8日、秘密保護法案の審議入りを迎え東京新聞、しんぶん赤旗、毎日、朝日などは一斉に秘密保護法案を厳しく批判し、廃案を求める社説を掲載しました。
東京新聞は「特定秘密保護法案 議員の良識で廃案へ」として、
法案には「特定有害活動」「テロ活動」として、「政治上その他の主義主張に基づき、国家若しくは他人にこれを強要」する活動も含まれるので、そうなれば思想の領域まで踏み込むもので、反原発を訴える市民活動も含まれてしまう。
刑法の共謀は犯罪の実行行為を必要とするが、未遂、共謀、教唆、扇動も罰せられるのは秘密に接近しようとする行為に対する事前処罰である。あらかじめ罪となる行為を明示せねばならないとする近代刑法の原則からも逸脱する。
国会議員さえ処罰し、言論を封じ込めることが何よりも深刻で、特定秘密については、国政調査権も及ばない。行政権のみが強くなり三権分立の原理が働かないうえ、平和主義や基本的人権も侵害されうる。憲法原理を踏み越えた法案である。
などと述べています。
しんぶん赤旗は「秘密保護法案審議 暗黒社会への策動は許せぬ」として、
かつて戦前の日本では軍艦や軍事施設を写生しただけでも取り締まりの対象になったことが知られているが、なにが秘密かもわからないまま、それを漏らしたり知ろうとしたりすれば処罰されるかもしれないという社会は、とんでもなく不気味な社会である。
わからないまま、たまたま秘密の公開を迫ったり、何とか手に入れようと共謀、教唆、扇動したりしただけでも違反したといわれかねない。共謀や教唆、扇動は、秘密を手に入れなくても処罰される。何が秘密かもわからないというのは、恐ろしい話である。
安倍政権が今国会で日本版NSC設置法とともに秘密保護法を成立させようとしているのは、文字通り「戦争司令部」としてアメリカのNSCなどから手に入れようとしている軍事情報を、国民から隠し、自由に使うためで、国民の目、耳、口をふさいで、アメリカといっしょに海外で「戦争する国」をめざすものである。
などと訴えています。
毎日新聞は「秘密保護法案を問う・審議入り 重ねて廃案を求める」として、
この法案は、憲法の基本原理である国民主権や基本的人権を侵害する恐れがある。
国会が、「特定秘密」の指定・更新を一手に行う行政をチェックできない。訴追された国民が適正な刑事手続きを受けられない可能性もある。
2001年に自衛隊法が改正され、最高懲役5年や米国の装備品情報の漏えいに対しては最高懲役10年が科され、防衛秘密が現行法の下で基本的に守られている中では新たな立法の必要性はない。
安倍首相は「重層的な仕組みになっている」と述べたが、全く不十分だ。国会を含む第三者が個々の指定の妥当性をチェックする仕組みは法案にない。
などと述べています。
朝日新聞は「特定秘密保護法案―市民の自由をむしばむ」として、
役所だけの判断で特定秘密に指定される情報の範囲が広がりかねないし、いったん特定秘密に指定されるとチェックのないまま半永久的に隠されてしまうおそれがある。
特定秘密は、防衛、外交、特定有害活動(スパイなど)の防止、テロ防止の4分野で、法案別表に定めた23項目に該当するものが指定されるが、多くの項目には「その他重要な情報」とのただし書きがついているので幅広く解釈される。
この国では政府が集めた情報は国民のものであるという意識があまりに低く、情報を共有する制度的な基盤が極めて弱い。この構造に手をつけないまま幅広い秘密保護の仕組みを入れてしまえば、国民の知る権利は絵に描いた餅になる。
日本に秘密保護法制を求める米国では、公文書館の情報保全監察局長に機密解除の請求権を与えるなど、政府の恣意的な運用に幾重もの歯止めがある。こうした手立てのない特定秘密保護法案はまず取り下げるべきである。
などと述べています。
以下に東京新聞の社説を紹介します。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
特定秘密保護法案 議員の良識で廃案へ
東京新聞 2013年11月8日
特定秘密保護法案が衆院で審議入りした。国家が国民の思想の領域まで踏み込む恐れがある。国会議員は今こそ良識を発揮して、廃案にしてほしい。
