2013年11月11日月曜日

TPPは壊国の協定

 10日、東京新聞が「週のはじめに考える TPPが脅かすもの」とする社説を掲げました。
 
 オバマ大統領はTPP交渉の年内決着に必死です。日本は事前協議などで米国への譲歩を繰り返していますが、何か国益に結びつくものがあったのでしょうか。このところしばらくニュースからは消えていますが、国益に適う前進などある筈もありません。
 TPPはもともと、米国「1%の勢力」の主要メンバーである多国籍企業が他国から効率的に収奪するために「邪魔になる各国の制度やルールを壊すか変えるための手段」と位置づけられています。
 TPP協定の内容がなんと締結後4年間も国民に明らかにされないというのは、そのような正体が批准前にバレばれないようにするためです。これでは国民が知らない間に食や農業、医療や保険、教育、雇用、文化まで生活の基盤が根底から変わっているということになります。
 
 日本はこれまで米国との2国間協議で、米国産牛肉の安全基準を緩和しかんぽ生命ががん保険に参入しないことにし、郵便局で米保険会社のがん保険販売まで請け負い、米国からの自動車の関税はゼロにするが、米国が日本車に掛ける関税は20年間現行のまま据え置くとし、それでも足りずに軽自動車に掛ける国内の諸税を大幅にアップしようとしています。
 その上聖域とされた筈の農産品重要五項目の関税も、結局全部は守ることできないといわれています。
 もはや国益を守るどころの騒ぎではありません。東大大学院の鈴木宣弘教授は早くから、TPP協定を結べば『壊国』になると言っています。米国事情に詳しいジャーナリストの堤未果さん、TPPに傾斜する日本に強い危機感を抱いています。
 
 前から言っていることですが、政府に国益を守る意志があるのであれば当初明言していたように、もう「席を立べきではないでしょうか。
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週のはじめに考える TPPが脅かすもの
東京新聞 2013年11月10日
 TPP(環太平洋連携協定)交渉が大詰めを迎えます。遅れて参加した日本は、事前協議などで米国への譲歩を繰り返しています。これが国益なのか。
 
 「何が秘密なのかも秘密」-。安倍政権が成立を目指す特定秘密保護法案に国民の不安が高まっていますが、TPPも徹底した秘密主義をとっています。内容が漏れれば、参加十二カ国の妥結に影響がでるからという。守秘義務を四年間も強いる異常さです。
 国民が知らない間に食や農業、医療や保険、教育、雇用、文化まで生活の基盤が根底から変わることが決まっていたら大変です。
 
◆守れなければ席を立つ
 懸念がなまじ誇張でないのは、交渉参加を認めてもらう段階から繰り返されてきた日本政府の譲歩ぶりからです。
 欧州が輸入禁止している米国産牛肉の安全基準を緩和したり、かんぽ生命ががん保険に参入せず、そればかりか日本全国の郵便局で米保険会社のがん保険販売を請け負ったり、米国の意向を忖度(そんたく)して軽自動車の増税方針を日本側が先回りして示す-。「入り口段階」で、こんな具合でしたから、本交渉では「さらに…」と不安が募るのは当然です。
 
 すでに与党内からは「聖域」として関税を維持するとしてきた重要五項目(コメ、麦、牛肉・豚肉、乳製品、砂糖など)すべてを守ることはできないとの声が出ている。「守るべき国益を追求する」「守れなければ席を立ってくる」と強弁してきたわけですから、妥結後に「開けてびっくり」の内容となっていることは許されるはずがありません。
 本来、国の制度とか政策は、国民の命や健康、暮らしを守り、安全・安心な社会を形成するためにあります。しかし、TPPは関税引き下げなど貿易ルールだけでなく、暮らしを守ってきた制度も対象とし、いわば国のかたちの変更につながりかねません。
 
◆命か企業利益かの選択
 極端に市場主義が浸透した米国、とりわけ富の拡大を目指す「1%の勢力」にとって、各国の制度は邪魔なものです。そこで米企業や米政府が使うのが「競争条件を対等にせよ」という決まり文句です。いかにも正論に聞こえる「対等な競争条件」を錦の御旗に、邪魔なルールや制度を徹底的に壊すか、都合よく変えさせる。
 
 「TPPの本質は市場の強奪です。今の流れでは日本が大切にしてきた伝統や支え合い社会が崩壊する。 『開国』が『壊国』になる」と東京大学大学院の鈴木宣弘教授(農業経済学)は言います。
 米国農産物の輸出拡大に日本の厳しい食品安全基準は邪魔、学校給食の地産地消奨励策も参入障壁だから変えさせよう、という具合に。これは、国民の命か企業利益かを選択する問題です。
 ところが安倍晋三首相は「世界で一番、企業が活動しやすい国を目指す」という。規制を緩め、税制を優遇し、外国企業でも思う存分、稼ぎやすいように配慮する。それは米国の狙いとピタリ符合してしまいます。
 
 「(株)貧困大国アメリカ」(岩波新書)など米国ルポの著作が多いジャーナリストの堤未果さんは、TPPに傾斜する日本に強い危機感を抱いています。中枢同時テロ後に米国で成立した「愛国者法」に似て言論統制法ともいえる特定秘密保護法案や企業利益を最優先するなど「米国をなぞるような政策が進行している」と見ます。
 米国で何が起こっているかといえば、刑務所や自治体、立法府まで企業に買われる。巨大化した多国籍企業は度を越した献金とロビー活動で政治と一体化し、企業寄りの法改正で「障害」を取り除いていく。企業の論理の前には国民の主権すらないがしろにされる社会です。
 堤さんは「もはや企業を無理やり縛ることはできません。米国では遺伝子組み換えの表示義務がないので不可能ですが、日本は組み換えでない食品を選ぶことができるよう(国民主権の)『選択肢』を残す必要がある」と訴えます。
 安倍首相は、TPPについて貿易自由化交渉と同時に重要な「安保防衛上の枠組み」との考えを示しています。米国や豪州などと結束し、中国などをけん制する意味合いなのでしょう。
 しかし、TPPが「仲間」と「仲間外れ」をつくるなら、第二次大戦につながったブロック経済と同じではないか。ガット(関税貿易一般協定)体制以前に「先祖返り」しかねません。
 
◆国民の幸せこそが国益
 国益を守るといった時、真っ先に考えるべきは、国民の幸せであってほしい。国民生活を大きく変容させかねない米国への配慮よりも、です。首相の考えと、国民の多くが抱く願いとのズレを感じずにはいられません