2020年5月16日土曜日

元検事総長らが 黒川検事長定年延長に反対の意見書を提出

 松尾邦弘元検事総長ら検察OBの有志14人が、黒川東京高検検事長の定年延長は「検察の人事に政治権力が介入するものだ」として反対する意見書を15日、法務省に提出しました。極めて異例なことです。
 注目すべきは意見書のなかで、実に14回にわたり黒川東京高検検事長に言及したことで、先に閣議決定で「余人をもって代えがたい(要旨)」ことを口実にして特例的に黒川氏の留任(定年延長)を決めたことについて、「現在、検察には黒川氏でなければ対応できないというほどの事案が係属している」とは認められず、「後任の検事長では解決できないという特別な理由がある」とも思われないので、「法律によって厳然と決められている役職定年を延長してまで検事長に留任させるべき法律上の要件に合致する理由は認め難い」としています(詳細は別掲の意見書全文を参照ください)
 諸先輩からそこまで言われても、黒川氏は違法に留任を続けたまま辞任しないのでしょうか。

 意見書はまた安倍首相を「ルイ14世」・「中世の亡霊」に比すと共に、「法が終わるところ、暴政が始まるジョン・ロックの警句を添えています。
 検察OBの怒りが端的に顕れています。

 NHK NEWS WEBの記事を紹介します。

 併せて日刊ゲンダイの記事「検察OBも法案反対へ決起 黒川検事長は辞任迫られどうする」とNHKの記事「『まともな法治国家とは言えない仙台高裁の裁判官が政府批判」を紹介します。 
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元検事総長ら 検察庁法改正案に反対の意見書提出 極めて異例 
NHK NEWS WEB 2020年5月15日
検察官の定年延長を可能にする検察庁法の改正案について、ロッキード事件の捜査を担当した松尾邦弘元検事総長ら、検察OBの有志14人が「検察の人事に政治権力が介入することを正当化するものだ」として、反対する意見書を15日、法務省に提出しました。検察トップの検事総長経験者が、法務省が提出する法案を公の場で批判するのは極めて異例です。

検察庁法の改正案に反対する意見書を提出したのは、松尾邦弘元検事総長など、ロッキード事件などの捜査を担当した検察OBの有志14人です。
検察庁法の改正案は、内閣や法務大臣が認めれば検察幹部らの定年延長を最長3年まで可能にするもので、意見書では「改正案は、検察の人事に政治権力が介入することを正当化するもので、政権側に人事権を握られ、公訴権の行使まで制約を受けるようになれば、検察は国民の信託に応えられない」としています。
そのうえで「田中角栄元総理大臣らを逮捕したロッキード世代として、検察を、時の政権の意のままに動く組織に改変させようとする動きは看過できず、定年延長を認める規定の撤回を期待する」と訴えています。
松尾氏は会見で「定年延長は、今までの人事の流れを大きく変化させる懸念がある。検察官にいちばん大事なのは自主・独立だ」と述べました。
松尾氏は平成16年から2年間、検察トップの検事総長を務め、ライブドア事件や日本歯科医師会をめぐる1億円不正献金事件などの捜査を指揮しました。
検事総長経験者が、法務省が提出する法案について公の場で反対意見を表明するのは極めて異例です。

検察庁法の改正案とは 
改正案は、すべての検察官の定年を段階的に63歳から65歳に引き上げるとともに、「役職定年制」と同様の趣旨の制度を導入し、検事正や検事長などの幹部は原則63歳で、そのポストから退くことが定められています。
しかし特例規定として内閣や法務大臣が「公務の運営に著しい支障が出る」と認めれば、個別の幹部の役職定年や定年を最長3年まで延長できるとしています。
このため内閣の判断で定年が65歳の検事総長は最長で68歳まで、役職定年が63歳の検事長は最長で66歳までそのポストにとどまることができるのです。

論点1「政権の人事介入への懸念」 
論点の1つは、検察人事への政治介入の懸念です。
検察庁は法務省に属する行政機関で、検察官の人事権は内閣や法務大臣にあります。
一方、検察は捜査や裁判で権力の不正をチェックする役割も担い、政治からの中立性や独立性が求められるため、実際には検察側が作成した人事案を内閣や大臣が追認することが「慣例」となってきました。
日弁連=日本弁護士連合会などは、内閣や大臣の判断で個別の検察幹部の定年延長が可能になれば、検察官の政治的中立性を脅かし、捜査を萎縮させるおそれが強いなどと指摘しています。