潜水艦の潜水可能な深度、テロ情報収集のための情報源、公電に使われる暗号…。自民党はホームページで、秘密保護法案により漏えいを禁じる特定秘密の具体例を挙げている。
国家が秘密にしたい事例として、納得する人も多いだろう。だが、秘密に該当しない情報さえ、恣意(しい)的に封殺しうるのが、この法案である。行政機関の「長」が「秘密」というワッペンを貼れば、国民から秘匿できるのだ。
◆35センチの壁も「防衛秘」
特定秘密の指定の際に、有識者が統一基準を示すというが、あくまで基準にすぎず、個別の情報を調べるわけではない。国会や司法のチェック機能も働かない。これは致命的な欠陥だ。
特定秘密は防衛省や外務省、警察庁などが扱い、約四十万件が指定されるとみられる。だが、秘密とするには、実質的に秘密に値する「実質秘」でなければならない。最高裁判例が示している。
この膨大な秘密の山は、本当に「実質秘」だけで築かれているだろうか。ある情報開示訴訟で国側が敗訴したケースが、その欺瞞(ぎまん)性を象徴している。
海上自衛隊が那覇基地の建物を「防衛秘」としたことに、最高裁が二〇〇一年、秘匿の必要性を認めなかった。国側は「爆撃機の攻撃力を計算して、耐えうる壁の厚さを設計した」などと、もっともらしい主張をしていた。だが、壁の厚さは、たったの三十五センチだった-。
要するに行政機関は、隠したいものは何でも隠すことができる。いったん「特定秘密」に指定されてしまうと、半永久的に秘匿されうる。問題点は明らかだ。
◆崖に立つ報道の自由
法案には防衛や外交の分野のみならず、「特定有害活動」「テロ活動」も加わっている。
特定有害活動はスパイ活動を指すが、この項目には「その他の活動」という言葉もさりげなく挿入している。テロは人を殺傷したり、施設を破壊する行為だが、条文を点検すると、「政治上その他の主義主張に基づき、国家若(も)しくは他人にこれを強要」する活動も含まれると解される。
主義主張を強要する活動が「テロ」とするなら、思想の領域まで踏み込む発想だ。原発をテロ対象とすれば、反原発を訴える市民活動も含まれてしまう。
秘密を漏らした側にも、聞いた側にも最高十年の懲役刑が科される重罰規定がある。とくに「特定秘密を保有する者の管理を害する行為」を処罰する点は問題が大きい。管理の侵害とは何か、全く判然としていないからだ。
しかも、既遂や未遂はむろん、共謀、教唆、扇動も罰せられる。これは秘密に接近しようとする行為に対する事前処罰であろう。刑法の共謀は犯罪の実行行為を必要とするが、この法案はその前段階である「話し合い」を共謀、「呼び掛け」を扇動とみなしうる。
刑罰は強い拘束力をもつため、あらかじめ罪となる行為を明示せねばならない。だが、この法案では処罰範囲が、どこまで広がるかわからない。近代刑法の原則から逸脱する懸念が強い。
報道の自由について「出版又(また)は報道の業務に従事する者」と限定しているのも、大いに疑問だ。ネット配信する市民ジャーナリストらを排除している。かつ「著しく不当な方法」による取材は、取り締まりの対象だ。
不当かどうかの判断は、捜査当局が行う。ここにも恣意性が働く。裁判で無罪となるまで、記者らは長期間、被告人の立場に置かれてしまう。強い危惧を覚える。
ドイツではむしろ「報道の自由強化法」が昨年にできた。秘密文書に基づいた雑誌報道に対し、編集部などが家宅捜索を受けた。これを憲法裁判所が違法としたからだ。今やジャーナリストは漏えい罪の対象外である。
民主党は情報公開法の改正案を出しているが、秘密保護法案は情報へのアクセスを拒絶する性質を持つ。「国家機密」が情報公開制度で表に出るはずがない。
◆憲法原理を踏み越える
何より深刻なのは国会議員さえ処罰し、言論を封じ込めることだ。特定秘密については、国政調査権も及ばない。行政権のみが強くなってしまう。
重要な安全保障政策について、議論が不可能になる国会とはいったい何だろう。議員こそ危機感を持ち、与野党を問わず、反対に立つべきだ。
三権分立の原理が働かないうえ、平和主義や基本的人権も侵害されうる。憲法原理を踏み越えた法案である。