黒川氏の処分について、法務省は国家公務員法に基づく「懲戒」に当たると判断したのですが、懲戒の主体者である官邸はそれには当たらないとして「戒告」に落ち着きました。
その際に「常習賭博」に当たらないとした理由は、賭け麻雀は5月1日と13日の2回確認されただけであり、麻雀のレート1000点100円(点ピン)は「必ずしも高額とは言えない」というものでした。1回で数万円が動くレートが高額でないという点については、世の中には高額所得者もいるのです。
ところが第1次安倍政権の時、鈴木宗男衆院議員(新党大地=当時)の質問主意書に対して、「財物を賭けて麻雀~を行い、その得喪を争うときは、刑法の賭博罪が成立し得るものと考えられる」と閣議決定していたことが分かりました(回答日06年12月19日)。
要するに金額の多寡に関係なく「賭博に該当」すると認定したわけで、それを「知らなかった」では済まされません。安倍内閣はどう言い訳をするつもりでしょうか。
もう一つあります。
安倍内閣は2月に検察庁法に違反して黒川氏を留任(職務を半年間延長)させるに当たり、法の解釈を変更する閣議決定を行いました。
それに関して森雅子・法務大臣は、黒川氏留任の必要性について「重大かつ複雑困難事件の捜査公判に対応するため、検察官としての豊富な経験知識等に基づく管内部下職員に対する指揮監督が不可欠と判断した」ためだと何度も国会で説明して来ました。勿論全ては官邸の意向に沿った筋書きに過ぎません。
それでは黒川氏が去ったいま、検察庁の公務に一体どんな支障が生じているというのでしょうか。
勿論何の支障もありません。そもそも官邸の言い分は根も葉もなかったのでした。しかし虚言を弄して違法な留任を強行した罪は消せません。政府はどう釈明するのでしょうか。
日刊ゲンダイとAERAの記事を紹介します。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
安倍政権「賭けマージャンは賭博罪」過去の閣議決定で墓穴
日刊ゲンダイ 2020/05/25
「#さよなら安倍総理」投稿は40万件超
“官邸の守護神”黒川弘務前東京高検検事長が、緊急事態宣言下にもかかわらず「賭けマージャン」に興じていた問題で、安倍政権は末期状態だ。23日実施の毎日新聞の世論調査で支持率が27%と“危険水域”の20%台に下落。4月8日の調査に比べ、マイナス17ポイントもの“暴落”だ。ツイッターでは、「#さよなら安倍総理」のタグ付き投稿が40万件を超える(24日夜7時時点)ネットデモも巻き起こっている。そんな中、安倍政権の「過去の閣議決定」がさらなる決定打となりそうだ。
◇ ◇ ◇
問題の閣議決定は、第1次安倍政権時のものだ。2006年12月8日付で、鈴木宗男衆院議員(新党大地=当時)が賭けマージャンを含む賭博の定義などについて、内閣に質問主意書を提出。週刊誌の投書欄に、外務省内部で違法賭博が行われていることを示唆する記述があったことを受け、〈(省内で)賭け麻雀を行ったという事例があるか〉とただし、「賭博」の定義や〈賭け麻雀は賭博に該当するか〉などと質問している。
安倍内閣は同19日付で回答。省内で賭けマージャンが行われていたか否かは〈確認できなかった〉としたものの、賭博の定義については〈偶然の事実によって財物の得喪を争うこと〉と刑法の記述を提示。賭けマージャンについては、〈財物を賭けて麻雀【中略】を行い、その得喪を争うときは、刑法の賭博罪が成立し得るものと考えられる〉と、ハッキリと「賭博に該当」との見解を示している。
質問主意書に対する内閣の答弁書は、各府省などで案文を作成し、内閣法制局の審査を経て閣議決定された見解を、質問者が所属する議院議長に示すものと規定されている。つまり、安倍内閣は「賭けマージャンは賭博罪」と、金額に関係なく違法であることを閣議決定していたわけだ。
ところが、22日の衆院法務委で、法務省の川原隆司刑事局長は、黒川氏が参加した賭けマージャンのレートについて、1000点当たり100円の「点ピン」だったと示した上で「必ずしも高額とは言えない」と、悪質性を打ち消す答弁を展開。懲戒処分もせず退職金を満額払う。過去の政府見解と矛盾するのは明らかだ。
こんなデタラメだからだろう。SNSでは「堂々と賭けマージャンしよう」という呼びかけが広がっている。
ツイッターでは、「【祝レート麻雀解禁!】検察庁前テンピン麻雀大会」と題し、参加者を募集する人まで現れた。「1000点100円=黒川レート」なんて言葉も出現している。皮肉を込めたイタズラかもしれないが、参加者に「政府は黒川レートならOKなんでしょ」と反論されたら、捜査機関はどうするのか。
「法律自体は、宗男議員が質問した06年と現在で変わっていないのに答弁は正反対。その矛盾を野党に質問されたらどう答えるのでしょうか。安倍政権は、これまでも自らや“お友達”を守るため、法の趣旨や過去の政府見解をねじ曲げてきました。この『一貫性のなさ』は今度こそ徹底的に追及されなければなりません」(高千穂大教授の五野井郁夫氏=国際政治学)
黒川問題はまだ終わっていない。安倍首相は墓穴を掘った。自ら「さよなら」を切り出す時だ。
