労働者をただ働きさせることこそ不当労働行為の最たるものと言えます。労働者に生産をさせてもその労賃は払わなくてよいということになれば、経営者にとってこれほど旨い話はありません。
そんな労働基準法の理念に最も反する“労働時間規制緩和 改正法案”が堂々と閣議決定されました。
当初はその対象を「高度専門的知識を要する業務において、年収が平均給与額の3倍の額を相当程度上回る等の要件を満たす労働者」としていかにも限定されているという『装い』をしていますが、そんな歯止めは国会審議を要しない省令によっていくらでも緩和されてしまいます。
労働者にとって世紀の悪法といっても過言ではありません。
日弁連の会長が6日、反対声明を出しましたので紹介します。
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日本弁護士連合会
労働時間規制を緩和する労働基準法等の一部を改正する法律案に反対する会長声明
本年4月3日、政府は、「労働基準法等の一部を改正する法律案」(以下「本法案」という。)を閣議決定した。
まず、本法案は、「特定高度専門業務・成果型労働制(高度プロフェッショナル制度)」を創設し、高度専門的知識を要する業務において、年収が平均給与額の3倍の額を相当程度上回る等の要件を満たす労働者については、労働基準法で定める労働時間並びに時間外、休日及び深夜の割増賃金等に関する規定を適用しないものとしている。この制度について、当連合会は、2014年11月21日付け「労働時間法制の規制緩和に反対する意見書」において、長時間労働の蔓延、過労死及び過労自殺が後を絶たない深刻な現状において、更なる長時間労働を助長しかねない危険性を有することから、これに反対する意見を述べたところである。本法案においても、事業主は時間外労働に対する割増賃金を支払う必要がなくなり、長時間労働に対する歯止めが一層かかりにくくなることや、対象業務の範囲や年収要件の詳細が省令に委ねられ、対象範囲が容易に拡大される恐れがあることなど、依然として重大な問題が残されたままである。
また、本法案は、企画業務型裁量労働制について、対象業務を拡大するとしている。当連合会が、2013年7月18日付け「『日本再興戦略』に基づく労働法制の規制緩和に反対する意見書」においても述べたとおり、裁量労働制によれば、労働の量や期限は使用者によって決定されるため、命じられた労働が過大である場合、労働者は事実上長時間労働を強いられ、しかも労働時間に見合った賃金は請求し得ないという問題が生じる。よって、長時間労働が生じる恐れのある裁量労働制の範囲の拡大は慎重に検討されるべきである。
なお、政府は、上記制度の創設や見直しと同時に、働き過ぎ防止のための法制度の整備を本法案の目的として掲げている。しかし、本法案には、労働時間の量的上限規制や休息時間(勤務間インターバル)規制のように、直接的に長時間労働を抑止するための実効的な法制度は定められていない。我が国では、一般労働者(フルタイム労働者)の年間総実労働時間が2013年時点で2000時間を超え(第103回厚生労働省労働政策審議会労働条件分科会資料及び厚生労働省「毎月勤労統計調査」から)、他の先進国と比較して異常に長く、労働者の生命や健康、ワークライフバランス保持、過労自殺及び過労死防止の観点から、長時間労働の抑止策は喫緊の課題であるが、これに対する実効的な制度が定められていないことは大きな問題である。
よって、当連合会は、本法案が、長時間労働の実効的な抑止策のないままに労働時間規制を緩和しようとすることに反対する。
2015年(平成27年)4月6日
日本弁護士連合会
会長 村 越 進