政府は、外国軍隊への後方支援のための新たな恒久法を「国際平和支援法」とするということです。
いつの戦争でも「後方支援」(資材・燃料・食料や武器・弾薬の補給など)や「武器の防護」を必要としないものはありません。それらは必ず戦争に伴うものであるがゆえに戦争行為そのものと看做されています。機雷の掃海もそうです。
それをたまたま相手に直接銃口を向けないから「戦争参加ではない」というのが政府の言い分ですが、全くあり得ない話です。
そして「外国軍隊への後方支援」や「外国軍隊の武器の防護」を口実にして、「いつでも自衛隊が海外に出かけられるようにする法律」を「国際平和支援法」と呼ぶということです(そうなればいつでも自由自在に海外で戦争に参加できるようになります)。
これはどこかの詐欺集団の発案などではなくて、れっきとした日本政府の話です。しかも日本国憲法の根幹にかかわる話です。かつてこれほどデタラメな政府があったでしょうか。
琉球新報は羊頭狗肉の法案と呼び、そのほかにも残業代ゼロ法制を「高度プロフェッショナル労働制」に、武器輸出三原則を「防衛装備移転三原則」に言い換えたことなどや「存立危機事態」などの「偽装」を指摘しています。デタラメの極みです。
田中慎弥氏が小説『宰相A』の中で、積極的平和主義について、宰相に「いつも申し上げる通り、戦争こそ平和の何よりの基盤であります」、「我々は戦争の中にこそ平和を見出せるのであります」と語らせています※が、まさにそれを地で行くような話です。
※ 3月25日 「宰相 A」 安倍晋三の実像と虚像
福井新聞の社説「安保法制協議 国会議論より対米重視か」も併せて紹介します。
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<社説>安全保障法制 「平和支援」は偽装に等しい
琉球新報 2015年4月16日
見せ掛けの名前を変えて物事を売り込むのは偽装に等しい。この法案はまさに羊頭狗肉(ようとうくにく)ではないか。
政府は自衛隊の海外派遣を可能にする恒久法の名称を「国際平和支援法」とする方針を固めた。「平和支援」の美名を用い、実態を覆い隠すのは姑息(こそく)に過ぎる。
安倍政権のこうした手法は一貫している。残業代ゼロの異名がある「ホワイトカラー・エグゼンプション」は「高度プロフェッショナル労働制」に言い換え、目先を変えた。武器輸出三原則撤廃は「防衛装備移転三原則」と改め、印象を薄めた。
最たるものは集団的自衛権行使を含む一連の軍事制限解禁を指す「積極的平和主義」だ。およそ平和とは正反対の内容で、目先を変えるにも程がある。政府は取り繕うのをやめ、実態をありのまま説明し、国民的論議を求めるべきだ。
今回の「新たな安全保障法制」では自衛隊の海外での活動範囲を広げ、武器弾薬の提供や戦闘機への給油も可能にする。これらはまさに兵站(へいたん)である。兵站を担えば戦争参加と見なすのは世界の常識だ。日本が戦争に参加していいのか。
周辺事態法を改正して地理的制約を撤廃するのも危険過ぎる。専守防衛どころか「極東」の範囲も飛び越え、文字通り地球の反対側へも自衛隊を派遣することになる。
これまでの「周辺事態」の概念に変え「存立危機事態」なる言葉も編み出した。イラン沖の機雷も「国の存立が脅かされ、国民の権利が根底から覆される明白な危険」に該当するという。機雷除去は宣戦布告なき開戦に等しい。原油のために他国と戦争するのである。
戦前の「満蒙(まんもう)は生命線」の言葉を想起させる。かつてこの言葉で国民の恐怖心をあおり、日中戦争に引きずり込んだ。だが戦後、満州(まんしゅう)も蒙古(もうこ)も失って日本は絶滅したか。「存立危機」も同様の虚構だ。
法案提出の手順もおかしい。法制は新たな日米防衛協力指針と連動するが、27日の日米外務・防衛相会談で新指針に合意した後、法案を国会に提出するという。「もう米国と約束したから法制定は義務だ」と主張するのは目に見えている。他国との約束を隠れ蓑(みの)に議論を封じ込めるやり方は許されない。
この安保法制は国の形を変えると言っていい。それなら国民的に論議すべきで、その上で国会に提出し、結論が出た上で米国と規定を取り交わすのが筋である。
安保法制協議 国会議論より対米重視か
福井新聞 2015年4月16日
日本の平和と安全を守るため、新たな安全保障法制をどう整備していくか。自民、公明両党は協議を再開させ、政府がまとめた安保関連法案について検討し始めた。政府は5月15日にも閣議決定し国会提出、6月24日までの会期を1カ月余り延長して成立させる方針のようだ。十分時間をかけて慎重審議すべきなのに、政府・自民党は国内議論より米国優先で進めている。これはおかしくないか。
日米両政府は27日に米国で外務・防衛担当閣僚による安全保障協議委員会(2プラス2)を開催し、日米防衛協力指針(ガイドライン)改定について正式合意する予定。それまでに一連の法案要綱を仕上げ、指針に反映させる考えだ。28日には日米首脳会談が行われる。安倍晋三首相は、オバマ大統領への「手土産」にし、対米協力を強く打ち出したいのだろう。
しかし、これでは国会軽視の対米追随ではないか。中谷元・防衛相は今月8日の米国防長官との会談後「米軍と自衛隊が切れ目なく協力する機会が増えていく。世界中での対応が可能になる」と述べた。安保法制に盛り込まれる集団的自衛権の行使容認や日米防衛協力の拡大によって、日本が「戦争」に巻き込まれる状況に陥る可能性がある。
政府は自衛隊の海外派遣を随時可能にする「国際平和支援法」の新設など関連法案の概要を説明。与党協議では、集団的自衛権の行使で自衛隊を派遣し、中東のホルムズ海峡にまかれた機雷を除去できるとする政府・自民に対し、公明は慎重な構えを崩さなかった。
公明は、自衛隊を海外派遣する際の歯止めとして▽国会の関与など民主的統制(国会承認)▽国際法上の正当性(国連決議)▽自衛隊員の安全確保の3原則を盛り込むよう求めている。
国会承認では、自民が例外的に事後承認も認めるべきとするが、公明はあくまで「例外なき事前承認」を主張。自民は衆院解散時や国会閉会中を想定しているが、公明は「緊急を要するケースは考えられない」と反論した。ここで安易に妥協すれば、国会機能が空洞化しかねないからだ。
国連決議について、自民は紛争後の人道復旧支援活動に当たる場合はPKO(国連平和維持活動)協力法を改正し、国連決議がなくてもEUなど国際機関の要請で派遣できるとする。
安保法制が整備されれば武力攻撃に至らないグレーゾーン事態で自衛隊が他国軍を防護できる。その拡大歯止め策として、政府統一見解で明確にする方針では一致した。しかし、いずれの課題も両党の議論が煮詰まったとはいえない。
歯止め策は本当に実効性を持つのか。国会で十分議論し国民に丁寧に説明するべきだ。国の形を大きく変える重要な法案である。短期間にあいまいな形で決着させれば、将来に禍根を残すことになろう。