内閣法制局が、安倍政権が目指す集団的自衛権の行使容認について、「放置すれば日本が侵攻される場合」などに厳格に限定した素案をまとめました。これまで憲法9条を理由に認めてこなかった従来見解からの大転換となります。
素案は、ある国が日本の近隣国を攻撃、占領しようとしており、放置すれば日本も侵攻されることが明白な場合などに限定して行使が認められるとし、自衛隊が出動して、他国と共同で実力行使することが可能とするもので、「必要最小限度」の自衛権に、集団的自衛権の一部が含まれることになります。
この苦肉の策とでもいうべきものは、安倍-小松(法制局長官)ラインによる「集団的自衛権の行使容認」への強い要求を受けて、何とかその難題?に沿い得るケースを編み出したものという感じがします。例えば中国や韓国を攻撃する相手国が、同時に日本をも攻撃する意思を示すというケースは、通常極めて考えにくいものでありそうしたことも背景にあるものと思われます。
素案はまた、
・米艦防護や弾道ミサイル迎撃などは個別的自衛権や警察権の拡大で対処可能である
・砂川判決は集団的自衛権行使を容認する根拠とならない
とする見解も示しているということですが、この部分は、いずれ安倍首相が私的懇談会の結論を待って、行使容認の閣議決定をするということに大きく傾いているという現状では、それを牽制するものとなり得ます。
米艦の防護や弾道ミサイル迎撃など、自民党が集団的自衛権問題で毎回出してくる議論に決着をつけるとともに、高村-安倍ラインが強調し出した「砂川判決」の意味合いについても明確に否定するものとなっています。
しかし「『必要最小限度』の自衛権に集団的自衛権の一部が含まれる」として、一度その線を踏み越えてしまうと、自民党内からは行使要件の拡大を求める声が上がることは必至で、法制局にその原則を一歩も踏み外さないという見識と覚悟があるのかも問われます。
それとは別に、自民党の村上誠一郎(元行政改革担当相)氏は13日夜のBS-TBSの番組で、安倍氏が憲法解釈の変更により集団的自衛権の行使容認を目指していることについて、「自ら解釈を変更すれば八百長以上のもの。集団的自衛権の行使が必要なら、正々堂々と改憲を主張して徹底的に国民に説明して議論すべきだ」と述べました。
極めて明快な主張です。
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内閣法制局、行使容認へ転換=「放置なら侵攻」に厳格限定
-集団的自衛権で素案
時事通信 2014年4月13日
安倍晋三首相が目指す集団的自衛権の行使容認をめぐり、内閣法制局が行使要件を「放置すれば日本が侵攻される場合」などに厳格に限定した素案をまとめたことが12日、分かった。憲法9条を理由に認めてこなかった従来見解からの大転換となる。ただ、公海上での米艦防護などは個別的自衛権の延長で対応すると整理。公明党の主張と重なる部分が多く、自民党からは要件拡大を求める声が上がる可能性がある。集団的自衛権に関する今後の与党内調整にも影響を与えそうだ。
内閣法制局はこれまで、憲法9条で認められる自衛権について「わが国を防衛するため必要最小限度にとどまるべきであり、集団的自衛権行使はその範囲を超え、憲法上許されない」との立場を堅持してきた。しかし、首相が憲法解釈の変更による集団的自衛権の行使容認に強い意欲を示し、法制局トップに外務省出身の小松一郎氏を起用したことを受け、法制局として内部検討を進め、素案をまとめた。
素案では、「必要最小限度」の自衛権に、集団的自衛権の一部が含まれるとの見解を打ち出した。行使を認めるのは、ある国が日本の近隣国を攻撃、占領しようとしており、放置すれば日本も侵攻されることが明白な場合などに限定。自衛隊が出動し、他国と共同で実力行使することを可能とする。
自民党や、首相の私的諮問機関「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」で検討している(1)日本近海での米艦防護(2)米国に向かう可能性のある弾道ミサイルの迎撃-などは「個別的自衛権や警察権の拡大で対処可能」として集団的自衛権の対象外とした。
一方、自国の存立に必要な自衛措置を認めた1959年の最高裁判決(砂川判決)は根拠としない。この判決に関し、首相は8日のBS番組で「集団的自衛権を否定していない」と主張したが、政府関係者は「肯定もしていない」と指摘した。
◇内閣法制局の見解のポイント
一、憲法上許される「必要最小限度」に集団的自衛権の一部を含む
一、「放置すれば日本が侵攻される場合」などに行使要件を限定
一、米艦防護や弾道ミサイル迎撃などは個別的自衛権や警察権の拡大で対処可能
一、砂川判決は集団的自衛権行使を容認する根拠とせず
◇自衛権をめぐる政府見解
1946年 (日本国憲法草案の)戦争放棄に関する規定は、直接には自衛権を否定
していないが、9条2項において一切の軍備と国の交戦権を認めない結
果、自衛権の発動としての戦争も、また交戦権も放棄したものだ。
(吉田茂首相の帝国議会での答弁)
54年 憲法は自衛権を否定していない。憲法は戦争を放棄したが、自衛のため
の抗争は放棄していない。自国に対して武力攻撃が加えられた場合に、
国土を防衛する手段として武力を行使することは、憲法に違反しない。
(大村清一防衛庁長官の衆院予算委員会での答弁)
60年 特別に密接な関係にある国が武力攻撃をされた場合に、その国まで出か
けて行って防衛するという意味における集団的自衛権は、憲法上は日
本は持っていない、と考えている。(岸信介首相の参院予算委員会で
の答弁)
72年 平和主義をその基本原則とする憲法が、自衛のための措置を無制限に
認めているとは解されない。その措置は必要最小限度の範囲にとどまる
べきものだ。(参院決算委員会提出資料)
81年 憲法9条で許容されている自衛権の行使は、わが国を防衛するため必要
最小限度の範囲にとどまるべきものであると解しており、集団的自衛権を
行使することは、その範囲を超えるものであって、憲法上許されない。
(政府答弁書)
(注)肩書は全て当時
解釈改憲は八百長以上=自民・村上氏
時事通信 2014年4月13日
自民党の村上誠一郎元行政改革担当相は13日夜のBS-TBSの番組で、安倍晋三首相が憲法解釈の変更により集団的自衛権の行使容認を目指していることについて、「行政府と立法府がやるべきは、最高裁から違憲だと判断されない法を作って運用することだけだ。自ら解釈(変更)すれば八百長以上のものだ」と厳しく批判した。 その上で「集団的自衛権の行使が必要なら、正々堂々と改憲を主張して徹底的に国民に説明して議論すべきだ。閣議(決定)による憲法解釈(変更)で決めるのは禁じ手だ」と強調した。