2020年5月31日日曜日

31- “SNS規制”は安倍政権批判封じが目的

 毎日新聞での安倍内閣に支持率が20%台に落ちたのは、「#検察庁法改正案に抗議します」のハッシュタグをつけた投稿が700900万とも)を突破するなどした直後でした。
 安倍政権は登場した直後からメディアのトップスとの会食を頻繁に重ねるなどしてメディアの言論統制に熱心で、選挙報道の仕方についても文書を作成して注文をつけてきました。それだけにSNSでの政権批判の大盛り上がりには定めし虚を突かれた思いがあったことでしょう

 23日、フジテレビの番組「テラスハウス」に出演していた女子プロレスラー木村花さんがネット上で心無い誹謗中傷に晒されてついに自殺するというまことに痛ましい悲劇が起きました。
 安倍政権はそれを好機と考えたのでしょうか、早速高市総務相は、ネットに書き込みをした投稿者の特定を容易にするなど、悪意ある投稿を抑止する制度改正案を年内に改正案を取りまとめることを明らかにしました。それは投稿者の氏名や電話番号を開示対象にするというものだということです。また自民党も対策を検討するプロジェクトチーム(座長 三原じゅん子議員を発足させました。
 コロナ禍の被害者たちへの救済策やその実施の余りの遅さ、ヘイトスピーチの取り締まりの埒の明かなさなどに比べると恐るべき手際のよさです。元々は表現の自由に絡む問題でもあるので、そんなに機械的に投稿者の氏名や電話番号を開示していいものかは大いに検討を要するものです。
 それを驚くべき速さで法制化しようというのは、この際SNSでの政権批判を抑制しようという発想が含まれているに違いありません。
 日刊ゲンダイの3つの記事を日付順に紹介します。紹介する日刊ゲンダイの記事は全て記事サイト「阿修羅」からの転載です。
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ネット規制の狙いミエミエ 安倍政権が露骨なSNSデモ潰し
 日刊ゲンダイ 2020/05/28
 さすがに国民も安倍政権の“狙い”を見抜いている――。
 いきなり安倍政権が“SNS規制”に動き始めた。直接のきっかけは、フジテレビの番組「テラスハウス」に出演していた女子プロレスラー、木村花さん(享年22)がネット上で誹謗中傷され、急死したことだ。
 高市早苗総務相は、ネットに書き込みをした投稿者の特定を容易にするなど、悪意ある投稿を抑止する制度改正を検討すると表明。「スピード感を持って対応したい」と、年内に改正案を取りまとめる方針だ。投稿者の氏名や電話番号を開示対象にするという。さらに、自民党も対策を検討するプロジェクトチーム(PT)を発足させ、三原じゅん子参院議員が座長に就いた。SNSでの匿名での中傷を規制する法律を制定する意向だ。
 確かに、ネット上の匿名による誹謗中傷に対し「対策を取るべきだ」という声は根強い。亡くなった木村花さんには、「早く消えてくれよ」「吐き気がする」などとヒドイ言葉が投げかけられていた。
 しかし、このタイミングで安倍政権がSNSの規制に乗り出した狙いはミエミエである。「#検察庁法改正案に抗議します」のハッシュタグをつけた投稿が700万を突破するなど、SNS上では政権批判が急速に広がっている。これ以上、安倍批判の声が大きくならないよう規制しようというのは明らかだ。
 早速ネット上には、<安倍晋三に反発する国民の発言を自粛させる法案だ><この対策PTは言論封鎖による人権侵害をする可能性が高い。ええかげんにせーよ安倍政権!こういった批判も出来なくなる可能性があります。人の死を利用するな!>などと反発の声が上がっている。

 実際、氏名や電話番号まで特定されるとなったら、多くの国民は権力批判に二の足を踏むに違いない。「#さよなら安倍総理」「#辞めるなら今だぞ安倍晋三」といったハッシュタグも立ち上がっていたが安倍批判は消えてなくなる可能性がある。
 立正大名誉教授の金子勝氏(憲法)がこう言う。
「小泉今日子さんなどの有名人がツイートしたこともあって、検察庁法改正案の強行採決は見送られた。安倍政権はSNSの威力に恐れをなしているはずです。国民世論に成功体験を与えたことは失敗だったとも考えているに違いない。逆に言うと、SNSは市民にとって大きな武器です。もし、安倍政権の思惑通り、SNS規制法が成立したら、政権にとって都合の良い書き込みは許され、都合の悪い書き込みは認められない、ということになりかねません」
「#安倍政権によるSNS規制に反対します」のハッシュタグを立ち上げるしかない。


安倍政権批判封じ“SNS規制”完全裏目 ネット世論が返り討ち
 日刊ゲンダイ 2020/05/29
 ネット上で誹謗中傷されていた女子プロレスラーの木村花さん(享年22)が急死したことを受け、“SNS規制”に動きだした安倍政権。高市早苗総務相は、発信者の“特定”を容易にするなどの制度改正を急ぐと表明し、自民党も三原じゅん子参院議員を座長とする対策プロジェクトチーム(PT)を立ち上げた。
 安倍政権の狙いは明らかだ。「#検察庁法改正案に抗議します」のハッシュタグが立ち上がるなど、SNSのネットデモに痛い目に遭っている安倍政権は、一気に規制を強め、うるさい政権批判を封じこめるつもりだ。

