2013年11月30日土曜日

「秘密国家への道は廃案に」と ノーベル賞学者ら会を結成

 ノーベル賞受賞者を含む31の学者が「特定秘密保護法案に反対する学者の会」を結成し、28日、「法案は憲法の基本的人権と平和主義を脅かす立法で、直ちに廃案とすべきだ」とする声明を発表しました
 
 メンバーには、ノーベル物理学賞の益川敏英氏や、化学賞の白川英樹氏のほか、法学、経済学、哲学などの著名学者たちが名を連ね三百人以上の学者が賛同の意思を示しています。
 政治的な問題で、幅広い分野の学者が団体をつくり、反対の態度を表明するのは1950年代に、ノーベル物理学賞の湯川秀樹らが憲法問題研究会をつくって改憲反対の立場を表明して以来ということです
 
 声明では、「さまざまな国民の階層、市民の間に広く批判が広がっているにもかかわらず、何が何でも特定秘密保護法を成立させようとする政府の政治姿勢は、思想の自由と報道の自由を奪って戦争へと突き進んだ戦前の政府を髣髴とさせる。
 いったい今なぜ特定秘密保護法を性急に立法する必要があるのか何も説明されていない。外交・安全保障等に関して、短期的・限定的に一定の秘密が存在すること否定しないものの、それは恣意的な運用を妨げる十分な担保や、しかるべき期間を経れば情報がすべて開示される制度を前提とした上でのことである。行政府の行動に対して、議会や行政府から独立した第三者機関の監視体制が確立することも必要である」と訴えています。
 
 また特定秘密保護法案は、「国家安全保障と情報への権利に関する国際原則 (ツワネ原則)」にもことごとく反しています。 ツワネ原則の基本(別記事参照)は
国際人権・人道法に反する情報は秘密にしてはならない
秘密指定の期限や公開請求手続きを定める
すべての情報にアクセスできる独立監視機関を置く
情報開示による公益が秘密保持による公益を上回る場合には内部告発者は保護される
メディアなど非公務員は処罰の対象外とする。
というもので、国家の安全や利益が何かを誠実に考えて合理的な秘密保護法を考えるなら必ず行きつくべき原則です。
 米国、英国、ドイツ、フランスなどの秘密保護法はツワネ原則(今年6月に発表)よりも先に制定されましたが、結果的に「ツワネ原則」に即しているといわれています
 さらに欧米は近年、むしろ情報公開を重視する方向に進んでいるということです。
 
 それを安倍政権は、何でも秘密にすることができれば政府にとって都合が良いから、というだけの低劣な功利性から秘密の範囲を最大限に広げ、その結果国民を取り締まることに専念する警察国家に逆戻りしかねない「特定秘密保護法案」の成立に躍起になっています。
 安倍首相は国会でツワネ原則に反していると糾されても、それはまだ公認されたものではないと一蹴しています。不誠実な政府というしかありません。
 
 また29日、「児童書出版関係者有志」特定秘密保護法案の廃案を求める共同声明を発表しました
 
 以下に、学者たちの会結成の記事、同声明文、児童書関係者たちの反対声明に関する記事を紹介します。
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「秘密国家へ道、廃案に」 分野超え、ノーベル賞学者ら会結成
 東京新聞 2013年11月29日
 高まる懸念を置き去りに、衆院で採決が強行された特定秘密保護法案の成立を阻むため、学者らが分野を超えて決起した。二人のノーベル賞受賞者を含む三十一人が「特定秘密保護法案に反対する学者の会」を結成。「法案は憲法の基本的人権と平和主義を脅かす立法で、直ちに廃案とすべきだ」との声明を二十八日発表した。 
 メンバーには、ノーベル物理学賞の益川敏英・名古屋大特別教授、化学賞の白川英樹・筑波大名誉教授のほか、法学、経済学、哲学などの著名学者らが名を連ねた。インターネットを通じ、三百人以上の学者が賛同の意思を示しており、さらに増える見込み。
 政治的な問題で、幅広い分野の学者が団体をつくり、反対の態度を表明するのは異例。大きなうねりとなれば、岸信介内閣だった一九五〇年代に、ノーベル物理学賞の湯川秀樹らが憲法問題研究会をつくって改憲反対の立場を表明して以来、半世紀ぶりとなる。
 