黒川検事長「訓告」は官邸の意向だった
大甘処分の“犯人”はやはり安倍官邸だった。
賭けマージャンで辞職した黒川弘務前東京高検検事長の処分について、法務省は国家公務員法に基づく「懲戒」に当たると判断したのに、官邸が懲戒にはしないと結論付け、法務省の内規に基づく「訓告」となっていた。複数の法務・検察関係者が証言したと、24日、共同通信が報じた。
安倍首相は22日、国会で訓告より重い懲戒にすべきだと追及されたが、「検事総長が事案の内容など、諸般の事情を考慮し、適切に処分を行ったと承知している」と繰り返し、責任を法務省に押し付けた。しかし、法務・検察関係者によると、事実関係を調査した法務省は、賭博をした職員は「減給」または「戒告」の懲戒処分とする人事院指針などに照らし、懲戒が相当と判断。任命権者の内閣として結論を出す必要があると考えていた。
森雅子法相は21日午前、報道陣に「21日中に調査を終わらせ、夕方までに公表し、厳正な処分も発表したい」と発言。この後、官邸と詰めの協議をし、官邸側の意向で訓告になったという。
ある法務・検察関係者は「当然、懲戒だと思っていたので驚いた」と証言した。
黒川検事長辞職で安倍政権「もう持たない」
ツイッターデモで深まった政治不信
AERA dot. 2020/5/25
AERA 2020年6月1日号
緊急事態宣言中に産経新聞記者、朝日新聞社員らと賭けマージャンに興じ、辞任した黒川弘務検事長。黒川氏と記者らの行為はともに許されないが、問題はその行為だけではない。横紙破りの閣議決定と法改正で、自らにとって都合のいい人事を押し通そうとした安倍政権への不信感は決して消えない。AERA 2020年6月1日号で掲載された記事を紹介する。
* * *
「安倍首相は、あの閣議決定をどうやって取り消すつもりだろうか」
永田町では今、そんな話題でもちきりだ。安倍政権は、黒川弘務・東京高検検事長が退職すれば公務の運営に著しい支障が生じるとして、これまでの法解釈をねじ曲げてまで定年後の勤務延長を決める閣議決定を推し進めた。今回の検察庁法改正案は、この閣議決定を後付けで法体系化する狙いがあった。
森雅子・法務大臣は国会で、閣議決定の必要性を何度もこう答弁してきた。
「重大かつ複雑困難事件の捜査公判に対応するため、検察官としての豊富な経験知識等に基づく管内部下職員に対する指揮監督が不可欠と判断した」
では、黒川氏が霞が関を去った今、検察庁内で公務の運営に著しい支障が生じているのだろうか。ある法務官僚は語る。
「最初からそんな事例はなかったんです。事実、内閣が黒川氏の辞任を受け入れましたが、それによって、公務の運営に著しい支障が生じていないじゃないですか。あの説明はなんだったのか、法務大臣も首相も国民に説明する必要があります」
突然の黒川氏辞任劇は永田町を揺るがした。ある自民党幹部は断言する。
「もう、政権は持ちませんよ。官邸がやれというから、強行採決を辞さない構えで、むりくり、法案を通そうとした。そもそも、総務会でも反対する人はいても、積極的に賛成する人は少なかった。この混乱の責任を法務省に押しつけても、国民は誰が戦犯なのか分かっていますから。もちろん、自民党の議員も分かっています」
火に油を注いだのが安倍首相の側近である世耕弘成・参院幹事長の発言だ。
当初、官邸は黒川氏の「定年後の勤務延長」という核心を含んだ検察庁法改正案を、まるでカムフラージュするかのように、公務員そのものの定年を65歳に引き上げる国家公務員法改正案と束ねて国会に提出した。野党は公務員の定年引き上げには賛成とし、検察庁法改正案を、同法案と切り離して議論するべきだと主張したが、官邸は応じなかった。
しかし、黒川氏の辞任によって、事実上、検察庁法改正案が廃案になる公算が現実味を帯びると、世耕氏は態度を一変。
「経済が苦しくなる中、公務員の給料が下がらないまま定年延長していいのか」
と述べ、公務員の定年引き上げそのものに疑義を唱えたのだ。これには、野党ばかりか連立を組む公明党からも失望の声が漏れ聞こえる。
「何を今更と聞こえる。明らかな論点ずらしだ。この黒川辞任劇によって、政権に対する不信感が募っているのは与党内も同じです。もし、あのまま強行採決をしていれば、相当の数の造反者が出たと思います」(公明党幹部)
ジャーナリストの津田大介氏は、普段は政治に関心がない層が、緊急事態下でステイホームを強いられ、これから日本はどうなっていくのか不安を抱いた結果、「#検察庁法改正案に抗議します」のうねりを増大させたと分析する。
「与党が野党の質問に全く答えていないという事実が、SNSやネットを通じて改めて可視化され、これまで政治に関心がなかった層の政権への不信を増大させたのです。しかも、国会前の実際のデモに参加するハードルに比べて、タグをリツイートするだけで意思表明できるツイッターデモは、芸能人など肩書がある人にとっても気軽で極めて有効でした」
一度可視化された政治不信は、そう簡単には拭えない。「国民はいつか忘れるだろう」などという政権の思い込みは、今度は通用しない。(編集部・中原一歩)