 しかし、ネット世論は安倍政権の脅しに怯えるどころか、反撃に出ている。28日に朝から広がり始めた「#政権批判は誹謗中傷ではない」のハッシュタグは、一時、国内トレンドの1位となり、ツイート数はわずか半日で9万を超えた。

〈主権者国民が政権を監視し、批判するのは当然の権利じゃないの?〉

〈誹謗中傷という言葉を政権批判の封じ込めに利用しようとしてる連中がいるんですよ〉

〈自民党がヘイトスピーチプロジェクトチームを立ち上げて最初に提案したのが「国会前のデモを取り締まりましょう」なんだから、自民党にネットの誹謗中傷対策なんてさせたら、政権批判を誹謗中傷認定して言論弾圧に走るに決まっている〉

 実際、安倍政権にSNS規制を許したら、政権批判を誹謗中傷扱いするのは目に見えている。
 2014年8月の自民党の「ヘイトスピーチPT」の初会合で高市政調会長(当時)は、国会デモについて「仕事にならない状況がある」と騒音扱いしていた。
 さらに、ネット上では「政権批判」について、安倍首相自身の過去の「主張」まで掘り起こされている。菅直人元首相から名誉毀損で訴えられた安倍首相は、首相批判が名誉毀損になることについて〈民主主義の根幹たる表現活動が萎縮する結果となる〉と裁判で抗弁していたのだ。自分が政権批判するのは許されるが、他人が批判するのは規制する、では、さすがに通らないだろう。

長年の悪政で批判的視点が鍛えられた
 法大名誉教授の五十嵐仁氏(政治学)が言う。
「安倍政権は公文書を改ざんし、“官邸の守護神”を検事総長に就けるために、ルールを破って黒川さんの定年延長までやった。この7年間、何度も悪事を目の当たりにして、国民は政権に対する批判的な視点が鍛えられたのだと思います。ですから、誹謗中傷の規制を口実にしたSNS規制の裏側にある魂胆についても、とっくに見抜いているということです。しかも、検察庁法改正案の強行成立を断念に追い込み、声を上げれば政治が変わるという成功体験をしたばかりです。安倍政権がSNS規制という形で表現の場に手を突っ込んでくることに強く反発するのは当然です」
 SNS規制を強化しようとしたら、ネットデモに反撃され、返り討ちに遭うだけだ。


増える芸能人の政治的発言 背景に“CM依存体質”からの脱却
 日刊ゲンダイ 2020/05/30
「芸能人の政治的発言が増えた背景には芸能界の構造的な変化があると思います」
 芸能文化評論家の肥留間正明氏はこう語る。
 検察庁法改正案に対し、俳優やミュージシャンなどが「#検察庁法改正案に抗議します」を利用して“ツイッターデモ”が加速。タレントの小泉今日子(54)を筆頭に、俳優の浅野忠信(46)、井浦新(45)、城田優(34)、格闘家の高田延彦(58)、ミュージシャンのChara(52)、きゃりーぱみゅぱみゅ(27)、元AKB48の秋元才加(31)、お笑い芸人の大久保佳代子(49)、モデルの水原希子(29)など多くの芸能人が声を上げ、法案を廃案に追い込んだ。

 その一方、きゃりーぱみゅぱみゅに関しては、政治評論家の加藤清隆氏が「歌手やってて、知らないかも知れないけど、(中略)デタラメな噂に騙されないようにね。歌、頑張って下さい」と小バカにしたようなツイートを返し、これに対し、きゃりーは「歌手やってて知らないかもしれないけどって相当失礼ですよ」と反論。その後、ファン同士の意見が対立しツイッターが荒れたことを嫌ってツイートを削除したことも物議を醸した。肥留間氏が続ける。
「もともとミュージシャンには政治的発言をする人が多かったのですが、テレビを主戦場とする俳優やタレントは、政治的に無色透明を求めるスポンサーの意向に従って、政治的発言はタブーとされてきました。しかし今は、地上波のCM出稿料も減り、俳優やタレントのそうした『スポンサー・CM依存体質』が変わりつつある。タレントたちは“CMでは食えない”と思い始めているんです。それで、スポンサーの顔色などうかがわずにやっていきたい、またやっていこうと考える気骨のある芸能人が増えてきたのだと思います。その筆頭が小泉今日子です」

 確かに、昨年、大ヒットしたネットフリックスドラマ「全裸監督」に主演した俳優の山田孝之は、原作者である本橋信宏氏が「過激な役柄でCMのオファーに影響が出ないですか」と問うと「僕は俳優です。CMタレントではないから構いませんよ」と答えたという。
欧米では俳優が政治的発言をすることは当たり前です。もちろんSNSの発達により、所属事務所の制約なしに芸能人が一個人として発言できる機会が増えたこと、さらに根底には、コロナ禍でテレビの収録も舞台もコンサートもなくなる中で、文化や芸能に全く理解のない安倍政権に対する怒りがあると思います」(肥留間氏)

権力の腐敗を監視する格好の力
 今回、検察庁法案が廃案となった後も、「#さよなら安倍総理」「#赤木さんの再調査を求めます」をリツイートするなど政治的発言を続けるキョンキョンはまさに時の人。政界進出待望論も浮上している。
「影響力の強い芸能人が声を上げることは正しい。それは権力の腐敗を監視する格好の力となる」と肥留間氏は話している。