論点2「“個別の定年延長制度” 導入の経緯」 
個別の検察幹部らの定年延長を可能にする特例規定が改正案に盛り込まれた経緯も論点です。
法務省が去年10月末の時点で検討していた当初の改正案では「公務の運営に著しい支障が生じることは考えがたい」などとして、個別に検察幹部の定年延長を認める規定は必要ないとしていました。
しかし、ことし1月、政府が従来の法解釈を変更し、東京高等検察庁の黒川検事長の定年延長を閣議決定しました。
個別の検察幹部の定年延長の特例規定は、ことしになって改正案に盛り込まれていて、有志の弁護士の団体などは「法解釈の変更による黒川検事長の違法・不当な定年延長を法改正によって後付けで正当化するものだ」としています。

論点3「定年延長を判断する基準」 
また、内閣の判断で検察官の定年を延長する場合の判断基準が示されていないことも論点になっています。
元検察幹部は「恣意的(しいてき)な人事の運用ができないよう基準をできるかぎり細かく、具体的に定めることが必要だ」と指摘しています。
(後 略)


検察OBも法案反対へ決起 黒川検事長は辞任迫られどうする
 日刊ゲンダイ 2020/05/15
 さすがに看過できないのだろう。検察官の定年延長を可能にする「検察庁法改正案」に対して、検察OBが反対ののろしをあげはじめた。松尾邦弘元検事総長ら検察OB十数人が、15日、法案に反対する意見書を法務省に提出する。検事総長経験者が表立って動くのは異例のことだ。

 さらに、東京地検特捜部検事としてロッキード事件を捜査した堀田力弁護士は、朝日新聞のインタビューに「黒川君は辞職せよ」と、こう語っている。
<検察幹部を政府の裁量で定年延長させる真の狙いは、与党の政治家の不正を追及させないため以外に考えられません><私の経験から言えば、政治家がその権力を背景に捜査に圧力をかけてくることはよくあります><だからこそ、今回の幹部の定年延長の規定は削除すべきです>――と法案に強く反対し、<定年延長を受け入れた黒川君の責任は大きいし、それを認めた稲田伸夫・現総長も責任がある。2人とは親しいですが、それでも言わざるを得ない。自ら辞職すべきです>と、辞任を迫っているのだ。

「検察庁法改正案」の最大の問題は、時の権力者が、気に入った検事の定年を恣意的に延長できるようになることだ。必然的に、検察官は権力者の顔色をうかがうようになる。しかも、コトの発端は「官邸の守護神」と呼ばれる黒川弘務東京高検検事長(63)を検事総長に就けるために、安倍政権がルールを破ってまで黒川検事長の定年延長を閣議決定したこと。
 検察OBが法案に反対し、黒川検事長に辞任勧告をしているのもそのためだ。

 しかし、どんな批判を受けようが安倍首相は「守護神」を検察トップに就けるつもりだ。OBから辞任を迫られた黒川検事長はどうするのか。
 黒川検事長と同期だった若狭勝元東京地検特捜部副部長はこう言う。
「黒川氏は検事総長にはならず、辞任すると思う。もし、この状況で検事総長になったら、汚点になり、逆に辞任したら検事としてスジを通したことになる。もともと出世欲もなく、性格的にも愛すべき男。権力に近いとみられているのは、官房長など政治家と接点の多いポジションに長く就いていたからです。黒川氏にとって一番いいのは、定年延長の末日にそのまま辞めることでしょう」
 安倍首相の周辺からは、“黒川辞任”で批判が沈静化し、それで「検察庁法改正案」が成立するなら、それでOKとの声もあがっているという。黒川氏辞任だけでなく、天下の悪法も葬らないとダメだ。


「まともな法治国家とは言えない」仙台高裁の裁判官が政府批判 
NHK NEWS WEB 2020年5月15日
国会で審議されている検察庁法の改正案について、仙台高等裁判所の裁判官が13日、民放のラジオ番組に出演して批判しました。現職の裁判官がメディアで政府を批判するのは極めて異例です。

仙台高等裁判所の岡口基一裁判官は13日、KBS京都のラジオ番組に電話で出演し、検察庁法の改正案について、およそ45分間にわたって自身の見解を述べました。
この中で岡口裁判官は経緯を解説したうえで「検察官が内閣の顔色をうかがいながら仕事をするようになると危惧される。法解釈の変更を口頭の決裁で済ませるなど、まともな法治国家とは言えない」などと批判しました。
中立性を求められている現職の裁判官がメディアに出演し、政府を批判するのは極めて異例です。
岡口裁判官はNHKの取材に対し「法案が大変複雑なため、内容を正確に理解したうえで議論してもらいたかった。裁判官が積極的に政治運動に参加することは許されていないが、法案の問題点を説明することは禁じられていない」と話しています。
岡口裁判官はこれまでも著書やSNSで積極的に情報発信を行っていますが、おととしには、ツイッターへの書き込みで裁判官の品位をおとしめたとして、最高裁判所から戒告の懲戒処分を受けました。