今年6月、『国家安全保障と情報への権利に関する国際原則』が、70カ国以上にわたる国の500人以上の専門家の英知を集め、世界中で開催された14回の会議を経て定められました。南アフリカの首都、ツワネでの会合で完結したことから、「ツワネ原則」と呼ばれています。
その要点を15にまとめたもの(後掲)がブログ 「Peace Philosophy Centre」 (2013年9月23日)に紹介されていますが、特定秘密保護法案はその全てに違反しているといっても過言ではありません。
特定秘密保護法案の範囲の広さと曖昧さ、すなわち処罰対象の幅広さと条文の違反事例にことごとく「その他」が含まれているなどの曖昧さ・未熟さは、官憲が国民の知る権利・表現の自由などの基本的人権や民主的運動などを弾圧するのにまたとない武器になることは明らかです。戦前の治安維持法に匹敵するといわれる所以です。
治安維持法も制定当時には、後に国民の弾圧にあれほどの猛威を振るうことは誰も予想しませんでした。
40万件にも及ぶといわれる既存の「国家秘密」は、これまでも公務員法や自衛隊法によって現実に保護されて来ました。それを特定秘密保護法案として、しかも対象範囲を公安の事案にまで一挙に拡大させて、拙速に制定する必要などはありません。
以下に琉球新報の社説と「ツワネ原則」の要点を紹介します。
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社説 秘密法とツワネ原則 国際基準無視の欠陥法だ
琉球新報 2013年11月24日
安倍政権が成立に血まなこになっている特定秘密保護法案が、国際基準に照らしても欠陥だらけであることが明らかになってきた。
世界70カ国、500人以上の安全保障や人権の専門家が作った、情報アクセスの権利に関する「ツワネ原則」がその基準だ。
2年間で計14回の会議を経て、今年6月に南アフリカ・ツワネで発表されたばかりだ。秘密法案はツワネ原則を知らずに、あるいはあえて無視して作成されたとしか思えない。
ツワネ原則は、秘密の範囲や指定期間を「防衛計画、兵器開発、情報機関で使われる情報源など狭い分野で合法的に情報を制限できる」「必要な期間に限るべきであり、無制限であってはならない」と、限定的に規定している。
大前提にあるのは国民の知る権利だ。国民には政府の情報を知る権利があり、政府は知る権利を制限する正当性を説明する責務がある、と強調している。
秘密法案には「(知る権利が)国家や国民の安全に優先するという考え方は基本的に間違い」(町村信孝元外相)といった考え方が横たわる。まず根幹の人権感覚、人権意識から大きく違うのだ。
ツワネ原則は人権や人道主義への違反、環境破壊などに関しては非公開にすべきでないと歯止めをかける。しかし秘密法案は防衛、外交、スパイ活動防止、テロ活動防止の4分野にわたるほか「その他」との文言も多数あり、際限なく秘密指定される恐れがある。
処罰対象もそうだ。秘密法案では公務員以外も最高懲役10年が科され、漏洩(ろうえい)の共謀、教唆、扇動も罰せられるが、ツワネ原則はジャーナリストや市民は秘密を受け取ったり公開したりすることで処罰されるべきではないと明記する。第三者の監視機関設置も情報公開の方に重きを置いている。
ツワネ原則の根底にあるのは、国民の人権や知る権利を保障することで国家権力の専横や暴走を食い止めるという思想だ。戦争や人権侵害など多くの困難を経て確立された人類の英知と決意がそこにある。
秘密法案はこうした国際潮流に逆行する時代錯誤の代物だ。成立を許せば、国際社会に日本の民主主義と人権意識の稚拙さをさらすことになる。国益にもかなわない。
政府は秘密法案を白紙撤回し、国際社会の一員としてツワネ原則を土台に一から出直すべきだ。
『国家安全保障と情報への権利に関する国際原則(ツワネ原則)』の要約
( ブログ 「Peace Philosophy Centre」 2013年9月23日 より)
以下が15の要約点です。
1 公衆は政府の情報にアクセスする権利を有する。それは、公的な機能を果たす、或いは公的な資金を受け取る私的機関も含まれる。(原則1)
2 知る権利への制限の必要性を証明するのは政府の責務である。(原則4)
3 政府は防衛計画、兵器開発、諜報機関によって使われる情報源など狭義の分野で合法的に情報を制限することができる。また、国家安全保障に関連する事柄について外国政府から提供された機密情報も制限することができる。(原則9)
4 しかし、政府は人権、人道に関する国際法の違反についての情報は決して制限してはいけない。これは、現政権より前の政権下における違反行為についての情報、また、自らの関係者あるいは他者により行われた違反行為について政府が所持する情報についても当てはまる。(原則10A)
5 公衆は監視システム、そしてそれらを認可する手続きについて知る権利がある。(原則10E)
6 安全保障セクターや諜報機関を含め、いかなる政府機関も情報公開の必要性から免除されることはない。公衆はまた、安全保障セクターの機関の存在について知る権利を有し、それらの機関を統治するための法律や規則、そしてそれらの機関の予算についての情報も知る権利を有する。(原則5と10C)
7 公共セクターにおける内部告発者は、公開された情報による公益が秘密保持における公益を上回る場合、報復措置を受けるべきではない。(原則40,41、と43)
8 情報を流出させる人を刑事裁判に持ち込むことは、その情報が公開されることによって生じる公益を上回るような「実在して確認可能な重大損害を引き起こすリスク」をもたらすときのみ検討されるべきである。(原則43と46)
9 ジャーナリストその他、政府に勤めていない人々は、機密情報を受け取ること、所有すること、公衆に公開することに対し、また機密情報を求めたり機密情報にアクセスすることに対して共謀その他の犯罪で訴追されるべきではない。(原則47)
10 ジャーナリストその他、政府に勤めていない人々は、情報流出の調査において、秘密情報源や他の非公開情報を明かすことを強制されるべきではない。(原則48)
11 裁判手続き情報が一般公開可能であることは不可欠である:「裁判手続き情報に対する公衆の根本的な権利を弱めるために国家安全保障の発動に頼ることはならない」。(原則28)
12 人権侵害の被害者がその侵害行為への対応策を求めたり得たりすることを阻害するような国家機密や他の情報を、政府が秘密のままにすることは許されない。(原則30)
13 安全保障セクターには独立した監視機関を設けるべきであり、それらの機関は効果的な監視のために必要な全ての情報にアクセス可能であるべきである。(原則6、31-33)
14 情報が機密化される機関は必要な期間に限るべきであり、無期限であってはいけない。情報機密化が許される最長期間は法律で定めるべきである。(原則16)
15 機密解除を要請する明確な手続きがなければいけない。その際、公益に与する情報を優先的に解除する手続きも定めるべきである。