この原稿を書いたのではない。先入観をもたずに、落ち着いて冷静にアジアの情勢、世界の情勢を見つめていくと、おそらく正常な判断力を持つ人間なら、誰でもおのずとこうした結論にたどり着くことができると主張したいためだ。」
 そこで私は「激動する日中関係と世界関係を平心静気に見つめて」いこうと提案した。この「平心静気」は中国のことわざだ。「落ち着いて冷静に」という意味だ。
 つまり「落ち着いて冷静に」日中関係を見つめる姿勢を保っていけば、日中関係を推進するには大事なシグナルを見落とさずに、進むべき方向も間違えずに済む。
 
中国が米国を抜く日が来るとは 絶対に思いたくない日本人
 ここ十数年、中国を見つめる日本人の目には何かの焦りが滲み出ている。あるいはある種の意固地さを露呈している。
 数年前に、もと外交官だった孫崎享さんから面白いエピソードを聞いたことがある。
 いろいろなところから講演に呼ばれる孫崎さんは、聴講者に対して常に、「中国は超大国としてアメリカを抜くと思いますか、思いませんか」と問う。だいたい70%から80%からは「中国がアメリカを抜くことはない」という答えが返ってくる。
 ある県の町村の幹部たちが集まる集会で同じ質問をしたら、「中国がアメリカを抜く」と手を挙げた人は、出席者20人の中1人だけだった。ほかの人はむしろ怪訝そうな表情で孫崎さんを見ていただけだった。
 
 アメリカのピュー・リサーチ・センター(Pew Research Center)が2011年、「中国は超大国としてアメリカを追い抜くか」という設問に関する調査を行ったことがある。
 「追い抜く」と思う被調査者と「追い抜かない」と思う被調査者のパーセンテージはそれぞれ次のようなものだった。
 
Q: 中国は超大国としてアメリカを追い抜くか              単位:%
 
 
日本
 
追い抜く
46
65
61
72
63
37
 
追い抜かない
45
26
34
28
17
60
 
 過半数の日本人だけが「追い抜けない」と中国を見ているこの調査データを目にした孫崎さんは驚いた。そして、次のように警告を出した。
 「日本が正しくて、世界中が間違っている」なら、いいが、「世界中が正しくて、日本だけが、間違っているのだとすると、これは大変に深刻です。隣に『世界で最も大きい、超大国が出現する』という事態を、多くの日本人が予想していないわけだ」
 
 その原因を孫崎さんは、無知によるものではなく、「まるで、何か恣意的な力が働いているようにも思えるほど、『できるだけ客観的な情報を分かち合おう』という姿勢は大手のメディアから消えていました」と分析している。
 表現の仕方は違うが、激動する日中関係と世界関係を平心静気に見つめていこう、と私が提案したのも、その恣意的な力が働いているその何かのものに影響されないようにしようと考えたものだ。その正体不明の何者かを排除すれば、専門家ではなくても、私のような平々凡々な人間でも日中関係の赴く方向をもうすこし高い精度で予測できると信じる。
 ダイヤモンド・オンラインでもその一角を借りて、激動する日中関係と世界関係を平心静気に見つめていこうと提案させていただきたい。