 声明では「知る権利や国政調査権が制限され、表現や学問の自由が侵害される恐れがある」と指摘。「市民の目と耳をふさぎ、『秘密国家』『軍事国家』への道を開く」と廃案を求めた。衆院で採決強行の末に法案を通過させた自民党の姿勢にも「戦争へと突き進んだ戦前の政府をほうふつとさせる」と抗議した。
 記者会見で久保亨・信州大教授(歴史学)は「日本は世界的に見て、公文書管理や情報公開の取り組みが遅れている国。なぜこんな法律をつくるのか」と疑問を投げかけた。
 改憲に反対する「九条の会」の事務局長も務める小森陽一・東大教授(文学)は「政府が憲法違反の決定をしても秘密にされる。秘密保護法ではなく『秘密隠蔽(いんぺい)法』だ」と憤った。
 
◆国民が危機感持たねば  益川敏英・名大特別教授
 益川敏英・名古屋大特別教授は会見には出席しなかったが、二十八日、本紙の電話取材に応じた。
 政治をやる上で、秘密にし続けなければならないことはありません。外交や国防に関する内容であっても、後から必ず公開されるのが大原則です。無制限に秘密を指定できる法案を通せば、恐ろしいことが起こります。国民は、政治の決定プロセスが明らかにならないことに、だんだん慣れてしまうでしょう。社会というのはなし崩し的に変わる。安倍晋三首相の施策からは「日本を戦争ができる国にする」という意図が透けて見えます。
 今回、専門分野を超えてこれだけの学者が集まったのは、国民全般の生活に関わるからです。それだけの危機感を持たなければならない問題なのです。
 
 
「声明全文」
秘密保護法案反対 学者の会声明全文
東京新聞 2013年11月29日
 国会で審議中の特定秘密保護法案は、憲法の定める基本的人権と平和主義を脅かす立法であり、ただちに廃案とすべきです。
 特定秘密保護法は、指定される「特定秘密」の範囲が政府の裁量で際限なく広がる危険性を残しており、指定された秘密情報を提供した者にも取得した者にも過度の重罰を科すことを規定しています。この法律が成立すれば、市民の知る権利は大幅に制限され、国会の国政調査権が制約され、取材・報道の自由、表現・出版の自由、学問の自由など、基本的人権が著しく侵害される危険があります。さらに秘密情報を取り扱う者に対する適性評価制度の導入は、プライバシーの侵害をひきおこしかねません。
 民主政治は市民の厳粛な信託によるものであり、情報の開示は、民主的な意思決定の前提です。特定秘密保護法案は、この民主主義原則に反するものであり、市民の目と耳をふさぎ秘密に覆われた国、「秘密国家」への道を開くものと言わざるをえません。さまざまな政党や政治勢力、内外の報道機関、そして広く市民の間に批判が広がっているにもかかわらず、何が何でも特定秘密保護法を成立させようとする与党の政治姿勢は、思想の自由と報道の自由を奪って戦争へと突き進んだ戦前の政府をほうふつとさせます。
 さらに、特定秘密保護法は国の統一的な文書管理原則に打撃を与えるおそれがあります。公文書管理の基本ルールを定めた公文書管理法が二〇一一年に施行され、現在では行政機関における文書作成義務が明確にされ、行政文書ファイル管理簿への記載も義務づけられて、国が行った政策決定の是非を現在および将来の市民が検証できるようになりました。特定秘密保護法はこのような動きに逆行するものです。
 いったい今なぜ特定秘密保護法を性急に立法する必要があるのか、安倍首相は説得力ある説明を行っていません。外交・安全保障等にかんして、短期的・限定的に一定の秘密が存在することを私たちも必ずしも否定しません。しかし、それは恣意(しい)的な運用を妨げる十分な担保や、しかるべき期間を経れば情報がすべて開示される制度を前提とした上でのことです。行政府の行動に対して、議会や行政府から独立した第三者機関の監視体制が確立することも必要です。困難な時代であればこそ、報道の自由と思想表現の自由、学問研究の自由を守ることが必須であることを訴えたいと思います。そして私たちは学問と良識の名において、「秘密国家」・「軍事国家」への道を開く特定秘密保護法案に反対し、衆議院での強行採決に抗議するとともに、ただちに廃案にすることを求めます。
 
 
特定秘密保護法案に反体声明=児童書関係者
時事通信 2013年11月29日
 作家の角野栄子さん、森絵都さんや編集者ら約150人でつくる「児童書出版関係者有志」が29日、参院で審議中の特定秘密保護法案の廃案を求める共同声明を発表した。
 国民の知る権利の侵害などへの懸念を指摘した上で、「法制化されると、秘密だらけの息苦しい非民主的な国家ができかねない。私たちは次の世代に自由で民主的、平和的な社会を残す責務がある」として、いったん廃案にし、議論を尽くすよう求めた。